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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第10章 精霊の号哭編
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第118話 2つ目の気配

「全て話してもらうぞ、グランドゼーブ」


 2年ぶりの再開。

 それは2人にとって望んでいたものではなかった。


「……なぜお前たちがここにいる?」


 ユズルが問う前に、グランドゼーブが口を開く。


「それは、お前がよく知ってるんじゃないのか?」


 ユズルは既に彼がなぜここにいるのか目星が着いていた。

 ヨハネから語られた6人の大精霊。

 そのうちの一人に風の精霊がいる。

 この人間離れした風魔法の使い手、そして雨の精霊の元にたどり着いた所以。

 それだけで彼が何者なのか、検討が着いていた。

 だがわかっているのはユズルだけじゃないはずだ。


「お前は1度俺と剣を交じいている。俺が持つ力が、精霊のものだってお前は知っているはずだ」


「……」


「その沈黙は、肯定ってことでいいな?」


 顔を伏せ、沈黙に走るグランドゼーブ。

 重い空気が、その空間を支配していた。


「俺は、風の精霊と契約している」


 しばらく黙ったのち、グランドゼーブがそう告白する。

 予想出来ていた答えだが、改めて聞くと実感がわかない。

 最近まで精霊の存在を知らなかったが故の戸惑いだ。


「それで、何しにここにいたんだ?」


「……」


「お、おい!」


 グランドゼーブは口を閉ざしたままベッドから立ち上がると、部屋の戸に手をかけた。


「助けて貰ったことは感謝する。だが、それとこれは別だ」


「お前、その怪我でどこ行く気なんだ?」


「…………雨の精霊の元だ」


 扉を開け去ろうとするグランドゼーブの腕を、ユズルは強く引いた。


「今行っても死ぬだけだ!冷静になれ!」


 ユズルは叫ぶ。

 だが以外にもグランドゼーブはそれ以上抵抗しようとはしなかった。

 それどころか……


「?お、おい大丈夫か?」


 グランドゼーブの足が千鳥足になったかと思うと、途端にその場に崩れ落ちた。

 完全に体が衰弱し切っている。


「っ、酷い熱だ。あんな雨の中にいりゃそうなるよな。くそっ」


 今の状態では尋問は厳しそうな状況である。

 話は一度、お預けとなった。




 グランドゼーブをベッドに戻し、ユズルはユリカの元に向かった。

 ひとまずグランドゼーブの回復を待ちつつ、今の状況を整理することにしたのだ。


「なるほど、やはり彼は風の精霊の契約者でしたか」


「ああ。だが、ここに来た理由はまだ話してくれていない」


 もし雨の精霊と同盟を組みに来たとなれば、目的は似通っている。

 目的が同じならば、敵対する理由はないだろう。


「東の大陸の状況を見ても、聖王は雨の精霊が魔人側に着くのを嫌ったと見えます。このタイミングでの訪問、10中8、9雨の精霊と敵対するためにやってきた訳ではなさそうです」


 ユリカと同意見だった。

 東の大陸では既に戦争まがいの事が起こっている。

 正直に言って、人間が魔人に勝てる確率はほぼ0に等しいだろう。

 この戦争に勝つためには、魔人に対抗できる手段、同盟者を増やす必要があるのだ。

 だが、ユズルはひとつ引っかかっていることがあった。


「グランドゼーブは技を使ってたよな」


「確かに、町にはいる時に聞きました」


 グランドゼーブは剣技を放っていた。

 もし、友好的な取引をするためにここに来たならば、どんな理由があれど取引相手に手は出さないはずだ。


「グランドゼーブは、なんのために剣技を放ったんだ……?」


「……それは、彼の口から直接聞くしかなさそうですね」


 話は再び振り出しに戻ることとなった。

 数時間後、ユリカの回復魔法を行使し目を覚ましたグランドゼーブに、2人は尋問を開始した。




「──と、考えているんだが合ってるか?」


「……」


「……はぁ」


 ここに来た理由を聞き出そうとしたが、グランドゼーブはあくまで沈黙を通した。


「黙られても困るんだ。東の状況はお前が1番わかってるだろ?こんなところで時間を潰してる暇はないんだよ!」


 黙るグランドゼーブに苛立ちを覚える。

 なぜ彼はこんなにも悠長にしていられるのだろうか。

 人類にそんな余裕はもうない。

 彼が口を開かない限り、この話は進まない。


「グランドゼーブさん、剣技を放ってましたよね。何故ですか?」


 ユズルに変わってユリカが問う。

 沈黙を通すかと思われたが、


「……気配だ」


 予想外にも、グランドゼーブはその重い口を開いた。

 その一言に、ユズルは眉をひそめた。


「気配?なんのだ?」


「お前は感じなかったのか。もう1つの気配を」


 ユズルは必死に記憶を巡らせる。

 あの時は雨のせいで気配が感じにくく、やっとのことで人ならざるものの感じ取れたのだ。

 人ならざるものの、気配を。


「……あの時感じた気配。あれは……精霊のものでは無い?」


「俺は精霊になど剣は振っていない」


 あの時、あの場にいたのは──


「魔人が裏にいる。王族階級の、だ」


「っ、やはり魔人が絡んでいたのか……っ」


 ユズルと互角以上の実力者 グランドゼーブ。

 そんな彼を瀕死の状態まで追い込んだ敵が、すぐそこまで迫っていた。


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