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王宮の青い薔薇のむすめ  作者: 青空那奈
番外編※本編読了後がオススメ
54/68

初めての夫婦喧嘩 2

前回のお話は、今までで一番ブックマークの増減が少なかったので不安に思いつつ続編です。

沈黙のまま私達の邸に着いた。


旦那様は優しくエスコートして私を馬車から降ろす。

玄関の前にいる女性の騎士二人が出迎える。

旦那様は私の腰を強く引き寄せるので支えられるように邸の中に入った。


「お早いお帰りですね」


ラリーが言う。スーザンにはイライザ嬢のプレゼント選びで協力して貰った。

この日を私が楽しみにしているのも話していたから帰宅は遅くなると思っていたんだろう。私一人じゃなく旦那様も一緒なら尚更。


「フローラさんが体調を悪くしてしまって。私が看病しますから」


そう言うと、旦那様と私は寝室に入る。

とりあえず、ドレスから部屋着にお互い着替えた。


着替え終えた私を、旦那様は後ろから優しく抱きしめた。


「すみませんでした。イライザさんの誕生日なのに勝手に退出してしまって。それに、貴女を一人にしてしまいました…。あんなに卒業生に囲まれる事は、今まで無かったんですが…」


「いえ、今日はゆっくりイライザさんとお話は出来なかったでしょうし、旦那様が卒業生の方とお話しするのは仕方がありませんよ」


「ですが、卒業生の方にフローラさんは何か言われたのでは? 困った顔をしていました。すぐに駆けつけられなくて…」


「大丈夫ですよ。大した事ではありませんでした」


「聞かせては貰え無いのですか? お願いです、卒業生達とニールさんと何があったか全て話して下さい」


後ろから抱きしめられているから旦那様の表情が見えない。

でも、旦那様が真剣に聞いているのは分かる。濁していうのは不誠実だろうと私は全て正直に話した。


「やはり彼は宰相の息子だけありますね。何もかも彼の言う通りです。彼は今日も私の本心を見抜いて現実を突きつけてくる」


旦那様の声はいつになく暗い。


「私が貴女を愛すれば愛するほど貴女は美しくなる。学生の頃では有り得なかった色香が貴女をより一層美しくしている。貴女に必死で好きだと言われることは至上の喜びですが、そう言えば言うほど貴女は美しく妖艶になっていく。私が愛してる貴女を、私を好きだと言う貴女を誰にも見せたくない」


私は旦那様の方を向いて抱きついた。

旦那様の表情が見えないのが怖かったから。


「分かっています。貴女を誰にも見られないように閉じ込める事なんて出来ない。ですが、貴女への愛は止められない。貴女にも私を愛して貰いたい。貴女を幸せにしたい。全て本当で、全てを叶える事は出来無いと分かっているんです」


旦那様の顔を見ようと顔を上げた。

すると、旦那様が激しい口付けをする。


「……今、貴女がどんな表情をしているか、フローラさんは一生分からないのでしょうね。この顔は私だけが知っていればいい…なのに、ニールさんの挑発にのって彼に…私しか知らないフローラさんを見せてしまいました」


ニールの長兄にそっくりな笑顔が頭に浮かんだ。

やっぱりニールは、私の大事な人を壊すんだ…。

旦那様は強く私を抱きしめる。

今までの旦那様のヤンデレは想定内だったはずなのに…。

旦那様が大勢の人が居る前で頭にキスして、私を抱き寄せるなんて予想外だった。


旦那様にとっても私にとっても予想外だったはず。

ニールの発言は旦那様に予想外の行動を取らせ、旦那様にとって最悪の結果になった事をニールは笑顔で告げた。


これ以上、同じ様な事があったら旦那様は堪えられないだろう。


「旦那様、提案があるんですが。私はこれから体調不良だという事にして、この部屋にずっと居てもいいですよ。たまにお母様やお父様、アナやベルやミラに会えたらそれで充分です」


元旦に王宮に行く事も難しいかもしれない。王太子妃になるイライザ嬢には、ますます会え無くなるかもしれない。

魔術省の方や魔術師長にも申し訳ないが、それなりのポストも返上しよう。

旦那様の方が大事だ。


「私の醜い望みを全て叶えるのですか? どうして? 何故、貴女はいつもそんなに簡単に……」


旦那様の声は低く暗い。怒っているようだった。


「今日だって、卒業生から嫌味を言われたのに大した事では無いと怒らない。私を責めもしない。どうしていつも許してしまうんですか?」


だって、本当に大した事じゃないし、旦那様のせいでもないし…。


「私は醜い嫉妬で醜い願望を持っています。でも、貴女は嫉妬なんてしない、今日だって。ただ純粋に私だけを愛してくれる…貴女は私に甘く優しい。醜い願望ですら叶えようとする。ニールさんが言う通りですね…ソルさんと結婚していた方が…貴女は幸せだったのかもしれません」


「………………」


「ソルさんなら、貴女を閉じ込めようなんて思わないでしょうし、女性から貴女が嫌味を言われるような事も無いでしょう。それに、彼と貴女なら……」


「止めて!! それ以上は言わないで!!」


「……」


「私は、貴方以外の男性は今でも苦手です。そのうえ邪な目で見られて邪な行動を取られたら死にます。それがソルさんであってもです。貴方は分かってない!! 貴方だけが私を幸せに出来るのに!! 貴方に閉じ込められたって、私は不幸でも何でもない!!」


私は旦那様の胸を叩いて叫んで言った。


「貴方が愛してるのは私だけだから嫉妬なんてしないし、貴方が好きだから嫌味を言う女性の言葉は困っただけで傷ついたり怒りを感じたりしません」


私は強く強く旦那様に抱き付いた。


「私は言ったはずです『私には貴方だけです。だから貴方も何があっても私を手放さないで』って。貴方は一度、私を手放そうとした。あの時は仕方がない理由がありました。でも、私達はそれを乗り越えてきました。なのに…なのに、どうして今になって否定するの……」


涙が出そうになる…。


「私だって怒ります。怒らなきゃいけないのは『ソルさんと結婚していた方が、貴女は幸せだったのかもしれない』って言った貴方にです!!」


私は旦那様の嫉妬や執着を知ってる。

私を凌辱して監禁する事も場合によっては出来る人だって知っていた。

それでも私は良いと思っていた。だから、私を誰にも見せたくないなら監禁したらいい。

結婚前なら問題だが、結婚した今なら何の問題も無い。

妻は体調不良の一言で済む。


「貴方と一緒なら地獄だって私には天国なんです。でも、どんなに綺麗な世界でも貴方が一緒じゃなければ地獄なんです。だから、私を誰にも見せたくないなら私を閉じ込めたらいいんです」


イライザ嬢に言った言葉だ。あの時と私の気持ちは何も変わっていない。


「閉じ込めたらいいと貴女は言いますが、私も言ったはずです『それは出来ません、例え貴女が望んだとしても』と。貴女が叶えようとする事は、私が本当に叶えて欲しい事では無いんです」


「偽物の楽園は私を壊してしまうからですか? でも、結婚前だから「偽物の楽園」なのであって、結婚した今なら「本物の楽園」です。私は壊れたりしません」


「……そうですね。貴女は壊れ無いかもしれません。壊れるのはむしろ私の方なのでしょう。壊れた私は私なのでしょうか?」


私は旦那様の言葉に衝撃を受けた。

私達の本当のギャップはここにあったのか……。


「貴女の事になると、私は自分でも予想が出来ない行動をしてしまう。今までの自分では無くなってしまうんです。自分では無い自分を貴女が受け入れてしまうと、私は元の自分には戻れなくなってしまう」


根本的に、私はゲームのバッドエンドでも構わないと思っていた。

でも、彼はその選択を拒否したのに。必死で抵抗していたのに。


結婚前は私も彼にとってのバッドエンドを回避する為に彼の暴走を止めていた。

でも、結婚後は違っていた。


「私は、旦那様が自分の嫉妬や執着に苦しんでいる事を知っていました。でも、旦那様が苦しんで醜いと思っている全てが私にとっては愛でした。妻の私はそれを全て受け入れて愛を伝える事が、貴方を苦しみから救える行為だと思っていました。私は間違っていたんですね…ごめんなさい」


「謝らないで下さい。貴女の優しさと深い愛は私を何度も救ってくれました。それに世界一の幸せも与えて貰っています。貴女の言うように貴女に甘えきってしまえば私は苦しまないでしょう。そして、その状況を貴女は幸福と感じるのでしょう。でも、私は壊れたくない。壊れた私も貴女は愛してくれるでしょう。ですが、壊れた私は私では無いんです。私は私のまま貴女を愛し、貴女を幸福にしたいんです。そうでなければ、私達の結婚に協力してくれて祝って下さった皆さんを裏切ることになる」


私が「体調不良」と、この部屋に閉じこもって両親と親友以外と会わない状況をギリギリ納得出来るのは、最悪の結果よりましだと知ってるイライザ嬢くらいだろう。

でも、旦那様が「聖女の祈り」が使えると知っている人達は不審に思うはずだ。

そして、そんな旦那様に失望するだろう。

お父様やお母様やおばあ様…魔術師長…。この四人は特にそう思うだろう。

旦那様に言われるまで、その事に気づかなかった私は何て愚かだったんだろう。


「旦那様、簡単に『私を閉じ込めたら良い』なんて言って…ごめんなさい。貴方の苦しみに本当の意味で私は寄り添っていませんでした……」


私の『閉じ込めたら良い』という言葉は、壊れたくないと思っていた旦那様に壊れる事を強要する言葉だった。


「私の『どんな貴方でも、ずっと変わらずに好き』という想いは、本来の自分でありたいと思っていた旦那様には毒の様な物だったのかもしれませんね……ごめんなさい……」


「いいえ、悪いのは私の弱さなんです。貴女は私を愛しているだけです。いつも私を守ろうとして、私自身が醜いと思う感情や行動まで愛してくれている。貴女はいつも何の疑問も無く私を全力で愛してくれて幸せにしようとしている。貴女は私の全てを愛する事に迷いが無い…私と違って」


「……」


「ニールさんが言うように、貴女を愛すれば愛するほど貴女は綺麗になってしまう。貴女が私以外の男性を好きにならないのは分かっています。でも、貴女の気持ちなんて関係ないと思っている男性も少なからずいるのです。私が貴女を愛さなくなる日なんて無い。だから、貴女は綺麗になっていく。そして、貴女の危険は増していく…ニールさんが言うようにジレンマですね」


ニールはいつも真実を突いてくる。という事は……。


「……旦那様、私はお父様や貴方が容姿を褒める時、父と夫だから大袈裟に言っているのだと思っていました。結婚式で皆が綺麗と言ってくれたのも花嫁なら当然言われるお世辞だって。旦那様が『他の男性に見せたくない』と言うのも、私は旦那様以外の男性に興味なんてないのに…って思っていました。それが根本的に間違っていたみたいですね」


イライザ嬢も私の容姿を褒めてくれるが、ヒロイン補正みたいな事かと思っていた。前世の記憶がある私は、所詮私だし…と、思っていた。

物凄く客観的に見たら、お母様を見て横恋慕する男性がいたとしても不思議に思わない。なら、お母様に似ている私だって不思議じゃないんだ。


「ニールさんも言っていた様に、私は好きでもない男性に勝手に性的な目で見られて、襲われる可能性があるんだって事ですよね。だから旦那様は『他の男性に見せたくない』と、言っていたんですね」


この問題を旦那様じゃなく、私視点で考えてみよう。


「一応、私は「聖女の魔法」を使えるので、警護の方もついています。そうそう襲われることは無い様に思いますが、万が一が無いとも限りません。逆に旦那様に危害を加えて私を未亡人にしてから奪うという事も考えられなくは無いですね。そうなった場合、どっちみち私は死を選びます」


正直、忠告してくれたニールが一番怪しい。ニールが色々な手を使って私を強引に手に入れたとして、イライザ嬢の為に私は彼を告発しないだろう。でも、だからこそ私は病んでしまうだろうし死を選ぶだろう。


「……」


「襲われた私でも旦那様は変わらず愛してくれるかもしれませんが…流石の私も立ち直れる気がしません」


「考えるのも嫌ですが、もしフローラさんがそうなっても貴女は被害者で何も悪くない。相手は絶対に許しませんが、私は貴女を変わらずに愛しますし、貴女が私の元から去る事が一番私には辛いと言っても死を選ぶのですか?」


「ごめんなさい、無理です。旦那様以外の…男性が…私の……体に……うっ…」


口に出しているうちに、想像もリアルにしてしまった。気持ち悪くなってきた。

前世の記憶を持っている私は自己肯定感が低い。

だから、諦めが早い所がある。

隠しルートに入る時も、前向きに諦めていたのはそのせいもあると思う。


穢された私は何の価値も無くなったと私は判断するだろう。

旦那様や色んな人がそうじゃないと言っても。

私は変な所で強行してしまう頑固な部分もあるから。


「フローラさん、大丈夫ですか??」


旦那様は慌てて、私を横抱きにしてベットに横たえてくれた。

そして、旦那様は冷たい水を持ってきて、私の体を支えながら飲ませてくれた。


「フローラさん、顔が真っ青です…」


旦那様が心配そうに言う。本当に体調が悪くなってしまった。


「……私、本当に男性に襲われたら…旦那様や皆が悲しむと分かっても死を選ぶと思うんです…」


想像だけでも気持ち悪い。


「だから、私の安全を第一に考えるって事にしませんか?」






私達の初めての夫婦喧嘩は安全対策会議に変わった。


読んで頂いてありがとうございました♪

今回は気に入って頂けたら嬉しいです。

次回、仲直りのお話で喧嘩編終了です。

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