王宮の青い薔薇の娘 計画 1
学園長の大き過ぎる犠牲の上に成り立っていた私達の幸せ。
学園長はそれをお母様にも私にも知られたくなかったはずだ。
知ってしまえば、今までの幸せに罪悪感を持ってしまうと分かっているから。
彼はあくまでも私達の幸せを守り、一生一人で生きていくと決めている…こんなにも大きな愛で私達を守っているのに、何の見返りも求めずに…。
何も言えないでいると、お父様が話し出した。
「フローラ、クリストファーだけがお前の幸せを守れるわけじゃない。 お父様とお母様だって出来るさ」
お父様は、優しく笑ってくれた…けど…。
「お前の幸せは、クリストファーと結婚する事だろう? だったら、クリストファーもそう思えば良いんだ。だって、お前の幸せがクリストファーの幸せなんだから」
…お父様…?
「それにはまず、クリストファーをフローラは完全に陥落させないとね♪ お前を諦めるなんて出来なくしたらいい」
ショックを受けていた私には、意味が解らなかった。
「……え?」
「フローラ、期限は12月頭くらいまでだな。それまでにクリストファーを完全に落としなさい。そうすれば、クリストファーを含めた全員が幸せになれる」
お父様…チョット何イッテルカワカラナインデスガ…。
「お父様もお母様も覚悟を決めて本気になる。だから呆けてないで、お前も本気になりなさい」
お父様は、快活な笑顔をして言った。
何が始まるんだろう…。
「でも、清らかに落とすんだよ♪」
お父様は、より困惑するようなことを言った。
「……」
「フローラ『私達に楽園を与え守ってくれた彼に、それに似合う幸福と愛情を与える』と言ったのはお前だよ。言った言葉には責任を持ちなさい。大丈夫だ、フローラくらい魅力的な子に落ちない男はいないから。フローラが本気を出せばね♪」
お父様…楽しそうなんだけど…。
…なんだろう、さっきまでのシリアスモードが無かったようなお父様…。
「そうね、クリスはフローラを諦めようとしてるのね、それじゃあ皆が幸せになれないわ。フローラと私達の本気をクリスに見せて、皆で幸せに暮らしましょう♪」
お母様まで、変なテンションになってる…。
繰り返しますが、さっきまでお母様泣いてましたよね…?
シリアスモードでしたよね?
「そうと決まれば、早速行動開始だ!! その前に、フローラの帰省祝いだね♪」
「そうね、今夜はフローラの好きな物ばかりだものね♪」
…………お父様とお母様、薄々気づいていたけどバカップルなのかな…?
さっきまでの悲壮感との落差があり過ぎて、いつもと同じテンションの両親が正解なのか…と、思ってしまう。
さっきの話は大したことじゃなくて、明るく話すことだっけ?あれ?
いい具合に混乱した私は、私の好物を作ってくれたカールの料理を、いつも通り美味しく頂いた。
お父様とお母様のテンションのおかげで、普段通りカールの料理をデザートまで堪能できてしまった…。
◇◇◇◇◇◇◇
そして、狐につままれたような状態の私は、お風呂に入って自分の部屋で寝る用意をしていた。
「フローラ、少し良いかな?」
お父様がノックして入ってきた。
「お父様、どうしたの?」
「お父様から、フローラに助言しようと思ってね」
そう言って、ふんわりと笑うお父様は前世の私より年上に見えないほど若々しい。
「フローラ、悩むことは悪い事じゃない。お父様だってこう見えて悩んだ事はたくさんある。クリストファーの捨てた物にどう報いるか、王女であるお母様をこんな田舎に閉じ込めている事、本来なら高貴な血筋であるお前の将来の事。悩むネタなんて尽きないんだよ」
確かにそうだ。お父様は悩みなんて感じさせないほど、いつも明るかった…。
真実を知った今はお父様の明るさの意味が違って見える。
「悩んで悩んで、何が正しいのか間違っているのか何度も何度も考えた。お父様に出来ることは何か。でも、いつも辿り着く結論は『お母様とフローラの幸せ』なんだよ」
…お父様…そうだ、お父様だって今までずっと守ってくれていたんだ。
私とお母様を…。
お父様と学園長二人が力を合わせなければ、私達の楽園は完成しなかった。
「フローラ、お前は今日『お父様とお母様の元に生まれてきて、とても幸運で幸せだった』って言ったね。お父様とお母様の生き方は身勝手で正しくない。 でも、お前がそう思った事、それがお父様とお母様にとっての正解なんだ」
お父様は私の頭を撫でながら言う。
「いくら悩んでも「クリストファーを幸せにすること」これ以外の答えは出ないよ。そしてクリストファーの幸せは「フローラの幸せ」だ。なぜなら、クリストファーが一番愛してるのはフローラで、フローラが一番愛しているのはクリストファーだからだよ。それが一生変わらない想いなら尚更だ。重くて深い悩みだからこそ忘れちゃだめだよ。唯一の答えが出ているのに悩みに溺れちゃダメだ」
…お父様…。お父様が今までどれほど深く悩んだか分かる言葉だった。
私の目からは熱い涙がこぼれた。本当に、お父様とお母様の元に生まれてきて良かった…。
「お前たちの答えは万人の正解じゃない。だからこそ迷う、何度でも。でも、結局は人生明るく幸せになったもん勝ちって事だ、自分の人生だからね。…フローラ、お父様もお母様もお前の味方だ」
前世で私の家族は敵だった。友達や夫がそこから救ってくれた。
でも今は…私の両親は私の味方だ…決して正しい道じゃないからこそ、それがとても心強い…今度は私が彼を救いたい。
泣いている私をお父様はそっと抱きしめた。
「だからフローラ、清らかにクリストファーを落とすんだよ♪」
…お父様…やっぱり落とすのね…。
…でも、こんなお父様だから、お母様は魅かれ、私は何の疑問も持たず幸せに暮らせたんだろう…。
領地の統治も成功していて利益も出ていて豊かで平和なタラッタアグロス。
有能で明るく優しいお父様。私の親不孝な望みさえ明るく呑み込んでくれた。
「ふふっ…お父様…大好き」
「お父様もだよ。フローラはフローラにしか出来ない事をしなさい。 そしたら、お父様とお母様がフローラとクリストファーを幸せにしてあげるから」
「うん、ありがとう…頑張る」
「お父様とお母様が全力で頑張るから、フローラは学生らしく頑張るんだよ」
…お父様…。
学生らしく、清らかに落とすのね…結構難問なんだけど…。
「…分かった、おやすみなさい」
「おやすみ、可愛いフローラ」
色々な感情を抱え私はベットに入った。
お父様、お母様…。
バカップルっぽいって思ってゴメン…。




