表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王宮の青い薔薇のむすめ  作者: 青空那奈
番外編※本編読了後がオススメ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/68

結婚式 1

結婚式の話になります。このシリーズは4話になると思います。

これから更新時間は21時なります。

4月の初旬、とうとう明日は私達の結婚式だ。


式の前日の今日から私と旦那様は実家にいる。旦那様の衣装は王都で作った物を持ってきて、私の衣装は卒業のドレスと一緒で領地のお店で作って貰っていた。


ウェディングドレスの形は、お母様に任せた。

お母様はドレスを選ぶセンスがとてもいいし、親孝行にもなるかと思って。

最終的なフィッティングもした。ベールも豪奢な刺繍が入っていて素敵だ。


屋敷は明日の準備で賑わっていて、私達も明日の準備や段取りを聞いているとあっという間に夜になった。


そして、私は自分の部屋に寝ることになり、旦那様は客間で寝ることになった。

「お父様の気持ちを考えましょう」と、旦那様が言うから。

さらに旦那様は気まずそうに言った。


「フローラさん、明日の誓いの口付けなのですが…皆さんの前でするのは、私も流石に気恥ずかしいので(ひたい)にしてもいいですか?」


いつも旦那様はシレッとしているけど、子供の頃から知っている人の前だと恥ずかしいのかな。まあ、私も恥ずかしいし。


「分かりました、それでいいです」


旦那様はホッとしたような顔をした。そして優しく微笑んだ。


「では、明日は早いですし、もうお互い休みましょう。おやすみなさい」


そう言うと、旦那様は(ほほ)に口付けして私の部屋から出て行った。

徹底しているなぁ…。私達の邸ではあんなに情熱的なのに…。

卒業してから昨日まで、蜜月以上の時間を過ごしてきたのに切替がスゴイ。

私は寂しく感じた…本当に旦那様は、お父様の気持ちを理解し過ぎな気がする。


朝になり、旦那様とお父様は最初に馬車に乗り玄関で待っている。

私はウェディングドレスに着替えてメイクも髪型も整えてもらい、お母様も上品なベージュのドレスを着て、メイクと髪型を整えてもらった。

顔を隠すためのベール付きの帽子も、お母様のドレスと同じ生地と色で素敵だ。


お父様と旦那様で馬車一台、私とお母様とメイクの方と女性の騎士の方がもう一台の馬車に乗って教会に向かった。

教会に着くと、お父様と旦那様、お母様と私で違う控室に入る。


招待客は、おばあ様とイライザ嬢とアナとベルとミラと魔術師長とエイブラム先生とおばあ様達の警護の騎士が4人だ。

招待客は、王宮の転移門から離宮に来て、そこからここの教会まで来るらしい。


少人数だけど、そうじゃないとお母様が参加出来ないから仕方がないし、私と旦那様の大事な人が来てくれるのだから全く不満はない。


メイクの方と、ウチの警備の騎士は別の部屋に待機してもらい、私とお母様は花嫁の控室にいた。ノックが鳴る。


「失礼いたします、イライザです。よろしいでしょうか?」


「どうぞお入りください」


私がそう言うと扉が開き、イライザ嬢とおばあ様と騎士が2人いた。


「貴方たちは扉の外で待機しなさい」


おばあ様がそう言い、イライザ嬢と部屋に入り騎士二人は扉を閉め下がった。


「フローラ…綺麗よ。とっても…」


おばあ様は威厳のある表情から優しい表情に変わり涙を浮かべて言う。

そして、何とも言えない表情で私の側にいるお母様を見た…。


「エレアノーラ…」


「お母様…」


おばあ様の声はとても優しく、お母様の声は震えていた。

おばあ様は、静かにお母様に近寄り抱きしめた。そして小さい声で言う。


「今まで見た、どんな夢より素敵な再会だわ…夢よりも夢のようだわ…」


「…ごめんなさい…」


「そんな言葉は今日の日に似合わないわ…」


「…ありがとう、お母様…」


「おめでとう、エレアノーラ。私の娘と孫は素晴らしい伴侶に出会えたみたいね…何よりも嬉しいわ」


「……お…母様…」


お母様は、おばあ様にしがみついて体を震わせ声を殺して泣いていた。

おばあ様は、そんなお母様をさらに強く抱きしめ、涙を流さないように上を向いていた。


そんな二人を、私とイライザ嬢は涙をこらえて見ていた。


約二十年という長い長い時を経た再会。お互い何度この瞬間を夢見たんだろう。

それも、私と旦那様の結婚式で…それを許してくれた王と、そのために動いてくれただろうイライザ嬢と王太子には本当に感謝しかない。


10分程の言葉少ない再会の時間だったけど、二人の言葉にならない喜びは、私にもイライザ嬢にも十分に伝わった。そして、お母様とおばあ様とイライザ嬢は一緒に教会の席に向かった。


お母様と入れ違いでお父様が控室に来た。バージンロードをお父様と歩く為だ。

二人しかいない控室でお父様は満面の笑みで言った。


「フローラ、本当に綺麗だ。世界で一番綺麗で可愛いよ」


お母様が選んで作ってくれたウェディングドレスは、Vネックのオフショルダーでレースが5㎝程Vネックに沿ってあり清楚に見えつつ、少し胸が大きい私でもスッキリ見える。Aラインのドレスは全体的に繊細な刺繍とパールとビーズで華やかだけど全体的には上品な印象だ。

ベールは腰の長さで、裾にだけドレスと一緒の豪奢な刺繍が入っている。


「ありがとう、お父様も素敵よ」


お父様は花嫁の父らしく、黒のモーニングコートだ。とても良く似合っている。


「フローラはお父様以外の男は嫌いだと言っていたのになぁ…」


「お父様…」


「まあ、お父様にはお母様がいるからね。それにお父様は順番で言えば一番先に死んでしまう。フローラに夫が出来て子供が出来れば安心だ」


「これからも親孝行するから、まだ若いんだし絶対に長生きして。お父様、本当に私はお父様とお母様の子供で良かったわ、改めてありがとう」


「こちらこそ。フローラ、お前は本当に優しい子だ。お前がそう言ったあの日、こうも言えたはずだ。『お母様の子供じゃなかったら』とね。でも、私達にそう思わせないように最初に言ってくれたんだろう?『お父様とお母様の元に生まれてきて、とても幸運で幸せだった』と…本当に嬉しかった」


確かに私は、そう言いたくなかったし、そう思われたくもなかった。

お母様と学園長が姉弟なのは誰のせいでもないし、私が勝手に学園長を好きになったんだから。

だからこそ、お父様とお母様に協力してもらいたかった。全てを飲み込んでくれると信じて。


「私はお母様が大好きだもの。そんな理不尽なことは言わないわ。むしろ、勝手に学園長を好きになってしまって無茶を言って申し訳なかったわ」


「フローラ。お前は4歳ごろから急にしっかりしだして、あまり自分から甘えてはこなかったけど、お父様やお母様がフローラを可愛がるのは嫌がらなかったね。お父様が両手を広げると、しょうがないなぁ…と言う感じで抱きついてくるフローラは、子供らしくは無かったけど世界で一番愛しかったよ」


私の前世の記憶は3歳の終わりごろからジワジワと思い出した感じだったから…。

でも、3歳までは普通の子でいられて良かった。3歳までの可愛さは一生分の親孝行というし。


「そんなお前があの日、お父様とお母様に子供として甘えて頼ってくれた。申し訳ないなんて思う必要はないよ。『お父様とお母様の子供だから、クリストファーを諦めない』と、言ったお前に昔の自分たちを見た。フローラはやっぱり、お父様とお母様の子供なんだと嬉しかったよ」


「お父様は、本当に私に甘すぎるわ」


綺麗にしてもらったのに、泣かせないで欲しい。


「娘を甘やかすのは父親の特権だよ。これからだって、フローラは一生お父様の娘だ。お父様に頼りたい時が来たら頼ったらいい、お父様はお前の味方だ。敵がクリストファーだってお父様は負けないよ」


「ふふっ…お父様ったら。学園長もお父様に負けないくらい私に甘いし優しいから大丈夫よ」


「まあ、ありえないとは思うけどね。フローラ、お前は妻になり母になるだろうけど、やっぱり永遠にお父様の可愛い娘なんだ…だから、何かあったらお父様を頼るんだよ。もちろん夫にも頼っていいけど、お父様の方が何かと有能だから」


「…もう、お父様。もっと、夫婦で自立しなさいとか言うべきじゃないの?」


「お前が素直に甘えてくる子ならそう言うよ。でも、お前はめったに甘えてこない。だから、これくらいが丁度いいんだ」


「…お父様。でも、私が甘える時は自分で解決できない大問題の時だけよ…それでもいいの…?」


「いいよ。大きい問題であればあるほど、お父様を頼ったらいい。お父様の本気のスゴさをフローラは分かってるだろう。なんだって解決するよ」


「…お父様ったら…」


私を泣かせないで欲しいのに…。


「クリストファーもお母様も言ったろう『皆で幸せになりましょう』って。だから、いいんだよ」


「お父様……もう幸せだわ…私とっても…」


「フローラ、まだまだ幸せになれるよ。今よりきっと幸せになる」


そう言って、お父様は私のこぼれそうな涙をハンカチで拭いてくれた。

最後に、メイクの方が直してくれて私達は教会の扉の前に立った。


パイプオルガンの音と共に扉が開く、旦那様が祭壇の前で待っている。


お母様、おばあ様、イライザ嬢、ベル、ミラ、アナ。宮廷魔術師長、エイブラム先生が拍手して迎えてくれる。警護の騎士は待機している。


お父様と腕を組み、歩幅を合せて、一歩一歩祭壇にいる旦那様に近づく。


真っ白なタキシードの旦那様は春の日差しが注ぐ教会にいると、まるで物語の王子様みたいだ。


お父様が私の手を取って旦那様の手に渡す。お父様はすぐ側のお母様の隣の席に移る。私は、旦那様と一緒に祭壇に上る。


神父様が言う。


「今から、クリストファー・メイヤーとフローラ・ベフトンは神聖なる神の前において夫婦の誓いを致します」


とても、低い落ち着いた声で神父様は言った。


「汝クリストファー・メイヤーは、この女フローラ・ベフトンを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も共に歩み、死が二人を分かつまで愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?」


「はい、誓います」


「汝フローラ・ベフトンは、この男クリストファー・メイヤーを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も共に歩み、死が二人を分かつまで愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?」


「はい、誓います」


「二人の誓いの証として指輪の交換を」


旦那様は私の薬指に指輪をはめ、私は旦那様の薬指に指輪をはめる。

指輪は王都で二人で選んだオリーブが彫られたプラチナの指輪だ。


「では、ベールをあげ、誓いの口付けを」


旦那様は私のベールをあげ、予告通り額にキスをした。


「皆さん、お二人の上に神の祝福を願い、婚姻の絆によって結ばれた、このお二人を神が慈しみ深く守り助けてくださるよう祈りましょう」


祈りの時間が続く…。

しばらくすると、パイプオルガンがまた響く。

旦那様と私は、皆の拍手の中、バージンロードを歩いて行く。

そして、二人で一礼して教会の扉から出る。


待機していると、シスターがやってきて私達を外の鐘がある場所に連れて行く。

そこには、教会にいた皆が待っていた。


皆は小さい籠に薔薇の花びらを入れていて、それを私達にかけてくれる。

薔薇のシャワーを浴びながら鐘の下に行く。


そして、旦那様と私はその鐘の紐を引き鳴らした。


これで、結婚式は終わりだ。


「フローラ、おめでとう。とっても綺麗」「本当に素敵だわ…おめでとう」「綺麗すぎて泣きそう…」


ベルとアナとミラが私に近寄ってお祝いの言葉を言ってくれる。


「ありがとう、来てくれて。皆は屋敷でのパーティーも出てくれるのよね」


「そうよ。終わったら離宮の方が迎えに来てくれるらしいわ」

「そうだ、イライザさん達は挙式しかいれないから挨拶した方が良いわよ」

「そうね、私達は最初に馬車に乗ってるわ」


ベルとミラとアナが言って、馬車の所に向かった。

旦那様の方には、エイブラム先生と魔術師長がいた。


「私達も馬車に乗っていようか…では、またな」


魔術師長がそう言うと、二人も馬車の方に向かった。

おばあ様と、イライザ嬢と騎士たちが残った。


「王太后様、イライザさん、今日は本当にありがとうございました」


旦那様がそう言ったので、旦那様と一緒に私も頭を下げた。


「いえ、イライザのお供で、娘に似ているフローラ嬢の花嫁姿を見れて本当に幸せだったわ。伯爵もとても素敵よ。二人共、とても美しい花婿と花嫁だわ。どうか、二人とも支えあって永久(とわ)に幸せに…」


おばあ様は王太后らしく気品あふれる笑みで言った。

そして、いつの間にか側にいたお父様も挨拶をした。


「王太后様、イライザ嬢、本日お二人がいらっしゃってくださった事、とても光栄で恐縮でございます。このようにご足労おかけして本当に申し訳なく、また大変有り難く思っております」


たぶん、お父様は今までの事も含ませて言っているんだろう。


「いえ、こちらこそ。フローラ嬢は本当に素敵な令嬢ですね。ご両親がとても大切に愛情をかけて守り育てたからでしょう。ご息女の晴れの日に呼んで下さって本当にありがとう。生涯で一番、思い出深い…素晴らしい結婚式でした」


「勿体ないお言葉でございます」


お父様は深々と頭を下げた。それを、おばあ様はお母様に良く似た微笑みで見ていた。

お父様もおばあ様もお互い思う所はたくさんあるだろう…。

騎士がいるから、ストレートには伝えられないが、きっと伝わったはずだ。


「奥方にも挨拶をしてきます」


そう言って、おばあ様はお母様の所に行った。

残されたイライザ嬢が言う。


「フローラさん、本当に今日のフローラさんは素敵でした。やっぱりフローラさんは、この世界で一番美しくて可憐です」


イライザ嬢は感極まったように言った。


「…そんな事…。イライザさんだってもうすぐ王太子とご成婚されるじゃありませんか…きっと、私なんかよりとても綺麗ですよ」


「ありえないです。今日のフローラさんより美しい人なんてこの世界にいるはずないんです。本当に、今日はフローラさんの幸せで美しい姿を見れて良かった…」


イライザ嬢は、私がこの世界のヒロインだから本当にそう思っているんだろうけど、イライザ嬢も、誰が見たって心も姿もとても美しい素晴らしい女性なのに…。


「イライザさん…本当に貴女は優しくて可愛らしい人ですね…。私も、イライザさんの幸せで美しい姿を見るのを楽しみにしていますね。その日のイライザさんの姿はきっと、私の目に一番美しく映るはずです」


きっとそうなる。その日を想像し、私は優しく美しい親友を見つめ微笑んだ。

イライザ嬢は目に涙を溜めている。


「…フ…フローラさん…」


泣き出してしまったイライザ嬢を私はそっと抱きしめた。

本当にイライザ嬢は優しい…ありがとう…おばあ様とお母様を再会させてくれて。


「イライザさん、結婚式に貴女が来てくれた事、貴女が私のためにしてくれた事、私への想い…全て一生忘れません…」


「…わ、私だって…フローラさんが…してくれた全て…私への想い…忘れっ…忘れません」


私は、イライザ嬢の背中を初めて会った日のようにそっと撫でた。

王太子妃となるイライザ嬢に、こんな風に出来るのは最後かもしれない…。




「…クリストファー、これは友情なんだよね?」

「…仰りたいことは分かります…お二人の絆が特別なだけですよ」

「どういう特別?」

「父上が思っているような特別では無いですよ」

「本当に…?」

「父上、さすがに不敬になってしまいますから…」

「…そうだよね、気のせいだよね…」


お父様と旦那様が二人で何か言っていたけど、あまりよく聞こえなかった。

次はイライザ嬢の番だ…今から楽しみで仕方ない。私はとても幸せな気持ちで満たされていた。

お母様とお別れの言葉を交わしたおばあ様と、泣き止んだイライザ嬢は離宮に戻って行った。


お父様とお母様、旦那様と私も馬車に乗って屋敷に行く。メイクさんと騎士の方はもう一台の方に乗ってもらった。基本的に旦那様と一緒の時は警備の方はつかない。


「いい挙式だったわね。おばあ様に、フローラとクリスの晴れの姿を見せられて本当に良かったわ…次は、ひ孫を楽しみにしてるらしいわよ」


お母様は花のような笑顔で言った。これを縁におばあ様にお忍びで会えるそうだ。


「私達は、もう少し待って欲しいけれど、王太子やイライザさん達もいるし…すぐかもしれないわね」


私がそう言うと、お父様が続けた。


「お父様だって楽しみだよ。フローラに良く似た女の子が産まれたら散財してしまうね」


「うーん、私は…もし贅沢を言ってもいいなら旦那様に良く似た女の子が欲しいわ。もちろん、どんな子でも授ったら嬉しいけれど」


私がそう言ったら、お父様が旦那様を見てから私に言った。


「…クリストファーに良く似た女の子が欲しいの?」


正直、私に似ているって事は、お母様にも似ているって事になるし、そうなると色々また複雑になりそう…でも、お母様の前でそんなこと言えないし…。

普通に考えても旦那様似だったら、男の子でも女の子でも可愛らしいだろうし…。


「贅沢を言えばよ。でも、授かった子がどんな子でも嬉しいけどね」


これも本音だ。


「クリスの侍女姿は美少女だったもの。きっと可愛いわね、お母様も楽しみだわ」


お母様がニコニコと言う。

その横で、お父様は神妙な顔をしている。


「…確かに、昔のクリストファーは美少女だったけど…。…最近までフローラの事を一番良く分かっているのは、お父様とお母様だと思ってたけどね…」


お父様が、チョットしんみり言う。そんなお父様にお母様が優しく言う。


「仕方がないわ。フローラは娘じゃなく妻になったのだもの。でも、それは親として喜ぶべきことだわ。クリスだって私の中では14歳の少年だったけれど、こんなにも立派にフローラを守ってくれる存在になってくれて嬉しいわ」


お母様は優しく微笑んで言った。「ありがとうございます」と、旦那様は言った。


「まあ、そうなんだが…。昔は『お父様以外の男は嫌い』と言っていたフローラに、困ったなと思いつつ嬉しかったものだけど…今は、もっと原因を掘り下げたら良かったと思ってね…」


お母様は、不思議そうな顔でお父様を見た。

私も、原因を掘り下げてくれなくても別に良かったので今更どうしたんだろう…と、思った。


「父上、先ほど言いましたが、心配しなくてもいいと思いますよ。フローラさんは昔、大切な宝物を男の子に壊されて、それを訴えても誰も信じてくれなかったことから男性不信になったそうですよ」


え、何?何で二人はそんな話になったんだろう??

そもそも私、結婚したし男性不信とか今は関係ないと思うけど…。


「ああ、もしかしてカールの息子さんかしら? でも、あの子は物を壊したんじゃなくフローラを池に突き飛ばしたり茂みに突き飛ばしたりしたのよね。それを自分じゃないって言い張ったんだったわ」


お母様は少し考えるような仕草をして続ける。


「そういえば、お父様がお土産に買ってきた陶器の綺麗なお人形を誰かが壊したけど、犯人は見つからなくてフローラも『自分の不注意だった』って有耶無耶になった事があったわ…。あの頃は色々あったわね。おやつを取られたり、髪を引っ張られたり、フローラは虫が嫌いなのに、わざとしつこく見せにきた子もいたりして」


ああ、そんな事あったなぁ…。


「お母様がフローラに『みんなフローラが好きでやってしまうのよ』と、言ったら『分かってます。でも、それが免罪符にはなりません。私、男の子って野蛮で大嫌いです』って言ったのよね…。男爵家は温かくて皆の距離が近い分、フローラは大変だったかもしれないわね…」


まあ、王女だったお母様が体験しなかったことを経験したと思う…。


「思い出したけど、カールの息子が池にフローラを落とした時は、フローラに魔力が無かったら危なかったから大問題になったね。カールは辞めるというし、息子の方は自分じゃないと言うし…それ以外の話は初めて知ったよ……。もっと嫌な事をフローラはされていたの?」


なんだろう、この話の流れ…でも、男嫌いは前世じゃなく現世が原因って、旦那様にしっかり思い込んで貰えるチャンスかも…。


「…もう、昔の話だし詳しくは言いたくないけど…。ある男の子が私の宝物を壊したの。私が訴えても男の子は皆に良い子と思われてて信じてもらえなくて。その後も私の宝物を壊したんだけど、私は諦めて誰にも言わなかったのよ。その子が男嫌いの原因ね。カールの息子さんは出入り禁止になったし、あの後、私に泣きながら謝ってくれたから別にいいんだけど…。それに、その事件のおかげで私は男の子と遊ばなくて良くなったし。だから、カールの息子さんには感謝してるわ」


今、思い出すと、前世よりは生温いけど、そこそこひどい目に合ってたなぁ…。

池の件は、ちょっとした殺人未遂だしね。

宝物の件は前世だし、カールの息子のおかげで期間も短かったからいいけど。


「ごめんなさい、フローラ…。お母様が気づくべきだったのに…。あの頃は、男の子はそう言う物だと皆が言うから…甘く考えていたわ…だから、池の事件も起きてしまったのね…お人形もその子だったのかしら?」


お母様が悲しそうな顔で言う。こちらこそ、ごめんねお母様…。


「ごめんなさい、お母様。答えたくないわ。どうして、お父様と旦那様がそういう話になったかは分からないけど、今日は結婚式よ? 昔の私は男性不信だったとしても、運命の人と結婚したんだし、そんな昔の話はもういいでしょ? 楽しい話をしましょう?」


私は明るく笑顔で言った。


「そうですね。父上の気持ちも分かるのですが、父上が気になさっていることは杞憂だと思いますよ。それに、これ以上は…」


旦那様が言う。確かにこれ以上は私も話題にしたくない。色々な意味で。


「そうだね、お父様が悪かった。でも、お父様の知らないところでフローラがそんな目に合っていたなんて…。フローラ悪かった。でも、これからはちゃんと嫌な事は言うんだよ。お父様にもお母様にもクリストファーにも」


「そうですよ。今ならフローラさんの話を信じないなんてありえませんから」


「みんな過保護すぎるわ。お父様もお母様も旦那様もいつだって守ってくれてたわ。昔も今も。お母様も気にしないでね、小さい時のわずかな期間だし子供同士の話はどっちが本当か判断するのは難しいわ。その子以外の事で、心の底から嫌な事なんて何もなかった。幸せな子供時代だったわ」


お母様は少し安心したように笑った。本当に気にしないで欲しい…。


「それにしても、どうしてクリスとお父様はそんな話になってしまったの?」


お母様がお父様を見て聞く。

そもそも、何で今日という日にそんな話になったのか。


「えっ…。ああ、うーん。何でかな…?」


何それ…。お母様と私は旦那様を見た。


「…父上は私の侍女姿を見ていますから、そういう事も含めて色々不安に思う事があったのかもしれません。でも、そうじゃない事は私が保証しますので…父上には安心していただきたいです。フローラさんの過去を思えば男性不信になっても仕方がない理由もちゃんとありますし、父上も、もう理解できたのではないでしょうか?」


「そうだね。フローラは男嫌いっぽくなってもしょうがない過去があったんだね。フローラは、まだ本当は男性が苦手なんじゃないかなって思ってね…そうだったらお父様は…。いや!!クリストファーが言った事を信じるよ、今は」


慌てて気まずそうに言うお父様に、私は驚いてしまった。


「えっ?? 何を聞いて信じたの…? 私達の何を聞いたの?」


何?苦手じゃないって信じたのはどうして…旦那様はお父様に何を言ったの?

どうして、そんな慌てて…ま、まさか、結婚後の様子とか…?


「さっきクリストファーが、お父様の不安は『そうじゃない事は私が保証します』って言った事だけど?」


そっちか…。ビックリした…そうだよね、そういう話はしないよね…誓いの口付けだって旦那様はおでこにしたのに…。

苦手どころか、私と旦那様がどんなに仲が良いかなんて、具体的にお父様に言う訳無いわよね…。


「フローラ、顔が真っ赤よ」


お母様…そこはツッコまないで…。ますます恥ずかしくなって顔が赤くなる…。


「フローラ、お母様は不安になんて思ってないわよ。だって、二人共とても幸せそうだわ、満たされているのよね…うふふ…羨ましいくらいだわ♪」


お母様…無邪気な笑顔で追い打ちはやめて…泣きそう。

旦那様の心配そうな視線を感じたけど、今の私にはどうする事も出来ない。

もうヤダ…早く屋敷について…。誰の視線とも合わせたく無かった私は外を見た。


「…お父様が悪かったよ…」






…今日は色んな意味で泣きそう…。


読んでいただいてありがとうございました。

次のお話は、お母様とアナ・ベル・ミラと魔術師長の考えや想いを書いています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ