それぞれの未来 3
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それぞれの未来編完結です+.*゜
幸せな結婚式の披露宴の席に座りながら答えが出た日を思い出す。
クリスティーナが産まれて数カ月経ったある日、ベルの(ルクレール邸)家に親子で遊びに行った。
ワイアットは私の腕の中のクリスティーナを愛おしそうに見つめる。
「クリスティーナは寝ているね」
「ワイアット、遊びましょう」
4歳のクラークがそう言うと、3歳のワイアットは「いいよ」と、言って駆け出し部屋を出て行った。
クリスティーナはベルが用意してくれたベビーベットに寝かせる。
ベルと私はお茶とお菓子を頂きながら話す。
「二人共、大人しい方だけどやっぱり男の子ね」
「そうね。でも、不思議な感じね。フローラの子と私の子が遊んでるのって」
「ふふ。そうね」
「たぶん、ワイアットとクリスティーナは結婚する事になるでしょうね」
「そうでしょうね」
クリスティーナの誕生祝いに来てくれた時、ベルには旦那様の出生の秘密を話し、魔術師長と旦那様の母の悲恋も話した。
私達夫婦と、ベル夫妻の中ではクリスティーナとワイアットの前世は二人だろうと思っている。
もし、二人共生まれ変わりじゃ無かったとしても幼馴染としてずっと過ごしていれば自然と結婚する事になるだろう。アナとミラの結婚相手も昔から知ってる親戚や幼馴染だし。
「ねえ、フローラ。信じられないけど、前世ってあるのね」
「……そうね」
「あのね、ワイアットを見てると私も自然とそう思う様になったんだけど。その中で、やっぱり私とソルとフローラも、ずっと昔から縁があったように思うの」
「そうなの?」
「覚えてる? 私が卒業式に言った『今だから言うけど、フローラとソルさんもお似合いだと思ったわ』って」
「それは覚えているわ。アナとミラと珍しく意見が割れたから」
「私とフローラの誕生日が一緒なのは知ってるでしょう? ソルもそうなのよ」
「え??」
学園に入学して一番最初の席は男女別で生まれ順の席だった。
そこからベルと私は親しくなったのだ。
男子の席は正直、覚える間もなく席替えになっていたけど。
「私もソルの誕生日は付き合ってから知ったのだけど。それを知った時、何故か私達はずっと前から、前世から縁があったんじゃないかって思ったの。それ以外の理由はないんだけど」
私は胸が異常なほど鼓動するのが分かった。
イライザ嬢が亡くなった時代と、私が死んだ時代は全く一緒だった。
会合で前世の話をしていて、イライザ嬢は私より11か月程前に亡くなっていると分かった。だから、イライザ嬢の誕生日は4月で、私は3月生まれだった。
前世で夫と娘と私は飛行機事故で死んだのだ。
だから、同じ日に死んだ。
同じ誕生日なのは、ソルが夫でベルが娘だから??
でも、飛行機事故だから大勢の人が亡くなったはず……夫と娘とは限らないかもしれない。
ベルは娘に似ている所はほとんど無い。
ソルだってそうだ。むしろ旦那様の方が夫に似ている。
「他に……ベルは他に私達の縁を感じる所ってある?」
「そうね、前にフローラが作ったドライフルーツがたくさん入ったパウンドケーキをくれたでしょう? 食べた時、とても懐かしい気持ちになったの。それを一緒に食べてたソルに言ったらソルもそうなんですって」
私は眩暈を感じた。夫も娘も生クリームが嫌いで、二人の誕生日の時は私がドライフルーツがたっぷり入ったパウンドケーキを焼いていたから。
「……それ以外は?」
「そうね、たぶん私達は将来親族になるでしょ? それがスゴクしっくりくるの。フローラと私とソルが家族って言うか親族になるのがスゴクしっくりくるのよ」
「ソルさんは何か言ってた?」
「ソルは、フローラが笑顔を向けるのは自分だと信じ込んでた時期があるみたい。でも、私と一緒になるのも当然の様に思えたんですって。私もソルが言いたい事が分かる気がする」
『私ね~パパと結婚するんだ』『パパと結婚したらママはどうしたらいいの?』『そっか、じゃあ生まれ変わったらパパと結婚する』『ですって。パパどうする?』『そうだな、生まれ変わったらそうしようかな』『そう、じゃあママは貴方達の娘に生まれてくるから大事にしてね』
前世の会話を思い出す。
あの時、私は本気でそうなっても良いと思っていた。
私の前世の家族は最悪だった。
でも、夫と娘が父母なら私はきっと娘の様に両親に愛された幸せな子供時代を送る事が出来るだろうと。
そして、前世の最後の日。
飛行機が墜落していく時、一番に思ったのは14歳で生涯を終えてしまう娘の事だ。
この子が生まれてから毎日思っていた。
この子も将来、夫の様な優しくて頼りになる男性と結婚して幸せになって欲しいと。
夫と結婚して可愛い娘に恵まれてからの私の人生は幸福だった。
私に穏やかな家庭と素敵な家族を与えてくれた夫には感謝しかない。
だから、自分が死ぬ事はどうでも良かった。でも、娘はせめて来世は天寿を全うして幸せになって欲しいと心から願ったのだ。
もしかすると私の願いを神が叶えてくれたのだろうか。
だから、ソルもベルも前世の記憶がないのかもしれない。
そして、日本からこの世界に生まれ変わった私達と、この世界で生まれ変わったワイアットとクリスティーナは生まれ変わるルールや法則みたいなモノが違うのかもしれない。
「そう。……ねえ、ベル。幸せ?」
「急にどうしたの? うーん、そうね。とても幸せよ。恵まれた人生だと思うわ」
急にそう言われて驚きつつもベルは笑顔で言った。ベルのご両親は立派な方だ。
そして、私が娘に与えられなかった弟もいる。
さらに、ソルは性格は夫とは違うが、誠実で真面目で優しく立場のある仕事をみんなの期待以上にこなしている素晴らしい人だ。
ベルを見つめる。どこも似ていないのに14歳の娘に見えた。前世の私に瓜二つだった娘に。私が人生の最後に心から願った通り幸せになった、私の愛しい娘。
本当に不思議だ。イライザ嬢を娘のように思ってもベルやミラやアナにそう感じた事は無かったのに。
私はイライザ嬢だけじゃなく、知らずに娘の幸せな結婚式に参加していたんだ。
前世では叶わなかったことだ。
私は思わずベルを抱きしめた。
「私と出会ってくれてありがとう。私に幸せな姿を見せてくれてありがとう」
「フローラ、泣いてるの?」
「……もしかしたら、私達三人は仲の良い兄妹だったのかもって思ったの。そう思ったら泣けてきたの」
「ああ、そうかもしれないわね」
「きっと、ソルさんが兄で私がその次の姉でベルは末の妹よ。そして私はパウンドケーキを二人に作っていたのよ。でも、三人とも若くして同じ事故で一緒に亡くなったのかもしれないわ」
「すごく、しっくりくるわ。三人で仲良く旅行をしていて事故にあったのかも」
「そうでしょう? きっとそうだわ」
私は前世、自分の最後に夫より自分より娘を思った。
だから、現世のベルも守ろう。
ソルが父で私が母という事実より、仲良し三兄妹の方がベルにとってもソルにとっても良いだろう。
真実は私だけが知っていれば良い。
せっかく神が私の願いを叶えてくれ、娘は幸せな人生を歩んでいるのだから。
私だけが前世を覚えていて本当に良かった。
ソルが前世を覚えていて、ニールから『めんこい』と、私が言っていたと聞いたら……。
私とベルとソルと旦那様。四人の人生とその子供たちの運命は大きく変わってしまっただろうから。
◇◇◇◇◇◇◇
「どうしてだろう。やはり、フローラさんが作ったケーキは懐かしい味がする。そして、何故か幸せな気分になる」
クリスティーナとワイアットの結婚式の為に作ったパウンドケーキをソルが食べてつぶやく。
「本当にそうね。昔、フローラと冗談で言ったのだけど、私達の前世は仲良し3兄妹だったんじゃないかって言っていたのよ。お祝いの時に前世のフローラが作ったのかもしれないわ」
ちょうど、私のケーキを取って来て食べていたベル達が言った。
旦那様は席を外していて、少し離れた席のお父様と何か喋っていた。
「そうか。それより、ベルと僕が夫婦でフローラさんは僕らの娘だったんじゃないか?」
ソルがそう言う。
「うーん、私は仲良し3兄妹だと思うわ」
ベルが言う。
「私はソルさんの意見も分かる気がするわ。二人の子ならきっと私は前世で幸せだったでしょうね」
私がそう言うとベルが言う。
「もし、来世があるなら私はフローラの娘に生まれたいわ。今日のフローラを見てとてもそう思ったの」
「……」
「そうか。来世はフローラさんは僕の義母になるのか」
「じゃあ、学園長は私の来世のお父様ね」
ベルとソルがお互いの顔を見て楽しげに笑った。
「結局、私達は前世も現世も来世も仲良く皆幸せなのよ。そう思うでしょ? ……フローラ?」
ベルがそう言ってこっちを向いた時、私は泣いていた。
当たり前のように言った二人のセリフが……嬉しかった。
私と娘と夫はフローラとベルとソルとして前世も現世も幸せなのだから。
そして、その中に旦那様も自然に加わった事…それが嬉しかった。
「……今日は本当に幸せだわ」
「今日のフローラは泣きっぱなしね」
「来世の僕らの結婚式もそうなるのだろうか?」
ソルが真面目に言った。
「ふふっ。そうだと思いますよ」
私は泣きながら笑った。
「随分と、楽しそうですね」
旦那様が戻ってきた。
「学園長。来世、私達は貴方達夫婦の娘と婿になる予定です。よろしくお願いします」
ベルがおどけて言う。
「……? そうなのですか?」
「僕達はワイアットしか子に恵まれませんでしたが、来世はクリスティーナとクラークとワイアットが僕達の子供になったら良いですね」
「ワイアットとクリスティーナは兄妹では可哀想ですよ」
「そうですね。ワイアットとクリスティーナは来世も夫婦になって、子供が旦那様なら良いんじゃないですか?」
私がそう言うと、旦那様は一瞬目を見開いてから優しく微笑んだ。
「そうですね。来世は、あの二人の息子に生まれてきたいです」
「そうなると、僕達の子供は……」
「フローラは私達の子どもじゃなきゃダメだよ!!」
いつの間にかお父様も入って来た。お父様は相変わらずだ。お母様は良く分かっていないみたいだけど、変わらぬ美貌で花の様に微笑んでいた。
私達は来世の家族の話をした。
とても不思議で、とても幸せな時間だった。
そんな中、クラークがつぶやく。
「娘と息子と孫の結婚式なのだから来世の親や子や孫より、すぐ未来の二人の子を楽しみにしたら良いと思うのですが……」
そして、それにイライザ嬢の4人の子供達は頷いていた。
そんな皆を見ていた、今日の主役の花嫁と花婿はというと。
春の陽だまりの中、とても幸せそうに微笑んでいた。
本編の方にベルとソルの前世を匂わせていたので、気づいていた方もおられたのではないでしょうか?
このシリーズは載せるかどうか悩んでいたのですが思い切って載せてみました♪
楽しんで頂けたら嬉しいです(*´ω`)ノ゛




