第116話 雨降る町
雨の精霊を尋ねるべくセイントヘレナ公国を出て早一週間。
旅の道中、2人はこの2年間の出来事を報告しあっていた。
「でな、そこでサンが〜」
「あははっ、サンちゃんはほんと天真爛漫っ子ですね」
無邪気な子供のような性格をしたサン。
そのせいでユズルは何度も死にかけた。
「私もお2人に会ってみたいです」
「きっと2人も喜ぶよ。あそこ、2人以外誰もいないから暇してるだろうし」
あの空間にあったものは、沈まぬ太陽と永遠に続く夜。
それだけだった。
「?ユズルさん、あそこ見てください」
話の途中でユリカがふと空を見上げる。
どこまでも続く青空。
雲ひとつない晴天の空に、違和感がひとつ。
「あそこだけ、雨降ってませんか?」
ユリカの指さす方向を見ると、確かに1箇所だけ雲がかかった地帯が見えた。
ユズルの予想が正しければ、あそここそが
「雨の精霊の居所、か」
ついに4人目の大精霊の元に辿り着いた。
距離はまだ離れているが、着いたと言っても過言ではないだろう。
「あの雨じゃ、周囲に人は居ないだろうな」
「だと思います。名前に恥じぬ……って感じですね」
「だな」
あの雨の中長期的に滞在するのは体調面的にも良くない。
なるべく早く切り上げよう。
そう思いながら雨の降る街へと足を踏み入れようとしたその時だった。
「──旋風」
聞き覚えのある声と同時に、爆風が2人を襲った。
風に乗り、雨が槍のように突き刺さる。
「っ、盾」
ユリカが光の盾を出現させ、身を守る。
2年前、竜の渓谷でこの技を受けた時盾は耐えられずに砕け散った。
だが、今はビクともしない。
これが2年間の修行の成果かと、ユリカの成長にユズルは思わず頬を緩める。
「今の声、聞きましたか?」
「あぁ、やっぱりアイツだよな?」
緊張で体が強ばる。
2年前、奴とは敵同士だった。
その力は絶大で、ユズル1人の力では到底勝てる相手では無い。
風が止み、再び豪雨が町を覆う。
「……行きましょう、ユズルさん」
唾を飲み込み、2人は豪雨の町へと足を踏み入れたのだった。
──同時刻 王都 エルミナス
「聖王様!隣国の町にて王族階級の魔人出現を確認しました!如何なさいますか!」
「兵を向かわせろ!現場の指揮はダインに任せる!」
「は!」
走り去る兵士を横目に聖王はため息を着く。
今月だけで、既に4度目の襲撃だった。
引き金を引いたのは間違いなく自分である。
魔人の元に兵士を向かわせた、自分であると。
「聖王様、グランドゼーブはまだ戻らないのですか?」
聖王の隣で、王都軍少将 ドロアが問う。
少将 ドロア。彼もまた、王族階級の魔人と対峙し生き残った数少ない兵士のひとりだ。
「彼には一人の時間が必要だ。それに……彼は魔王戦まで前線には出さん」
「……?何故です?彼の実力は確かですが……」
強さだけで言えばもっと上がいる。
彼だけを優遇する理由が、ドロアには分からなかった。
だが聖王は全てを知っている。
彼が、──の契約者であることも。
「彼は逆転の一手を隠し持っている。無駄死にはさせない」
彼の持つ、あの力だけは魔人に渡しては行けない。
大精霊の、力だけは。
──第10章 精霊の号哭編 開幕
物語は、ついに3幕へ──。




