表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/68

王宮の青い薔薇の娘の日常

控えの間でイライザ嬢と笑い合った後、イライザ嬢が言った。


「これから、学園長の所へ報告に行くんですよね? 家の者がフローラさん達の荷物を、もう学園長の所に運んでいるはずです。ベフトン家の馬車も王宮に着いている時間ですね」


今日は、学園長の(やしき)に泊まる予定だ。

もちろん、今日の報告もあるし、卒業後の事をお父様と学園長と私で相談する為もある。


王宮まで乗ってきた馬車は宰相家のものだが、今迎えに来てくれている馬車はお父様が領地から持ってきた我が家の馬車だ。


「では、行ってきます。イライザさんも初めての公務ですけど頑張って下さいね」


イライザ嬢と別れ、お父様と王宮の前で待機していた馬車に乗る。


馬車が止まった。学園長の邸は初めて来たけど、旧古河庭園の邸に似ている。

薔薇園もあって想像以上に素敵だ。


玄関で、学園長が出迎えてくれる。


「お二人共、ようこそいらっしゃいました」


学園長の後ろには、60歳になるかならないかくらいの穏やかな男女が微笑んでいる。


「後ろの二人は、私がこの邸をいただいてから、ずっと私の世話をしてくれているルカ夫妻です」


「ラリー・ルカと、申します。執事という事になっていますが、何でもしております。宰相家から届いた荷物はお部屋に運んでおりますので…。私の隣にいるのは妻のスーザン・ルカです。料理や家事全般をしています」


執事の服を着た、細身で背の高い、人の良さそうなラリーが言った。


「春から、奥様と一緒に暮らせること、とても楽しみにしております。宜しくお願い致します」


身長は私と変わらない中肉中背だけど、シックな黒のワンピースを着た優しそうな笑顔のスーザンが言う。…奥様…か…そうか…。


「フローラ・ベフトンです。春からは、どうぞよろしくお願いします」


「フローラの父です。どうか娘の事をよろしくお願いします」



挨拶は終了して、居間に通された。



窓からは、程よく日差しが入って明るく、シンプルで上品な家具が圧迫感なくスッキリと配置されていて、応接セットのソファーは緑のフカフカな手触りの良い座り心地のいい物だった。


素敵…。しかも、落ち着く感じがする…。


三人掛けのソファーと、テーブルを挟んだ向かいは、一人用ソファーが2つとサイドテーブルがある。


学園長が一人用のソファーに座り、私とお父様は三人用のソファーに座った。


「学園長、王は私との結婚を認めてくれました。私が卒業したら結婚出来るそうです」


私は、笑顔で言う。


「それは良かった。ベフトン男爵、順番が逆なんでしょうが、フローラさんの事は一生大切にして幸せにしてみせます。どうぞ、これからもよろしくお願いします」


確かに、逆プロポーズみたいな感じになっていたからなぁ…。


「クリストファー、君には本当に感謝しかないよ。君になら大事な一人娘を任せられる。二人とも幸せになって欲しい」


お父様が言った。

珍しくお父様は真顔だ。花嫁の父だからかな? …そういえば、今までは一応義兄という事になっているけど、これからは義父という事になるのか…。

しかもお父様は辺境伯になるし、男爵でもなくなるし…。


「…そういえば、学園長はお父様の事を、これから何て呼ぶべきなのかしらね?」


「……」「……」


二人とも黙った。良く考えたら、学園長はお母様の3歳下で33歳、お父様はお母様の5歳上で41歳。

見た目は二人とも若く見えるけど、微妙なお年頃だなぁ。


私は、17歳だから学園長とは16歳も違うのか…。学園長は見た目25歳くらいに見えるし、私は40歳まで生きていたから特に、現在の私と学園長との歳の差って感じてなかったけど…一般的には結構な歳の差婚なんだなぁ。


お母様の事、学園長は姉上って呼んでたけど…もう、それもマズイと思うし…。

どういう言い方がいいだろう…。

今更だけど、私達ってこういう事になるんだなぁ…。なら、私が決めてあげた方が良いかも。


「姉上と呼んでいたんだから、父上・母上がいいのかしら?」


「…まあ、それでいいんじゃないかな」


と、お父様が言った。


「そうだ、クリストファー。宰相殿から昨日聞いたが、王太子達とフローラ達の結婚が終わってしばらくしたら離宮の王女は亡くなった事にするそうだ。今日の式典でフローラが王女に似ていると思った人は多いだろうが、うちの爵位が上がった事もあるし、王の牽制(けんせい)もあったし軽々しく言う人間はいないだろうとの事だ。それと、我が家の秘密は二つある。ほのめかすモノが一つあった方が、もう一つの秘密は守られるだろうとの判断らしい」


なるほど、我が家の秘密はお母様が王女という事と、学園長が王子という事。

もしかしたら、ベフトン家の奥方は王女なんじゃ……って思わせていた方が、もう一つの秘密はそれに隠れるって事か…。


「本当に、王太子が言った通りにしてくれたのね…」


離宮での事を思い出し、学園長が答える前に私が言うと、学園長が続けた。


「イライザさんがきっと、王太子に強く言ってくれたんでしょうね…フローラさんの幸せの為に…」


(いたわ)る様に学園長は言った。


「…そう言えば、さっきイライザ嬢は『フローラさんの幸せは私の幸せなんですから』って、フローラの手を握って見つめ合って言っていたけど……フローラとイライザ嬢は…友情で言っているんだよね?」


「…? 友情以外で何があるの?」


お父様ったら、何で当たり前の事を聞くんだろう…。


「…いや、友情だと思ったよ? でも、お母様そっくりの世界で一番可愛いフローラと、フローラとタイプは違うが美少女のイライザ嬢が…手を握って見つめ合って…フローラも『イライザさんの不幸は私の不幸だから、絶対に一緒に幸せになりましょう』って…なんか…ほら…」


お父様は、ますます変なことを言った。


「…お父様が何を言ってるか分からないわ…」


「私は、とっても良く分かりましたけどね…」


学園長は、理解出来てるの?


「…ほら、フローラは男嫌いっぽい所があったから……昔はお父様以外の男は嫌いって言ってたし…」


「…それはそうだけど、運命の人に会ったってお父様たちに言ったじゃない。だからお父様だって協力してくれて、今日やっと、その望みが叶ったんじゃないの?」


「…フローラさん、男親というのは色々考えてしまうものなんだと思いますよ…」


…そういえば、さっきからお父様の様子がおかしいのは、私達の結婚が現実を帯びてきたからかな?


「…お父様、せっかくこの日を迎えられたのに、お嫁に行かせたくないとか言わないわよね…? 私、学園長と幸せになって、お父様やお母様にも親孝行するから…」


「…いや、クリストファーがお前の本当の運命の相手なら、それでいいんだよ…」


「フローラさん、貴女のお父様は、本当に「貴女の幸せ」と「私の幸せ」を思って言ってくれているだけです。私達の結婚を誰よりも喜んでくださっていますよ、そうですよね?」


「そうだよ、フローラ。お父様はお前とクリストファーが普通の夫婦として幸せになってくれるのであれば、この結婚には大いに賛成だよ」


男親版のマリッジブルーみたいなものかな…。学園長は同じ男だから理解してるのかな…。


「大丈夫よ、お父様。普通の夫婦以上に幸せになるから…ね? 安心して」


「…そうだね」


お父様は笑って言ったけど、なんかやっぱりいつもと違うな…。まあ、これから徐々に安心させていこう。



それから、私達はスーザンさんが作ってくれた少し遅いお昼を食べて、邸の中を案内された。

学園長に、物置部屋になっている地下室を見せられた時、何とも言えない気分になった…。まあ、もう永遠に物置部屋なんだろうけど…。


それ以外は、全てのお部屋は素敵で、学園長とルカ夫妻の三人しか住んでいないので(庭師やその他は外注してるらしい)使ってない部屋も多かったが、全て清潔でスッキリとしていた。


私の卒業パーティーが終わったら、すぐに結婚証明書が学園長の邸に届くらしい。

なので、卒業したらすぐこの屋敷に住むことになる…。はぁ…楽しみ…。


一応、私がメイヤーを名乗り、後に辺境伯となったベフトン家に未来の子供と一緒に籍に入る事になった。


結婚式は、春休み中に領地の教会で挙式して、我が家で身内だけのパーティーをする予定だ。やっぱり、お母様をあまり公の場には出さずに、領地でひっそりとした方がいいとの判断で。それならお母様も参加できるし。


でも、結婚式にはアナとミラとベルと、都合がつくならイライザ嬢も呼んでいいとの事で、この4人に祝福してもらえたら、それだけで私は幸せだ。


学園長の方は、エイブラム先生と、都合が付けば魔術師長が来てくれるかもしれない。


何というか、幸せすぎて足が地面についてないかのようにフワフワする。


そして、夕食もスーザンさんの美味しい料理を堪能した。


宰相家では、ツインベッドの客間にお父様と泊まらせてもらったけど、今日は別々だ。用意されたお部屋にはお風呂が付いていたので、お風呂に入って寝ようとしていたら、お父様が来た。


「フローラ、寝る前の挨拶に来たよ。今日はお疲れ様だったね」


「お父様こそ、お疲れ様」


「明日は、領地に帰ったらきっとお祝いだろうね…お母様も喜んでくれるだろう」


「そうね」


「じゃあ、おやすみ可愛いフローラ。お父様が出て行った後は、ちゃんと鍵を閉めるんだよ。卒業までは、学生らしく清らかにね」


そう言って、おでこにキスをして、お父様は自分の部屋に戻った。

やっぱり、花嫁の父って色々複雑なんだろうなぁ…と、思いつつ鍵をかけお風呂に入った。


スーザンさんが、冷たい水を水差しごとくれたので、それを飲んで窓から庭を見た。月明かりと外灯に照らされている…素敵なお庭…。春になってバラが咲いたら、もっと素敵だろうなぁ…。


すると、ノックがなった。


「私です、お休み前の挨拶を…と、思いまして」


私は鍵を開けて、学園長を入れた。学園長は入ってくると、鍵をかけた。

ん? あれ…。


「フローラさんが寝るまで一緒にいていいですか?」


「…お父様が、卒業までは学生らしく清らかにって言ってましたけど…」


「それはもちろん守りますよ」


そう言って、学園長は私を抱きしめた。


「本当に私達は結婚するんですね…」


学園長が言う。


「そうですね、もうすぐ、この邸で一緒に住むんですね…」


なんかやっぱり不思議だ…。でも、現実なんだなぁ…。


「髪を下したフローラさんは二回目ですね」


…一回目の時を思い出させないで!! まだ、学生らしく清らかにですよ!!

しかも、お父様もこの邸に泊まってますからね…分かってますよね…。


「制服以外のフローラさんも初めてですね…」


長袖のワンピースタイプのナイトウエアなんて、お父様以外の男性に見せたの初めてですけどね、私も。


「抱き心地がこんなにも違うものなんですね…」


結構、無防備な服ですからね…。暖炉で部屋も暖かいですし…。

学園長も、学園とは違って、タイ付のブラウスと、ズボンという軽装…。


大丈夫かな…。


「口付けても、いいですか?」


「一回だけなら…」


そう言うと、学園長の唇は私の唇をすぐに塞いだ。


いつもは、唇だけなのに、中に入ってきた…。プチ○○監禁の時と同じなんですが…。大丈夫ですか?本当に…。


相変わらず、無駄にスキルが高い…そして、長い…。

ああ、もう…。私は、学園長の胸を軽く叩いた。


学園長は、1分後くらいに唇を離してくれた…。


良かった…と、思ったら横抱きにされて、ベットまで連れて行かれた…。

ちょっと!!


学園長が、横抱きのまま、ベットに座る…。

押し倒されなくて良かった…。


学園長が、私をギュッと抱きしめながら言った。


「フローラさんが寝るまで、添い寝してもいいですか…」


「…添い寝だけですよね? でも、朝に誰かに見つかったら絶対に勘違いされますよ?」


「私はどうせ寝れないと思いますから、フローラさんが寝たら出て行きます」


どうせ…って。なるほど、深くは考えない。()えて。


「…分かりました」


そして、私は現在、学園長に後ろから抱きしめられてベットの中にいる…。


体勢としては辛くない感じだけど、いつもと違うシチュエーションはドキドキする…。何となく、普通に抱きしめてもらった方がドキドキしないかも…と、思って私は学園長の方を向いて、胸に抱きついた。こっちの方が安心するかも…。


「こっちの方が寝れそうなので…」


「…フローラさんが寝てくれるなら、大丈夫でしょう…おやすみなさい」


そう言うと、学園長は私の髪を優しく撫でてくれた…幸せだなぁ…この日までに色々あったなぁ…今日は本当に緊張したし…卒業したらずっとこんな風に…。


気づいたら、もう朝だった。

私の隣に、学園長はいない…。分かってはいたけど、寂しいな…。


私は、普段着用のワンピースを着て、いつもの三つ編みをした。

そして、荷物を片づけた。スーザンさんに呼ばれて、食卓に行く。


学園長はもう座っていて、私のすぐ後にお父様が来て朝食を食べた。

そして、その後、私とお父様は馬車に乗って領地に戻った。


お父様言ったように、我が家はお祭りムードだった。




◇◇◇◇◇◇◇




新学期が始まる前日、寮に戻るとアナとミラが部屋にやってきた。


「フローラ、学園長との婚約おめでとう!!」


「しかも、ご実家は辺境伯の位をいただいたそうね。本当におめでとう!!」


アナとミラが言う。アナとミラも伯爵家の令嬢なので、ご両親は「初春の叙勲」に来ていたんだろう。


「ありがとう」


たぶん、学園中が知っているんだろうなぁ…。なんか気恥ずかしい…。


そして、新学期が始まった。

朝、早速ベルが「フローラ、おめでとう!!」と、言ってくれた。


そして、色々な人の視線を感じつつ、お昼になり4人で食堂に行く。


「もう、卒業も近いわね…なんか、あっという間の4年間だった…」


アナが言う。


「本当ね。それにしてもフローラが婚約しちゃったから、婚約者がいないのは私だけね…」


ベルが少し、おどけて言う。


アナは年上の幼馴染の騎士と婚約していて、ミラは母方のイトコと婚約している。

4人の中で一番身分が高いベルだけが婚約していないのだった。


「ベルに婚約者がいないのは意外よね」


ミラが言うとベルが、ため息まじりに言う。


「私は覚えてないんだけど、3歳の時に婚約の話が合ったらしいのだけど私が泣いて『お父様と結婚するからイヤ』って言ったらしいのよね…それでお父様は『まだ3歳で無理強いすることは無い』って言って、ズルズル婚約者を選ばないのよ」


私は、その光景がありありと浮かんで、思わず笑ってしまった。


ウチの娘もそうだった。

娘が「パパと結婚する」と、言い、幸せそうに夫は「そうか、そうか」と、言って、私も「そうね、パパみたいな人と結婚したら幸せよ」と、言った。


何回、この幸せな会話をしただろうか……。母親だがフォジィ公爵の気持ちが分かる。


そう言えば、私の今のお父様も素敵なお父様なのに、なまじ前世の記憶があるせいで、こういう父娘あるあるみたいな事を言ってあげれなかったなぁ…。


『お父様以外の男は嫌い』って言うのは、またちょっと違うだろうし…。

しかも、もうお嫁に行く事になっちゃったし。チョット申し訳ない…。



そして、午後からの選択授業…。



学園長室に行くと、エイブラム先生がいた。


「今日から卒業まで、お前たちを二人っきりにするのは外聞が悪いから俺も授業に参加する。とは言っても、俺はこの部屋で自分の仕事をするがな」


なるほど…。婚約したからこそ、2時間も二人っきりというのは、要らぬ憶測を呼ぶかもしれない…。


「とりあえず、おめでとう。二人とも目出度(めでた)いが羽目外すなよ。俺だって責任問題になるからな」


エイブラム先生らしいお祝いの言葉をいただいた…。


「それは私もフローラさんも分かってますので」


「そうですね、流石に…」


そう言って、この部屋には先生が残り、私と学園長は隣のいつもの授業の部屋に行った。


学園長は素早く私の唇を奪った。そして、何事もなかったように言う。


「では、授業を始めましょうか」


………ツッコんだら負けな気がする…。






日々は、瞬く間に過ぎて行った…。



次回で本編最終回になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ