王宮の青い薔薇の娘とそれぞれの最善 6
ベルと別れ、アナとミラと私で寮に戻る。
寝る前に私は考えた。
私と学園長は、ベル達から見ても「身分・立場・政治的思惑」を考えてもベストカップルと判断された。
そして、3人から見て私と学園長はお互いに好意を持っていると思われている。
現時点で、学園長が私を凌辱監禁する理由が無い。だって病む要素がないもの。
不安要素は「王女の娘」という立場が公になった時、何か激変する出来事が起こるのかどうか…。
それにしても、私は学園長との恋愛は発展していないと思っていたけど、親友たちには恋が始まっていると思われていた。
結構な衝撃がある。
先生としては学園長が好きだ。
先生として学園長の私への愛情は感じる。
どちらも疑問は無い。
でもこれが、恋愛感情だと言われると…分からない。
前世で奇跡的に結婚できたが、結婚出来た=恋愛の達人というわけじゃない。
前世でも告白されたことはあったが、興味が無かったし断った。今思うと告白されるまで好意を持たれてるなんて気づかなかった。
そういえば、夫と出会った時、夫は頼りになる上司だった。
上司として好きだった夫に『転勤することになってしまった。一緒に来てくれないか?』と、言われて初めて男性として夫を見た。
告白されるまで、夫の私への好意は部下に対するものだと思っていた。夫は部下に慕われる性格だったから尚更。
でも、男性嫌いの私が尊敬するほど好意を持った夫に告白されて、私は嬉しかったのだ、ドキドキしたのだ。
そして、彼が転勤してしまえば会えない事に悲しみ泣いた。夫と離れる事が無理だった。
大事な友達と離れた場所に住むことになっても、それでも夫と一緒にいることを選んだ。
夫以外でそんな感情になったことは無かった。恋愛経験のある人が見たら、私の気持ちは上司への敬愛ではなくて、夫に恋をしてる事は明白だっただろう。
「男性を好きになるわけがない」と、思っていた私には気づけなかっただけで。
夫が私のどこに恋をしたかは良く分からない。
夫と会えなくなる、そのタイミングでプロポーズされて、やっと自分の初恋に気付いた私。
そんな鈍感な私にとって、夫と結婚出来たことは奇跡なのだ。ありえないほどの。
そして、夫は本当に優しかった、事故に遭う日まで誰よりも。
今回もそれに近いのかもしれない。
感じた気持ちに正直になろう…そう出来ていると思っていたけど、やっぱり親友達に言われるくらい私はまだまだ鈍感であり、先入観に囚われていたのだろう。
不思議なものだ。前世も今生も、私と関係ない人達の好意や恋愛模様は分かるのに、自分の事となるとさっぱりだ。
学園長は私のどこに魅かれているんだろう?
私は学園長に夫と同じ気持ちを感じているんだろうか…?
「知らぬは本人ばかりなり」ミラの言葉を思い出し、目を閉じた。
◇◇◇◇◇◇◇
4人でカフェに行った次の日、午後からの選択授業に私は久々に緊張した。
「失礼します、フローラです」
「はい、どうぞ」
いつものように、優しい笑顔の学園長。いつもと同じなのに違うように見える…はぁ…。
学園長の席に座って、教科書とノートと筆記用具を用意する。
平常心、平常心。
そして、普通に授業が始まり、終わって休み時間。
あと、1時間頑張ろう…そう思った。
「フローラさん、今日は元気が無いように見えますが…何かありましたか?」
「!!!!」
マンツーマン授業も半年以上になると、気づいちゃいますか…。
そんな悲しそうな顔で聞かないで下さいよ…。
そんなにいつも張り切って授業受けてないと思うけど…。
「特に、何もないですよ…」
私は笑顔で言う。
学園長は紅茶を入れてくれた。
「…今日の笑顔は、いつもと全然違いますよ? 何か困っていることがあれば相談にのりますよ?」
……そうなんだ、私の笑顔……違うんだ。ベル達にも言われた学園長への笑顔ってどういう感じだろう…自分じゃ分からない。
「…最近ちょっと、色々と考えなきゃいけないことがあって…最終学年ですし…」
まあ、本当だ。
「…そうですか。フローラさんは最近、呼び出しが多いみたいですが、大丈夫ですか?」
「…呼び出し…ですか」
ラブレターの事か。
「どなたにしようか悩んでいるのでしたら、相談にのれますよ。この学園の生徒は全て頭の中に入っていますし…」
学園長は爽やかに笑った。
普通にバレているんだなぁ…そして全生徒を把握してるってスゴイ。
「いえ、全てお断りしているので…」
「…そうですか。フローラさんは女子生徒とは仲が良いですが、男子生徒とは全く関わりがないですね」
「恋愛より、友情派なだけですよ」
「もしかして、領地に想う方がいらっしゃるんですか?」
スゴイ、爽やかな笑顔なんだけど、先入観のせいか緊張する…。
「いえ、全く」
「フローラさんは、あまり男子に興味が無いんですか?」
「そうですね、同級生や年下には興味が無いです」
「…では、年上がお好きなんですか?」
なんか嬉しそうな笑顔に見えるのは気のせいかな…。
「まあ、そうですね…」
チョット苦笑いになったと思う、嘘は言わないことにしているからなぁ…。
「もしかして、お父様の様な方が良いというパターンですか?」
うーん、お父様は、結構美形だし優しいけど…。
「父がタイプというより、両親のような夫婦に憧れますね」
「…お母様とお父様は仲がよろしいんですね」
優しい笑みを学園長は浮かべている。
「そうですね、いつも新婚さんのようです」
苦笑すると、学園長もおやおやというような笑顔になった。
「それは羨ましい」
そう言う学園長の笑顔は、とても綺麗だった。
チョット際どい会話だったかもしれないけど、変に嘘をつく事はしなかった。
そんな会話だったけど、何となく楽しいのは学園長を好きだからなのかな…。
休み時間明けの授業は、割と普通に出来たと思う。
◇◇◇◇◇◇◇
授業が終わって、寮に戻る時、アナとミラに「選択授業大丈夫だった?」と聞かれ「…おかげさまでビミョーでした」と、おどけて答えた。
そのまま、寮でアナとミラと夕飯を取った。
「微妙って、どうしたの?」
アナが食堂なので固有名詞は省いて聞く。
「あんな話をした後だからなのか、なんか笑顔がいつもと違うって言われた」
「さすがね!!」
ミラが言う。
「フローラの心からの笑顔って女の私達でさえ特別に思うもの…それが見れなくなったら気になさるわよね~」「そうそう」
アナとミラが言う。
「そう言われても、自分の笑顔なんて別に…」
「あらまあ、何言ってるのよ。今、フローラに純粋に猛追をかけている方は、私達に向けてる笑顔を自分にも向けて欲しいって思ってるわ」
アナが言う。
「ねえ、フローラって男性に鈍感なだけじゃなく、自分の容姿にも鈍感なの?」
ミラが呆れた様に言う。
「容姿って…結構地味な雰囲気だと思ってるけど?」
「王宮の青い薔薇」と呼ばれた、お母様にそっくりだから造作はいいのかもしれないけど、全体的に髪型や雰囲気は真面目で地味でヒロインオーラゼロだと思ってる…。
「「…フローラ…」」
ミラとアナがため息をついた。
「…フローラは真面目だし、しっかりしてて凛とした美があるけど、だからこそ私達だけに見せる無邪気な可愛らしい笑顔は特別なのよ」
「そうよ、女の私さえ、フローラと初めて会った時から、貴女の笑顔に魅了されて、貴女の人柄にも魅了されて、能力にも魅了されてるのに」
「もし男性にこの笑顔を見せたら、絶対に落ちちゃうわよ?」
「しつこい様だけど、フローラの笑顔は女の私も落ちちゃうわ」
ミラとアナが交互に言う…。
そんなに?でも、心から笑顔になれるのはアナとミラとベルとイライザ嬢だけ…
ああ、親友たち曰く学園長にもか…。
「…そこまで言われると、もう笑えないかも…」
チョット、本気でどうしていいか分からない。
「それは、私達も寂しすぎるわ~何とか持ち直して!!」
「そうよ~フローラの笑顔を見ると幸せな気分になれるのに~」
「…もう分ったから、勘弁してください…」
アナとミラに褒め殺しにされ、何とも言えない気分の夕食だった。
◇◇◇◇◇◇◇
自分の事って分かってるようで分かってないものなんだなぁ…。
前世の記憶があるから、生き方や勉強の仕方はアドバンテージがあったし、同い年の子より「理解している」という気持ちがあった。
良く考えたら、私はこの世界のヒロイン、造作はいいんだよなぁ…地味でも。
ミラとアナとベルと一緒にいると、楽しくて精神年齢も学生に戻って素直に笑えた。
それが、ヒロインオーラを放っていたというのか…。
「私の笑顔」は「不良が捨て猫に見せる優しさ」所謂ギャップ萌えの一種かな?
これは予想外。
だって、攻略対象者には全く効いてなかったし。
むしろ、攻略対象者の側には、ヒロインよりヒロインオーラがあるイライザ嬢がいるからなぁ…容姿端麗で性格もよくナイスバディ。
さすがにイライザ嬢狙いの無鉄砲さんはいないだろうけど、狙ったとしてライバルが見目麗しい、身分も能力もある攻略対象者ばかりだしねぇ…宰相の娘で王太子の婚約者だし…。
そう考えると、イライザ嬢よりは高嶺の花感がない私の方がイケると思いやすいのかな~うーん。
伊達にヒロインじゃなかったのか…。
まあ、そうじゃないと、学園長も私を好きにはならないか…学園長もスペック高いし…モテモテだったそうだし…。
何というか前世の記憶がある分、他人事のようだなぁ…。
ギャップ萌えヒロイン……なのか…。




