王宮の青い薔薇の娘って? 5
結構な時間、イライザ嬢の背中を撫でていると、体格の良いブラウンの髪の男子が走ってきた。
「イライザ!!どうした!!」
攻略対象で同じクラスの将軍の息子レイだった。
「君はフローラ・ベフトン嬢だな、君は何か知っているか?」
厳しい顔で問われ、さすがに心がおばちゃんの私も怯んだ。
なんて言ったらいいもんか…。
「…っ、レイ、私が…フローラさんに…相談してたのよ…」
まだ、泣き止んでないイライザ嬢が答えてくれた。
その顔は涙にぬれていて、イライザ嬢のハンカチもビショビショだ。
私のハンカチを彼女に差し出すとニコリと笑って受け取ってくれた。
「優秀な彼女に…相談…してたんだけど、優しく慰めてもらって…っ…涙が止まらなくなっちゃったの…」
「…そうだったのか」
レイは思ってもない事だったのか、ちょっと混乱気味だ。一応、私が魔法と勉強はトップなのは事実だし納得してね…。
「イライザさんは、とても頑張ってきたんですよ。でも、もう大丈夫ですよね?」
私は、イライザ嬢に笑顔で言った。
私の目を見てイライザ嬢も笑った。
「…はい、今日はありがとうございました」
「いいえ、私こそ。レイさん、イライザさんが落ち着いたら送りますから、ご心配なさらずに」
攻略対象の彼がいるとややこしい。悪いけど、退場してもらいたい。
「…そうか、失礼した」
騎士学科を選択してるらしい彼は、15歳だというのに騎士っぽく退場してくれた。
ただ、基本的にクラスメイトは男女共にさん付けだ。なのに身分の低い私に身分が高い彼があえて嬢と付けたのは牽制なのかな。
まあ、それだけイライザ嬢との絆があり、彼女を守りたいという気持ちがあるのだろう。
彼女が努力した結果だ。彼女は私の心配までしてくれる優しい子だ。彼女の努力が実った所が見れて良かった。
彼が退場してしばらくして、彼女も泣き止んだ。
「フローラさん、これからも定期的にココで会いませんか?」
「そうですね」
「あまり頻繁だと、ゲーム補正が出てくるかもしれないので月1くらいでいいですか?」
「ゲーム補正…分かりました、連絡はどうしましょう?」
「実は、最終学年まで私達同じクラスなんです。なので、私の方から連絡します」
「…なるほど、了解しました」
流石ゲーム、そういうところはご都合主義なんだなぁ…うーん、一気に乙女ゲームの中なんだなぁという実感も沸いて…少し怖い。
でも、攻略対象のレイが全く私に興味を持ってないし、大丈夫なような気もしている。
イライザ嬢はお屋敷から通っているので、彼女を待っている馬車がある校門まで私は送った。
そして、寮への帰り道、今日イライザ嬢から聞いたことを反芻していた。
◇◇◇◇◇◇◇
寮に戻り、イライザ嬢からの攻略メモをしまい、ベットにダイブして考える。
知りえない情報をイライザ嬢が知っていて、所々、西洋っぽいのに日本式のこの世界は、やはり日本のゲームの世界なんだろう。
約1年、このクラスで過ごしてきて、攻略対象者の好意はヒロインの私ではなく悪役令嬢のイライザ嬢にある状況だろう。
正直、前世の娘と変わらない歳の攻略対象を見て特に何か思ったことはない…。
イライザ嬢という最上の淑女が側にいる、あちらにしてもそうだろう。
元々、前世のような良い友達との出会いは期待していたが、恋愛相手の期待は全くしてなかった。
どちらかっていうと、生徒より先生達の好感度の方が高そうだ。
贔屓とかはないが、期待はしてもらっている。
純粋に、高い魔力と高度の魔法を使えるヒロインの能力と、前世の記憶から勉強も得意と言う所からだろうけど。
単純に優秀な生徒ということだけで、ヒロインの魅力は全く関係ないだろう。
友達3人も優しくて、自分で言うとアレだがトップレベルに成績優秀な私に嫉妬などしない、むしろ純粋に褒めてくれる人達だ。
前世の経験からして、生涯仲良くできそうな予感がする良い子達だった。
わざわざゲーム補正とかしてくれない方が、この世界で幸せに暮らしていけそうなんだよなぁ…。
ソルは最後に誘われたのは数か月前だし、単純に私の魔力と魔法に興味があるだけっぽい。
誰一人、恋愛フラグが立ってないのに、隠しキャラのフラグだけ立つかな?
ん? でもゲームでも好感度が全員低いから隠しキャラが出てくるのか…。
でも、出会いイベントありきの好感度の低さで、ソル以外は出会いイベントも発生しなかった。
レイだって今日初めて喋ったし、あれが出会いイベントになるの? 全く私に興味なさそうで、むしろイライザ嬢の騎士だったよ。
そもそも前世の話をして仲が良くなった私達の今日の場面はシナリオにあるはずない、ゲームのシナリオは確実に変わっている。
第一、攻略キャラだって、サドデレとかいうイライザ嬢の兄も今は優しいというし、キャラ設定が変わってるんだろう。
サドはサドって事だろうし。
なら、隠しキャラもヤンデレじゃないかもしれない。ヤンデレは凌辱監禁しちゃうような状態なんだろう。
流石に、そこまでイッちゃってる人の対処は分からないが、ヤンデレじゃないなら放置でもいいような気がする。
誰だかわからないからこそ、様子見をするしかないし…。
とりあえず、覆せない事実はお母様が王の妹であるという事だ。
何らかの事情で、母は父と結婚した。身分を隠し、変装してまで。
娘の私にすら銀髪を見せないなんてスゴイ。
お母様とお父様は、娘の私から見ても仲が良く、ラブラブで私にも愛情たっぷりだ。
イライザ嬢の父は宰相でお母様の元婚約者。
王女と宰相なら婚約者として問題なかったろうに、男爵の父と結婚したというのは、完全に身分違いの恋愛をして駆け落ち?したって事だろう。
王女と男爵の結婚なら反対されるだろうが、どこの馬の骨か分からない女と、地方の田舎の男爵の結婚なら誰も気にしないって所か…。
父母は母を平民出身と言っていたが、この学園に来て気づいた…魔力にしても魔法の知識も気品も平民ではありえないことだ。
王女であるお母様は、失踪か自殺した感じにしたのかな?
自分の恋愛事情より、両親の恋物語の方が気になる。すごい波乱万丈そう。まあ、そのうち聞いてみよう。
あまり、学園でお母様の事を聞くのは良くないだろう。そこは慎重にしないと破滅に向かっていく。
隠しキャラじゃなくても、王女の娘で魔力が強いと言うだけで、好きでもない男の権力の道具になりたくはない。
なんせ、前世で幸せな結婚生活をしていたのだからなおさら。
やっぱり、元々のゲームから外れて不確定要素が強い現状は、勉強と「聖女の魔法」以外の魔法を頑張って友達と仲良くして楽しい学園生活をするのが正しいだろう。
お母様の事は、卒業パーティーまではバレない、バラさないようにする。
卒業パーティーは出なくてもいいし、その後の社交場はその時考えよう、その方が正しい判断が出来るはずだ。
よし、今を精一杯楽しもう。
うん、そうしよう!!