ある春の日 1
ブックマークありがとうございます。
ラスト後のお話です。このシリーズは4話あります。
ラストダンスが終わった後、学園長は来賓との挨拶、その他のお仕事があるらしく、お父様とルカ夫妻と私が一旦、学園長の邸に帰ることになった。
アナとベルとミラは「次に会うのはフローラの結婚式ね♪」
イライザ嬢も「フローラさんの結婚式、楽しみにしていますね」
と、言って、それぞれの婚約者や保護者と去って行った。
私も、寮にあった荷物は、ほとんど学園長の邸か実家に送っていたのでバック一つ分くらいの荷物を持ってドレスのまま、馬車に乗る。
「今日は、お父様もルカ夫妻もありがとうございました。結局、お父様達の所には、色々な貴族(保護者の皆さん)が常にいて、話しかける隙が無かったわ…」
「辺境伯になったからね。お母様も社交には出てないけど、お父様も領地以外の社交はめったにしてなかったからね…。まあ、しょうがないのかな…」
「私達は、奥様と旦那様の美しいダンス姿を見せて頂いて光栄でした」
「ご卒業おめでとうございます、奥様」
お父様の後に、ラリーとスーザンが続いた。
奥様…そうだ、今日、結婚証明書が学園長の邸に届くんだ…。
邸には誰も居ないけど、入れ違いになったりしてないかな…。
そう思って、学園長の邸に入る。
「お帰りなさいませ、旦那様、お嬢様」
「アギー!! どうして?」
ベフトン家のメイド・アギーが出迎えてくれた。
「アギーとカールも連れてきたんだ」
と、お父様が言う。
奥の方から、カールが出てきた。
「お嬢様、今日はおめでとうございます。お祝いの料理、期待していてくださいよ!!」
ベフトン家の料理長のカールが満面の笑みで言う…お父様ったら手際が良いわ。
そうよね、今日はルカ夫妻も卒業式に出たから。
「旦那様、お嬢様、居間の方にお茶を用意していますので…」
アギーがそう言い、ルカ夫妻は着替えのため自室に去った。
お父様と一緒に居間に入ると…。
「フローラ、卒業おめでとう!! …とっても、綺麗よ…」
「…!! お母様!!」
なんと、お母様がいた…領地で留守番だと聞いていたのに…。
「お父様からの卒業祝いだよ♪」
お父様が言う…。卒業パーティーには出れなかったけど、お母様にドレスを見せたかったし、今日の事を…お母様にすぐ伝えたいと思っていたから…。
「フローラ、お母様からもお祝いよ♪」
そう言って、賞状みたいなものをお母様が私に差し出す…結婚証明書だ…。
「…ありがとう」
私は、結婚証明書をそっと胸に抱いた。
「お嬢様、大切な物ですのでラリー様に渡しておきますね」
そう言って、お茶の用意を素早くしたアギーが証明書を持って居間から出て行った。私達は、座り心地のいい緑のソファーに腰を下ろす。
「…お父様、ありがとう…お母様やカールやアギーを一緒に連れてきてくれて…」
「今日は、フローラの卒業と、二人が夫婦になった二重のお祝いだからね♪ それに、世界で一番綺麗なフローラのドレス姿を、お母様が見れないのは可哀想だしね」
「本当に、今日はフローラにとって特別な日ね…。本当に綺麗よフローラ。今日の日を貴女と一緒にいられることになってお母様とっても幸せだわ…」
お母様が、綺麗な瞳を潤ませる。
「…お母様。今日、王が…私達の結婚式に王太后をお忍びで参加させると言ってくれたわ」
「…本当に…?」
「本当よ。王は今日、学園長と私にあの夏の日の後悔と謝罪…。私達のような弟と妹がいたら誇らしかったろうって……。私達は我が国の宝で、私達の幸福を願っているって言ってくれたわ…」
「…お兄様…」
「王も学園長も「お互いに忘れらない日」になったって言っていた…」
お母様の綺麗な瞳から、涙が溢れた…。
私も、お母様の涙を見て、もらい泣きをしてしまった…。
◇◇◇◇◇◇◇
そして、夕方の5時頃、学園長が帰ってきた。
出迎えた私に、学園長は驚いていた。
なぜなら、私は純白のウェディングドレスを着ていたから。
髪型は、いつもの三つ編みをもっとルーズにして、両サイドに白い花を飾り、下に流れるように白い花と真珠を雫のように飾り付けた。
ドレスは本番の物とは違って、スレンダーラインの上品なドレスだけど。
「…お帰りなさい…旦那様」
「…ただいま…」
お父様とお母様が「クリスにもお祝いしないとね♪」と、言って、私を着替えさせアギーが綺麗に髪を結ってくれ、私は一人で学園長を出迎える事になった。
「…旦那様、似合いますか?」
「…あまりにも綺麗すぎて…息が止まりそうでした…」
「ふふっ、それは大変。新婚初日なのに…」
私が笑って言うと、学園長は私に近づいて頬に右手を添えた。
「…良かった。触れられた…幻かと思いました…」
私は、頬に添えられた手に自分の手を重ねた。
「…幻じゃありませんよ…消えたりしません…」
私達は見つめ合って、学園長が顔を近づけた…。
「クリストファーお帰り!! 今日は、ご馳走だよ!!」
お父様が、大きい声を掛けてきた。
凄いタイミングだ…。
「今日のクリストファーは正装だし、そのまま夕飯を食べよう♪ お祝いの席だしね♪」
とてもいい笑顔で、お父様は言った。
◇◇◇◇◇◇◇
カールが作ってくれた美味しそうな料理が並ぶ食卓に、今日は変則的に座った。
結婚式にはルカ夫妻が出れないので、今日は私達と両親とルカ夫妻の6人で食べることになった。
左側に学園長・お父様・ラリーの順で座り、右側には私・お母様・スーザンが向かい合って座ることになった。
アギーが皆のグラスにシャンパンを注ぐ。
「今日、フローラさんは学園を卒業し、私達は晴れて夫婦となりました。この日を祝っていただけて、とても嬉しく思っています。ありがとうございます」
学園長がそう言うと、お父様が言った。
「フローラの卒業と、二人の永遠の幸せを祈って…乾杯」
カールの食事はとてもおいしく、ルカ夫妻も正装の学園長とウェディングドレスを着た私達との食事を喜んでくれた。
◇◇◇◇◇◇◇
食事は和やかに終了し居間に移動して、ルカ夫妻やアギーは下がらせ学園長が紅茶を入れてくれた。
お母様が口を開く。
「クリス…。ごめんなさい…ありがとう…」
短い言葉に、色々な意味が込められている…。
「私こそ、ありがとうございます…姉上には貰ってばかりです…」
「それは…私と私達家族の方よ…」
「いいえ。姉上は愛情と優しさと笑顔と救い…そして最愛の人まで私に与えてくれました」
「…クリス…」
学園長は、穏やかな微笑みを浮かべて言った。
「これからは、皆で幸せになりましょう」
「そうね。これからは、もっと皆が幸せになれるわ…」
お母様も、いつもの花のような優しい笑みをした。
「今日は、本当にいい日だね。こんなに良い日は、最後に親子三人で寝よう♪」
…お父様が、また変なことを言い出した…。
「…今日は、フローラとクリスが結婚した日よ?」
お母様が呆れた様に言う。
「だから、今日を逃したら家族三人で一緒に寝る事なんて一生無いじゃないか…」
ちょっと、スネた様にお父様が言う…。いくら美形のお父様でも40歳過ぎたら厳しいわ…。
「…そうですね。姉上達の客間にベットを追加します」
…学園長が言う…。学園長はお父様の気持ちを理解し過ぎじゃないだろうか…。
「クリス…」
「今日は、初めからそのつもりでしたので」
申し訳なさそうなお母様に、学園長は、いつものような笑みを浮かべた。
◇◇◇◇◇◇◇
結局、私はお父様とお母様の部屋に寝ることになった…。
「お父様、お母様、学園長にお休みの挨拶だけしてくるわね」
私は、ウェディングドレスのまま学園長の寝室……というか……夫婦の寝室に向かった。
「学園長、私です」
ノックして、そう言うと扉が開いた。
学園長はラフな服装をしていた。
「お休みの挨拶ですか? どうぞ」
そう言って学園長は私を笑顔で中に入れてくれた。
本当なら、今日ここで初めての夜を過ごす予定だったのに…。
「…お父様がごめんなさい…」
「いいんですよ。最初からそのつもりでしたから」
学園長は優しい微笑みで言う。
「…学園長は、お父様の気持ちを理解し過ぎです…」
「…でも、フローラさん…。今日、私と初めての夜を迎えたとして…次の日お父様とお母様に普通の顔が出来ますか? 私は自信が無いです…」
「……そう言う事ですか…」
顔が一気に赤くなった…そうだよね…確かに…。
私の頭の中にはレベ○カの歌が流れてきた…。確かに無理だ。
「明日から3日間は私も休みですし、これから一生、私達は一緒なのですから今日は、お父様の気持ちを優先させてあげましょう」
…学園長は優しいなぁ…。
「そうですね」
「…フローラさん…明日の夜は、今日のウェディングドレスを着てくださいね」
「…え?」
「今日は脱がせないので…」
「………」
「では、おやすみなさい」
そう言うと、学園長は私の頬にキスをした。
…特に何もしてないのに、私の顔はさらに真っ赤になった…。
◇◇◇◇◇◇◇
朝になり朝食を食べると、お父様とお母様、カールとアギーは馬車に乗って領地に帰った。
結婚式は4月の頭で、今は3月の頭。
それまでは、学園長と…。
昨日まで寮にいたのに…顔が赤くなる。
生徒が休みでも、入学式・その他の色々な準備で学園長は春休みでも出勤する。
でも、今日から3日間は休み…。
「フローラさん、今日は天気が良いので庭でも散歩しませんか?」
「そうですね」
薔薇は5月を過ぎてから咲くから華やかさはないけれど、お庭の品の良さは凄く感じる…。垣根も綺麗に整えられているし、ベンチや噴水の配置もとても素敵だ。
庭の中央に噴水があり、その周りは薔薇と垣根に沿ってベンチがある。
そこに座って、春の青い空を眺めた。
今日は、3月の頭の割には気温が高いみたい。
「学園長、このお庭はとっても素敵ですね」
「ありがとうございます…。…フローラさん、もう私達は夫婦なので、学園長はもう…」
…そうか、昨日は「旦那様」とも呼んだけど…。どう呼べばいいんだろう。
「どう呼ばれたいとかありますか?」
「昨日の「旦那様」も良いなと思いましたけど…「クリス」でもいいですが…」
…何となく、クリスっていうのは恥ずかしいんだよなぁ…。
「慣れるまでは今の所「旦那様」で、いいですか…?」
「…いいですよ」
学園長は「フローラさん」のままなのかな?でも「フローラ」って言われると照れるかも…。そんなことを考えていると、学園長が言った。
「フローラさん、髪を解いてもいいですか?」
「…? どうぞ」
いつものように、三つ編みにしていたけど今日は青いリボンをしていた。
学園長、じゃない…旦那様に背中を向けると、器用に旦那様は三つ編みを解いて、指でトップの両サイドをまとめて青いリボンで結んだ。一番簡単なハーフアップをしてくれた。
「フローラさんの緩やかなウェーブの髪は、この髪型の方が似合うと思いますよ」
そういえば、イライザ嬢がゲームのヒロインはこういう髪型って言っていたっけ。
「ありがとうございます。この髪の毛だけは、お父様に似ているんですよね。それ以外はお母様似ですけど」
お母様は、黒髪ストレート(本当は銀髪ストレート)。お父様は、金髪で緩いウェーブの髪をしている。
すると、学園長…旦那様は不思議そうに言った。
「フローラさんを入学式で見た時、姉上にとても似ていると思ったのですが…。
いつからか姉上に全く似ていないと思うようになりました…」
「髪の色や髪質が違うからですかね?」
「それだけじゃない様な…。姉上は姉上、フローラさんはフローラさんでしかないと言うか…」
イライザ嬢に、前世のクラスメートの双子の話をしたが、それをまた思い出した。
双子とは、私は幼稚園から一緒だった。私を含む幼稚園から一緒のメンバーは双子の区別が簡単についた。良く似てるのは分かるが、全然別人だと理解していた。なので、写真でもすぐどっちか分かった。
でも、小学校・中学校から一緒になったクラスメートは写真では双子の区別がつかなかった。性格が違うので、双子の明るい方と暗い方という、結構失礼な区別をして名前も覚えてないクラスメートもいた。
「言いたいことは分かります。お母様しか知らない人にとって、良く似てるからこそ私は「お母様の娘」という記号でしかなくて、逆もそうでしょうね。学園長…じゃない、旦那様は私達を良く知ってるからこそ、別の人間だと理解出来てるんだと思いますよ。実際、私とお母様は容姿以外は似てない所の方が多いし、見た目の微妙な違いも学園長…じゃない、旦那様には大きな違いに見えているんでしょうね」
そう私が言うと、旦那様は少し驚いたような顔をしてから笑った。
「なるほど…。貴女が姉上の娘から、私の愛する人になったからですか…」
…そう言われると照れる…。
「私の愛する奥様、口付けしてもいいですか?」
私は頷いた。
学…旦那様は、優しく唇を重ねて、すぐ離した。
そして、私の額に自分の額を付けて私を見つめる。
「貴女は、世界で一番可愛らしくて美しい、自慢の私の愛する奥様です」
なんか、お父様並みの褒め言葉だけど、お父様に言われるのとは違う感情になるなぁ…。
「…学…旦那様も、誰よりも素敵です。この世界で一番、大切な人です」
どうしても、噛んじゃうな…。
すると、旦那様は私を抱きしめた。
「…イライザさんよりもですか…」
小さい声で学…旦那様は聞いた。
「……」
ヤンデレ設定だから、女友達にも嫉妬するんだろうか…結婚したのに。
「…スミマセン…」
スゴイ、小さい声で学園長が言う。
「学園長だってエイブラム先生と私と、どっちが大切って言われても困るでしょう?」
「フローラさんの方が大切です」
即答だ…ええ…嘘でしょ…。
「私がいたら、エイブラム先生は学園長に必要ないですか?」
「…必要です…」
良かった、危なく学園長にガッカリする所だった…。
「そういうことですよ……私にも学園長にも大切な人はいます。でも、愛する夫は貴方だけです…」
「…そうですね…私も愛する妻は貴女だけです…」
そう言って、学…じゃないや、旦那様はギュッと抱きしめる。
「旦那様、私にとってイライザさんやアナやベルやミラは、旦那様と同じくらいとっても大切なんです。私の言い方が悪かったですけど、男性では旦那様以上に大切だと思う人はいないです…。お父様も大切な人ですけど、お父様の一番はお母様だろうし…私の一番は旦那様なんです…」
…分かってくれるかなぁ…。大切という大きい分野で男女込みでランキングを作ると旦那様・イライザ嬢・アナ・ベル・ミラは同率一位なんだよね…お父様お母様はまた違う枠という感じだし。
普通に、世界で一番愛してるって言えば良かった。
それだったら、男女込みランキングでも旦那様がダントツトップだし。
前世でも、そうだったからなぁ。
女友達って、夫にも言えない悩みを分かってくれるし、言わなくても察してくれたり。独身の時は心の支えだったし、結婚しても、親戚付き合いとか子供の事とか相談してたし。もちろん、夫も女友達とは違う物をくれたけど。
分かって欲しいなぁ…せっかく、こんなに素敵なお庭と邸なのに、あの物置部屋になってる地下室に住みたくなくないなぁ…無事に結婚できたのに。
私の言い方が悪かったから挽回しよう。
「…旦那様、口付けしてもいいですか?」
旦那様はそっと私を離した。なので、旦那様の頬に手を添えて私から唇を重ねた。
「私は、永遠に貴方の側に居て、永遠に貴方を愛してますからね…」
「…私もです。どうしてなんでしょう。貴女と私は夫婦になったのに…。不安になるんです…」
…幸せすぎて怖い的な?
言いたいことは分かるかな…。私も前世でまさか自分が結婚すると思わなかったから、しばらくこれは嘘なんじゃないか?現実じゃないんじゃないか?って思ったし。旦那様だって、一生独身で生きていくつもりだったんだろうし。自分が長年描いていた未来と違い過ぎて不安になるのは分かる。
「分かりますよ。それだけ、今が幸せって事です」
私は笑って言った。
「私は…ずっと、誰かの一番になりたいと渇望していたのかもしれません。諦めていたから気づかなかっただけで。いざ、それが叶って、ずっと一番でいられるか不安なのかもしれません…」
そう言うと、旦那様は私をそっと抱きしめた…。そうか…。
彼の母はすぐに亡くなり、父である王は彼を見捨てた。
おばあ様は彼を守ったが、おばあ様の一番はやはり血を分けた子供だったろう…。
お母様も彼に多くを与えたが、お母様の一番はお父様…。
「…ずっと、永遠に貴方は私の一番ですよ…。だって、貴方がこの世からいなくなったら私は生きていけない…。そう思うのは貴方だけです…」
私は強く彼を抱きしめた。
「私も、貴女がいない世界なんて生きていけない…考えたくもない…」
「…大丈夫ですよ。学園長は「聖女の祈り」を発動できるし、私だって貴方の為なら発動出来ます…」
この人は、やっぱりずっと孤独だったんだろう。
彼を守ってくれた人も、愛してくれた人もいた。
でも、心の底から素直に甘えたりは出来なかったろう……感謝をしていたからこそ彼は勤勉で真面目に自分を律し最短で大人になったんだろう…。
彼が子供でいれた時間はどれくらいだったんだろう…。
彼は、誰かに本気の怒りをぶつけたり不満を口にしたり、誰かの前で泣いたことはあるのだろうか…。
多分、無いだろう…。
でも、私に今、彼は不安を弱さを見せてくれている…嬉しくて切ない…。
「…どんな貴方でも、私は貴方が好きです。ずっと変わらずに…」
「……」
彼は何も言わず、ずっと私を抱きしめた。
私は、嬉し涙なのか何なのか良く分からない涙がずっと流れていた。
春の光が私達を優しく包んだ…。
読んでいただいてありがとうございます。
次の話は、Rっぽい表現がありますが、抑え目で書いています。




