ある春の日 3
軽いR表現があります。
複雑な思いで横で眠る愛しい旦那様の美しい顔を見ていたら、綺麗な深すぎる青の瞳が見えた。
「おはようございます、フローラさん」
旦那様は、とろけそうな笑顔をした。
今まで見た笑顔で一番破壊力がある笑顔だ…顔が赤くなった。
そんな私を引き寄せて抱きしめる。
「求め過ぎてしまいましたが…大丈夫ですか?」
「…大丈夫ですよ…」
回数は多かったけど、彼はあくまでも優しく愛してくれた。
どこかが辛いと言うのはない。
「良かった…」
そう言って私の顔を覗き込む旦那様は、朝日のせいもあるのかキラキラしている…。旦那様って、こんなにキラキラしてたかな…。
「顔が赤いですね?」
二人共、服を着てないのもありますけど…旦那様のさっきの笑顔が…。
「…旦那様が、一段と素敵に見えて…」
言ってて恥ずかしい…。
「…フローラさんの方が…とても…」
そう言うと、旦那様も顔を赤くした…。
…初めての朝だから仕方ない。そう、仕方ない。
恥ずかしすぎて、旦那様の首に顔を埋めた。
「ウェディングドレス姿のフローラさんは本当に綺麗でしたが…何も身に着けていない貴女がこんなにも美しいとは…」
…これ以上の攻撃は止めて欲しい。
「フローラさんを愛しいと思う気持ちが、どんどん溢れてしまって…自分でも怖いくらいに…」
耳元で艶のある声で囁く…何という会心の一撃…。
そして、彼は優しく私を愛し始めた…。
◇◇◇◇◇◇◇
ノックが鳴る。
「旦那様、奥様、朝食を扉の前に置いておきますので…」
「ありがとうございます」
…旦那様は相変わらず、平然と言うけど…これって…もう…。
恥ずかしさのピークで顔を枕に埋めた。
ベットから出た旦那様は、朝食を用意してくれているみたいだ。
「フローラさん、食べませんか?」
そう言って、旦那様はガウンを持ってベットに来てくれた。
旦那様はもうガウンを着ていた。
それを着て、楕円形の二人で使うのにちょうどいいテーブルセットに座る。
テーブルには、サラダとフルーツとスープとスクランブルエッグとベーコンとクロワッサンがあった。
とっても、美味しいけれど…。
頂きながら思う…終わって10分くらいで朝食が運ばれてくるって…何かもう…。
「フローラさん、昨日、この時間に朝食を運んできてくれと言ったので、そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ」
…考えを読まれていた…そして、用意周到だなぁ。
「そうなんですか…少し安心しました」
「明後日の朝まで、ここで食事を取ると言ってますから」
…明後日の朝?休みが終わって出勤する朝まで、ここで食事するの?
「二日間、貴女とずっと一緒にいたいんです…ここで」
…なるほど…。愛のある平和な監禁ですね…。
いつでも受け入れると言ったし、前に私の心と体と行動全てで貴方を幸福にしたいとも思ったし。
「…分かりました」
彼が私を求めてくれるなら、私は答えるべきだろう。
それに、私だって彼と離れたくないのだから。
「本当にいいですか?」
「いいですよ…私も、一緒にいたいので…」
「フローラさんに溺れてしまってもいいですか…この休みの間だけ…」
旦那様の声は懇願しているように聞こえた。
貴方に私を求めて欲しい、世界中で私だけを…。
そう強く思った日があった。
お互いに溺れないように必死だった日々もあった。
だから…今…。
「…一緒に溺れましょうか…」
私がそう言うと、目の前の朝食は消え、私はベットの上にいた。
旦那様は激しい愛し方をした。私はそれに答えた。
◇◇◇◇◇◇◇
「旦那様、今、幸せですか?」
私の体は、もう慣らされてしまったようで彼の激しい愛し方にも、ただ喜びと多幸感だけがあった。だから、聞いてみた。
「…自分が少し怖いです」
「怖い?」
「貴女を求めても求めても、まだ全然足りないんです…もっと欲しくなる」
「欲しがっていいですよ…「私の全て」を、貴方にあげます。それが私の幸せだから…」
「貴女の全てを手に入れたのに、まだ貴女が足りない…」
彼は私を、強く抱きしめた…。
「この二日間で満たせばいいんです…」
「貴女を壊してしまいそうで…怖くなります…」
「…壊れませんよ。私も同じくらい貴方が欲しいから…」
私は彼に口付けた。激しく煽るように…。
貴方は私を求めたらいい、好きなだけ…。
◇◇◇◇◇◇◇
初日の恥ずかしさが嘘のように激しく求めあった。
何故か私も彼を求めれば求めるほど怖くなった。
素直に欲望のままに彼を求めるほど怖くなった。
彼がいない世界を何故か考えてしまう。今、これ以上ないほど彼は近くにいる。
だからこそ、彼が私より16歳も年上だと言う事実が怖くなった。
歳の差の分、彼は先に逝ってしまうのだろうか…。
別れは突然くる、幸せは突然終わる…。
前世でもそうだった。でも、前世では三人で一緒に逝けた。
でも、私達はどうなるんだろう。
この幸せの終わりを、どうして私は考えてしまうんだろう…。
この不安を忘れたい…だから彼をもっと求めてしまう…。
「フローラさん、大丈夫ですか?」
二人で果てた後、心配そうに聞かれた…。
「大丈夫です…」
旦那様は、私の頬を触る。
「涙が…」
そう言って、心配そうに私を見つめる…。
「私も、怖くなってしまったみたいです…」
「フローラさんもですか?」
「貴方に愛されて貴方を感じるほど…貴方がいなくなった時を考えてしまう…」
彼が私を壊すんじゃなく、私が勝手に壊れたみたいだ…。
「私は酷い人間なのかもしれません…貴女が私がいなくなる不安で泣いているのが、泣きたくなるほど嬉しいと思っている…」
そう言うと、私の髪を優しく撫でた。
「酷いなんて思いません…貴方も私を愛してるだけだから…愛しすぎて私が勝手に壊れただけだから…でも、もっともっと貴方が私を求めて、私がもっともっと貴方を感じたら…幸せだけを感じれるのかも…」
「お互いが壊れないように、もっと溺れて、もっとフローラさんを満たします。怖さなんて考えられなくなるほど…」
二日間、私達は満たしあった。
たまに泣いたり、たまに笑ったり…恥ずかしがったりしながらお互いを求めた。
彼は足りないと思う日がまた来るかもしれない…私も16歳の年の差に不安や恐怖を感じる日がまた来るかもしれない…。
でも、それでいいんだと思う。
足りない事も、いつか終わりが来る不安も、長い時間をかけて付き合うしかない。
この休みの間だって、二人共に満たされて不安も無くなって幸せだと感じた時もあったし、逆もあった。片方だけが感じてる事も…。
それの繰り返しなんだろう。
変わらないのは、私は彼を愛しているし、彼も私を愛している事。
愛しているから幸せだから感じる、不安や恐怖や渇望する心…。
愛してる人が自分にだけ見せる顔、聞かせる声、愛する姿…。
結局、私達はとても幸せで激しく愛し合っているという事だ。
ハッピーエンド後の監禁は、私達を夫婦らしくしたように思う。
そんな監禁なら、いいのかもしれない…。
読んでいただいてありがとうございます。
皆様、今年はありがとうございました、来年も宜しくお願いいたします。
良いお年をお迎えくださいませ。




