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5.食は大事!

王宮生活3日目。


美味しいおやつにホカホカごはん。あったかい布団で眠るという快適生活に、ヒルデガルドの満足度は高い。


「いえいえ~、お嬢様、満足していてはダメですよ~」


ほんわほんわしていたヒルデガルドの髪型を整え、エルマはやんわり窘めた。今日もお茶会がある。ドレスは相変わらず質素な誂えだ。


「そうよね!ごめん、目が覚めたわ。危うく王家に餌付けされるところだった…!」

「もういっそ、世話役を狙った方が良いんじゃないですか?」


ヤンが紅茶を用意しながら、提案する。


「ーーていうか、最初の目的は世話役になることですよ?お嬢様ってば、腰に手を当てて、『王子様の世話役に、私はなる!』とか叫んでいたんでしょう?」

「げ!ヤン、何でそのこと知ってるの?!」

商人(マイヤー)から聞きました」

「ダダ漏れ!」


ヒルデガルドが頭を抱えようとするその手を、容赦なくエルマが叩いた。痛い…。


「まだ3日です。方針を確定しなくても大丈夫ですよ。王子様メロメロ作戦も、良いと思います」

「…ヤンの棒読みが痛い」

「とりあえず、情報集めからやっていきましょう~」


はい、出来た~とエルマが完成を告げた。エルマは器用だ。いつも凝った髪型にしてくれる。…ただ、今流行りのものではないけれど。


「毎日催し物があるなんて、王家も本気ね」

「下手に平民と恋されても困るから、先に囲い込んじゃう作戦ですかね~」

「変な性癖でも持ってるんじゃないんですか?」

「言い方!」


ヒルデガルドがたしなめる。ヤンの毒舌が絶好調だ。これからお茶会なのに、王子たちをヘンな目で見ちゃいそうだ。


「じゃあ、行ってくるわ」

「はい。いってらっしゃいませ」


こんな時だけ、従僕(フットマン)然で綺麗なお辞儀で見送るんだから!とヒルデガルドは呆れ顔で、部屋を出て行った。





今日の庭園は、薬草園の近くだった。薬草特有の匂いが、微かに漂う。


ヒルデガルドは、こちらの庭園の方がよほど好ましかった。ここを選んだ方とは、話が合いそうである。


意匠を凝らしたテーブルとイスに、贅沢なお菓子と飲み物。

そして、美麗な王子様。佳麗な淑女たち。ーーお茶会の必須アイテムである。


今日のお茶会の配置は、昨日と逆だった。「全員とお話ししたい」という第2王子の意向である。


ヒルデガルドはどの席だろうと構わない。彼女の目的は、美味しいお菓子だ。ーーこんな姿をヤンが見たら、完全に目的を見失っていると呆れることだろう。


ヒルデガルドは食べることが大好きなのだ。美食の誘惑に、中々勝てない。


「…貴女は本当に、食べることが好きだね」


突然話しかけられて、顔を上げるヒルデガルド。ーー手も口も止めたりしないが。


「ええ。王宮(こちら)は、美食の宝庫ですわ」

「気に入ったのなら、もっと真剣に考えておくれ」

「…何をです?」

「世話役を、さ」


げげ、バレてる?!とヒルデガルドが焦る。周りのご令嬢方は、白い目でヒルデガルドを睨んでいた。ーーマズイ。ご令嬢方を敵に回してしまったか?!


「…もちろん、真剣に考えておりますわ、殿下」


ここには、素晴らしい衣食住が保証されているし。


「そう。それなら良いんだけれど」


第2王子はニコリと美しい笑顔でそう言って、これ以上は追求しなかった。あちゃ~。もちっと真面目に王子たちとお付き合いしてみるか、とヒルデガルドが反省する。


ヒルデガルドはお菓子を食べる手を止めて、このお茶会をぐるりと眺めた。


今日の第2王子の席は、ヒルデガルドを含めて6人の候補者たち。第1王子の時と異なり、候補者たちは頰をピンク色に染めて、うっとりと第2王子を見つめている。


ーーあら?昨日の侯爵令嬢ったら…。


第2王子の隣に陣取るのは、ウムラウフ侯爵令嬢。あれほど第1王子にすり寄っていたのに。今日は恋する女性のように、第2王子にベッタリしていた。


ーーあちらは…。


第1王子は14人。お通夜のように静かだ。まるで会話が弾んでいないことは、女性たちの表情に表れている。戸惑い、困惑、寂寥…そんな感情だろう。


ふと、第1王子の奥にある建物に目が行く。絢爛豪華な王宮にそぐわない、地味な建物だ。こちらからだと、建物の3分の1しか見えない。


ヒルデガルドは、その建物に強い関心を覚えた。どこか懐かしいような…温かい気持ちになる。


あまりにその建物を凝視していたせいか、第1王子と目が合った。今日は青い衣装で、フリルも余計な装飾もなく、スッキリした出で立ちだ。銀色で縁取りされた刺繍が、なんともお洒落である。

ヒルデガルドはその凛々しい姿に好感を覚え、ニッコリと微笑んだ。すると、サッと顔を赤らめた第1王子に、大きく目を逸らされる。


その様子に、ヒルデガルドはがっかりした。


ーー嫌われたかな?


ヒルデガルドは首をひねる。たった3日で嫌われるのは、もはや才能の域である。残念。第2王子より第1王子の方が、断然素敵なのに。


ふう、とため息をついて、今度は第2王子を眺める。

第2王子は、完璧な『王子様』だった。誰に対しても、公平で平等な態度で接する。おまけに、女の子が可愛くて仕方ない!という感情を隠さないものだから、女性たちは期待してしまう。


ヒルデガルドは少し冷めた紅茶を飲んで、考える。そもそも、最初は世話役になるために王都に来たのだ。よし、王子たちを観察してみよう。


ちょうど、第1王子と第2王子は、全員での庭園の散策を提案してきた。周りのご令嬢方と同じように、ヒルデガルドも立ち上がる。そして王子率いる集合体の一番後ろを歩き始めた。





王宮の薬草園だけあって、様々な薬草が栽培されている。王家自慢の庭園だ。


ユリウスは、散策しながら丁寧に薬草を説明しているが、それを理解しているご令嬢は少ない。

クリストフが「これは媚薬だよ」と流し目で説明すると、ご令嬢方から悲鳴が上がる。…どうせ、自分の説明は退屈ですよ、とユリウスが拗ねた。


ガックリして振り向くと、熱心に薬草を見つめる令嬢がいる。ーーヒルデガルドだ。とことん変わったご令嬢である。


説明役をクリストフに任せ、ユリウスはさり気なくヒルデガルドに近付く。彼女は、食べられる薬草に熱い視線を送っていた。


「…食べたいのか?」


呆れた声で、ユリウスは聞いた。


「これは美味しくありませんので、遠慮しておきます」

「…味が分かるのか?」

「ええ!」


褒められたと思っているのか、今日イチの笑顔でヒルデガルドが返事をした。そのくしゃりと笑う愛らしさに、ユリウスの胸がドキリと跳ねる。


思わず全身を眺めると、今日もやぼったい。それに、露出が控えめの衣装だ。…もったいない。あの完璧な胸は、さらしてこそだろうに…!


ーーって、違う!


どうも、自分は彼女の前に立つと、不埒な考えに及んでしまう。…気を付けなければ。


「えー、君は薬草に詳しいのか?」

「詳しくはありませんけれど、お兄様から食べられる薬草を教えてもらいました」

「…君は、本当に食べてばかりだな」

「殿下、食は大事ですよ!」


ぐっと拳を握り締め、ユリウスに近付くヒルデガルド。ふわりと漂う石鹸の香りに、ユリウスは好感を覚える。


ーー香水もしてないんだな…。


ヒルデガルドには、何だか安らぎすら感じる。ーーすっごく破天荒だけれど。


「そんなに食に困っているのか?」

「そうですね。また隣国との小競り合いが始まりましたから」

「…そうか。ではメルゼブルク領への物資供給を見直してみよう」

「えっ、本当?!」


パッとヒルデガルドの顔が上がる。息がかかるほどの近い距離に、ユリウスが頰を染めて頷いた。


「あ、ああ。善処しよう」

「ありがとうございます、殿下!」


喜びのあまり、ヒルデガルドがユリウスに抱きついた。よほど嬉しかったのだろう、背中に回された腕に力が入り、ユリウスの腹に当たる柔らかな双丘が形を変える。


ーーやっぱり最高の感触!


ぐにぐにと押し付けられて、過剰な刺激を受ける。下半身に力を入れていないと、迫りくる快感にあらがえない。


「ありがとう…メルゼブルクを考えてくれて」


涙ぐんでお礼を言うヒルデガルドの姿は、あまりに可憐で愛らしい。


落ちるもんか!と歯を食いしばらないと、ユリウスはヒルデガルドの魅力に陥落してしまいそうになる。


自分はこんなに欲求不満だったのか?と反省しきりのユリウスであった。



そこそこ短い話でまとめる予定です。

ヒルダの短いツッコミは、粗品調で。

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