王宮の青い薔薇の娘って? 4
「攻略対象ルートなら、卒業パーティーで攻略者の父にバレます。パーティーには生徒の保護者も呼ばれてますし、攻略対象者とヒロインが踊るので。 息子と踊るドレス姿の貴女を見て、エレアノーラ王女にそっくりだと気づくんです」
なるほど。
「王太子の父は王、貴女の伯父です。兄の父である宰相は、貴女の母の元婚約者です。ラシーンの父は大公ですし、同じ王族の王女を知っています。ソルの養父は宮廷魔術師長で王女の魔法の師匠ですし、レイの父は将軍ですが、王女の近衛でしたから。でも、隠しキャラルートだと「聖女の魔法」も「ヒロインの出生の秘密」も皆にバレてしまうそうなんです」
さらっと流れたけど、お母様とイライザ嬢のお父様って婚約してたんだ…。
「何で隠しキャラルートだと母の事が皆にバレちゃうんですかね?」
「想像ですが「聖女の魔法」は、攻略対象者の好感度がMAXな時に発動するんですよね。その場合はこの国のトップくらいしか知らない事実になります。でも、隠しキャラルートだと最初に「聖女の魔法」の力が皆にバレるんじゃないかなって。それで、貴女に注目が集まり卒業パーティーで多くの保護者が貴女の正体に気付くんじゃないかなと思うんですけど…」
なるほど、ゲーム経験者のイライザ嬢の分析は当たってそう。
それにしても、さすが「王宮の青い薔薇」と呼ばれた母…有名なんだなぁ…。
「卒業パーティーで攻略対象の誰かと結ばれれば、貴女の秘密は最小限の権力者にしかバレません。結婚後は「王女の娘」で「聖女の魔法」を使えると公表されますが、そのおかげで攻略対象者の結婚相手として反対は無いです。王太子であってもです。ゲームでは王太子の婚約者で宰相の娘である私も退場させられますし、まあどのルートでも私は退場させられますが…。貴女の秘密が公表されても、攻略対象者なら全員、貴女を守る力があります」
「でも、攻略対象の誰とも結ばれなかった場合、私の秘密が大勢にバレてしまう。私を利用しようと群がる人間から、私を守るために凌辱監禁バッドエンドになるわけですか…」
隠しキャラ、極端な守り方だな…。
色んな人間に狙われる私を隠すのか…隠しキャラだけに…なーんて。
「そうなんです。ゲームの通りに行くならですが、結構シナリオは変わってるので」
「単純に卒業パーティーに体調不良とでも言って出なければいいんじゃ?」
「卒業パーティーは回避できても、令嬢は社交デビューが卒業後はあるでしょうし…」
「まあ、そこは何とかなると思うんですよ。凌辱監禁よりは、社交界に出ない方がましだと思いますし…母も出てないですしね。 それに「聖女の魔法」って伝説の魔法ですよね…発動させなければ、もっと安全になるわけですよね?」
「確かに「聖女の魔法」は、現状かなり高度な伝説的な魔法ですが…」
「そうですよね、伝説的な「聖女の魔法」を発動させない方が簡単だと思うんですよ。卒業パーティーだって欠席するのは簡単です。意外と、あっさり回避できるかもしれませんよ? 現状はゲームから外れてると見た方がいい状況でもありますし…。3年もあるんですし、イライザさんは自分のバッドエンド回避に専念してもらって、私は今まで通り学園生活を楽しみます」
「…大丈夫でしょうか?」
「とりあえず、攻略対象のルートに入れなかったら、伝説の魔法を発動させない、卒業パーティーに出ない。それくらいなら簡単そうですし。それに、私は前世の40年の記憶と経験から「今を積み重ねたのが未来」だと思うんですよ。現に私とイライザさんの今を重ねた結果、ゲームとは異なる世界になっているじゃないですか?」
「そうかもしれないです…だとしたら今日、貴女に話してイタズラに不安を与えてしまったのかも…すみませんでした。しかも、隠しキャラルートはやる前に死んでしまって役に立たないし…」
「そんなことないですよ。母の事だけは避けて通れないことだと思いますし、知れて良かったですよ。ただ、攻略対象たちのルートとか性格とか結末は知らなくても大丈夫なだけで…あははっ」
「せっかく、ヒロインでイケメン達に溺愛されるゲームなのに…私のせいでもあるんですがスミマセン…」
イライザ嬢は、このゲームのファンでもあるからそう思うのだろう。でも、私は知らないし実際の攻略対象にも興味がないのでピンとこない。
「謝る必要はないですよ。私の性格が違う時点で、私が攻略対象に興味を持つ可能性も低いですし、そんな私を好きになる可能性も低いでしょう。イライザさんは自分の未来を回避するのに必死だったでしょうし、これはもう運命って奴ですよ。お互いにとってむしろ必然だって事です」
「やっぱり、前世での経験値が違いますね…器がデカ過ぎです…フローラさん…」
「そんなことないですよ。もし私がイライザさんの状況に生まれ変わったとして、令嬢の鏡と呼ばれるほど頑張れたかって言われたら無理だと思いますよ。日本の価値観と違う、なにより圧倒的に貴女に不利なこの世界で、どれほど貴女が努力したか…それを思うと偉いと思いますよ、本当に」
「…ありがとうございます」
そういうと、イライザ嬢は泣きそうになっていた。
イライザ嬢は、どのルートでも酷い目に合うそうだから、必死だったんだろうけど、それだけにその努力は並大抵のことじゃないだろう。
「しかも、私の心配までしてくれて、優しいなって思いますよ。だから自分の幸せだけ考えて下さい」
心から言った言葉に、とうとうイライザ嬢の目からは涙がこぼれた。
「…あ、ありが…とう…」
娘と変わらない年頃の女の子だ。
不安だったろう、悪役令嬢の彼女にとってヒロインである私は脅威であったろう。
それなのに、私がバッドエンドに行くのを回避させようとしてくれた。
私は、単純に前世の記憶を持って生まれ変わっただけだと思っていたので、彼女より自由だったし、必要以上の不安や葛藤はなかった。
「イライザさん、頑張りました。貴女は大丈夫です。私だって大丈夫ですよ」
とうとう号泣しだしたイライザ嬢の背中を私はずっと撫でた。
よしよし…。