表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第10章 精霊の号哭編
131/188

第117話 豪雨の邂逅

「なんだよ……これ」


 豪雨の町で2人が目にしたのは、真っ赤に染った広場と、散乱する瓦礫の山、そして地面に横たわる一人の男の姿だった。

 雨の音が大きくて、気配が読み取れそうにない。

 ……それは2年前のユズルならばの話だ。


「……感じるぞ、人ならざるものの気配が」


 肌に感じる気配の風。

 肌が痺れ、気配を感じる方へ視線を向ける。


「──人間が来る場所では無い」


「っ、ユリカ!」


「はい!(シールド)!」


 視線を遮るようにして、ユズルの前に巨大なシールドが現れる。

 その刹那、轟音と共に無数の水の粒が2人に降り注いだ。

 上からでは無い、明らかに前方から飛んできている。


(なんで襲ってくるんだ……っ!)


 技の威力、そして特徴から攻撃元は雨の精霊で間違いないだろう。

 明らかに友好的でないことはすぐにわかった。


「待ってくれ!俺たちは敵じゃない!」


 必死に呼びかけるユズル。

 だが、攻撃の手が緩められることは無かった。


「敵か味方なんかあんたが決めることじゃないから。人間はみんな、敵だから!」


「くっ……!」


 さらに攻撃が強まる。


(人間はみんな敵……?どういうことだ?)


「ユズルさん、このままでは拉致が開きません。一旦出直しましょう」


 ユリカの言う通りだった。

 作戦のないまま突っ込んでも、状況は変わらない。

 今は一度引き、作戦を立て直そう。


「彼はどうしますか?」


 ユリカが地面に伏せる男を指さす。

 間違いない、奴だ。


「……っ、連れて行くしかないだろ。何か情報を吐くかもしれない」


 ユズルはユリカに合図をし、攻撃の合間を縫って一斉に駆け出す。

 多少こぼれ球を受けたが、躊躇っている暇などなかった。

 町を抜けることには攻撃はやみ、吹く風が濡れた体を一層冷やす。


「とりあえず体を温めよう。それに……こいつが目を覚まさねぇと話が始まらねぇ……」


 ユズルの腕の中には、血だらけの男が抱かれていた。

 かつて、この男とは敵同士であった。


「なんでこいつがここにいるのかも気になるしな……」


「そうですね。では、移動しますか」


 ユズルは男を抱き抱えたまま雨の精霊の元を後にした。

 これが彼女との、初邂逅だった。




 ──もう誰も信じられない。


 あんなに愛してくれたのに。

 あんなに必要としてくれたのに。


 ──どうして、そんな目を向けるの?


 信仰心は簡単に揺らぐ。

 要らないものは、すぐ消そうとする。


 ──私は、ただ。


 ただ、貴方たちの力になりたかった。

 それだけなのに。


 ──人間は、私を裏切った。


 沸き上がる怒り。

 裏切られた悲しみ。


 幼い彼女にとってそれは、一生消えない傷であった。


 ──ねぇ、誰か。


 誰か。

 誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か。


 ──私を、助けて。



「……っは!」


 飛び起きるとそこは、見知らぬ天井だった。


「なんだったんだ、今のは……」


 全身に冷や汗が走る。

 今の少女は、まるで雨の精れ──。


「起きたか?」


「……っ!?」


 声のする方向へ体を向ける。

 普段なら気づくはずの距離だ、油断しすぎていた。


「急に動かない方がいい」


 自分の手に目を落として思い出す。

 自分が今どういう状態にあるのか、を。


「さて、お前に聞きたいことは沢山あるんだが……」


 夢と言い、目の前の男といい……


「なんて目覚めの悪い朝だ……」


「全て話してもらうぞ、グランドゼーブ」


 王都軍 大佐 グランドゼーブ。

 かつての敵同士が今、異国の地で再開した──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ