主人公とはかけ離れた存在
思いついた時に書く。
人は皆、平等平等と多く口にする。ただそれは、口にするだけであって必ず平等になるとは限らない。テレビとかを見てると熱血なコメンテーターがこう言う。
「人は皆、その人自身の人生という名のストーリーの主人公なんだ!」と。
確かに人生は一度きり。人生の主人公と言われても納得がいく、価値観は人それぞれだから。だが俺はそうは思わない。そう思えない。なぜなら、俺が主人公とはかけ離れた存在にいるからだ。
高校にも入らず、ニート、ニート、ニート。中学を卒業してからほぼ部屋から出ていない。出る時はトイレか本屋だ。たまにコンビニも行くが本当にたまにだ。
「…本屋行くか」
今日は俺が読んでいる漫画の新刊が出る日。俺は約一ヶ月ぶりくらいに外に出た。
「…まぶっ…」
太陽の光が痛い。まるで太陽も俺を嘲笑うかのように。もしかしたら太陽さえも俺になんか気付いてないのかもしれない。主人公どころかモブキャラにすらなれない。
「…太陽め、俺を嘲笑うとはいい度胸だ。すぐ月に変えてやる」
そんな誰にも聞こえないような小声で上を見上げてささやく。太陽は俺に気付いてないと知らずに。
「あーがとーござーあしたー」
本屋の店員のやる気のない声を後に、俺は本屋をでた。相変わらず太陽が痛い。そういえば七月後半だった、暑いわけだ。なるべく日陰を通るようにして帰路についた。すると前方から楽しそうな話し声が近づいてくる。一瞬隠れようかと思ったが俺なんかに興味を示すはずがないとすぐ判断し、そのまま歩くことにした。
「あー、やっと明日から夏休みだよー。早く海行きてー!」
「どーせほぼ部活だろ?行く暇なんかねーだろ」
「そうだったー部活だったー…あーあ、あちーな!」
前方から来た奴らは、高校生の男子二人だった。俺はなぜか足早にその横を通過した、見られるはずもないのに。案の定見向きもされず、だんだん声が遠くなっていった。内心、なぜかほっとしている自分がいた。その後すぐ何をほっとしているんだと自分が恥ずかしくなった。こんなところが主人公とはかけ離れた存在なんだ。
「…あー、アホらし…」
自分は社会になんの役にも立たない雑魚だ。ただ息をして生きているだけ。逆に息をして何もせず生きていることは、害ではないかと思う。酸素を吸って二酸化炭素を出す、ある意味車より害だ。もし地球が滅亡して火星に移住する未来になったとしたら、俺は真っ先に候補から外れるだろう。というか候補にすら入ってないかもな。
「くそっ…暑いな。…なんか…くらくら…してきた…な…」
俺はその場に倒れた、意識を失って。後から聞いた話だが、熱中症になったらしい。恥ずかしい話だ。日陰を歩いていたにも関わらず熱中症になるなんて。あれこれ考えすぎたのかもしれない。モブキャラ以下が熱中症で倒れても誰も助けない。どんどんと体が弱っていく。やはり人は平等ではない。それは俺がモブキャラ以下だからだ。来世は主人公じゃなくても、せめてモブキャラ以上にはしてくれよ、神様。
しばらく時間が経っただろうか、俺は目を覚ました。床が冷たい、周りもひんやりしている。ああ、誰かがこんな雑魚キャラを助けてくれたんだ、そう思い礼を言おうと立ち上がった。しかしそこは、人がいる気配などしないただの箱だった。
「…箱…?」
俺はそれが箱ではなくエレベーターだと気付くのに少し時間がかかった。なぜならここにいる意味が分からなかったからだ。俺は拉致されたのか?それとも何かの実験か?どちらにせよ俺を選ぶのは間違いだ、なんの役にも立たないぞ。
「どうしたもんかな…」
とりあえずここから出られるかエレベーターのボタンをカチカチと押す。しかし何も起こらない。開くを押しても閉めるを押しても、一階から順番に階数のボタンを押しても、何も起こらない。
「…仕方ない、待つか」
俺は何をされているか分からないが、終わるまで待つことにした。
「もしもし、お兄さん?」
すると背後から呼びかけられる。びっくりして後ろを振り返ると、そこには小学校高学年くらいの少女がいた。さっきまでは俺以外誰もいなかった寂しいエレベーターだったが、急に現れた少女によって一気に賑やかになった。
「ねぇねぇ、お兄さん。どっから出てきたって顔してるね」
俺が見落としていたのだろうか、いやそんなはずはない。さすがに少女だとしてもこの狭いエレベーターの中で見落とすはずもない。
「私ね、神様なの」
「…神様…」
信じるわけがないこんな少女が神様なんて、普通は。急に現れたってことがない限りは100%信じない。例えば、道端で急に前に来て、「私ね、神様なの」って言うのであればなんだこいつと思って相手にしないだろう。しかし状況が違う。狭いエレベーター、どこからも来れない狭い空間。急に背後にいる少女。俺は戸惑っていた。
「ま、急に神様だよって言われても信じないよね。んー…じゃ呼び方はカハルって呼んでね」
神様、改めカハルと名乗る少女は、そう言うとニコッと笑った。
「たくさん質問したいことはあるだろうけど…何から聞きたい?」
カハルはそう尋ねてくる。俺はまだ自分の中で情報の整理がついていないが、一番気になっていたことを聞いた。
「…なんで俺はここにいるんだ…?」
恐る恐る聞く。しばらく誰とも喋ってなかったからプチコミュ障になっていた。
「おっ、そこから聞くかー。いいよっ、教えてあげる」
カハルは俺の問いに答え始める。
「まず君は死んだんだ」
カハルの口から衝撃の事実が告げられる。
「まぁ正しくは死にかけだったって言った方がいいのかな?君が倒れて死にそうだったのを、私が無理やりここに魂を持ってきたって感じかな」
倒れて…死にかけ…。そうか、俺は本屋の帰りに道端で倒れたんだ。まさか死にそうだったとは。
「死因は熱中症と脱水症状。あんま外に出てなかったから倒れちゃったのかもね」
熱中症に脱水症状…。そういえば今日一日は飲み物を一滴も飲んでなかったかもしれない。本当に情けない。
「…とりあえず、死にかけを助けてくれてありがとう。だけど、なんで俺をここに連れてきたんだ?」
「よくぞ、聞いてくれた!」
急にカハルの表情が満面の笑みになった。
「君さ、主人公になりたいって思ったことない?」
カハルは聞いてきた。
「主人公…とまではいかないが、せめてモブキャラ以上にはなりたいと思ったことがある」
「随分と捻くれてるね…君」
俺はどうやら捻くれているらしい。とんだ誤解だ。
「…ま、そんな君に!主人公になるチャンスが舞い降りたんだよ!」
「主人公に…なるチャンス…」
心のエレベーターが、動き始めた。
久々に書く。違うシリーズも書くので見てね。