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6.散策したら妃殿下だった件

お茶会を2回したところで、しばし自由行動となる。次のお茶会は、1巡(6日)後。それまで、世話役候補者たちは、各々好きに動く時間を与えられた。


ただし、王子たちは午前中執務をするため、候補者たちが王子に面会を申し入れるのは、必ず午後のみと定められる。

また、候補者同士が会うことも可能としたが、王宮から出ることは禁じられた。



以上を踏まえ、自由行動をさてどうするか。主従たちは話し合う。


早速、ヒルデガルドは先のお茶会で交わした第1王子との約束を、エルマとヤンに話した。


「でかしましたね~、お嬢様~!」

「でしょでしょ?もう、第1王子様々よう!」

「若干微妙な言い回しですけどね。『見直す』とか『善処』とかは、必ずしも改善を約束したものではありませんよ」

「ヤンったら、穿ちすぎ。少なくとも、第1王子に我が領土を調べてもらえるもの。大きな戦果よ!」


ひゃっほう!と踊り出すヒルデガルド。今日はお茶会がないので、簡素なワンピースを着用している。


「世話役になるなら、第1王子様ですね~」

「そうね。本気で目指すのも良いかも!」

「安いひとですね、お嬢様は」

「あはは、ヤンってば~。お嬢様は美食に釣られる程度の、安価なひとですよ~」

「悪口!」


私の部下がヒドイ!どこかにお悩み相談室はないものか…。


「…ヤンの方は、どこまで分かったの?」

「あまり。やはりまだ警戒されてますからね。現時点で分かったことは、王様は、どうやらメルゼブルクに救援物資を出してるみたいです」

「えっ!ならば、なぜ…」

「届いていない理由は、まだ分かりません。むしろ、救援しているのにメルゼブルクに到達していない方が、問題としては深刻です」

「…そうね」


ヒルデガルドの予想の1つとして、王様が「小競り合いだから救援は不要」とみなしているのでは、という考えがあった。


確かに、大がかりな戦争とは言えない。メルゼブルクでは兵農分離をしていて、まだ農民を兵士として雇うには至っていない。ーーそれも、このまま国の援助がなければ危ういが。


だいたい、隣国とのいさかいは、常に小さなことから勃発している。今回の小競り合いも、国境を越えて作物を耕しているだのいないだの、農民がやいやい言い始めた事が発端だった。ーー戦なんて、そんなものだ。


ーーその情報が王宮に伝わったのかも、と思ったけれど。


案外、王宮には、メルゼブルクの逼迫感が伝わっていないのかもしれない。ーーむしろ、その方が恐ろしい。


辺境伯はその地位が高く、相当な自治が与えられているとはいえ、その領土は王国の直轄領だ。辺境を軽んじれば、明日は我が身である。


原因は内部か?外部か?盗賊か?横領か?ーー考えたらきりがない。


「…よし。ヤンは引き続き情報収集をお願い。エルマは併せて令嬢方も探って」

「了解」

「お嬢様はどうします~?」

「私は、ちょっとフラフラしてくるわ」

「…不審者に間違われませんように」

「大丈夫!立派な不審者だから!」

「お嬢様~。それ、大丈夫って言いませんよ~」


やいのやいの言いながら、この先の方針が決まる。ヒルデガルドは、『王子様メロメロ作戦』を決行するつもりだった。ーーこの時点(とき)までは。





『王子様メロメロ作戦』の手始めとして、ヒルデガルドは第1王子に面会予約を入れようとした。

だが、侍従に「本日は予約が一杯です。明日でもよろしいですか?」と言われ、ヒルデガルドは断った。


ーーそんな都合良くは行かないか。


ならば、と散策がてら気になっていた建物を調べることにした。



「確か…この辺りのはず」


ここが王宮内であることは、まず間違いないのだが、進めば進むほど、王宮の華やかさが失われ、寂れた風景になっていく。


「王宮に、なぜこんな場所が…」


まるで何かを秘匿しているかのようだ。わびしく、埋もれるように佇む建物。ヒルデガルドは全く怯まずズンズン進む。


草むらを抜けると、門扉が現れた。門番はいない。だが、庭はある程度手入れがされており、人が住んでいることが窺える。


ーーなに?なに?これって、王家の秘密?!


この門扉は、開けてはいけない扉なのかも!それってすっごい面白そう~!と快楽主義者のヒルデガルドは、躊躇いもなく中に入っていった。


「誰だ!」


荒々しい男声で、誰何される。取りあえず、最低限度の自衛はしているようだ。


「王宮の世話役候補、メルゼブルク辺境伯が長女でございます」


ヒルデガルドは誰何に対し、完璧なお辞儀(カーテシー)で答えた。護衛があんぐりと口を開けたまま、微動だにしない。ーー何故だ。


「あの…」

「…これは失礼しました。ここは貴婦人の邸宅でございます。どうぞ、お戻りを」

「まあ、貴婦人…」


曖昧な言い方だな、とヒルデガルドは思う。王宮の敷地内である以上、王家に連なる方だとは思うが…。


「貴婦人にご挨拶申し上げたいわ。ご案内してくださらない?」

「…申し訳ございませんが…」

「主がお会いしたいと申しております。どうぞこちらへ」


護衛が断りを入れようとしたところ、侍女らしき人が現れ、中へ招いてくれた。「ありがとうございます」とお礼を言って、ヒルデガルドは図々しく案内を受ける。


簡素な建物だが、内装は凝った造りである。床は大理石だし、柱は美しい意匠が施されている。壁紙は豪奢だ。ーー少しホコリっぽいが。


あまり大きくない建物なので、すぐに目的地にたどり着く。侍女は控えめなノックをして、来訪を告げた。


「お客様をお連れしました」

「ありがとう、ウルスラ」


スッとソファを立ち上がったのは、小柄な女性。金色の髪がキラキラ輝く。目映い!


「初めまして、お嬢様(フロイライン)わたくしはこの邸の主、ユーディト・フォン・アルビオンですわ」

「お初にお目にかかります。わたくしはメルゼブルク辺境伯が長女、ヒルデガルド・フォン・アスカーニエンと申します。」


ヒルデガルドは深々とお辞儀をする。ーーフォン・アルビオン。目の前の女性は、王族だ。


「王宮では、第3妃と呼ばれておりますの」

「お目にかかれて光栄にございます、妃殿下」


ーー秘密でも何でもなかった。ただ、第3妃の住まいにしては、ずいぶん寂しい暮らし向きだ。


「ここには、滅多に客人は来ませんの。ですから、可愛らしいお客様につい嬉しくなってしまって」


招いてしまいましたの、とコロコロ笑う。その様子が大層愛らしい、とヒルデガルドは思った。


「私こそ、先触れもせずご訪問しましたこと、お詫び申し上げます。この建物に惹かれまして、つい…」

「まあ、このようなうらぶれた建物に?」

「はい。私の実家に似ております」


ヒルデガルドはにっこり微笑んで告げた。そうだ。家に似ているから、こんなにも惹かれたのだ。


「そう。こんな住まいでよろしければ、いつでもいらしてくださいませ」

「本当ですか?!嬉しいです!どうぞよろしくお願い致します!」


勢いよく頭を下げると、ユーディトはクスクス笑う。やっぱり愛らしい…とヒルデガルドは思わずうっとりと魅入ってしまう。


「熱い視線ですわ。照れてしまいます」

「す、すみません。妃殿下があまりに愛らしくて、つい…」

「ふふ、面白い方ね。ヒルデガルド様とお呼びしても?」

「どうぞヒルダとお呼び下さい!」


ヒルデガルドは身を乗り出して、愛称を告げた。ユーディトは、よく見ると瞳は美しい紫水晶(アメジスト)色で、鼻筋は通り、唇はサクランボのように甘やかだ。ーーつまり、美人。

美人はヒルデガルドの大好物である。


「ありがとう、ヒルダ。私のこともユーディトとお呼びになって」

「はい!ユーディト様」


2人の美女は、笑い合う。美味しいお菓子と紅茶を堪能しながら、たくさんおしゃべりをする。

ユーディトと話すたび、優しい相槌と鮮やかな返しに、ヒルデガルドはますます夢中になっていった。



夕闇が迫り、侍女から帰宅を促される。ヒルデガルドはそんな時間まで居座ってしまったことを詫び、また明日訪問したい旨を告げた。

ユーディトは快く了承し、手を振って別れる。



ヒルデガルドは、胸にこみ上げる喜びが何かを探る。お友達と呼ぶには気安すぎるな。お姉様が出来た感覚に近い。

しかも理想のお姉様だ。ヒルデガルドはあまりの嬉しさに、ステップを踏んで帰宅した。


粗品の真似をしていたら、ウザいと言われました。悲しい…

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