第94話 解放
ドォォォォォォォン。
(今の音……もしかして……っ)
音のした方を振り返るが、濃霧のせいで音源が確認できない。
だが来た方向から音がしたとなると、恐らくユズルとあの魔人との戦闘で何かあったのだろう。
少しでもユズルが動きやすくするために、一刻も早く霧の魔獣を倒さなければならない。
そんなことを考えながら駆けていると、ふと霧が濃くなった感覚に襲われた。
(……気じゃない、本当に濃くなってる)
近くに霧の魔獣がいるかもしれない。
ユリカはより濃い霧の中へと足を運ばせる。
1歩先も見えない霧の奥で、ユリカは遂に霧の発生源を見つけ出した。
以外にも発生源の魔獣は小さなスライムのような生き物であった。
(逃がしたらもう、追えないかもしれない……)
この霧の中で、こんな小さな魔獣を見つけ出すのはほぼ不可能だ。
むしろこの小ささだからこそ、この能力の真価を発揮できているんだなとさえ思う。
ユリカは一撃に全てをかけ、息を殺して唱える。
「── 栄光なる粛清弾」
そうして唱えられた粛清の一弾は、森を包み込む霧を晴らしたのだった。
(声が近くなってきてる……)
ユリカ、ユズルと別れたあとセリアは、一人妖精の元へと足を走らせていた。
妖精たちの悲しみの声が森と共鳴し合い、セリアを自分たちの元へと誘う。
「…………この中にいるのね」
セリアがたどり着いた先は、何の変哲もない崖下の壁。
しかしその中から確かに妖精たちの声が聞こえるのだ。
「破壊の一矢」
山肌を破壊し、妖精達を監禁していたそれが姿を現す。
紫がかった球体、まるで内側から閉じ込めるかのように覆われたそれの中に妖精達はいた。
(恐らく内側から出られないようになってる……。これを破壊しなきゃ……)
球体を攻撃する前に、外側から干渉できるのか自身の手を近づける。
しかしそれに触れた刹那、セリアの腕に雷に打たれたような電撃が走った。
「くぅ……、剣や槍で触れたらこっちまで感電するようになってるのね……」
どうやら触れたものを介して強い電撃を与える障壁のようだ。
だが生憎にもセリアの使用武器は弓矢。
これなら感電せずに破壊できる。
「妖精さん達、少し離れてて!」
万が一のことがないよう、妖精に呼びかけるセリア。
大きく弓を引き、セリアは放つ。
「解放の一矢」
バブルが弾ける音がして、妖精たちが解き放たれる。
それと同時に、当たりを覆っていた霧が晴れていった。
恐らくユリカが霧の魔獣を倒したのだろう。
まるで示し合わせたかのようなタイミング、これで残る敵はあの魔人のみとなった。
「それにしても、この障壁を作った人は能無しね」
セリアは何年ぶりかに見る青空を見上げ、
「この森には、弓矢が得意なエルフ族しかいないのに」
そう呟いた。
こうして霧を晴らし、エルフ及び妖精を囚われ身から解放した一行。
残る敵は、フォルティストのみ──。