第110話 抜刀術改
自らに課せられた新たな課題。
"自分だけの剣技を作る"
その言葉だけでは難しく感じるが、言い換えれば多少マシになる。
要は、ローレンス式抜刀術を応用すればいいのだ。
「ローレンス式抜刀術"改"ってとこだな」
それにユズルは過去に二度ローレンス式抜刀術の応用技を使っている。
一度目は王都でグランドゼーブと対峙した時。
あの時ユズルは双剣を駆使し、2つの技を同時に繰り出す合体技を見せた。
そして2度目はアイアスブルク辺境伯領でのクロセル戦。
あの時ユズルは水を纏う"聖蒼"と炎を纏う"劫火"を併用し、氷魔法を操るクロセルに初めて水のダメージを与えた。
つまりユズルは既に幾つか草案があるのだ。
ただそれが実践の場での思いつきに過ぎず、冷静な場で思いつくような有効性のある技では無いことをユズルは理解していた。
だからこそ、この問いかけは、ユズルにとって今最優先して考えるべく課題なのだ。
「あら、もう一本の方も使うのね。双剣にしては、左右の剣の長さの比が歪だけれど」
「むしろその方がいいかもな。ここから先で待ち受けてるのは、常識が通じるような相手じゃない」
「それもそうね」
(試してみたかった技が幾つかある。試すいい機会だ)
双剣を構え、ユズルは双方に魔力を込める。
「抜刀術改 炎炎拡散!」
参の型劫火と、弐の型旋風を掛け合わせた技。
炎を纏った剣を、旋風で加速させ火車の用に突進する技だ。
「なるほど、案はもうあったのね」
「ああ!試させてもらうぞ!」
纏った炎を振り払い、続けざまに技を繰り出す。
「抜刀術改 風流星群!」
櫛風と流星を掛けた技。
水を纏った重い一撃を、櫛風で上から押し込む。
双剣だから出来た合体技だ。
打ち付けた柱が、音を立てながらひび割れていく。
「あら、障害物を消して良かったの?」
「ああ、広いスペースが欲しくなったんでな!」
「そう、なら──」
ルナが両手を大の字に広げる。
その刹那、空間に無数に存在していた柱が消え、障害がひとつもない空間が現れる。
「これで手間が省けたでしょ?さあ、来なさい!」
「抜刀術改──」
この技は、自分一人では成せない技だ。
本来ならユリカがいない場での実用はほぼ皆無に等しいが、今は大精霊が3人もいる。
暴走することになっても、きっと──。
「力を貸せ、悪魔!」
その言葉を合図に、脇腹から半身へと黒い痣が巡り出す。
黒く染った眼を開眼し、シュバリエルに最大限の魔力を込める。
闇と光の融合、本来交わることの無い2つの輝きが今、ユズルの身体を経由し融合する!
「抜刀術改 聖黒覇斬!」
初ノ型 聖龍と黒龍を合わせた合体技。
聖龍を放つ剣には光の精霊カマエルが。
黒龍を放つ剣には悪魔の侵食が。
相対する剣技は次元を超越する。
「──討った!」
「…………第1段階、クリアね」
剣技がルナの身体を切り裂き、上下に分断された身体は宙を舞い空中に漂う。
「精霊っていうのは死なない生き物なのか?それとも、大精霊だからなのか?」
「いえ、そういう訳では無いわ」
ルナは分断された体を再生させながら話す。
「精霊だって消えることはある。まぁ私たちのような大精霊を消せるとしたら……あの魔法だけだと思うわね」
「あの魔法……?」
魔法に詳しくないユズルが知らないのは当たり前だが、ユリカやメイシスであれば知っているかもしれない。
それに大精霊を消せるほどの技だ、禁忌魔法の一種である可能性も高い。
「多分、貴方も聞いたことがあるはずよ。その魔法の名前は──」
「──審判の金槌。この魔法は魔族だけでなく全ての生物に作用する。それは大精霊であっても例外では無い」
頂の教会で、ヨハネがユリカに審判の金槌について語る。
この魔法に、人類の命運がかかっていると言っても過言では無い。
しかしこの魔法は誰でも習得できる訳では無いのだ。
王家の血筋を継ぐもの、もっとも今の王都で玉座に着いている王家は真の王家では無い。
王家の血を引くものは第7代聖王 レオンを最後にして完全に途絶えた。
……はずだった。
500年前、悪魔と共に王位を捨て王家の血を引いたまま駆け落ちした聖王が1人存在する。
第6代聖王 イサベル。
彼女はとうの昔に死んだはずだが、彼女と悪魔の間に生まれた子供は、長い年月を得て再び氷の中から目覚めこの地上に現れた。
その者の名は、ユリカ。
彼女は人類の最後の希望であり、魔族にとっての驚異でもあった。
「この魔法を使う相手は、果たして魔王か、悪魔か、それとも闇の精霊か。いづれにしても代償は大きい相手じゃ、全員に対して使えるわけじゃない」
倒さなければならない敵は山ほどいる。
少なくても今のユリカには、王族階級の第12位ですら倒せないのだ。
この2年、審判の金槌を温存しながら最終決戦まで生き残るために、何としても強くならなければならない。
「ヨハネさん、私に教えてください。禁忌魔法と、この世界の歴史を──」
2人の修行は、まだ始まったばかりである。




