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第99話 闇の精霊

妖精の森編 エピローグ


 満身創痍のユズルたちはその後、騒ぎに駆けつけた集落のエルフたちによって治療を受け、セイラは翌日、ユズルは4日後に目を覚ました。

 その間に特に事件は起こらず、ユリカはユズルの治療に専念していた。


「魔王が、来た……?」


 目を覚ましたユズルに、戦いの後のことを告げる。

 フォルティスト戦の決着、魔王の登場、ユズルが自我を失っている間に起きた出来事を事細かに説明していく。


「じゃあユリカは直接魔王と会った訳じゃないんだな?」


「はい、私も……その……気を失っていて」


 ユズルの攻撃のせいで、とは口が裂けても言えなかった。

 それにあの時のユズルは、まるで別人のようだった。

 それは性格が豹変したとか、そういう類のものではない。

 「ユズルの皮を被った別の誰か」があの場にいたのだ。


「それで結局、フォルティストが妖精達を監禁してた理由ってなんだったんだろうな」


「それについてですが、ユズルさんが眠っている間に色々と考えてました」


 ユリカは「恐らくですが……」と話を続ける。


「魔人たちは、妖精が人間側に着くのを嫌ったんだと思います」


「と、言うと?」


「近々、人間と魔人は再び戦争することになります」


「──っ?!」


 とんでもない発言に、ユズルは目を見開く。

 戦争が再び始まるなど、考えても見なかった。


「もし仮に戦争が始まるとすると、妖精や精霊、その他の種族が人間に側に着くのは魔族にとって痛手です。それに彼らは説得しても自分たち側につかないことを分かっている。それなら──」


「──それなら予め排除しておいた方がいい、と」


「そういうことだと思います。もしこの推測が正しければ、魔族はもう戦争に向けて動き出していると言っていいと思います」


 確かに筋の通った推測だ。

 だが本当に起こるとしたら、引き金は何なのだろうか?


(まさか……俺の悪魔化が進行するのを待っていた、のか?)


 そんなことを考えるユズルに、ユリカは落ちうちをかける。


「前回のクロセル戦終了後、クロセルを連れ去った魔人は去り際に「魔王からの召集命令」つまり"王族階級を集めてなにか話し合いをする"と言っていました。このタイミングで何を話し合うのか、そして魔王はなぜ今回我々の前に現れたのか。ユズルさん、なにか心当たりがあるんじゃないですか?」


 ユリカの話を聞いて全てが繋がった気がした。

 もし魔人たちの目的が俺の中に眠る"アレ"だとしたら……


「……俺の中には、悪魔が居る」


 悪魔が眠っていると思われる脇腹の侵食をそっと抑える。

 今はまだ人間の形を保っているが、いつ暴れ出すか分からない。


「やっぱり、そうなんですね」


「怖くないのか……?」


 あっさりとした反応のユリカに、ユズルは少し拍子抜けした。

 だがその反応は、ユズルによって今1番欲しかった反応かもしれない。


「ユズルさんを怖いと思ったことはありません」


「俺じゃなくて悪──」


「悪魔になったユズルさんを見たことがないので!」


 あのユリカが声を張って否定する。


「私が知ってるユズルさんは、悪魔なんかじゃなくて、誰にでも優しくて、誠実で、正義の味方のような人なんです。だから私は、ユズルさんを怖いなんて思ったことは、ない、です……」


 突然泣き出したユリカを、ユズルは慌てて抱きしめる。

 ユリカはいつだってユズルの味方だった。


「……ごめん、ユリカ」


「謝らないで、ください。ユズルさんは何も悪くないです」


 そうだ、俺は何も悪くないはずだ。

 あの日結界を出て、幼なじみを2人失い、悪魔の血を植え付けられた。

 それの何がいけなかったのだろう。

 なぜ人間は、こんな囚われた世界で生きていなければ行けないのだろうか。


 数分後、意気消沈した2人の元にセイラはやってきた。



「それでこれから2人はどうするの?」


 ようやく落ち着きを取り戻した二人は、セイラと食事を共にしていた。


「俺たちは元々この先にあるセイントヘレナ公国に用があってこの森に入ったんだ」


 本来の目的はその国にある「頂の教会」に足を運ぶことだった。

 世界で最も聖なる場所、セイントヘレナ公国。

 かつてあの聖女も、セイントヘレナ公国出身のシスターだった。


「そう、ちょうどいい時期ね」


「ん?行くのにいい時期とかあるのか?」


「まぁそれは行ってからのお楽しみよ」


 期待だけさせてお預けを食らう。

 だが楽しみが増えて、気分も上がってきた。


「そうだ、セイラさん達はこの後どうするんですか?」


 霧が晴れ、この森から開放されたセイラ達エルフ族。

 自由を手にしたエルフたちはこの先どうするのだろうか。


「私たちは元々ここで妖精たちと暮らしてたから、このままここに残るかも。でも、他にエルフ族の生き残りがいるか探す旅に出るのもありかなって、今話し合ってるところよ」


 生存戦争で離れ離れになってしまったエルフ達。

 その生き残りを探す旅も、悪くなさそうだ。


「お互い、また会えるといいな」


「そうね、次会うときは平和な世界になってるといいわね」


 平和な世界を取り戻すためにも、ユズル達の旅はまだまだ終わらない。

 食事を終えた一行は1度家に戻った後、軽く挨拶を交わした後、集落を後にした。


「ありがとうございました、セイラさん!」


「こちらこそありがとう!気をつけて!」


 手を振り送るセイラ。

 その姿が見えなくなるまで、ユズル達も手を振り続けた。


「いい時期って言ってたけど、どういう意味なんだろうな」


「なんだかわくわくしますね」


 二人は故郷 アルバ村の歌を口遊ながら、森を進んでいくのだった。


 腕に、妖精の紋章を刻みながら──。


 妖精の森編 完──。



 同時刻 王都エルミナス


「門を開けろ!大将ダイン様の凱旋だ!」


 数百人の王都軍騎士達が道の端に並び敬礼を掲げる。

 その中央を颯爽と歩く男。

 その身のこなし方から見て、只者では無いことが見て取れる。

 だがその男に続くものは、1人として存在しない。

 男だけが、1人道を歩いていた。


「ただいま戻りました、聖王様」


「ダインよ。戻ったということは……倒したのだな?」


「はい。ただ共に任務に向かった300名の兵士は皆、尊き犠牲となりました」


 周囲がざわつく。

 男の後に続くものが一人もいない時点で、薄々気づいていた。

 生き残りが居ないことを。


「報告できる者が1人いれば良い。言ってみろ」


「は。私、大将ダイン及び300名の兵士は、王族階級第9位 ラブラドールの討伐に成功しました」


 先程までのざわつきが一転、歓声がその場で巻き起こる。

 無理もない、ついに人類が王族階級の魔人を倒したのだから。


「よくやった、ダイン。詳しい報告書は後日でよい、今は体を休めよ」


「は。それでは失礼します」


 その場を後にするダイン。

 が、自室に向かう途中で、待ち伏せしていたとある人物に呼び止められる。


「グランドゼーブか。久しいな」


「ダイン……よく生きて戻ったな」


 王都軍大佐と大将。

 二人の実力者が、数年ぶりに顔を合わせた。


「地方に配属されたあとも、王都での出来事は耳に入っている。君、一般人に負けたんだって?」


「一般人じゃない。あいつは人間の皮を被った魔人だ」


 ここで言う「一般人」は、恐らくユズルのことである。

 確かにグランドゼーブは一度ユズルの剣に散った。

 しかし完全に敗北した訳では無い。

 油断をしなければ、負けるはずもない相手だった。


「それで、国外に逃げようとしたそいつを取り逃したとも聞いたが?」


「……邪魔が入ったんだ」


「てことは君は2度一般人に負けたという訳か。はっ、君も落ちたね」


 ダインの煽りに、グランドゼーブは手のひらに爪を突き立てる。

 だが今はダインと喧嘩をしに来た訳では無い。


「ダイン、お前エリカを知ってるか?」


「別空間にいる、あの?」


「そうだ」


 元々魔導書(グリモワール)の保管や公に出せないものは全て彼女の生み出した別空間に保存していた。

 もっとも前回の襲撃時に、ボップという名の男に見つかり魔導書(グリモワール)は奪還されてしまったのだが。


「そいつがどうかしたのか?」


「エリカから聞いた話なんだが、エリカを襲い、俺を足止めしたあの男の正体は──」




(大精霊 カマエル……。聞き覚えが、ある)


 夢の中でシュバリエルは、欠損した記憶を修復しようと奮闘していた。


(そう、確か大精霊は神の精霊。人間が信仰するために作った……)


 かけていた記憶が呼び戻される。

 夢の狭間で、シュバリエルは過去を見た。


(ユズルと私、一度接触してる……?大精霊……いや、闇の精霊……)


 神の精霊にして、過去に大量虐殺を行った闇の精霊。

 その契約者と、ユズルとシュバリエルは一度接触していた。

 いや一度では無い。


(まさか……あの男が闇の精霊の契約者なの……?)


 困惑するシュバリエル。

 名前を発するだけでも、恐怖で体が震える。

 その闇の精霊の名は──、



「「大精霊 ルーナジア」」




「おーいボップ、今日も魔獣の目撃情報が出てる。討伐しに行くぞ」


 アルバ村の兵士は、団長であるボップに呼びかける。

 その声に応じ、ボップは腰を上げた。


「よーし、今日もいっちょやりますか」


 体をのばし、ボップは薄気味悪く笑う。

 その表情は、普段のボップからは想像もできない、どこか恐怖を感じる顔であった。


「俺の敵は、皆殺しだ──」



 魔王、悪魔、闇の精霊。

 本当の敵は、果たして何なのだろうか。


 それを知るのは、まだ先の話である──。





 次章予告


 世界で最も聖なる国 聖都 セイントヘレナ公国に訪れた二人。

 そこでは一年に一度の大切な行事「輝神誕祭(きしんたんさい)」 が行われていた。

 祭りに参加する中で二人は、頂の教会の神父と出会う。


「私は、あの聖女 アリアの弟なんだ」


 聖女と同じ血を通うものとの出会い。

 そして、大切な仲間との別れ。


「ユリカ……しばらくお別れだ」


 ひとつの物語が今、終焉へと動き出した。


 第8章 輝神誕祭編 開幕──。

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