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第102話 悪魔の子

「君たちに、全てを教えよう」


 突如として現れた頂の教会 神父ヨハネ。

 彼は長い顎髭を撫で、ユズル達の顔を見る。


「そう警戒しなくてもよい、わしは君たちの味方だ」


 どこか落ち着いた声で、そう語り掛ける。

 「ふぉっふぉっふぉっ」と特徴的な笑い声に、白く長い顎髭。

 小さなメガネに、がっしりとした体つき。

 いかにも高貴な姿をしていた。


「まぁ今日は夜も遅い。明日の朝、教会に来るといい」


「……そう、させていただきます」


「少し怖がらせてしまったかの?ふぉっふぉっ、じゃあまた明日の朝にな」


 そう言ってヨハネは再び風の中に消えていった。

 しばらく言葉を失った2人は、頭に積もった雪が胸元に入り込むまでその場に立ち尽くしていたのだった。


 翌日、ユズル達はヨハネに言われた通り頂の教会まで足を運んでいた。

 中に入るなり、例の修道女がヨハネの元まで案内してくれた。


「よく来た、さて、何から知りたい?」


 部屋に入るなり、ヨハネは早速話を切り出してきた。

 まるでなんでも答えられると言わんばかりの態度だ。

 

「何から知りたい、と言っても困るかの?じゃあワシがお前たちの知りたいことを当ててやろう」


 ヨハネは指を五本立て、話す。


「悪魔の生い立ち、そして(ユリカ)の存在について。英雄ローレンスと聖女アリアについて。魔王 アーリマンの思惑について。精霊について。禁忌魔法について」


 それを聞い、ユズル達は酷く取り乱す。

 それもそのはず。

 ヨハネが提案したものは全て、ユズル達が探し続けていたものだったからだ。

 その答えが全て、今分かるのだ。


「その顔は、全て知りたいようじゃな。よかろう、全てを話すと言った手前、わしも話す義務がある」


 ヨハネはいっそう険しい表情を浮かべる。

 それにつられ、ユズル達の表情も真剣なものへと変わった。


「ではまず、悪魔についてじゃ──」


──

 悪魔が生まれたのは、今から約600年前。

 禁忌魔法の代償に召喚された悪魔は、すぐさま世界を震撼させた。

 無限に生成される魔人、残虐非道な殺人行為、無差別に生き物を襲いもはや誰も彼を止められなかった。

 そんな彼も、ついに愛を知る。

 それは彼がこの地に放たれて100年ほど経ったある日、彼は王都周辺の森でとある人物と会う。

 その人物こそ、(ユリカ)のお母さんであるイサベル女王だ。

──


「私の、お母さん……?」


「そうだ、申し訳ないがこれは真実。わしの目には、その人の過去が見える。君の過去には、約500年の空白がある。知らなくても無理は無い」


 あまりにショッキングな話に、ユリカは表情を曇らす。

 だが、これは予想出来ていた。

 王都で忌み子として誘拐されたユリカ。

 その体に悪魔の血が流れていることは知っていた。

 そしてユリカが王族の人間であることも、ユズルは勘づいていた。

 故にこの事実は、無かったことにしたかった"事実"なのだ。


「続けるぞ」


──

 2人は次第に惹かれ合い、やがてとある約束をする。

 それはこの地を離れて、遠くで暮らすこと。

 しかしその約束の日、イサベルは約束の場所にやって来なかった。

 彼女は人間の王になることを選んだのだ。

 しかし、彼女も自分の心には逆らえなかった。

 それは悪魔もおなじ。

 悪魔は戴冠式の場に現れ、イサベルを連れて逃走した。

 そして(ユリカ)を産み、君の中にやどる自分(あくま)の血を浄化すべく、君を氷の中へと封印した。

 その後悪魔は第7代聖王 レオンの手によって討伐され、最後の力を振り絞りイサベルを魔人に変えた。

 いつか生まれ変わった時、また会えるように。

 そしてイサベルは今も尚、生きている。

──


「今も、生きている?」


「あぁ。面白いことに、(ユズル)は一度会っているようだぞ?」


「え──?」


 全くもって身に覚えがない。

 ユズルは必死に記憶をめぐらせる。

 しかし、そのような記憶は──、


「もしかして──」


「そう、そのもしかしてじゃ。悪魔は死に際、イサベルにある遺言を残した。それは"魔人になったあとは、アーリマンというやつの所へ行け。俺が今まで産んできた魔人の中で1番強く、一番知性の高い魔人だ。俺の名を出せば、きっとお前を守ってくれる"というものだった。そしてイサベルは人間の頃の記憶を無くした今も、魔王 アーリマンの元で亡き悪魔(おっと)の帰りを待っているのだ」


 その言葉を聞いて、ユズルは息を飲む。

 確かにユズルは会っていた。

 ハルク村でのベルゼブブ討伐戦後、満身創痍のユズルとキリヒトの前に、魔王が現れた。

 その時、確かに魔王の背後にいたのだ。

 一人の女性が。


「あの時の女性が、まさかユリカのお母さんだったなんて……」


 思わぬ所で点と点が繋がり、止まっていた歯車が動き出す。

 悪魔とイサベルの子供がユリカであり、イサベルは今も尚魔王と行動を共にしている、と。


「……まってくれ、悪魔の血を浄化するためにユリカを氷漬けにしたと言ったよな?」


「いかにも」


「だが、ユリカの中にはまだ悪魔の血が流れている。これは一体、どういうことだ?」


「それは精霊の話で出そうとしていたが……まぁよい今話そう。端的に言えば、彼女(ユリカ)は予定より早く目が覚めてしまった。正確には、起こされたのだ」


「起こ……された…………?」


「そうじゃ。(ユリカ)を起こした張本人は、闇の精霊 ルーナ。またの名を大精霊 ルーナジア。彼のことは……恐らく(ユズル)の方がよく知っているんじゃないのか?」


「また俺……」


 これも全くもって記憶に無かった。

 そもそも精霊自体、シュバリエルと出会うまで存在していることすらも知らなかったのだ。

 必死に悩むユズルに、ヨハネは答えを語り出す。


「彼は今、とある男と契約しその身に力を宿しておる。その男の名は──」


 その名を聞いて、ユズルは絶句した。


「その男の名は、ボップ。君の師匠のなでは無いかね?」


 ひとつの世界が、終わる音がした──。

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