王宮の青い薔薇の娘 動く 6
「では、次は宮廷魔術師長ワイアット・ルクレール様の所へご案内します」
宰相がそういうと、ここまで案内してきてくれた騎士がまた来た。
「どうぞ、ご案内いたします」
そして、謁見の間を出て歩き出す。順番はさっきと同じだ。
最後尾なので遠慮なく廊下を見ていると、大きな絵が右手に見えてきた。
それは、薔薇園で微笑む、銀髪の天使のような少女だった。ちょうど私と同じくらいの……お母様だ…。
正直、黒髪のお母様と金髪の私は「似てる」と、周りに言われてもピンときてなかった。
でも、この絵の銀髪のお母様と、同い年くらいの私はとても似ていた。私はこんな天使の微笑はしたことは無いが顔立ちは親子なので隠せないほど似ている。髪型と服装を同じにしたら双子の様だろう。
私でもそう思うのだから、もうダメだな…。
学園長達は、この絵をスルーしてたけど…時間の問題か。
そうこう思案していると、扉の前で学園長がノックをしている。
「王立学園学園長クリストファー・メイヤーでございます」
「入りたまえ」
応接室兼執務室のような所だった。
窓の近くに机と椅子があり、そこに座っているのが宮廷魔術師長ワイアット・ルクレールだろう。60歳は超えているだろうか。
灰色の髪に、黒の様な青い目をしている。
入口の近くに、ワイアットと向い合せになるように長いソファーが置かれている。その両脇に一人用ソファーがある。形としては凹な感じで。
真ん中にテーブルがある。
私はワイアットの真正面の長いソファーに。学園長は私からみて左側上の一人用ソファーに。その反対にはエイブラム先生が座った。
「今日は、ご足労ありがとう。君が「聖女の盾」を発動したフローラ嬢か…なるほど…深く青い、綺麗な瞳だ…」
懐かしそうな目で私を見る…お母様の師匠だっていうし、バレバレかな。
「ありがとうございます」
「そんなに青い瞳を持っているという事は、小さい頃から強い魔力を持っていたのだろう? だが、フローラ・ベフトン嬢の名前は学園に入るまでは聞いたことが無かったな。学園に来る前は、誰かに魔法や魔力の制御は習っていたのかな?」
おう、核心ついてくるな…。
「…子供の時から母に教わってきました」
「ほう、母上に。今も母上は領地でお元気でいらっしゃるのか?」
やっぱり、気になりますよね。
「はい、元気に暮らしております」
「…フローラ嬢くらいの魔力を持つ人間に教育できるとは、母上もよほど魔力がある方なのだろう。お名前を伺っても?」
「エリー・ベフトンと申します」
「…なるほど、母上も優秀だろうに聞いたことが無いな。旧姓は何とおっしゃるのか?」
怒涛の攻撃だ。
「…母は、苗字を持たない出身の人間で…」
この世界で苗字を持つのは、貴族や聖職者や所謂上流階級のみだ。一応、父母からは母は平民だと聞いてるからなぁ…。
「…ほう、それでこの魔力を。魔力と瞳は母上譲りなのですかな?」
「…はい、魔力と瞳は母親譲りだと思います」
「…これは珍しい事もあるものですな」
平民でここまで魔力持ちなら、逆にもっと目立った存在になってますよね…貴方の養子のソルみたいに。
ツッコミたくなりますよね…でも、もう勘弁してください…。
「フローラ嬢、貴女の瞳の色は、王じ…王子より濃いですね」
今絶対、王女って言いかけましたよね。
「…そうでしょうか」
「王家の人間より濃い青、そして貴女は学園ではトップの成績とか…貴女を見て「聖女の盾」を発動した理由が分かった気がします」
言いたいことは分かりました。
「では「聖女の盾」を発動した時の様子を詳しく教えてください」
やっとそっちの話に移り、私やエイブラム先生が竜巻の時の一部始終を、側にいたミラやベルからの話を交えて説明した。
「なるほど「聖女の盾」を出そうと思って出せたのでは無いのですな。そうであれば学園では聖女の力を教えられないでしょうし、宮廷魔術省預かりにした方が良いのではないかな?」
…えーっと、これはどうしようかな…。
「とても光栄ですが、あと一年、魔法以外の事も学園で学びたいのです」
私がそういうと、学園長も続ける。
「そうですね、フローラさんは来年最終学年です。卒業してから宮廷魔術省に行っても遅くはないかと…僭越ですが、聖女の魔法については私もそれなりの知識を持っているので学園でも教えられることはあるかと…」
「…そうだったな。クリストファー以上の才能の持ち主は魔術省の中にもいないからな…君が直々に教えるというのか…?」
「フローラさんの希望と才能を考えると、それが一番だと思うのですが…いかがでしょうか宮廷魔術師長殿」
ワイアットを見ている学園長の表情は見えないが、ワイアットが悩んでいる表情なのは見える。
こんなに若くして学園長なのだから、すごい才能の持ち主だとは分かるけど、学園長は基本的に授業はしないからな…。
「出来れば、魔術師長の私がフローラ嬢を教えたかったのだかな…学園長の君に任せようか…出来るか?」
「王立学園学園長の名において」
「…そうか、エイブラムお前もフローラ嬢を導いてやれ」
「はい、命に代えても」
「では、フローラ嬢をくれぐれもよろしく頼むぞ」
「「はい」」
…ちょっと、お二人とも大げさすぎない?
それほど「聖女の魔法」がスゴイって事か…。
でも、あと一年、とりあえず学園に残れる。
お母様の絵が飾ってある宮廷に参内するより、まだましなように思えるし…
たぶん。
「フローラ嬢「聖女の盾」を発動させた貴女は国家にとって私達王宮の者にとって大事な存在だ。そのことを忘れてくれるなよ」
「はい、ありがとうございます」
たぶん、宮廷魔術師長は「王女の娘&聖女の魔法」セットで言ってるんだろうな。
だから気を付けろって事も含まれているかな…。
もしかすると、お母様と同世代の学園長とエイブラム先生も、私の正体をなんとなく知っていてこんなに大仰に言っているのかも。
私を学園に居させる以上、私に何かあれば学園の責任になる。
色んな意味で重大な問題が発生しちゃうし、責任者として大げさなくらいの覚悟は必要になっちゃうのかな…。
うーん…これからどうなるか。




