表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第10章 精霊の号哭編
133/188

第119話 同盟

 それからグランドゼーブは、ユズル達の質問に答え始めた。

 ここには、雨の精霊と同盟を組むために来たこと。

 王族階級の魔人が絡んでいること。

 東の大陸が今どうなっているか、など、先程の沈黙が嘘のように話し始めた。


「──これが、俺の話せる情報だ」


「なんで、急に話してくれたんだ?」


 しつこく質問したから折れた、という訳では無さそうだ。


「俺はずっと、お前たちが反逆者だと思っていた」


 グランドゼーブは語り出す。


「突如現れたお前たちが、帝国と手を組み城を襲った。俺は……お前達が国家の転覆を計った罪人に見えた」


「……あの時は、ユリカを奪われてんだ。お互い様だろ」


「……そうだな」


 そうするしか無かったのだ。

 だが確かにあの時グランドゼーブは何も知らなかったに違いない。

 聖王の命令で忌み子であるユリカを攫った。

 それが人類の希望であると信じて。

 それを邪魔し、城を襲ったユズルは、グランドゼーブの目には反逆者に見えたのだろう。


「だが、それは誤解だった」


「……」


「先程のお前の怒りの声を聞いてはっきりわかった。お前は敵なんかじゃない、と」


 ユズルの声が、グランドゼーブに響いたのだ。

 ユズルの思いが、誤解を解き、全てを良い方向へと運んだのだ。


「俺たちは、出会い方が悪かった」


 ユズルはグランドゼーブと握手を交わす。

 その上に、ユリカがそっと手を乗せる。


「ここからは、同盟関係だ!」


 固く、固く握る。

 雨の精霊を救う戦いが今、幕を開けた。




「2人には、改めて申し訳ないと思っている」


 グランドゼーブが2人に頭を下げる。

 そんなかしこまった彼の姿を初めて見て、少し戸惑う。


「顔を上げてくて、俺はお互い誤解してたんだ。どっちが悪いとか、そういうのなしにしようぜ」


「……感謝する」


 顔を上げたグランドゼーブは、少し笑みを浮かべた。


「それで、作戦会議をしたいんだが……何か案はあるか?」


 グランドゼーブは一度敵と剣を交えている。

 何か知っているかもしれない。


「すまないが、よく覚えていないんだ。剣を交わしたとはいえ、ちゃんと戦った訳では無い。1対2の状況で、敵の懐で不意打ちを受けたからな」


「やはり敵は2人、か。その上で雨の精霊には手を出したくない、と」


 あまりにも無理難題すぎた。

 というのも、雨の精霊をどうにかしない限り、あの町から雨が止むことは無い。

 雨は五感を鈍らせる。

 こちらにとって、あまりにも不利すぎる条件だった。


「雨の精霊を傷付けずに、無力化する方法なら、ないことには無い」


 グランドゼーブが衝撃的な発言をする。


「夢を見たんだ」


「夢?」


「ああ。恐らく雨の精霊と接触したことが原因だと思う。夢の中で彼女は助けを求めていたんだ」


 グランドゼーブは見た夢を一部始終話した。


「彼女は……人間に裏切られた過去に、囚われているのか」


「魔人はその弱みにつけ込んだのでしょう」


 ますます怒りが湧き上がる。

 何としても、彼女を過去のしがらみから解放してあげたい。


「つまり彼女を解放した後、魔人と交戦する、ということか」


「それが一番いい方法だと思う。だが、問題は」


「どうやって雨の精霊に近づくか、だよな」


 彼女の周りには、王族階級の魔人がいる。

 それを無視しつつ彼女を説得するなど、不可能だ。


「私が彼女を隔離します」


 最初に発言したのは、ユリカだった。


「内側にバリアを貼って領域を作ります。彼女は私が何とかするので、2人で魔人の討伐をお願いしたいです」


 何時になく真剣な表情を浮かべる。

 その顔を見て、グランドゼーブも安心したようだった。


「雨の精霊は君に任せることにする。ユズル、俺達は魔人についての対策を話し合おう」


「そうだな」


 かつて敵同士だったとは思えぬ安心感。

 きっとそれは1度剣を交えているからこそ生まれた信頼なのだろう。

 話は深夜まで続き、全てがまとまる頃には朝日が登りかけていた。


「──と、これが作戦の全貌だが、訂正箇所はあるか?」


「……(コクッ」


「よし、じゃあこれで行こう!」


 作戦がまとまり、あとは仕掛けるのみとなった。

 グランドゼーブの回復、そしてユズル達が土地慣れするのを待ち数日。


 ついに決戦の時が来た。




 ──同時刻 ???


 かつてこの場所には、自然豊かな国があった。

 水田、苗畑、自然と共存する国 ハナヴィーラ。

 彼らの国がなぜ繁栄したのか、その背景には、ある精霊が絡んでいた。

 雨の精霊 アマリリス。

 彼女の持つ精霊の力は、荒野に雨をもたらしたちまち世界を潤した。

 誰もが彼女を崇拝した。

 彼女も人間を愛していた。自分を必要としてくれることに、彼女は喜びを感じていたのだ。

 幸せな日々は永遠に続くと思われた。

 ……あの日までは。


「……これもダメか」

「こっちもだ」


 ある日を境に、ハナヴィーラは存続の危機に陥った。

 突如農作物が全て、枯れ果ててしまったのだ。

 原因は分からない、あれ程華やかであった自然の都は、突然にして朽ち果てた。

 やがて人々の中である噂が流れ始めた。

 "全ては雨の精霊が起こした悲劇"なのだと。

 繁栄をもたらした慈愛の雨はやがて、国を滅ぼした破滅の雨と呼ばれるようになった。

 彼女は何も悪くないのに。


「──もう誰も信じられない」


 あんなに愛してくれたのに。

 あんなに必要としてくれたのに。


「──どうして、そんな目を向けるの?」


 信仰心は簡単に揺らぐ。

 要らないものは、すぐ消そうとする。


「──私は、ただ」


 ただ、貴方たちの力になりたかった。

 それだけなのに。


「──人間は、私を裏切った」


 沸き上がる怒り。

 裏切られた悲しみ。


 幼い彼女にとってそれは、一生消えない傷であった。


「──ねぇ、誰か」


 誰か。

 誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か。


「──私を、助けて」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ