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王宮の青い薔薇の娘 計画 10

お父様の本気で、宰相の賛成を得られた後、離宮の王太后の協力を取り付ける計画は以下の通り決まった。


イライザ嬢が会合で仮の案として出していた「聖女の魔法」を、使える私が、王太子とイライザさんと一緒に、離宮の王女を見舞いに行くという案だ。


ここで、王太后に学園長と私の結婚を賛成してもらい、王に口添えしてもらうというミッションだ。


下準備はこうだ。


○王太子直筆の王太后宛ての封筒を用意

○お母様に私達の現状を手紙に書いてもらい、それを宰相家に送る

○それをイライザ嬢が王太子に渡し、王太子の封筒にお母様の便箋を入れる

○王家の家紋で封蝋し、離宮の王太后の元に出す

○王太后の返事を待つ


下準備が整い季節は冬になり、12月の頭にイライザ嬢が放課後、寮の私の部屋に来ることになった。


「王太后からお返事があり、学園長も来て欲しいとの事です。「聖女の魔法」が大義名分なので、問題はないと思います。ならば服装も制服でいいのではないかと言う事になりました。そして、王太后は、お二人に賛成で、アーロンには王に伝言を。学園長とフローラさんと私にはお話ししたい事があるそうです」


「賛成してくれるんですね。私と学園長とイライザさんにお話ですか…」


二人ではなく、三人に話があるのか…。


「では、日時と集合場所をお伝えしますね。学園長にはフローラさんがお伝えください」


日時は、3日後の休日だ。


学園長を乗せた馬車が12時に学園の前に来る。それに乗って王宮に行く。

王宮でイライザ嬢と落ち合い、離宮に繋がる転移門で王太后の元に行くらしい。


郵便省が転移門を管理して、荷物や手紙を配達している事は知ってるし、要所に転移門があるのも知ってるけど、王宮と離宮にもあるのか…。

離宮はかなり王都から離れているし、警備上その方が安全なんだろうな…。


それにしても、今日のイライザ嬢はやけに事務的…。もうすでに、王太后が賛成してくれてるから?



「分かりました。では、3日後よろしくお願いします」




◇◇◇◇◇◇◇




−3日後−


アーロン、イライザ嬢、学園長、宮廷魔術師長、私の5人は王宮の地下の転移門にいた。

門と言っても、厳重に警備されてはいるが、床に魔方陣が書かれている普通の地下室だ。


そうホイホイ使えるわけじゃないんだなぁ…そりゃそうか。

行きは魔術師長が転移させてくれて、帰りは学園長が転移させてくれるらしい…。

学園長スゴイ…。夏には離宮に行っていたみたいだから慣れてるのかな。


「約束の時間になりましたので、発動させますぞ」


そう魔術師長は言って、魔方陣は光った。


「ようこそいらっしゃいました。王太后と王女がお待ちです」


王宮の地下と、ほとんど変わらない部屋に移動し、すぐさま執事っぽい人が声をかけてきた。王女も待ってるって言われると、不思議な感じだ。


執事っぽい人に案内され、豪奢(ごうしゃ)な扉の前に着く。


「王太后様、お連れいたしました」


「お入りなさい」


初めて聞く、おばあ様の声だった。

王太子、イライザ嬢、学園長、私の順で入る。執事っぽい人は下がった。


そこは、日当たりが良く、部屋のほぼ中央に天蓋付のベットがあり、そこに王女が寝ているのがシルエットで見える。


寝室というには、あまりにも大きく豪奢な部屋だった。

応接セットも、かなりの大きさだが、部屋が狭く見えるなんてことは無い。


大きな暖炉の前に大きなテーブルがあり、暖炉側以外には横に長い豪華な椅子があり、暖炉の正面には豪華な一人で座る椅子があった。


アーロンが初めに挨拶をして、全員が終わると王太后が「お座りなさい」と、言った。


豪華な一人用の椅子に王太后。王太后から見て左の長い豪華な椅子にアーロンとイライザ嬢。右側に学園長と私が座った。


「まず、アーロン、ルーカスに伝えなさい。先王が『クリストファーはルーカスから全てを奪う』と、言っていたのは完全に間違いだったと。むしろ全て奪われていたのはクリストファーです。そして、フローラとクリストファーの結婚を認めることは「聖女の魔法」を、王家が手中に出来る最もいい方法だと。それが理解できないなら、二人の結婚を反対しなさい。覚えましたか?」


王太后が、威風堂々と告げる。アーロンは短く「はい」と、返事をした。


何というか…お母様には全然似ていない…。容姿はとても似ているんだけど印象が全く似ていない。

おばあ様…と、呼んでいいのかすら躊躇(ちゅうちょ)するほどの威厳だ。


私と学園長の事を賛成しているとは聞いていたが、私達の結婚は「聖女の魔法」を王家が手中に出来る最もいい方法…まあ確かに、そうだ…。

結婚を賛成されたら、王に恩こそ感じるが(あだ)なそうとは思わない…。


恩がある状態で「聖女の祈り」が、王家に必要になったら協力するだろうし、学園長が発動しても、私が発動した事に出来るし…。


王として統治者として、私達を「叔父と姪」と見るんじゃなく、聖女以来の「聖女の魔法」を発動した貴重な二人として見ろ、という事かな…。

大局を見るって、こういう事を言うんだろうか…。


私達が何も言えないでいると、おばあ様は私を見て微笑んだ。笑うとお母様に似ている。


「フローラ…。まるで、あの子が消えた時の姿ね…。お帰り…と、言いたくなるわ…」


そう言うと、おばあ様の目は潤んだ…。

…そうか、おばあ様は、この20年近くお母様に会っていない……一緒にいたのは、学園長が作った精巧なお母様の人形…。


「フローラ…。あの子は…良い母親かしら?」


『王太后は、ずっと王女に会いたいと思ってるエピソードがゲームにあって…』

イライザ嬢が言っていた事を思い出す…。


「…はい」


それだけしか言えなかった…。おばあ様の20年を思うと涙が勝手に出てきた…。


「…フローラ、貴女は優しい子ね…。あの子は良い母親になったのね…。側に来て…」


私は泣きながら、静かにおばあ様に近づいた。そして、おばあ様の右側に(ひざまず)いた。おばあ様は、ハンカチで私の涙を拭いた。


「…せっかくの可愛い顔が台無しになるわ…」


そう言う、おばあ様の目からも涙がこぼれそうだ…。


「…フローラ、貴女は幸せだった?」


私は、首を縦に振った。すると、おばあ様は、愛おしそうに頬を撫でる。


「…貴女の幸せはクリスがくれたのよ…。だから今度はクリスを幸せにしてあげて…」


とても優しい微笑みだった…。また私は首を縦に振った。

おばあ様は、私の頬を撫でながら言った。


「もちろん、フローラも幸せになるのよ。きっと幸せになるわ、クリスは良い子だもの」


おばあ様は、私の頭を引き寄せて抱きしめた。

私は、声を出して泣いてしまった。


おばあ様は、優しく優しく頭を撫でてくれた。




◇◇◇◇◇◇◇




私は自分のハンカチを出して、懸命に泣き止もうと頑張った。


たぶん、10分くらいは泣いていたかもしれない…。


「フローラ、泣き止んだ? 喉が渇いたでしょう、お茶を頼むわ」


おばあ様は呼び鈴を鳴らした。執事っぽい人が来て、おばあ様がお茶の用意を頼む。ほんの数分で、お茶とお菓子が用意された。


「フローラ、膝は痛くない? 座ってお茶を飲みなさい」


おばあ様は、最初の威厳が嘘のように優しく言ってくれた。

私は再び学園長の隣に戻る。


ふと、正面を見ると、イライザ嬢も目と鼻を赤くしていた…泣いていたみたいだ。

イライザ嬢と目が合って、お互い少し笑った。


多分、私はもっと目も鼻も赤いだろう…。ハンカチで鼻は隠そう…。


「お茶を飲んだら聞いて頂戴(ちょうだい)。クリス、貴方にとっては、辛い話をするわ……。 でも、王妃になるだろうイライザ嬢に、王妃だった私の過ちを聞いて欲しいのよ」


「王太后のお心のままにお話し下さい」


学園長は、そう言った。少し時間を置いておばあ様が語った。


「エレアノーラを身籠もった頃、クリスの母、12歳のクリスティーナが私のメイドとして王宮に来た。あの子は良く笑う、気立ての良い子だった。ルーカスもエレアノーラもあの子に懐いていた。でも、あの子は段々笑わなくなった。おかしいと気づいた時、もう遅かった。あの子は王の子供をお腹に宿していた」


おばあ様は、恐ろしいほどの無表情で語る。


「誰が見ても分かっていた。王はクリスティーナを愛したかもしれない。でもクリスティーナは王を愛していなかった。クリスティーナは王宮を去ろうとした。でも、あの子は頼る人間なんていない。王も離さなかった。そして、子供が生まれた時、あの子は「この子を殺してください」そう言った。妊娠前から、ずっとあの子は満足に食べていなかった…あの子は緩慢(かんまん)な自殺をしているようだった。あの子は自分も子供も生かすつもりは無かったのよ…」


…たった16歳の少女に…今の私達より年下の少女に…こんな…。

しかも、それが学園長のお母様だなんて…。


「でも、私はクリスティーナを説得した。何とかあの子は、クリスに乳を(ふく)ませた。そのうちクリスに愛情を感じたんでしょう。クリスが生まれて半年後、逝く前にあの子は言った『王妃、申し訳ありません。この子を生かして下さい』と……。あまりにも哀れだった……。あの子もクリスも悪くない。悪いのは王で、気づくのに遅れた私。王は、あの子が亡くなると、何事も無かったかのようにクリスを無視した。そんなクリスを守るために、女の子の格好をさせて王宮で隠すように育てた…」


これが学園長の生い立ち…酷すぎる…。


「さらに王は、信じられない行動をした。ルーカスとクリスを徹底的に会わせず、『クリストファーはルーカスから全てを奪う』と、ルーカスに教え込んでいた。確かにクリスは生まれつき魔力も高く優秀だったけれど……。王に抗議しても王は『そう言えば、ルーカスは危機感を持って良い王太子になるだろう。お前が産んだルーカスを大切にしているだけだ、何が不満なのだ?』と。…ここでも私は王を止められなかった」


先王、私のおじい様がこんなにもクズだったなんて…。

宰相が言っていた『王の気持ちは複雑』の正体か…。


「ルーカスには直接違うと何度も言ったけれど、10歳を過ぎると王太子としての勉強や稽古でルーカスに会う時間も限られてきた。王と私とルーカス……三人の溝はどんどん大きくなって、クリスは日陰の身のまま、あの夏が来た」


おばあ様は、初めて表情を出した…汚い物を見るような顔だった。


「エレアノーラが生死をさまよい、クリスが「聖女の祈り」で、救ってくれた日。この日、私は過ちを犯した。娘の為にクリスを犠牲にした。王と全く一緒の醜い過ちを犯した…。クリスティーナを救えなかったのに、罪のないクリスに、まだ14歳だったクリスの全てを奪った。娘を救った恩人を最悪な形で裏切った」


おばあ様は学園長に顔を向け、頭を深々と下げた。


「クリス、私が貴方に言えることは、幸せになって欲しいと言う事だけ…」


おばあ様の話は、あまりにも壮絶だった…だからこそ、許して欲しいとおばあ様は言わなかった。学園長は大丈夫だろうか…。


「何故か私は、皆さんから不幸に思われてしまうんですね…」


学園長はいつもの穏やかな口調だ。


「私の母は残念ながら、先王に不幸にされ不幸のまま死んでしまった。でも、私を殺そうとまでした母は、王太后のおかげで最期は私を愛してくれて、王太后に託してくれた。そして、貴女は現に私を守ってくれたではありませんか。姉上と一緒の教育も受けさせてくれた。本来なら恨んでもいい存在の私を、父である王ですら見捨てた私を」


そして、とても優しい声で言った。


「どうか、顔をお上げください、王太后。私が「聖女の祈り」を発動出来たのは、それだけ姉上が私にとって大切な存在だったからです。貴女が奪ったと思った物に何の価値も感じていません。そして、過ちなら私も犯してしまいました。貴女の可愛いお孫さんをも道連れにして…」


「そんなに気に病まれるなら、私が王になったら叔父と姪の結婚を認めましょうか?」


今までの空気を、アーロンが実にあっさりと変えた…。

おばあ様も驚いたように顔を上げた。


「どう考えても一番悪いのは先王のおじい様でしょう。一番の被害者は学園長の母上と学園長だ。我が国だって昔は叔父と姪の結婚は合法でしたよ。それに、学園長と王女は腹違いの姉弟じゃないですか。学園長とフローラさんは「聖女の魔法」を発動した者同士ですから、きっと生まれてくる子は素晴らしい才能に恵まれ、この国を発展させてくれる人物になるでしょう。ならば法律を変えるくらいで、お二人の悩みが消え幸せになれるなら天国の学園長の母上も喜んでくださいますよ」



アーロンの言葉の…既視感(きしかん)…これは…。

そう思ってイライザ嬢を見ると、微笑まれた。


そして、イライザ嬢は令嬢の鏡らしく品格を持って王太后に向かって言う。



「王太后は、私に自分の過ちを聞いて欲しいとおっしゃいました。なので、聞いた感想を述べさせてください。私は、運命というのは時に残酷であり、それでも希望も与えるのだと思いました。先王が犯した過ちは非難されるべきことです。ですが、その過ちが無ければ学園長は生まれてこず、学園長が生まれてこなければ、王女は17歳で亡くなっていて、フローラさんは生まれてきません。二人が生まれてこなかったら「聖女の魔法」は、ずっと伝説のままでした。ならば私達がすべき事は王家に関わる「負の遺産」を消し去る事です」


イライザ嬢は続ける。


「それは今しかないのではないでしょうか?  これ以上、諸悪の根源でも無く、人を傷つけた訳でも無く、稀有(けう)な才能を持つ善良な二人を苦しめる事は、何の為・誰の為になるのでしょうか? むしろ、国の損失にしかならない。ならば、未来の王妃として未来の王であるアーロンと共に、国の為・王家の為に「負の遺産」を消し去ります。それが唯一、過去の罪と被害者に報いれる事ではないでしょうか?」


「かつての王と王妃と王族が犯した過ち「負の遺産」は、未来の王と王妃である私達が全て清算し解決します」


イライザ嬢の後に、アーロンが言った。






最後は、アーロンとイライザ嬢の独壇場になった…。


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