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7.これはまぎれもない世話役詐欺です?

思わぬ邂逅に気を良くしたヒルデガルドが、恒例となった朝の報告会で今日の予定を告げる。


「今日も第3妃のところへ行ってくるわ」

「お嬢様~、メロメロ作戦はどうするんですか~?」

「第1王子がメルゼブルクを調べるには、もう少し時間がかかるでしょう。メロメロ作戦は、その後で」

「取りあえず、面会の予約をしておいたらどうですか?」

「そうすると、急かしてしまうでしょう?公務もあるのに、申し訳ないわ」


あ、なんか言い訳みたいだな、とヒルデガルドは自分でも思った。面倒だから、向こうからのアクションを待とう、なんて考えていることを悟られてはいけない。


ーーと、ヒルデガルドが考えていることを、エルマとヤンはとうに見抜いているのだが。


「…分かりました。では、お嬢様は第3妃のところで情報を収集してください」

了解(ラジャー)!」

「エルマ、ご令嬢方の動向は?」

「第2王子への面会の申し入れは、1巡(6日)先まで一杯ですよ~。昨日、第1王子が目通りしたのは、ウムラウフ侯爵令嬢でした~」


ヒルデガルドはエルマの報告を受けて、考える。第1王子の本命は、ウムラウフ侯爵令嬢か。でも彼女、第2王子の方が好きそうなんだけどな。まあ、政治戦略的なことで第1王子の本命なのかもしれない。


……メロメロ作戦、通じるかな……?


「お嬢様には~、豊満な肉体(ナイスバディ)しかありませんから、いざとなったら既成事実を作りましょう~」

「良い作戦です、エルマ。むしろそれしかないので、早めの決行を」

「正直すぎる!」


この二人(エルマとヤン)の嫌味がツライ…。王宮にお悩み相談室はないものか…。


「それにしても、第3妃が粗末な邸とは。それほど冷遇されているのでしょうか?」

「さあ。他のお妃様の嫉妬から逃れるためかもよ。その方が夢があるし」

「夢の有る無しではありませんよ、お嬢様。お嬢様は王宮に世話役候補者として滞在していることを、ゆめゆめお忘れなきよう」

「軽率な行動で、追い出されないようにしてくださいね~」

「………はい」


ぐっさり釘を刺され、ヒルデガルドは第3妃の元へ向かった。





誠実で実直な第1王子(ユリウス)は、ヒルデガルドとの約束通り、メルゼブルクへの救援について調べてみた。


すると、メルゼブルクからの救援要請に対し、国からの援助は3対1であることがわかった。


ーー要請はこれほど多いのに…。


すぐに対処しないのは何故だろう。南の国境も東の国境も、ここ近年は諍いが少ない。西の国境であるメルゼブルクに救援を送り続けても、国庫が揺らぐことはないはずである。


それでも、要請に対して救援を送っているのは間違いない。要請に応じて救援する書面が残っている。しかも、書面にある署名と押印は、きっちり3つ。


ーー国王陛下と宰相、防衛大臣の署名に偽りはない。


この国では、国王独裁とならぬよう、大きな事案には国王、宰相、大臣の認可が必要となる。大臣を任命するのは国王だが、宰相は大貴族の投票で決まる。任期は3年。国王の意に染まらぬ人物が宰相となるよう施した、苦肉の策である。


ーー救援を出したのが間違いないとなると…。


救援物資を奪われたのか。あるいは横領されたのか。


ーーヒルデガルドの話が嘘という可能性もある。


実は困窮しておらず、物資を貯め込むための偽り。


だが、ユリウスは疑念の比重を、奪われた乃至横領された可能性の方に大きく傾けている。


ーーよし。


ユリウスはこの件について、独自で調査することにした。絶対に宰相に露見されてはいけない、と心が強く警鐘を鳴らす。密かに、素早く。


傍に控えていた腹心を呼び、ユリウスは幾つか調査を命じた。





ヒルデガルドは第3妃の建物を眺めて思う。


ヤンの発言のように、第3妃はなぜこんな住まいをしているのだろう。手入れが行き届いていない訳ではないのだが、割と適当にされている。


草花の管理はきちんとしているのに、畑がずさんに放置されているのが気になった。


門扉に門番はいない。ヒルデガルドは再び勝手に扉を開けて、中に入る。


すると、今日も護衛が現れた。…敷地内に入ってから護衛が来るってどうよ。警備がゆるいんじゃない?とヒルデガルドは不審に思う。


「ようこそ。どうぞこちらへ」

「あら、ありがとう」


どうやら、ヒルデガルドを客とみなしてくれたようだ。護衛に止められることなくーーいや、護衛自ら案内される。侍女はどうした。人手が足らなすぎる。ーー人のことは言えないけれど。


「こんにちは、ヒルダ。今日も来て下さって嬉しいわ」

「こんにちは、ユーディト様。図々しくもまた来てしまいました」


目の前の愛らしい美女が訪問を喜んでくれるものだから、ヒルデガルドもほわんと嬉しくなる。ーーあかん。骨抜きにされとる。


「世話役争いはどう?ヒルダはどちら派なの?」

「うーん、どっち派と言い切れるほど親しくないのですが…。第1王子の方が好みです」

「あら、珍しいわね。第2王子の方が人気あるのではないの?」

「第2王子も、悪い方ではないですけれどね。あの方は、女性は全て好き!という究極のフェミニストですから」

「…親しくないのに、そこまで分かるのはすごいわ」


ユーディトは紫水晶(アメジスト)の大きな瞳をさらに広げて、驚きを表す。えへへ。褒められちゃった。


「ヒルダから見て第1王子は、どんな方なの?」

「そうですね。真面目で誠実な方だと思います。不器用ですけど、優しいですし」

「あら、絶賛ね。良いじゃないの」

「でも、第1王子(あのかた)は、侯爵令嬢が本命ですよ」

「ヒルダだって、辺境伯令嬢なのです。そう身分が劣ることはありませんわ」


そう。辺境伯の地位は伯爵よりも上で、侯爵と並ぶくらい高いのだ。ーーなぜか、ヒルデガルドの領地は貧乏だけど。


「いやぁ…。メルゼブルク辺境伯領は貧しいですから…」


人様に台所事情を話すのは、意外に恥ずかしいものだ、とヒルデガルドは今更ながら気付いた。


「…貧しい…?」

「隣国との小競り合いがしょっちゅうなので。段々実入りが細くなってきましてですね…」

「それで、世話役に応募したのですね」

「有り体に言えばそうです」


有り体に言ってしまうと人でなしだ、とヒルデガルドは思った。…この美しい方はどう思うのかな?私を嫌わないでくれるかな…?


「まあ。ヒルダは存外人でなしですのね」

「正直!」

「では、こうして私とお茶していても大丈夫ですの?」

「私には色気も魅力もありませんから、アピールのしようがないのです。いざとなったら、既成事実で…!」

「まあ。ヒルダは大層人でなしですのね」

「二度目!」


ついうっかり部下と同じように体言止め(ツッコミ)してしまった。美女に『人でなし』と言われるのは、かなり堪える。

ーー自業自得だけど。


「ふふ。ヒルダは素直ね。裏表のない人柄は、とても好感が持てますわ」

「あ、ありがとうございます!」

「…本当にお馬鹿さん(かわいいひと)ね」


春の柔らかな日差しのように、ユーディトは微笑む。その微笑みは、ヒルデガルドにはまぶしい。…でも、何故だろう。こう、小動物のように扱われている感じがするのは。『可愛い人』って言ってたけれど、『お馬鹿さん』って思われているような…。


ヒルデガルドが微妙な顔をしていると、ユーディトはパン!と手を打って言う。


「良いわ。ヒルダ、私が後ろ盾になります」

「えっ?」

「頑張って、第1王子の世話役になりましょうね!」

「えっ…で、でも…」

「第1王子の世話役になったら、ヒルダは王宮に居ますもの。私とずっと一緒に居られますわ」

「……!素敵ですね!私、世話役になるよう頑張ります!」

「ええ!」


立ち上がって2人の美女は堅い握手をかわす。ヒルデガルドは感激してぎゅうう…とユーディトの手を両手で握りしめた。

『後ろ盾になる』という優しい言葉。ヒルデガルドは、何よりその心遣いがとても嬉しかった。もしかすると、メルゼブルク領についても、いずれ助言してもらえるかもしれない。



ヒルデガルドは温かな思いを胸に、部屋へと戻っていく。



そんなヒルデガルドの後ろ姿を眺めて、「面白くなりそうね」とユーディトはつぶやいた。



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[一言] ヒロイン(ユーディト)の最後の一言は小悪魔のイタズラか黒幕の陰謀か
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