王宮の青い薔薇の娘とそれぞれの最善 3
「フローラさん、どうでしたか?」
放課後いつもの東屋に、私とイライザ嬢はいた。
「王と宰相と宮廷魔術師長は、王女の娘ってバレてるっぽいです」
「それ以外の方は…?」
「うーん、王宮にお母様の絵が飾ってあるんですよ…銀髪のお母様の絵が…その絵と同じ年頃の私って、自分でもそっくりだな~って思ったんで…時間の問題じゃないかと…」
「私はその絵は見たことがないと思うけど…そんなに…まあそうですよね」
「宮廷魔術省に行く廊下に飾ってあったので、イライザさんは行ったことがない場所かもしれませんね。すごい広いですもんね」
「…そうですね…」
学園長の事、話した方がいいかな…。
でももし、私が消えたら学園長の所にイライザ嬢が乗り込んだりしないかな…
イライザ嬢の瞳は水色で魔力は強く無い。「聖女の魔法」を使えるほどの学園長に立ち向かうのは無謀だ。
でも、学園長の事を言わないで私が消えても……学園長にたどり着きそうな気がする…。
学園長が「聖女の魔法」を使えるレベルってことを知らないで乗り込んだら…イライザ嬢の身を危険にさらす事になる…。
そういえば、疑問があるんだよね…最初にイライザ嬢に聞いてみよう。
「もし、隠しキャラがヒロインを守る力もあって、地位も身分もヒロインと釣り合っていた場合でも、凌辱監禁しちゃうってありますか? あったとしたら、どんなパターンがあります?」
「このゲームの場合、隠しキャラはヤンデレなので、ヒロインが自分以外の誰かに取られると嫉妬のあまり監禁とか……。ヒロインは隠しキャラの事が好きじゃないパターンだったりがありえますね」
なるほど、そういうパターンがあったのか…なら。
「イライザさん、もしかしたら奇跡が起こったかもしれません。実は隠しキャラっぽい人に会っちゃったんですよ。そして、私……その人の事、好きになりそうなんです」
夫に雰囲気が似てるだけだけど、盛って言う事にした。
「え? だ、誰ですか!!」
「クリストファー・メイヤー学園長です…」
「……!!」
イライザ嬢、物凄いビックリしている。
「学園長は、ゲームにほとんど登場しなくて…。先生枠ならエイブラム先生の方がゲームに登場していたし、エイブラム先生ファンもいたのに…」
イライザ嬢は全く想像して無かったみたい。
「イライザさんが思う隠しキャラ候補っていました?」
「確証もないまま言うと、フローラさんが混乱すると思って言わなかったですが、魔法科のエイブラム先生か歴代の担任の先生か生徒会の役員の誰かかな…と、思ってました。攻略対象以外でフローラさんに接する機会が多いのはそれくらいかと思って…学園長はフローラさんどころか、どんな生徒とも特別接点は無いキャラだったので予想外です…」
「ありがとうございます、言わないでくれていて…。今回初めて隠しキャラっぽい人に会って緊張感がハンパなかったので、予想で色々な方を言われてたら、その人数分、緊張するところでした…」
初めてイライザ嬢と東屋で会話した時も
『今日、貴女に話してイタズラに不安を与えてしまったのかも…すみませんでした』と、言っていた。
だから言わないでいてくれたんだなぁ…本当に優しい子。
「…私も、攻略対象者に会うたびに緊張していたので…」
「!!そうだよね!!私も今日、本当の意味でイライザさんの偉大さを理解できたと思う!!スゴイよイライザさん!!」
つい興奮してタメ口で言ってしまった…。
「…ありがとうございます。でも私の場合、相手は子供で、私は予備知識もありましたし…私の方が圧倒的に有利な立場でもあったんで…フローラさんは予備知識もないし、学園長は地位も実力もある大人ですから…」
うーん、やっぱりイライザ嬢は優しいし、謙虚だな…。
「でも、私にとっては、それが良かったのかもしれないです」
「どういう事ですが?」
「前世で死んだ時、私は40歳、娘は14歳でした。この学園に入学した時、私は14歳。周りの男子なんて娘の同級生って感覚の方が強かったですし…学園長は最初っから大人で、そんな彼に予備知識がない分、素直な気持ちを感じれたと思うんですよ」
前半は本当だ。元々、夫以外の男性に興味が無い上に娘と同い年の男子に興味が沸くわけがない。
「…学園長が隠しキャラだと思った根拠を伺ってもいいですか?」
おっ、さすがイライザ嬢。簡単には引いてくれない。
「私が『聖女の魔法を使える私をさらって監禁できるって凄くないですか』って言ったの覚えてます? 学園長は「聖女の魔法」を使えるんです」
「え!!「聖女の魔法」の功績で伯爵の位を頂いたのは知ってましたが…」
「やっぱり、貴族の間では有名なんですね。学園長が「聖女の魔法」を使えるのは極秘だそうです。それでも「聖女の魔法」の第一人者というのは周知されてる学園長なので、これからの魔法の授業は学園長と私のマンツーマンです」
「…それは…」
「急展開ですよね…」
「…良く考えてみると学園長は、地位も実力も、それに見た目も攻略対象っぽいですよね。そうだとすると、本当にフローラさんが学園長を好きになりそうなら…」
「恥ずかしいんですが、夫に似ているんですよ…笑顔とか話し方や空気感みたいなものが…夫に初めて会った時と同じ感覚を感じたんです…」
ちょっと下を向いて言ってみる。ここは、正念場。
「隠しキャラかもという緊張感もあるんですが、懐かしいような穏やかな空気もあって…。でも、ゲームの内容が変わってるじゃないですか…だから、もしかすると私の片思いかもしれませんけど…」
下を向いたまま、ちょっと目を閉じてみる。ため息もさり気なくしてみよう。
「学園長が旦那さんに似てるっていうのは、旦那さんしか好きじゃなかったフローラさんにとって運命かもしれないですね…」
ほっとした様な、泣きそうな、嬉しそうな、色々な感情が見えるイライザ嬢…その顔が見たかった。
「私も、夫以外でこんな気持ちになるのは運命的な物を感じてます」
私は嬉しくて心からの優しい笑みが出来たと思う。
「私が監禁される理由が無くなったかもしれませんね。もし私が消えても、無理やりじゃないので探さないでください。そうしなきゃいけない理由があるって事です。その理由を解決する努力はもちろんしますけどね」
ニッコリと笑えたと思う。
「わかりました…まだ監禁の理由が確定ではないですが、学園長とフローラさんが両想いなら回避できるかもしれません。学園長には政治的な後ろ盾がないのがウィークポイントになるなら宰相家が全面的にバックアップしますから。出来ることは協力するので相談してください!!…良かった。フローラさん、本当に大丈夫かもしれないですね…」
今度こそ、イライザ嬢は嬉しそうに笑った。
よし、このままダメ押しで。
「夫と初めて会った時、すごい素敵な優しい笑顔だったんですよ…今日、私の部屋に来て挨拶してくれた学園長も同じような素敵な笑顔で…。それと喋り方も穏やかで丁寧で。馬車に乗った時、学園の様子を聞いてくれたんですけど、とても聞き上手で、本当に夫と喋っているような懐かしい不思議な感覚がして…」
ぶっちゃけ、嘘はついていない、でもかなり盛っている…。半分は夫のノロケなので、本当に顔が赤くなってきた。
両手を自然に口元に持ってきてしまう。
こういう話は、あんまり前世でもしたことがないから、普通に照れる…。
「…フローラさん可愛い…今、ここに男子がいたら絶対に恋に落ちますよ」
「…止めてくださいよ」
真面目に恥ずかしい。
とりあえず、イライザ嬢はもう、本当の意味で大丈夫だろう。それが嬉しい。
私はきっと、ずっといい笑顔が出来ているはずだ。




