結婚式 4
別の風邪を引いてしまい遅くなりました…。
私は着替えを終えて、自分の部屋に一旦戻った。
そして、魔術師長と旦那様のお母様の事をずっと考えていた。
しばらくすると、夕食の用意が出来たと呼ばれた。
そう言えば、お父様と旦那様は大丈夫だろうか…。
そう不安に思っていたのに、夕食の場には私と旦那様だけだった。
「お父様とお母様は?」
私が聞くと、アギーが言う。
「お嬢様達の後に召し上がるそうです」
…なんだろう…やっぱり、お父様も相当ダメージを受けているんだろうか。
「お嬢様達が食事を終えられたら、談話室の方で待っていて欲しいとの事です」
「…そう、分かったわ」
私と旦那様は、言葉少なく夕食を食べた。
そして、食べ終わると二人で談話室に行った。お父様達が後から来るので、私達は並んで座った。
「紅茶、美味しいですね」
旦那様と私とアギーの三人の談話室で、アギーの入れてくれた紅茶を飲みながら、私は言った。
「…そうですね」
紅茶を飲みながら旦那様は言った。少し元気がない様に見える。
旦那様はあんなにお父様に気を使っていたからなぁ…。
「あまり気にしない方が良いですよ」
明るく言ったのだけれど、アギーもいるせいもあるのか、旦那様は少し微笑むだけで、それ以上会話が進まなかった…。紅茶を給仕する音と、カップとソーサーを置く音しか聞こえない。とっても気まずい…。
結構な時間が経って、お父様とお母様が談話室に入ってきた。
アギーが新しく4人分の紅茶を入れて下がる。
「待たせてしまったね」
お父様が言う。いつものお父様に見えるけど…。
「大丈夫よ」
私が言った。すると、お母様が困ったように言った。
「フローラ、お母様が思った不安は、お父様にとっては解決出来る事みたい…お父様は別の不安があったみたい…お母様には全く理解できないのだけど…」
「…お母様の不安は、お父様的には最初っから考慮に入れていたことだからね。 フローラは「聖女の魔法」を使えるし、我が家の爵位も上がった。だから、最悪の結果にはならないよ。本当に問題が起きた時に解決策を披露するから安心して良いよ」
そうなのか…まあ、お母様の言った不安はイライザ嬢が男の子を産んだら起きない問題だし、女の子なら法律を変えたらいいし、子供が出来ない時くらいだろう……問題が起きるのは。
お父様が言う最悪の結果と言うのは、私達の子供が万が一王太子になった時、私が母と認められずに排除される事だろう。私と旦那様の関係も、法律を変えるなり誤魔化すなりするんだろうから問題ないという事か。大きな問題ほどお父様を頼れと言っていたし、お母様の言っていた不安はお父様も考えてはいたんだ。でも、お父様にとっての不安はそれでは無いという事か。
「…お父様が不安だったのは…。フローラとイライザ嬢が…その…仲が良すぎる所だったんだよ…」
「お世継ぎ問題になった時、仲のいい私達が傷つくかも…とかそう言う事?」
「…それもあるけど…。イライザ嬢はベルさん達とは違う感じだなって思ってね…親密度っていうか距離感というか…」
「私の中では、アナもベルもミラもイライザさんも等しく大切な親友よ?」
「そうかな…。何て言うか、イライザ嬢とフローラは運命を共にしてると言うか…イライザ嬢が本当のフローラの運命の相手だったりするんじゃないかってね…」
運命を共にしているというのは当たっている。
私はこの世界のヒロインで、イライザ嬢は悪役令嬢という関係だし。
私はバッドエンドだらけのイライザ嬢の幸せを邪魔しないように行動し、イライザ嬢はバッドエンドに向かっていた私を救ってくれた。そして今、二人共に幸せになれる未来になったのだから。
でも、本当の運命の相手がイライザ嬢って??
「…運命を共にしている…それはお父様の思っている通りよ。でも、イライザさんが私の本当の運命の相手って?」
「…フローラとイライザ嬢は両思いで…でも、二人は結婚出来ない関係だからクリストファーに相談したのかなーって。 クリストファーは私達の為に色々としてくれていたから…もしかして、フローラの為にイライザ嬢との事を承知して偽装結婚っぽい事をしたのかなって…クリストファーは中性的な容姿だし男嫌いのフローラでも大丈夫だったのかなって…それに、寝室も別だし、誓いの口付けも唇じゃなかったし…」
「はあ??」
思わず大きい声で呆れた声を出してしまった…。最後のはお父様への旦那様の気遣いなのに。何それ…。
「じゃあ、イライザさんも王太子相手に偽装結婚するって思ってたの??」
「…イライザ嬢は宰相の娘だし…宰相はお母様の婚約者だったし…王家は宰相家には強く出れない所があるのかなーって…」
お父様は冗談っぽく言ってるようにも聞こえるけど…でも…。
正直な感想は、冗談でも有り得ない…だ。本気で呆れてしまって声が出ない。
「フローラ、お母様もさっきその話を聞いてビックリしたわ。だって、どうみてもフローラとクリスはお互い愛し合っているし、フローラとクリスは間違いなく運命の相手同士よ」
お母様が、私に必死に言う…。
「もう思い切って聞くけど、フローラとイライザ嬢の本当の関係って何なんだい?」
お父様が、開き直った感じで聞く…。本当の関係って…。
「イライザさんは私の大切な親友よ」
「でも、さっき運命を共にしてるって言ったじゃないか…いくら親友でも普通じゃないだろう?」
…痛い所を付いてくるなぁ…。これもお父様の本気なのか…。
でも、この世界がゲームでとか、前世の事は絶対に話せないよね。困ったな…。
「父上、確かに私は、姉上やフローラさんの幸せの為にしてきた事は多いです。
ですが、偽装結婚なら父上に手紙は書きませんよ」
確かに、旦那様は手紙で『フローラをどうか正しい幸福に導いてください』と、私を諦める手紙をお父様に出した。
偽装結婚なら、そんな事するわけがない…納得してくれないかな。
「それは…そうだね。だからこそ、私も二人は本気で愛し合ってると思ったんだよ…だから、二人の幸せの為に行動しようと思った…でも、クリストファーも中々の戦略家だしフローラの為なら何でもするだろうし…やっぱり父親として不安は無くしたい。イライザ嬢とはどういう関係なの?」
納得してはくれないか…。お父様を納得させる理由か…。
「…イライザさんは、1学年の終わりに、学業も魔法も一番の私の方が王太子妃に相応しいんじゃないかと私に言ったの。でも、話せば話すほどイライザさんは努力家でまじめで優しい人だと感じたわ。自分より優秀だけど身分が低い私に、そう思えるイライザさんこそ、この国の王太子妃に相応しいし幸せになるべきだって言ったの。そこから私達の交流と友情が始まったの」
王太子は私の攻略対象で、本来ならイライザ嬢とは結ばれない関係だしね。
本当の中に少しの嘘を入れて説明するしかないな。
「でも、私が3学年の秋に「聖女の盾」を発動した時、また私の方が王太子妃に相応しいのではと言い始めて…でも、その時はイライザさんと王太子は両想いだったし、私自身も王太子どころか、どんな男子にも興味はなかった…そのうち私が学園長を気づいたらとても好きになっていて…。それをイライザさんに言ったら喜んで協力すると言ってくれたの。でも、イライザさんは宰相の娘だから私と学園長が叔父と姪だって事実に気づいて…それで、私達の心配をしてくれて…」
私は大きく息を吸った。
「私は、学園長以外の人を好きになる事は無いと言ったの。他の人と結婚するくらいなら死にたいと言ったの。そしたら、彼女は『王太子妃に相応しいのはイライザさんだとずっと励ましてくれた貴女を助けたい』って言ってくれて。おばあ様に会いに行った時、王太子とイライザさんは私達の味方になってくれた」
私はアギーが入れてくれた紅茶を口に含んだ。
「イライザさんは純粋に友情だけで私達の為に時間を使い協力してくれたのよ…。父である宰相や、王太子や王にまで働きかけて…兄のニールさんからだって守ってくれたのよ? そんな優しいイライザさんの幸せは私の幸せだし、私の不幸はイライザさん不幸なの。それが、運命を共にしてるって事よ。それが私達の関係なの。そんなに不思議な事かしら?」
思いかけず、イライザ嬢との色々な事を思い出し、私は涙目になって言った。
「…イライザさんが、王太子の部屋で『貴女がいない世界なんて私には耐えられないから』と、言ったのは、フローラさんが私以外の男性と結婚するなら死にたいと言ったからですか…」
旦那様が納得したように言った。そしてお母様も同じように言う。
「そう言えば、宰相の息子さんと結婚するなら死んだ方がましだとフローラは言っていたわね」
お母様が言った事は私の本心だし、イライザ嬢には学園長以外の人と結婚しなきゃいけないなら、そこは私にとって地獄だと言った。そこは本当だ。
でも…イライザ嬢の言う「私がいない世界」って言うのは……旦那様が私を監禁するって意味だけど…その真実は永遠に言えない。
「そうか、そんな事があったのか…。イライザ嬢は、誰よりも賢くて優秀で「聖女の魔法」まで使えて、世界で一番綺麗なフローラが自分より王太子妃に相応しいと思っていたのか…。それをフローラは違うと励ましていたんだね。そして、フローラはクリストファーを好きになった。なるほど…そう言う事か…」
うーん、私をかなり褒め過ぎだけど…まあ、納得して貰えたみたいだからいいか。
「お父様も、お母様も、旦那様も絶対にイライザさんに確認とかしないでね。私とイライザさんが恋愛関係じゃないかって、お父様が思っていたなんて知られたくないし…下手したら不敬罪よ」
とりあえず、釘を刺そう。
「そうね。妻のお母様だって呆れているのに、イライザさんが聞いたら…まして、王太子や王の耳に届いたら…とんでもないことになるわ」
お母様が真剣な顔で言う。
「…お父様も、もう理解したよ…ごめんフローラ。初めてフローラからクリストファーの話を聞いた時は間違いなく二人は運命の相手同士と思ったのに…イライザ嬢とフローラが…あまりにも…ああ、ゴメン。クリストファーにも謝るよ」
お父様は申し訳なさそうに言った。
「本当に、二人とイライザ嬢には失礼で申し訳なかった。良く考えたらフローラの運命の相手はクリストファーと分かりきっているのに…。イヤ、分かっていたからこそ、クリストファーがフローラと寝室を別にするのを反対しなかったんだ。我ながら花嫁の父として往生際が悪すぎたよ…イライザ嬢の事まで邪推するなんて…」
花嫁の父としての複雑な気持ちがお父様の有能な頭脳を狂わせたのかな?
でも、いくら私が男性嫌いだったからって、イライザ嬢との事をそんな風に思っていたというのは本当に驚いたと言うか、ちょっと呆れてしまう…。
すると、そんな私を見てお母様がとりなす様に言った。
「フローラ、そんな顔でお父様を見ないであげて…。お父様だって、あんな熱烈な口付けをしていた二人の様子を思い出せば偽装結婚なんて二度と思わないわ」
「お、お母様…!!」
旦那様の前で、その事には触れないでって言ったのに…。
「あっ…ごめんなさい。でも、新婚の時ってそういうものよ? 抑えきれない愛の衝動ってお父様とお母様だってあったわよ、ね♪」
お母様はお父様に向かって満面の笑みで言った。
「……」
お父様は、困った顔でお母様を見ていた。そりゃ、娘や婿の前で「そうだよ、衝動で熱烈に口付けをしてたよ」なんて流石のお父様も言えないわよね。
お父様達はラブラブだけど、せいぜい頬にキス・寄り添っている・腕を組んだ位のイチャイチャしか見たことが無いし。
誰からも愛されて天真爛漫なお母様には愛情表現は全て尊い物で恥ずかしくないのかもなぁ…お母様の天然は最強だ…。
「…とりあえず、新しい紅茶を入れますね」
旦那様が苦笑して言った。
この話し合いで一番ダメージを受けたのは旦那様じゃなくてお父様かもしれない。
予想外だったけど、妻的には良かった。
お父様はお母様に慰めてもらって下さい…。
◇◇◇◇◇◇◇
お父様の不安も、完全に払拭出来たのと反省の結果なのか、旦那様が使っていた客室にもう一つベットを置いて、今日は夫婦一緒に寝ることになった。
どちらもシングルベットで、ベットサイドテーブルが間にあるけれど…。
私が客室のお風呂から上がると、先にお風呂に入っていた旦那様はベットに入り上半身を起こして本を読んでいた。
私は、そんな旦那様に抱きついて言った。
「昨日は結婚してから初めて別々で寝ましたけど…とっても寂しくて寝付くのに時間がかかったので、狭いですけど一緒のベットで寝たいです」
一緒に寝るくらいなら清らかだろう。
旦那様は困ったように笑った後、本をサイドテーブルに置いた。
そして、抱きついている私を添い寝する形でベットに入れてくれた。
たった一日、一緒に寝なかっただけだけど…。私はもう、旦那様の匂いと感触が側にないと落ち着かないみたいだ。
旦那様の右手を握ってぬくもりを感じていると、私の髪を左手で撫でながら旦那様が言う。
「今日は色々ありましたね。お疲れ様でした」
旦那様は優しい笑顔で言ってくれた…本当に色々な事があった結婚式だった。
「色々な方の想いが分かった、一生忘れられない結婚式でしたね」
おばあ様の想い、イライザ嬢の想い、ベル・アナ・ミラの想い、魔術師長の想い。
そして、お父様とお母様と旦那様の想いも。
エイブラム先生の想いは旦那様が分かっただろう…たぶん。
「そうですね、色々な方の想いが分かりました…」
旦那様の顔は切なそうに見えた。
「特に旦那様は、魔術師長の想いが分かったことは一生忘れないでしょうね。私も魔術師長が『クリストファーに家族を与えて下さってありがとうございます』と、言った事は忘れません。お母様も言いましたが、幸せな家族になりましょう。未来の子供も一緒に」
私が笑って言うと、旦那様が言う。
「フローラさんは、私に似ている女の子が欲しいと言ってましたね。私は父上と一緒で、フローラさんに似た女の子が産まれたら、どんなに可愛いだろうと、思ってしまいましたが…」
「お母様の前では言えなかったんですが、私似だと…王女似って事になるので…。でも、普通に一番愛してる人に似ている子供が欲しいと言うのも本当ですよ」
旦那様を見つめて言うと、旦那様は優しく微笑んで聞いていた。
「フローラさんの心配も分かります…」
旦那様はそう言うと、少し考え込むような表情をして続ける。
「私もフローラさんも、一番愛してる人に似ている子供が欲しいと思ったのですね。私は母に似ているそうですが…母に似ている女の子が産まれたら…先生はどう感じると思いますか…?」
魔術師長が一番愛したのは旦那様のお母様だと気づいたのかな。
「旦那様はどう思いますか?」
私は敢えて自分の意見は言わなかった。
「きっと、本当の孫のように愛して下さるのではないかと思います。先生は、私と目の色が同じだから、私の父になり守りたいと思ったと…そして、先生も母も結婚と言う幸せは望めなかったと言いました。先生は、私と母を守り3人で幸せになりたかったのではないかと感じました。たぶん、私の母も…」
やはり、旦那様もそう思うのか。
「母は…王に理不尽に不幸にされたまま、たった16年の生涯を閉じたのだと思っていました。でも、母が先生の深い愛を感じながら逝ったのなら…」
旦那様の瞳がまた潤んだ…。そして握っていた右手と頭にあった左手を引き寄せて私を抱きしめた。
「感謝してもしきれません…」
旦那様は泣くのを堪えてるのかもしれない。
「お母様の魂は救われたのだと思います。そして、旦那様が幸せになる事はお母様と魔術師長の最大の望みであって、お二人の最終的な愛の形なのかもしれません」
魔術師長とお母様の真実は旦那様にとって救いになったみたいだ。
それが嬉しくて、私も旦那様を強く抱きしめた。
しばらく抱き合っていると旦那様が言った。
「自分が一番好きになった人と両思いになって、皆さんに祝福して貰い結婚して幸せに暮らすと言うのは…とても奇跡的で、素晴らしい幸運なのですね…」
「私も、そう思います。だからこそ、私達にその幸運を与えてくれた全ての人達への感謝を忘れてはいけないですね。そして、魔術師長に恩返しする事は、きっと、お母様への親孝行にもなると思います」
「皆さんが与えてくれた奇跡のような幸運を、私はきっと守りきって、貴女と未来の子を幸せにします…必ず」
「私も…」
私達は自然と唇を重ねた。
優しい口付けと、深い口付けを交互にしていた。
その間、今日の事を一つ一つ思い出していた。
きっと私も旦那様も、今日の日を節目節目で思い出すだろう。
魔術師長が言ったように、今日の日を思い出して困難を乗り越えよう。
唇を重ねるほど、旦那様への愛しさが増す。
そして、今日の日の感謝や皆の想いで胸がいっぱいになった。
口付けだけで息が上がってしまうほど長い時間していた。
唇が離れると、旦那様が言った。
「フローラ、貴女は私の全てです」
旦那様は熱っぽい眼差しで言う。そして、私の首筋に顔を埋めた。
「フローラ、愛しています…誰よりも…」
私は旦那様の頭を抱きしめた。
「私も、貴方が誰よりも好き…」
旦那様へのどうしようも出来ないほどの愛しさが溢れた。
それと同じくらい、魔術師長と旦那様のお母様の悲恋に心が痛んだ。
そして、私の目からは涙が出た。
「…ふっ…うっ…」
涙は嗚咽になってしまった。
「フローラ、大丈夫ですか?」
心配そうに旦那様は聞いた。私が抱きしめる手を緩めると旦那様は私の首筋から顔に移動して、私の涙を唇で拭いた。
そのまま、愛おしそうに私の両目から流れる涙を唇で受け止めてくれた。
私の髪を撫でながら、何も言わず優しく何度も…。
嗚咽が少し落ち着いて、私は言った。
「…幸せです…申し訳ないほど…」
私がそう言うと、旦那様はとても優しく微笑んだ。
「貴女の事ですから、母達の事を思って泣いていたんでしょう?」
声が出せなかった。私は旦那様の胸に抱きつく。
旦那様はそっと私を抱きしめる。
「貴女は自分の事より、他人を思って泣くことの方が多いですから…」
旦那様の声は優しさと愛しさがあった。
「貴女が私の妻である事は、私の最大の幸運で最大の親孝行なのかもしれませんね」
そう言って、また私の髪を撫でてくれる。
「…そうなら、嬉しいです…」
頑張って言うと、私の目からまた涙が溢れてしまう。
「フローラ…私にとって、貴女の全てが奇跡のようです…」
私にとっても貴方は奇跡のようです…泣いている私には言えなかった…。
だからもっと強く旦那様に抱きついた。
◇◇◇◇◇◇◇
鳥のさえずりが聞こえる。
目を開けると、朝日がカーテンの隙間から差し込んでいるのか部屋の中が明るい。
いつの間にか私は寝てしまったんだ。
私は旦那様の腕の中にいた。
やっぱり、旦那様の腕の中は心地が良い。
幸せな気持ちで、旦那様の胸に頬擦りした。
「……フローラさん、お早うございます。良く寝れましたか?」
「はい、いつの間にか寝てしまったみたいですね」
旦那様は私を強く抱きしめて言う。
「でも、良かったです。フローラさんが寝てくれなかったら清らかでいられなかったかもしれません」
そういえば、フローラ呼びでしたね。
「今日、邸に帰りますが、明日・明後日は休みですね」
「……」
「邸がこんなに恋しいのは初めてです…」
なるほど…どうして?とは聞きませんよ。
「ルカ夫妻も待ってますしね」
ルカ夫妻の事も忘れないで旦那様。
「すぐ寝室に籠ってしまいますけどね」
そうなると、ルカ夫妻とまた顔を合わせれなくなりますね。
結婚してから休みの日はいつもそうですけど。
邸に戻ったら、実家とは真逆の日常が…嫌じゃないですけども。
実家に来た日と、真逆の切替を素早く旦那様はしている…。
でも、まだ今は実家。清らかにすると決めたのだから話をそらそう。
「そういえば、昨日イライザさんと私が話してる時に、お父様と旦那様は何か話してましたね。あの時の私達の会話もお父様には勘違いさせてしまったんでしょうか…普通の会話だと思ってましたが…」
「フローラさん達の会話は、男女だったら恋人同士のように聞こえなくも無いので…」
「旦那様も、そう思いましたか?」
「結婚前はそう思う時もありました。王太子の部屋での会話で『貴女がいない世界なんて私には耐えられないから…』というイライザさんのセリフ。そして『ずっと一緒に幸せに』と、お互い言ってましたし…。私も友情というには過剰に感じてはいました…。でも、昨日の話でフローラさんが死を口にするほど悩んでいた事を聞いて納得しましたし…」
そういえば、お父様が最初に変な事を言い出した時、私はお父様の言っている意味が分からなかったけど、旦那様は良くわかったって言ってた。
「結婚前は…。そういえば、結婚してすぐ『旦那様は、この世界で一番、大切な人です』と、言ったら『イライザさんよりもですか』って言ってましたね…」
私は、旦那様がヤンデレだから女友達にも嫉妬するのかと思っていたけど…まさか…お父様と同じような事を思っての嫉妬??
「それは…その…男性の中では一番だというのは理解していましたし、ベルさん達に向ける笑顔より素晴らしい笑顔を貴女が私にくれていたのも分かってましたが…王太子の部屋での会話が少しだけ心に引っかかって…」
その時の事を思い出してみる。確かにイライザ嬢も私もゲームの事や前世の事を知られないように抽象的な表現だったから誤解は受けやすかったのかな。そう言えば…。
「王太子があの日、何となく冷たいように感じたのも気のせいじゃなかったんでしょうか?」
「…そうですね。王太子は、お二人の絆に嫉妬していたかもしれないです」
「…旦那様も嫉妬していたんですか?」
「嫉妬とは違いますが…イライザさんと私だったら、どちらが大切なのか知りたいと思いました…でも、貴女は同じくらい大切だと…」
「……」
「あの時の私は、貴女にとって本当の一番か少し不安だったのかも知れません。 でもあの後、貴女と二人だけの時間を過ごして、その不安が消えるほど貴女は私を一生懸命必死に「貴女の全て」で愛してくれたので…。だから今回、父上の不安を私は一蹴出来たんです」
「……」
「結婚してから、イライザさんも知らない貴女を私はたくさん知りましたし、私以外には与えられない物も貴女からたくさん貰いましたから」
旦那様は私の頭に口付けをする。
「イライザさん達も、そうなりますから心配は無用ですよ」
なるほど、お父様だけが誤解を引きずるのは必然だったのか。
「私とイライザさんの友情が、そういう風に思われていたのは少なからずショックでしたけど、もう皆分かってくれてるという事ですね」
「そうですね。もっと、分からせて貰っても構いませんが…」
私を抱きしめたままの旦那様の声は艶かしい。
私は慌てて言った。
「旦那様、今は朝でココは私の実家ですよ」
清らかにって決めたでしょ。すると旦那様はおかしそうに笑って言った。
「そうでしたね。でも、もうすぐ解禁ですし、時間もたっぷりありますね」
と、楽しそうに言った。
「帰ったら、たくさん分からせてくださいね。フローラさん」
そう言って、旦那様は私に軽く口付けた。
そして「楽しみにしてます」と、旦那様はダメ押しするのだった…。
話をそらすどころか、藪蛇だったようだ…。
読んでいただいてありがとうございます。結婚式編は終了です。
次はどの番外編にするか決めかねています…お待ちいただけたら幸いです。
ムーンさんの方で感想欄にて番外編リクエストをしていますので18歳以上
でリクエストして下さる方がいればよろしくお願いします。




