王宮の青い薔薇の娘 動く 4
カチャリ、という、カップソーサーの音が響く。
もう、紅茶は冷めていたが喉を潤したかった。
一気に飲み干して、ため息をつく…凌辱監禁ルートかぁ…。
「確かに、今日は学園を守った貴女の魔法の話題で持ちきりでした…でも!!だからこそ、王に謁見するときに王に全てをお話すれば!! 「聖女の魔法」を使えるフローラさんなら予知の力があるといっても信じてくれるのでは?」
イライザ嬢が必死の顔で提案する。
全てを話して、王に守ってもらうという事かな…。
お母様の事は公にしないでもらったとしても、聖女の魔法を使える者として保護してもらう…凌辱監禁ルートからソフトな軟禁状態…。
王族の道具になるのかな…でも、どうなんだろう。
一生独身で、それこそ…この国の聖女になるか。
一応、学園を守ったヒロインなのになぁ…そんなに、攻略対象者と恋愛関係にならないって罪なのかね。
「隠しキャラって、どんな人なんでしょうね~監禁しないと私を守れないなんて。コミュ障?なのかな?」
イライザ嬢の提案には答えずに言った私は、前向きな諦めに入っていた。
「フローラさん、受け入れないで下さいよ!!回避しましょうよ!!」
いつの間にか、昔のように敬語になっているイライザ嬢。
「イライザさんは、隠しキャラルートはしてないみたいですけど、周りの評判とかはどうでした? 一応知識として聞いておきたくて」
「…友達は、ノーマルエンドかと思ったらバッドエンドだった。しかも凌辱監禁ルートっていうのをしゃべって…私はネタバレ嫌だから止めてって言って。そしたら友達は、キャラの正体は言わなかったですけど、昔から密かに思い、見守っていたヒロインを一生地下室に閉じ込めて溺愛も純愛じゃない?って言ってました」
泣きそうな顔のイライザ嬢。
「でも、ずっと地下室で、隠しキャラ以外と会えない人生なんて、フローラさん耐えられます??」
…最初に会った時から、イライザ嬢は私が凌辱監禁ルートに入っている状態を心配し警告してくれていた。
私だって、優しい両親、優しい友達。イライザ嬢とは、同士と言うか娘と言うか何て呼べば分からないが大事だ。彼女の幸せな姿を私も見届けたい。
それが、隠しキャラに捕まったら、もう無理なのか…。うーん。
「イライザさんや、両親や友達に会えないのは辛いですね。でも確か、お兄様のニールさんって性格変わったって言ってませんでしたっけ?」
「ゲームだと、我儘なイライザの双子の兄だけあってドSだったんですよ。でも今は、私の性格が変わったせいなのかどちらかと言うと優しいですね」
「なるほど…」
「でも、それに賭けるのは!!」
イライザ嬢が慌てて言う。
「まあ、確かにそうなんですけど、よくよく考えたら「聖女の魔法」を使える私をさらって監禁できるって凄くないですか?」
「……確かに…」
「王だって、妹の娘がさらわれたら極秘だとしても探すと思うんですけど…まあ、お母様も見つけられないくらいだからな…」
ぶつぶつという私に、イライザ嬢は何とも言えない悲しそうで苦しそうな顔をしている。
「イライザさん、まさかとは思いますが、自分を責めてないですよね? イライザさんが悪役令嬢そのままだったとしても、出会いイベントすら起こせなかったんですよ? 私。誰のルートにも行けないですよ。だから、この結果は私が引き寄せたんですからね?」
なるべく明るく言う。
「隠しキャラルートかもしれないですけど、逃げられないかもしれないですけど、アナやベルやミラはゲームには出てこないんでしょう? だったら、そう悲惨なルートでも無いかもしれないですよ」
アナやベルやミラはモブとしても出てこないらしい。私単体でもゲームの内容は変えれてるという事だ。
「…王に全てをお話しして守っていただけば!!」
「…それも考えたんですけど、王に守ってもらったのに攫われたら、王様立ち直れないじゃない?って思って。「自分だったら守れたのに」より「自分がいたのに守れなかった」の方が辛そうじゃないですか?それに、王様が守れなかったらお母様との仲も微妙になりそうですし。お母様の件でも、大分心労をかけたと思うのに…せめて姪として最上級の迷惑は避けたいかなって…」
「でも…貴女は何も悪い事なんてしてないのに!!」
イライザ嬢は悲鳴のように叫んだ。
この子は本当に優しい子だな…貴女だって悪い事はしてないじゃないか。
誰だって幸せになる権利がある。でもゲームの世界は彼女にその権利を与えなかった。それを必死の努力で当たり前の権利を手に入れた彼女は幸せにならなければ。
この子には幸せになってもらいたい。それには私は不幸になっちゃいけないんだと思う。
私がこの世界のヒロインだと知っている彼女は、私が何て言っても私が不幸になれば自分のせいだと思ってしまう。
「そう、私もイライザさんも悪い事なんてしてない。覚えてますか? 前に私が言った「今を積み重ねたのが未来」って言葉。だからイライザさんもゲームとは違う幸せな未来を手に入れようとしている。貴女はバッドエンドしかない理不尽な世界に生まれ変わった。でも、その理不尽を努力で跳ね除けた、幾重にも最善の今を積み重ねて。そんな貴女を純粋に尊敬しているし、貴女には絶対に幸せになってもらいたいんです」
娘に語りかけるようにイライザ嬢に言う。
「この世界に生まれ変わって、私は自分がしたいようにしてきました。前世の記憶があるので、後悔しないように思いっきり勉強して家族も友達も大事にしようって。その結果、今の私はとっても幸せですよ。貴女の知ってるヒロインとは全く違う人生に見えるから、不憫に見えるかもしれませんが、私の前世より恵まれてるし、順調だし、幸せなんですよ、とっても」
私は笑顔で言う。
「貴女がバッドエンドだと思う結果になったとしても、私は幸せだと思うかもしれませんよ。元々学園で恋愛しようと思わなかったですし、望み通り良いお友達も出来て成績もトップです。このゲームのハッピーエンドが私の幸せじゃないですよ」
イライザ嬢、貴女は自分の幸せだけ考えていたらいい…。
「前世の40年の記憶は伊達じゃないんですよ、万が一、ゲームと同じ凌辱監禁エンドでも、幸せに生きてみせるくらいの人生経験積んでますから。ヒロインみたいな性格だと辛いことも私の性格なら良い方に変えれるかも。私の精神年齢はおばちゃんですし、前世、死にたいと思ったこともあったけど、今を重ねて生きてきたら幸せな結婚が送れたんですよ」
イライザ嬢は、困ったような顔をしている。そりゃそうだろう、ごめんね。
「前世で私は平凡な人間でした。でも最後は幸せな家庭を持てたんですよ。実績があるんです。今はヒロインの容姿に能力、おばさんの精神力と知恵である意味最強です。絶対幸せになって見せますよ!!」
私は今まで生きてきた中で一番の笑顔をしようと思った。
「だから、大丈夫です♪」
◇◇◇◇◇◇◇
「イライザさん、王の謁見のマナー教えてください」
複雑そうな顔をしているイライザ嬢に語りかける。
「…服装は、制服で良いそうです。王に謁見するときは、王が話しかけるまで顔は下げて…」
イライザ嬢は王の謁見のマナーを色々と説明してくれた。私に会う口実だけじゃなく、本当に父親である宰相に聞いてみてくれたのかな。
「ありがとうございます。どんな結果になっても、私、大丈夫ですから」
笑って言う。
「フローラさん…私、貴女が怖かった。でも、貴女を知って貴女を好きになった。だから貴女を失うのが、貴女の不幸が怖いんです…」
「ふふっ、イライザさん、貴女は本当に優しくて可愛いですね。大丈夫、私を信じてください」
正直、どうなるかは分からない。
でも、私は不幸にならないって、イライザ嬢に信じてもらわなくては。
「監禁したいほど私を愛してくれるなら、私には勝機がありますから」
私はウィンクしてイライザ嬢に言った。
(ゝ∀・*)パチン