王宮の青い薔薇の娘とそれぞれの最善 4
寮に戻って、私は考える。
イライザ嬢の不安は消せたと思う。これが達成出来たのだから、私の未来がどうなってもイライザ嬢は大丈夫だ。
「聖女の魔法」と「ヒロインの出生の秘密」が、大勢の人にバレるのが隠しキャラルート。
「聖女の魔法」は全校生徒、王宮関係者にバレている。私の正体は今日だけで、王・宰相・宮廷魔術師長には確実にバレている。
今日案内してくれた騎士?だって、王女の絵に私がそっくりだと気付いたかもしれない。
今後も、魔法で有名になった私を見て、王宮にあるお母様の絵、記憶の中のお母様を思い出す人も多いだろう。
学園の関係者も、お母様が学園出身なら覚えている人もいるだろう。
「聖女の盾」を発動する前なら、他人の空似と思ったかもしれないが、伝説の魔法を発動した王女にそっくりの私に王家の血筋を感じる人間も少なくないだろう。
そうなれば、私の父はすぐ分かる、そして私の母が社交界に出ておらず、平民出身で過去も定かではない人間だという事も。
男爵と平民の血を引く娘が、どうして王女にそっくりで「聖女の魔法」を発動させるほど高い魔力を持つのか…。
そして王女は17歳で病気になって以来、離宮に引きこもり誰も姿を見てないという事実。
答えを導くのは、そう難しい事ではない。
お母様が学園出身なら、お母様と歳が近い学園長やエイブラム先生も、私の正体に気付いているかもしれない。
この状況で、学園長という攻略対象者と比べても遜色のない人物が、私に急に関わりだした。
しかも「聖女の祈り」を発動したほどの高い魔力の人間。しかも、それは一部の人しか知らない。
「聖女の盾」を発動した私と同等、もしかしたらそれ以上の魔力を持つかもしれない人間。
私を監禁して、誰にも発見されない状況も作れる学園長は隠しキャラだろう。
「王女の娘」で「聖女の魔法」を使える私は、敵国や、この国の野心家にとって魅力的な存在。
それらから守るために凌辱監禁するという隠しキャラ。
私を守る力もあり、伯爵で学園長という立場の人間が監禁までする必要があるのか?と思っていたけど、ゲームではヤンデレ設定だからなのか…。
実際の学園長は、立場と身分と能力も印象もヤンデレという病む要素を感じなかったけど…。
もし、ゲーム通りヤンデレだったとして
私が学園長を好きにならない、けど学園長が私を守りたいから監禁
私も学園長が好きになるけど、誰かに取られると嫉妬&守るため監禁
両想いでも何らかの事情で結ばれない、誰かに取られるなら自分が守ると監禁
そんな感じなのかな?
隠しキャラルートに入ったとは言っても、私の性格やイライザ嬢の将来はシナリオから外れている。
アナとミラとベルと言う、ゲームでは登場しない人間が、今の私には重要な人物になっている。
本当にゲーム通りの凌辱監禁エンドなのか?
ゲーム通り学園長は私を好きなのだろうか?
ゲーム通り私を昔から密かに思い、見守っていたのだろうか?
そして私は、夫に雰囲気が似ている学園長と1年以上側で学んで、学園長に対して何某かの感情を持つのだろうか?
この状況で、私はどう学園長と向き合うべきなのか。
考えすぎて、頭がパンクしそうだ。
◇◇◇◇◇◇◇
パンクしそうなほど考えた結果、普通に過ごそうと決めた。
私は普通の生徒、学園長は隠しキャラじゃなく先生として普通に接しよう。
そして、その時の感じた気持ちに正直になろう、変に嘘をつかずに。
隠しキャラルートの詳細も、今のいる世界の未来も分からないのだから、小細工をしてもしょうがない。
未来が分からないからこそ「今を積み重ねたのが未来」なのだから。
その結果は自己責任だ。
そう考えると、楽になった。
これから1年以上、マンツーマンで学園長と勉強するんだから、それくらい楽観的にならなきゃ精神が持たない。
◇◇◇◇◇◇◇
それからの選択授業は初日と比べて、格段に緊張せず過ごせた。
選択授業は基本的に午後の2時間なので、休み時間には学園長が紅茶などを入れてくれた。
学園長に来賓や出張のある時は、普通の魔法学科の選択授業に行ったりもしていた。
学園長と私は仲がいい、生徒と先生という感じだろうか。
◇◇◇◇◇◇◇
学園長とのマンツーマン授業に慣れてきた頃、最終学年に私達は進学した。
ここで、イライザ嬢の言っていた未来と違う現象が起きた。
イライザ嬢は以前、イライザ嬢と攻略対象者と私は、4年間ずっと一緒のクラスになると言われていた。
だか、今回の私のクラスに、イライザ嬢と攻略対象者はいない。
その代り?と言っていいのか、アナとベルとミラは一緒のクラスだ。
そして、イライザ嬢は攻略対象者と一緒のクラスだった。
隠しキャラルートだからだろうか。
そんな中、新しいクラスメートの中には「学園長と二人で授業ってどう?」とか「学園長ってどんな感じなの?」と聞いてくる女子生徒がいた。
「聖女の魔法以外では普通の魔法の授業だし、学園長の教え方は上手ですよ」
と、答えている。
それ以上に根掘り葉掘り聞きたがる人間には、アナとベルとミラがさり気なく違う話題に誘導してくれたので助かった。
そして、最終学年に入ってすぐ、私は生まれて初めてラブレターを貰った。
相手は侯爵家の1学年下の男子生徒だった。
同学年でもないため、全く知らない。
アナとベルとミラに相談すると、アナとミラがほぼ同時に言った。
「不安なら、一緒に行きましょうか?」
そしてベルも少し考えてから言った。
「相手が執拗だったり身分を笠に着るようなら、公爵家の私がいれば役に立つかもしれないわよ」
心配してくれる3人の申し出に甘えて、近くに待機してもらって普通に断っても、引いてくれない時だけ、迎えに来たっぽく助けてもらう事にした。
幸い、丁寧にお断りしたところ、相手は普通に引いてくれた。
だが、それ以来ちょくちょくラブレターを貰った。
最終学年に入り、学生のうちに私を取り込もうと思っている貴族たちが動き出したのかもしれない。
当然、全てお断りした、3人のナイト(アナ・ベル・ミラ)が見守ってくれたのでありがたかった。
『持つべきものは友』だなぁ…。




