第97話 大樹
セイラの合流により、フォルティストの中距離攻撃をほぼ無力化することに成功した一行。
しかし相手は王族階級、しかも第11位という上位の実力を持つ魔人。
油断は出来ない。
さらに奴は覚醒によって身体強化が成されている状態だ。
ここから先の戦闘、かなり苦しいと言える。
「ユリカ、セイラのところに行って後方支援を頼む」
「……分かりました」
ユリカを後ろへと下げ、フォルティストと正面から向き合うユズル。
精神を研ぎ澄まし、仕掛ける。
「ローレンス式抜刀術 弐の型 旋風!」
「種の銃弾」
「乱れ撃ち」
セイラの放った矢がフォルティストの種と接触し、相殺し合う。
だが全ての脅威を取り除けたわけではなかった。
(くそっ、流れ弾が……っ?!)
取りこぼした流れ弾がユズルにあたる刹那、ユズルはまるで何者かに引っ張られたかのようにその弾をかわしたのだ。
(なんだ、今のは……?)
まるで踊り子のように、自分の意思とは裏腹に流れ弾を避け続ける体。
その姿はまるで、妖精のようで……。
(そういえばさっき、腕に……)
セイラと合流した時、1匹の妖精が自分の腕に触れ消えたのを思い出す。
攻撃の合間を縫って自分の腕に目を向けると、そこには今まで無かったはずの紋章が刻まれていた。
(もしかしてこの動き……妖精の踊りか?!)
フォーラ村でキリヒトに聞いた話が頭をよぎる。
妖精の踊り、それはこの世界で最も華麗で、最も美しい舞踏。
全ての生き物を魅了し、どんな技をも敬遠する。
唯一無二の、踊りだと。
「妖精の踊り、相変わらずヘラヘラめんどくせェなァ!!!」
「なっ……!地面が盛り上がって……っ」
「大樹」
地面から突如大樹が現れる。
それは広範囲に渡り、ユズル達一行をはるか上空へと突き飛ばす。
(なんっ……て重圧だ……っ。抵抗で身体が……潰れ……っ)
宙を舞う3人。
強打した全身は痺れ、無力化した身体はただ重力に従い落下し始める。
「これで避けようがねェだろォ!種の銃弾」
支援を任せていたセイラは、先程の衝撃で頭部を損傷したようで気を失っていた。
同様にユリカも魔力が底を尽き、バリアを展開することは厳しそうである。
上空に身を放り出され、隠れることも避けることも守ることも迎え撃つことも出来ない状況。
それにこの技を運良く対処出来ても、落下の衝撃までは逃れられない。
少なからずユズル達は、あと数秒で地に落ち死ぬ。
相打ちにすら持ち込めず、ただただ無意味な死を遂げるだけだ。
「ユリカ」
絶体絶命の境地で、ユズルは最愛の仲間の名を呼ぶ。
「なんですか、ユズルさん」
それに愛するものは答える。
「俺が暴走しても、また助けてくれるか?」
「……当たり前です。何度だって救い出します」
「ありがとう、行ってくる──」
左腹部から全身へと黒い侵食が巡り出す。
それは、ユズルが悪魔の力を借りたことを意味していた。
「避けようがねェだ──」
「──黒龍」
「ァ?」
一瞬。
ひび割れ、壊れゆくフォルティストの核。
悪魔の力を宿した者は、間合いなど知らない。
ただ剣を振り下ろした先にある生が、途絶えるだけだ。
力と引き換えに、悪魔はユズルの身体を侵食し始める。
ユズルは歯を食いしばり、ユリカとセイラを無事に地上へと下ろした。
必死の抵抗も虚しく、ユズルの意識は朦朧とし始める。
「俺が……負けたァ……?」
離れた位置で、核ごと体を分断されたフォルティストがこちらを見ていた。
消えてゆく体。
だが、フォルティストが大人しく消えるわけがなかった。
「てめェらも、道連れだァ……!」
フォルティストは最後の力をふりしぼり、ユズル達目掛けて技を放つ。
しかしその抵抗は虚しく散ることになる。
「私の主には、指一本、触れさせない」
「またあの光かよォ!!!なんなんだよお前らはァ!」
フォルティストの断末魔だけが、静かな森に鳴り響く。
その声が途絶えた瞬間、別の音がその場を占領する。
「ァァァァァァ……」
「必ず、救いますからね」
残された力を解放し、ユリカは向き合う。
ユズルという名の、救うべきものと──。




