王宮の青い薔薇の娘 真実 4
私は、新しいお茶をメイドに頼み、3人の紅茶を入れなおした。
「あの子は、クリスはフローラと同じ気持ちなの…?」
お母様が弱々しく聞く。
「…そうだと言ったら、お母様は学園長を軽蔑する? 今まで私達を全力で守ってくれた彼を…」
意地の悪い言い方だ…分かっている。
「……」
お母様は何も答えなかった。
私も娘を持つ母親だった。酷なことを聞いてるのは分かっている。
でも、彼は本当に私たち家族の幸せの為に尽くしてくれていた。
彼は幸せになる権利があるはずだ。
「お父様、お母様、私達はこんなに幸せな家族なのに、それを与えてくれたクリストファー・メイヤーは幸せになってはいけないの? 彼は王子として生まれたのに隠され平民として扱われてきた。でも、王子である事実は消えないから彼は一生独身でいようとしていたのよ? こんなの不公平だし理不尽だわ」
さらに続けた。
「彼が「聖女の祈り」を発動させなければ、お母様はこの世に居なかった、私だってそう。そして、彼が魔法でお母様を隠してくれなければ私たち家族はこんな風に幸せに暮らしていけなかった」
「彼の立場も、彼が我が家を家族を守ってくれたのは充分知っているよ。だけど…私達が許しても、王がお許しにはならないだろうね」
お父様が苦しそうに言う。
「フローラ、王は全て知っているの。結婚には王の承認がいる…王はクリスを昔から良くは思っていない。まして妹の子供となんて…」
「それこそ、王はクリストファーと結婚させるなら、宰相の息子と結婚させようとするだろうね」
分かってる…。
「…お父様、お母様……宰相の息子と結婚するくらいなら私は死んだ方がまし……それくらい大嫌いなの。でも、お父様とお母様を悲しませたくもない。皆が幸せになれる方法と努力を今こそするべきだわ。二人は、結婚出来て幸せだったでしょう? 私も学園長とそうなりたいだけなの」
「だが、それは難しい事だよ…」
「でも、お父様、男爵のお父様と王女であるお母様が結婚するのも難しかったはずだわ。でも、学園長が味方してくれたから結婚出来た。今度はお父様とお母様が味方をして…!!」
お父様とお母様は苦い顔をする。
二人にこんな顔をさせたくなかったけど、ここで両親を説得出来なければ何も始まらない。
「ごめんなさい、お父様、お母様。難しくて複雑で辛い事だって分かってる。でも、私達に楽園を与え守ってくれた彼に、それに似合う幸福と愛情を与える事。それを私達は真剣に考えないといけないと思うの。その前に、お父様とお母様の話を聞かせて。彼が「聖女の祈り」を発動した後の事を…」
私は頭を下げた、思いは必死だった。
「…クリスが貴女の叔父だからと、この話を終わらせるなら、王女と男爵の時点でお母様はお父様を諦めるべきだったのよね。私達は諦められなかった。同じようにクリスもフローラも」
お母様が言った。
「お母様、学園長はクリストファーは、お父様とお母様が反対したら諦めるわ。 一生私を……私達を守って一人でいるつもりよ。だからこそ私は諦めない。諦める理由を私は認めたくない。どうしようも出来ないの。だって、お父様とお母様の子供だから」
そう言って、私は笑った。それが両親にどう映ったかは分からない。
「なら、フローラの親である私達もフローラの親らしく行動するべきだね…」
ほろ苦い笑顔をお父様は返してくれた。そして母は、過去を話してくれた。
「…話はもっと昔の話になるわ。毎年夏になると、貴女のおばあ様と私とクリスは離宮に遊びに行っていたの。3歳下のクリスは魔法で女の子の姿をして、私の侍女だという事にしてね。そこでお父様に出会ったの。身分は明かさなかった。私は夏が楽しみだったわ。でも17歳の夏、離宮で原因不明の病に倒れたの。国中の医師や魔法医師にもどうにも出来なくて、皆が諦めた時、クリスが「聖女の祈り」を発動して私は助かったの」
イライザ嬢の話では、回復した後、お父様と海で運命の出会いをして失踪って言っていたけど違うのか…。
「私自身、死ぬと思った時、フェイに…お父様にどうしても会いたかった。好きな人に好きって言えないまま死にたくなかった。死に直面して、自分が何を一番望んでいるかハッキリ分かったの。そして、回復した時、いつも会っていた約束の時間に秘密の海に魔法で転移した…。いつもは黒い髪に変装してクリスと二人なのに…銀髪で寝間着で一人現れた私にお父様はビックリしていたわ。そして私は帰りたくないと、一生フェイの側にいたいと駄々をこねて…」
お、お母様…確かに、イライザ嬢の言ったような状況にも見えるけど…。
「お父様は、私を男爵家に連れて行った。お母様はいつものように髪を黒くして。男爵家はすでに、お父様のご両親はお亡くなりになっていてお父様が当主だった。お父様は屋敷の人間に、お母様は裕福な商家の生まれで両親を亡くして途方に暮れている、そんな身寄りのないお母様を後妻に狙ってる人がいるから匿うと説明した…。お父様が夏にやってくる黒髪の少女に思いを寄せているのは皆が知っていたから…男爵家の皆はお母様を守ってくれた」
お母様は一口紅茶を飲んだ。
「そして、一週間後、クリスが男爵家に訪ねてきたの。魔法でいつもの侍女に変装をして…。『王妃のご威光で姉上は病気で一生寝たきりという事になりました。離宮には私が作った姉上にそっくりな人形があるので安心して下さい。だから、姉上は新しくエリー・ベフトンとして幸せに暮らしてください』って。『ただし、髪はいつも黒く染めること、社交場に出ない事を約束してください』愚かな私は単純に信じ喜んで受けた…。その後クリスは、私の身内として男同士の話があるとお父様と二人になった…」
お母様は美しい顔を歪めた。
「ここからは、お父様が話そう」
お父様は重々しく言った。
「フローラに彼は魔法で、私達家族を守ったと言ったんだね? 実は彼から短い手紙が来ていたんだ。『姉上と私の関係をフローラに知られてしまいました。昔、姉上にした説明をしてあげて下さい。それとフローラをどうか正しい幸福に導いてください』と。正しい幸福とはフローラが望んだモノの真逆だろうね」
手紙…学園長が…。
「フローラも気づいたようにお父様とお母様が反対したら彼は諦める。むしろ反対して欲しいという手紙をよこした。一生、私達を守って一人でいるつもりなんだね」
…お父様の言う通りだろう…だとしたら…。
「フローラ、お前は言った『私達に楽園を与え守ってくれた彼に、それに似合う幸福と愛情を与える』と。だからフローラも知らなければいけない。クリストファーがあの日語った、お母様とお前には隠しておきたかった真実を。………彼は、魔法で私達を守ったんじゃない」
学園長が、お父様だけに語った「聖女の祈り」を発動した日。
お母様を助けた日の真実…。




