初めての夫婦喧嘩 1
昨日ムーンさんの方が(3月3日22時)に100万PVに達しました♪
お礼に早目にお話を書いてみました。
結婚式から10日程過ぎた時、イライザ嬢の誕生日パーティーに出席した。
もちろん、旦那様と一緒に私は参加した。
ご成婚前の最後の宰相家での誕生日パーティーという事で沢山の方がお祝いに来ていた。
双子のニールも誕生日なのだが、今日はイライザ嬢のみが主役という事にしているらしい。
私は、前世から得意だったレース編みのテーブルセンターとイライザ嬢の瞳の色に似ていたアクアマリンのブローチをプレゼントとして渡した。
「メイヤー伯爵夫妻、今日は私の為に来て下さってありがとうございます」
「イライザ嬢、お誕生日おめでとうございます」
「イライザさん、お誕生日おめでとうございます。プレゼントのテーブルセンターは私の手作りだから不格好かもしれないけど、ブローチの方はイライザさんの瞳の色をした物をお店で偶然見つけて…気に入っていただけたら嬉しいです」
旦那様と、私がイライザ嬢に挨拶をする。
「お二人共ありがとうございます。フローラさんの手作りの物をいただけるなんて光栄です。もちろんブローチも…今日は楽しんで下さいね」
イライザ嬢は、とても嬉しそうに笑って言ってくれた。
流石に招待客が多いので、それ以上の会話は出来なかった。
イライザ嬢は、色々な方から沢山のプレゼントを貰い挨拶をしていて忙しそうだ。
旦那様と一緒に飲み物を飲んでいると声を掛けられる。
「学園長先生、お久しぶりです。卒業生のアイネアスです」
「私の事を覚えていらっしゃいますか? バーニスです」
「先生」「学園長先生」
最初のアイネアスさんが話しかけると堰を切ったように旦那様に女性陣が群がった。……すぐ隣にいた私の事は彼女達には見えていないみたいだ…。
彼女達に押し出されるように、あっという間に私は蚊帳の外になった。
「……流石、学園長先生ね……」
馴染みのある声に振り向くとベルだった。
ベルとイライザ嬢は個人的な付き合いはあまりないが、名門のフォジィ公爵家は宰相家にとって重要な為に呼ばれたようだ。
「皆さん、学園の卒業生でしょうから仕方ないわね」
「……そうね、卒業生を相手にするなというのは妻だったとしても言えないし、言ったらフローラの立場が悪くなってしまうしね」
ベルは、同情するように言った。
前に、ベル達やエイブラム先生が学園長先生はモテていたって言っていたけど想像以上だ。
旦那様は、群がる女性陣と話をしつつ私に目で謝っていた。だから私も微笑んで目で大丈夫ですよと伝えてみた。
「ベルがいてくれて良かった。そういえば、ソルさんも呼ばれてるんじゃない? お会いした?」
「まだ、お会いして無いわ」
「卒業以来でしょ? もし、いらっしゃったら私を気にせずソルさんの所に行ったらいいわよ」
「ええ?? フローラも一緒に来てよ」
「お邪魔したら悪いもの。それにベルは20歳までに婚約したいんでしょ~協力しなくっちゃ♪」
ベルは恥ずかしそうに笑った。ラストダンスを踊った二人は私から見てもお似合いだった。
黒い髪で濃い青の瞳でクールな感じのソルと、明るい金髪に青い瞳の可愛らしいベルは対照的だからこそお似合いに見えた。性格的にも合っていると思う。
そんな事を言っていたらソルを見つけた。
私はベルに『ほら行ってきなさい』と言い、ベルをソルの下に向かわせた。
まだ旦那様は卒業生の女性達に囲まれているので、新しい飲み物を貰って飲んでいた。すると、旦那様としゃべり終えた卒業生の女性達が私に話しかけてきた。
「あら、もしかして学園長先生の?」
「ああ~。独身主義だった学園長先生と強引に結婚された方ね」
「学園長先生も「初春の叙勲」で結婚を強請られたら断れないもの」
「さすがに田舎の方は、私達には恥ずかしくて出来ない事を堂々となさるわ~」
あら嫌だ。絡まれている…。
「ご実家が辺境伯の位を頂いただけで満足出来なかったのかしら?」
「学園長先生は生徒には潔癖に接していたのに評判を下げる様な事をなさるなんて信じられないわ」
「本当にそうですわね~」
「これは卒業生の私達が言わなくてはいけない事ですから」
すごい。今も昔も男性に興味が無かったから、こういう絡まれ方をしたのは二回目の人生で初めてだ。今まで女性運は良い方だったんだけどな。こういう時なんて言ったらいいんだろう。
あまり嫌味で返したくないなぁ…。それこそ旦那様の評判に関わってしまうし…。
「フローラさんは学園長と潔癖に想い合っていたからこそ「初春の叙勲」で、結婚を褒美にして欲しいと王に堂々と言えたんですよ。学園長とフローラさんはお似合いですが、教師と生徒という関係を邪推する方はどうしてもいらっしゃいますしね。ねぇ…皆さん、夫婦となったお二人は幸せそうで美しいと思われませんか?」
とっても良い事を言ってくれているが、とっても苦手な声が聞こえてきた。
「……」
卒業生の女性達は黙った。
「フローラさん、今日は妹の為に来て下さってありがとうございます」
ニールは人好きのする笑顔で私に言った。
卒業生の女性達はそそくさと居なくなった。
「…………いえ、こちらこそ助けていただいてありがとうございます……」
「今日は僕の誕生日で、助けてあげたのに。それでも君は笑顔をくれないんだね」
「……申し訳ありません。でも、感謝する気持ちは本当ですのでお許し下さい」
今日は文句無しに彼のおかげで助かった。笑顔でお礼が言いたいが…やっぱり無理みたいだ。
「学園長に女性陣が群がるのは、どんな女性にも落ちなかった彼が君と結婚したからだろうね」
そんなものなのかな?
「理解出来ないって顔だね。君もどんな男性にも落ちなかったけど男性陣が群がらないのは学園長に敵う自信が無いからだよ」
ニールが私の嫌いな笑顔でさらに言った。
「だからこそ君は気をつけなくちゃいけないよ。君は結婚して前は無かった色気が出て蠱惑的になった。真正面から君を口説く男はいないだろうね、だから危険なんだ。どういう意味か分かる?」
良い意味じゃない事は分かる。
「何となくは分かったかな? 学園長先生も大変だね。君が学園長に愛されれば愛されるほど君は綺麗になり君に邪な思いを持つ男も増える。そして不幸な女は君に嫉妬する。ジレンマだろうね」
ニールは意外と私の表情を正確に読み取る。なのに、私にとって嫌な話を本当に嬉しそうに笑って言う。
「僕と結婚した方が君は平穏な人生だったかもしれないよ? 今からでも僕は歓迎するけど?」
「それは、貴方に愛されても私は綺麗にならないから?」
「……残念ながらそうだね。でも、誰よりも君に安全を与えられるよ。今日みたいな目には絶対に合わせない」
「それだと、貴方は一生妻の笑顔が見れない不幸な夫になってしまうわ。そんな残酷な事はイライザさんの兄上に出来ないわ」
つい嫌味っぽい言い方をしてしまった。今日は彼に助けて貰ったけど、旦那様と離婚して自分と結婚したら?と、どうしてこの人は笑って楽しそうに言えるのか……。
「あはは、やっぱり僕じゃダメか。ねぇ、じゃあソルが君の夫だったらどう?」
急に何を言うんだろう。
「ソルは僕と違って君を笑顔に出来るんじゃないかな? ソルは良い夫になると思わない?」
「ソルさんはきっと良い夫になると思うわ」
貴方と違って…とは、流石に宰相家では言えない。ソルに対しては純粋にそう思うからこそ、大切なベルと上手くいって欲しいと願っている。
そこまでニールに伝える気はないから端的に言った。
「ソルは女性に遠くから慕われるタイプだしね。ソルと結婚した方が君は幸せになったよ。……そう思いませんか? 学園長」
ニールは良い笑顔で私の後ろに視線を向けた。
「……ニールさん、妻の相手をして下さってありがとうございます。 フローラ、一人にして申し訳ありませんでした」
いつのまにか女性の群れから解放された旦那様が私の後ろにいた。そして、ニールに笑顔で言葉をかけると私の腰を強く自分に引きつけ私の頭に口付けた。人前だからフローラ呼びは予想できたが、旦那様が人前でそんな行動をすると思わなかった。予想外の行動に顔が赤くなってしまう。
「いいえ、こちらこそありがとうございます。頬を染めて目を潤ませるフローラさんを見せていただいて」
ニールは長兄とそっくりな笑顔を旦那様に向けて去った。
「フローラ大丈夫?」
「フローラさん、大丈夫か?」
ベルとソルが声をかけて来た。
「ベルさんソルさん、申し訳ありませんがフローラが体調を悪くしてしまったようです。退出することをイライザ嬢と宰相にお伝えしていただいても?」
「分かりました。お伝えします」
「フローラ、ごめんね一人にしてしまって」
ソルとベルが言う。
「ベル、気にしないで。大丈夫だから。ソルさん、ベルをお願いしますね」
そう言って私達は宰相家を出た。
当然だけど、私は体調が悪いわけではない…でも…。
馬車に乗ると、旦那様は無表情で何も言わない。
こんな旦那様は初めて見る。何か言う事も出来ない。
私の視線に旦那様は気づき少し微笑んだ。
そして、切なそうな顔で私に口付けた。
優しく口付けされ、私も旦那様の唇を求めた。
しばらくして旦那様は唇を離すと、複雑な表情で私を見た。
「……」
旦那様は言いたい事があるみたいだけど言葉にならない感じだ。
旦那様は優しく私の頬を右手で撫でると自分の肩に私の頭を寄せた。
そして、私の腰を抱く。旦那様の動作はいつも通り優しい。
でも、馬車の中は気まずい沈黙が流れる。
今日はイライザ嬢の誕生日で楽しい気持ちで参加したのに…イライザ嬢の嬉しそうな笑顔よりニールの笑顔の方が悪い意味で心に残った。
やっぱりニールは永遠に好きになれそうも無い……。
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