王宮の青い薔薇の娘 真実 1
その日は授業にならないまま、終了の鐘が鳴り学園長と別れた。
私と学園長は姪と叔父。
その一点のみで私達は結ばれてはいけない関係…。
政治的に上層部に歓迎されない所の話じゃない。
ニールが婚約者として立候補しようがしまいが私が王女の娘と公にバレようがバレまいが関係なかった。
隠しキャラが病む要素は、私が王女の娘であるという覆せない事実。
姪と叔父だからだ。
でも、学園長は私を隠さないと言った。
偽物の楽園は私を壊すと…。
やっぱり、私が思った通り学園長は私を○○監禁(○○が言えない…)なんて考えていなかった。
イライザ嬢が攻略対象者との関係性を変えれた様に、私も隠しキャラである学園長との関係性を変えれたようだ。
なら、本物の楽園を作りたい。
私だって学園長を全力で守って幸せにしたい。
私という人間は生涯でたった一人の男性しか愛せないんじゃないだろうか。
前世での初恋は夫、現世での初恋は学園長。
そして、夫も学園長も私を思ってくれていた。これは本当に奇跡なのだ。
それが許されない関係でも、私は奇跡を手放したくない。
3度目の奇跡はないと確信できるから…。
前にイライザ嬢に奇跡が起きたかもしれないと言った。
隠しキャラを好きになりそうだと。前回は、それでイライザ嬢の不安を消せた。
でも、イライザ嬢が学園長と私の真実を知れば両想いであるからこそ、イライザ嬢は悲しむし苦しむだろう。
そこはニールの言う通りだ。
ニールは私達の関係を知っている、まだイライザ嬢には言っていないようだが…。
前回の会合でイライザ嬢は自分のせいだと思ってしまった。そうでは無いと言いたい。でも、本当の理由もイライザ嬢を傷つける。
イライザ嬢を安心させるために私は『貴女がバッドエンドだと思う結果になったとしても、私は幸せだと思うかもしれませんよ』と言った。
実際、私は監禁されてもいいと思った。誰のルートに入るより、私はこの隠しキャラルートに入って良かったと思ってしまっている。
でも学園長はそれをしないと言った。監禁ルートは無くなったが、逆に何が私たちの幸せのゴールになるのか…どうやって本物の楽園を作ればいいのか…。
イライザ嬢が私を不幸と思えばイライザ嬢は苦しむ…どうしたら…。
それにしても、イライザ嬢はニールがドSから優しくなったと言っていたけど残念ながら私に対してはドSだった。
イライザ嬢は隠しキャラルートを私の為に回避させようとしてくれた。当然だ。
でも、ゲームと違うこの世界においては…正直ニールルートが私にとっては不幸だったろう…。
ニールはあまりにも、前世の兄に似すぎている。
それは、私にだけ当てはまる事情だ。イライザ嬢には知る由もない。
今まで、お父様とお母様に真実を聞くことを避けていた…でも、今こそ聞くべき時なのかもしれない…。
夏休みに勇気を出して聞いてみよう。
ニールが強行してきたら、ベルに甘えよう。
イライザ嬢も私の味方をしてくれているようだが、ニールと立ち位置が違いすぎる…私のせいで兄妹仲が悪化しないように気を付けなければ…。
◇◇◇◇◇◇◇
あれからニールが初めて話しかけてきた時、私は彼に釘を刺した。
「イライザさんには、私と学園長の関係を話して無いでしょうね?」
「まだ話して無いよ。君がご褒美をくれるなら喜んで従うよ」
いつもの笑みだ。
「おかしなこと言わないで。イライザさんの不幸が貴方の望みなら言えばいい」
「……」
ニールの笑みが少し硬くなった。
「私の話はそれだけ。もう私に関わらないで」
「宰相家の嫡男に、そんな態度でいいの?」
「勘違いしないで。王は貴方のお父様と私のお母様なら、宰相であるお父様を優先するかもしれない。でも、「聖女の魔法」を発動した私と、ただの宰相の息子ならどうかしら? それくらい理解すべきよ、未来の宰相さん」
前と今で30年以上、兄やニールのような人種と関わってなかった分、久しぶりの恐怖は過剰なほど私にダメージを与えた…。
でも、全てを理解した後に冷静になってみれば、ニールへの恐怖は消えた…。
消えた後はどうしようもない怒りと嫌悪が沸いた。
二度とニールの脅しになど乗らない。
「……」
「さようなら、永遠に」
こんな不躾な態度は初めてしたがドSには強く出た方がいい。流石のニールも張り付いたような笑顔しかしなかった。
それ以来、ニールが話しかけようと私は笑顔で無視した。
そして、学園長と私の関係は変わっていた。
普通に授業をして、授業が終わると学園長は私を抱きしめた。
数分もない…でも、それが…とても甘美で嬉しい時間だった。
学園長への思いが強くなるほど、ニールの存在が微小に思えた。
◇◇◇◇◇◇◇
ニールが私に話しかけなくなった頃、今度はソルが話しかけてきた。
移動教室で私が一人で学園長室に向かっている時だった。
「フローラさん、申し訳ない。放課後、大事な話をしたいのでイライザと会っている東屋に来てくれないか?」
…大事な話?
「…分かりました。放課後、東屋で…」
そう言うと、彼は「ありがとう」と言って去って行った。
学園長室に入ると、私はソルに東屋に呼び出されたことを学園長に話した。
「お母様と、学園長の話でしょうか…?」
「ソルさんは宮廷魔術師長の養子ですし、宮廷魔術省にも出入りをしているようですから、姉上の絵を見て貴女の正体は分かっているでしょうね。私の事は宮廷魔術師長が知っているので、もしかしたら聞いているのかもしれません」
ニールが言っていた、ソルとアーロンは王女の顔を知っていると。
「それに、彼は魔力と魔法に人一倍興味を持っていますから…貴女にも興味があるのかもしれないですね…」
学園長は少し自信なさげに言った。
私は彼が攻略対象者だと知っているので、少し不安なところもあるが…今まで3回も誘いを断ってきたし、大事な話というのがなんなのかも気になる。
「彼の言う大事な話が気になるので行ってきます。明日ご報告しますね」
私はそう言って会話を終了し、授業を始めてもらった。
その日の授業終了後の抱擁は…。
いつもより少し長かった。




