第104話 精霊について
重い空気が漂う中、話は続く。
「続いて精霊についてじゃ。精霊は──」
「──その話は、私からする」
突然剣が光りだし、シュバリエルが姿を現す。
当然その姿はヨハネには見えていないはずだが……、
「この感じ……そこにいるのはカマエルかの?」
「カマエル……?いや、ここにいるのは……」
「ユズル、彼の言っていることは間違っていません」
シュバリエルはユズルの話を遮るように割り込む。
「なんかいつもと雰囲気が違うような……それに話し方も」
「きっと私が1部記憶を取り戻したからでしょう」
「記憶を……思い出したのか!」
「ほんの一部ですが。とりあえず、彼に私の正体を隠す必要はないので特例で姿を見せます」
シュバリエルはそう言うと、ヨハネの前に姿を現した。
無論ユズルとユリカには元々見えていたため変化は分からないが、ヨハネの表情を見れば全てが察しづいた。
「ふぉっふぉっ、精霊を見るのは何年ぶりか。それも大精霊 カマエルときた」
「その、さっきから言っているカマエルっていうのは……」
「私の本当の名前です。大精霊 カマエル、始まりの六精霊の一人、それが私」
「始まりの精霊……」
またしても初めて聞く単語だ。
つまりシュバリエルは、六人の大精霊の1人である、ということなのか。
「精霊については、私の口から説明しましょう──」
──
かつてこの世界には、6名の大精霊が存在した。
大精霊、それは始まりの精霊達。
太陽、月、光、闇、雨、風。
どれも人間が信仰するべく生まれた精霊達でした。
その強さは信仰心に比例し、ほかの精霊たちとはまるで別格でした。
度重なる戦争、蔓延する疫病、絶望の中で人類は神を頼った。
神を信仰することだけが、彼らの心の支えであったのです。
そんな暗黒の時代に生まれた六名の大精霊。
──
「その1人が、シュバリエル……カマエルってことか?」
「はい。ですが、私が生まれたのは少し先の話になります」
シュバリエルは続ける。
──
平穏な世界を壊したのは、大精霊の1人、闇の精霊 ルーナジアでした。
彼女は闇の精霊として信仰され、大精霊となった。
人間の抱える闇、嫉妬、憎悪、憤怒、怨念。
人間誰しもが持つ弱みを信仰心に変え、その力は大精霊の頂点に立つまでに膨れ上がった。
悲しみや憎しみの連鎖を利用し、戦争に次ぐ戦争を起こし、その度に力を蓄えていった。
そして気づく。
人間に相対するものを生み出せば、絶え間なく争いが起こると。
さすれば永遠の力が手に入ると。
ついにルーナジア禁忌を犯す。
今日に至るまで、人間を苦しめこの世界を絶望に塗りあげた存在を作り出してしまったのです。
人々はそれを、「悪魔」と呼んだ。
悪魔は次々に魔人を作り出し、その度に人間と争いルーナジアは力をつけて行った。
……しかしそれは長くは続かなかった。
闇あるところに光あり。
人々は絶望の中で光を求めた。
そしてその信仰心は、ついに最後の大精霊を呼び起こすことになる。
──
「それが私、光の精霊 カマエルです」
「ちょっと待ってくれ、今闇の精霊が「悪魔」を作ったと言ったか?悪魔は禁忌魔法の代償で召喚されたんじゃ……」
「悪魔を作り出したのはルーナジア、それを召喚したのが人間、という訳です」
なるほど、ルーナジアが悪魔を野にはなった訳では無いのか。
だが話を聞く限り、人間に禁忌魔法を使わせ悪魔を召喚させた裏には、ルーナジアが関わっていそうである。
「そしてそのルーナジアは今、ユズルの師匠であるボップの中にいます。完全に力を取り戻すまでの時間稼ぎとして彼の中にいるのでしょう」
「やはりそうなのか……」
ヨハネと同じ話をされ、忘れたかった事実が再び目の前に現れる。
小さいことから、まるで親子のように時間を過ごした師匠が、まさか闇の精霊と契約していたなんて。
そんなの、受け止め切れるわけがなかった。
「ボップさんはいいひとなんですよね?なら、きっと闇の精霊と契約せざるを得ないなにか理由があったんだと思います」
「君の過去を見た感じ、その男は契約しなきゃ殺す程度の脅しじゃ怯まぬ男に見える。つまり自分の意思で契約したのではないかね?」
「一体どんな理由が……」
それは誰にも分からない。
1度アルバ村に帰還し、真実を確かめない限りは。
「もうアルバ村を出て半年経つし、一回帰ってみるのもありかもな」
アルバ村に帰りたい気持ちもあるが、まだそのときでは無いと思っている自分もいる。
きっと今の自分に満足していないからだろう。
もっと強くなりたい、魔王にだって、悪魔にだって、精霊にだって勝てるぐらい。
その揺るがぬ意志だけは、決して変わることがなかった。
「それでは最後の議題、禁忌魔法について話すとするかの──」
長いように思えた話もついに終わりを迎える。
全ての真実を知ったあとで、ユズル達はどのような選択をするのか。
それは、まだ誰にも分からない──。




