第93話 第十一位
第十一位 フォルティスト。
この一瞬でユズルは悟った。
こいつは今までの魔人とは格が違う、と。
(霧でやつの姿が見えない……っ、追撃される)
追撃を警戒しつつ霧の中を凝視していると、突如6つの光が浮かび上がる。
配置的に、あれはやつにあった花の目状の……
「あの痣……っ!」
気づくのと同時に、無数の弾丸がユズルに襲いかかった。
だがそれはただの玉ではなく、
(これは…………種?)
「──開花」
「な……っ!」
種が割れ、中から大蛇の如く木の幹が溢れ出る。
その幹がユズルの体にまとわりつき、動きを封じた。
「硬化」
幹が硬質化し、関節が悲鳴をあげる。
メキメキと音を立ててユズルの体を完全に拘束した。
「──交差斬撃」
「がっは……っ」
身動きの取れないユズルに、フォルティストは技を繰り出す。
ユズルは避けることも受け流すことも出来ず、ただ打ちのめされるだけであった。
やがて硬質化した木の幹が割れ始め、ユズルを拘束していた檻は崩壊する。
それと同時に、ユズルも地に伏せた。
「弱すぎて話にならねぇなァ」
伏せるユズルに唾をはきかける。
だがユズルはまだ折れてなどいなかった。
「…………しろ、シュバリエル」
「ァ?お前なんか言ったかァ?」
ユズルは微かに口元を動かす。
シュバリエルと約束した、あの言葉を口にするために。
──それは、妖精の森に入った初日の夜のこと
"「ユズル、今後私を呼ぶ時、は、召喚口上が、必要」
「召喚口上?」
ユリカの眠るテントの外で、見張りをしていたユズルにシュバリエルは語りかける。
「そう、私、普段は寝てるから、下界のこと、分からない。だから、ユズルに呼ばれなきゃ、出て来れない」
どうも力を蓄えるためには、睡眠が必要不可欠らしい。
それに、先日のクロセル戦で力をかなり消耗したらしく、しばらく休息が必要とのことだ。
「だから、私の力が必要になったら、こう叫んで──」"
「──具現化しろ、シュバリエル」
そう口にした刹那、全身から力が湧き上がり辺りを強い光が襲った。
「なんだァ?!」
困惑するフォルティスト。
無理もない、精霊の姿は契約者にしか見えないのだから。
「ユズル、おはよう」
「…………おはよう、シュバリエル」
立ち上がるユズル。
剣に力を込め、再びフォルティストと正面から向き合う。
「何したか知らねェが……所詮お前程度じゃ俺は倒せねェよ!」
再びフォルティストの体から光が発される。
飛んでくる種を、シュバリエルは光の障壁を展開しはじき飛ばした。
「なっ!」
「ユズル、今です」
「ローレンス式抜刀術撥の型──」
空いた懐に、ユズルは潜り込む。
「──流星!」
水を全身にまとった突進技。
確かに手応えはあった。
だが、ユズルの一撃を受けたフォルティストの顔には笑みが浮かんで──、
「植物相手に、水は悪手だろォ!」
ユズルの剣先が触れた部分が、緑に光る。
その光はまるで、何かが爆発的に開花するような光であった。
「活性化させちまったなァ。開花」
先程同様種が割れ、中から木の幹が飛び出す。
しかしそれは先程までとは違った。
「さっきより、でかい……っ」
「てめェが水を与えたせいで、帰ってこっちが強化されちまったようだなァ?」
再び囚われたユズルに近づき、フォルティストは睨む。
「さっきの光、お前の仕業じゃねェだろ。何をしたァ?」
さっきの光とは、恐らくシュバリエルの光のことだろう。
だがまだシュバリエルのことは気づかれていないようだ。
「まァいい。お前の本気がその程度なら、俺は覚醒を使う必要は無さそうだなァ」
その一言に、ユズルは一瞬恐怖を覚えた。
そうだ、こいつはまだ本気を出していない。
それどころか、まるで子供の相手をするかのように遊び感覚で戦っている。
これほどまでの実力差、恐怖を感じざるを得なかった。
だがそれは一瞬の気の迷い、結界を出たあの日と比べればこんなもの恐怖のうちに入らない。
(とりあえずユリカが霧の魔獣を倒してくれるのを待つしかない……っ。この霧じゃ、やつの攻撃をかわせない……!)
「ローレンス式抜刀術拾壱の型 煌煌!」
木の幹を粉砕し、囚われの身から解放される。
だがフォルティストは顔色ひとつ変えずに、再び種の銃弾をユズルに向け放った。
(水がダメなら、火だ。植物なら火に弱いはず……っ!)
「ローレンス式抜刀術参の型 劫火!」
炎舞。
ひとつ残らず焼き尽くすかのごとく、ユズルは舞う。
しかしその種に触れた刹那、まるで火薬に火をつけたような感覚に襲われた。
(──しまっ)
ドォォォォォォォン。
種はまるで爆弾のように破裂し、広範囲に渡って大爆発を起こす。
「火は、もっとダメだろォ?」
霧の中で、フォルティストは気味悪く笑った。
ユズルの意識は、暗闇の中へと落ちていった。
心臓の音が、鳴り響く暗闇の中に──。