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第96話 日光





 辺りの霧が晴れ、ユズルは再びフォルティストの姿を目の当たりにする。

 相変わらず不気味な姿だ。


「霧が晴れたからなんだァ」


 フォルティストは先程と変わらず中距離攻撃を続けてくる。

 だが霧の恩恵は大きく、やつの動き出しが見える分早めに動け──


「──(シード)銃弾(バレッド)


「かっは……っ!」


(さっきよりも!装填時間が短い……っ)


 動き出しから発射までの時間が明らかに早くなっている。

 それだけじゃない。

 最初に見た時よりも、確実に奴はでかくなっている。


「霧はなァ、俺の力を押さえつけるためにあったんじゃねェ」


 フォルティストの全身を植物が覆い尽くす。

 繭のように絡まり出したソレは肥大化し、やがて弾け飛ぶ。


「俺の力を隠すためにあったんだァ……」


 中から現れたやつの姿からは、先程までの面影は感じなかった。

 それほどまでに醜く、そして災厄であった。


「植物に一番当てちゃダメなのは、日光だろォ?」


覚醒(デーモニゼーション)……っ!」


 場の空気が一気に重くなる。

 この空間全てが今、フォルティストに支配されているのだ。

 全身の傷口がヒリつく。

 どこに意識を置けばいいのか。

 やつを注視すればするほど、呼吸を忘れ、痛みを忘れ、そして考えることすら忘れてしまう。

 ユズルの集中力は、とっくに限界を迎えていた。


「手始めに、お前の片腕でも貰おうかなァ」


 不気味に笑うフォルティスト。

 その動きに注意しながら、ユズルは剣を構える。

 だが攻撃の手は、思わぬところから飛んできた。


「さっきまでの銃撃戦はただの遊びじゃねェ。下準備だったんだァ」


「ぐぁぁぁぁああ!」


 背後から現れた蔦に腕を取られ、身動きを封じられる。

 関節を締めあげられる痛みに、ユズルの口から絶え間なく苦痛の声が溢れ出る。

 そしてそれは1箇所にとどまらず……


「さっきさんざん暴れ回ってくれたなァ?あっちこっちに種が飛んでいってるぜェ」


「まさ……か………っ、それ全部……」


「そうだァ。これはただの銃弾じゃなくて、お前を殺すための凶器だからなァ!」


パッ!パッ!パッ!パッ!パッ!パッ!パッ!


 種が弾ける音がいっせいに鳴り響く。

 それと同時に無数の蔦が、ユズル目掛けて降り注いだ。

 四方八方から押し寄せる凶器。

 身動きひとつ取れないユズルにとってそれは、死を意味していた。


(腕を取られた拍子に剣を落とした……っ。これじゃシュバリエルを呼ぶことも出来ない……っ)


 諦めかけたその刹那──、


「──栄光(グローリー)なる地均(・クラック)


 光の術式が地面を這い、辺り一体を覆っていた蔦を全て光の粒子へと変換する。


(この魔法は……!!!)


 蔦から解放されたユズルは、今度は離すまいとシュバルツを握った。

 その横に、1人の少女が現れる。

 それが誰なのか、言うまでもなかった。


「遅くなりました」


「なんだァお前?女が来ていいとこじゃねェぞ、ここ──」


「── 栄光(グローリー)なる粛清弾(・バースト)


「なァ!このアマっ、話してる途中だぞ!」


 ユリカの不意打ち(?)に、フォルティストは初めて動揺を見せた。

 その気の緩みは、ユズルが最も欲しかった一瞬であった。


「精霊奥義──」


 シュバリエルの光を全て剣先に集中させ、放つ──。


「──精霊(スピリット)一太刀(・ソード)


 全てをかけた一閃。

 これが効かないのなら、どうやって倒すのか。

 最後の最後まで全力で振り切る。


「うぉぉおおおおお!!!」


 ザンッ──。


 全力を一振。

 フォルティストの体は分断され、上半身が宙を舞う。


「切ったァァァァァ!」


 だが切っただけではおそらく死なない。

 やつのコアを破壊しない限り、魔人が死ぬことは無い。

 次の一撃をと、ユズルは振り返る。

 だがそこには既に五体満足のフォルティストの姿が……。


「そんな細い切断面で、仕留めたつもりかァ?!!!!」


「しまっ──」


植物(プラント)咆哮(・ロア)


栄光(グローリー)なる領域(・スフィア)


 間一髪の所をユリカに救われる。


(ユリカが居なきゃ死んでたな……俺)


「ユズルさん、今のでほとんどの魔力を使い果たしました。それと……集中力の低下が著しいです」


「それは俺も感じてた。俺たちは体力や魔力云々の前に、集中力の限界が近い」


 というのも、ユズルとユリカは昨日までの数日間、霧で覆われ変わらぬ景色の森をさ迷っていた。

 常に精神をすり減らしてここまでたどり着いたのだ、集中力などそう長く持ちそうになかった。


(集中すればやつの攻撃だって交わせるはずなんだ。だが、もう心が乱れ始めてる……っ)


 戦闘の中で、それも自分より明らかな格上相手を前にしてこの状態は最悪の事態であった。

 しかし、引くことは許されない。

 目の前の敵は既に、ユズル達を逃がすほど寛容な生き物では無いのだ。


「見たらわかる。お前、それで魔力を使い果たしたんだろォ?」


「……っ」


 フォルティストが2人に歩み寄る。

 圧倒的威圧感、そして制圧感に2人は動くことも出来なかった。

 これで全てが終わる。

 そう確信したその時だった。


「──火炎(フレイム)一矢(・アロー)


 突如として現れた炎の矢が、フォルティストに命中し爆散する。

 その煙を利用して、2人はフォルティストから距離を置くことに成功した。

 矢の放たれた方向を見ると、そこにはセイラと無数の空飛ぶ小さな小人の姿が……。

 その数匹が2人に飛びより、腕に触れると同時に姿を消した。


「なんだァ、まだいやがったのか」


 煙が晴れ、不機嫌そうな顔をしたフォルティストが現れる。


「どいつもこいつも、さっさとくたばりやがれ!(シード)銃弾(バレッド)!」


(アロー)(・レイン)ち!」


 空中を飛び交う双方の技が衝突し合い、激しい衝撃波を生む。

 セイラの合流は、ユズル達にとって大きなことだった。


「ここまで耐えてくれてありがとう、2人とも!ここからが正念場よ!」


「ああ!」「はい!」


 若き三人の挑戦者たち。

 果たして王族階級である魔人 フォルティストを討つことはできるのか──。


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