キレイな人だなぁ・・・
エメラルドグリーンの長髪、見目麗しく、落ち着いた色合いのワンピースを着た、清楚な女性が部屋に入って来たのです。
キレイな人だなぁ…………美女って言葉が似合う女性。じいちゃんに『こういう人が美女って言うんだからな!』と、投影魔法で視せてもらったから分かるけど、ホントに実際に見るのは始めて。
「失礼します、お父様。おじ様がお見えになったと聞きましたので、挨拶に参りました」
その女性は、ワンピースの裾を軽くつまみ上げ、会釈していました。
「よっ、お嬢! 少し見ない間に、ますます美人になって。母親──ナーラに似てきたな!」
「ありがとう御座います、おじ様。お世辞でも嬉しいです。それで失礼ですけど、其方の方は?」
「あっ! ご、ごめんなさい!」
ボクはソファーから立ち上がり、その女性に向かって、
「ボ、ボクはユキトと申します! そしてコッチの子が、ボクの大切な友達のユチィです!」
「よほしくなほー!」
って、ユチィ! 頬張り過ぎて言えてないぞ!
「フフフ」
女性は手を口元に寄せて、笑っていました。
「ごめんなさい。申し遅れました、私ゼヴァリ・パライソの娘、エステル・パライソと申します。ユキト様、ユチィ様」
エステルと名乗ったその女性は、またしてもワンピースの裾を軽くつまみ上げ、会釈してきました。とても上品な挨拶を。
「エステル。今回の護衛はヴライとユキト君がする事になった」
「まぁ、2人だけですの?」
「ああ。だけどユキト君は、ヴライが信頼する程の実力の持ち主だそうだから、心配する事はないよ」
「分かりましたわお父様」
「それでだエステル。ユキト君はキミと同い年だと言うから、少しユキト君と話でもしていなさい。私はヴライと護衛の打ち合わせをするから。出発する時間になったら呼びに行くから」
「分かりましたわ。それではユキト様、ユチィ様、どうぞこちらに」
と、サクサク話が進んでいますけど、と思ってヴライさんを見ると、手を振って送り出してきました。
そう言うことでボクは、頬張り過ぎているユチィを肩に乗せて、エステル様の後を付いていきます。
ボクとユチィはエステル様の後を付いていって、しばらく歩くと、エステル様はとある部屋の扉を開けました。
「どうぞこちらに、ユキト様、ユチィ様」
そう言いながら、エステル様は中に入り、ボクも続いて入ります。
中に入ると結構な広さで、衣装棚や化粧台、天幕付きのベッドなどの家具がキレイな状態でありました。
「ユキト様、出来ればよく見ないでもらえると嬉しいのですけど………」
「ご、ごめんなさい。しっかり整った部屋ですからつい………」
「フフフッ。ありがとう御座います。さあ、どうぞこちらにお掛け下さいませ」
エステル様が丸テーブルと共にあったイスに座るように、手を差し出す仕草をして、ボクはイスに座り、エステル様は対面に座りました。
「それではユキト様、ユチィ様。一体何からお話ししましょうか?」
エステル様は笑みを浮かべて、ボクをジッと見てくるのです。
「それでしたら、ボクの事はユキトって呼んでくれませんか? その…………様を付けられるのは慣れていなくて…………」
「それならユチィもなのー!」
「分かりましたわ。それなら私の事もエステルと呼んで下さいませ、ユキト君、ユチィちゃん」
「エステルがそれで良ければ」
「エステルー!」
エステルはまたしても、口元に手を寄せて笑っていました。 ホント、仕草一つ一つが上品だよな、エステルは。
「それでユキト君は、今までどこでどんな暮らしをしていたのです? おじ様が信頼する程の方ですから、出来れば詳しく知りたいですわ」
………………エステルって、結構グイグイ質問するタイプなのかな……………?
「ユチィ達はあの山の村からきたのー!」
ユチィはボクの肩から離れ浮遊して、窓越しにボク達が住んでいた山を小さな手で指差しました。
「…………あの山──ルミッシュ山の近くの村からですか………? 随分離れた所からお越しになったのですね、ユチィちゃん達は」
どうやら、ユチィはボクとの約束を守ってくれて、エステルに嘘を付いてくれた。
「ボク達、じいちゃんと暮らしていたんだ。だけどじいちゃんが、世界を見て廻ってこいって言ったのがきっかけで、近くの町で冒険者になり、ヴライさんに冒険者とは何か、を教えてもらっている最中なんだ」
「まぁ、そうでしたの。確かにおじ様は、何だかんだとしっかり面倒を見て下さいますからね」
エステルは、嘘半分、ホントの事半分の話を楽しそうに聞いてくれた。
で、ボク達は身の回りの事やエステルの事などの話で盛り上がり、ユチィもすっかりエステルに懐いて、ボク達は友達になれた。
※※※
※一方、ユキト達が出て行った後のヴライ達は──
「でだ、ヴライ。あの子は一体何なんだ? まったく隙が無かったぞ?」
「おっ! 流石のお前も気付いたか。腕は鈍っていないようだな」
「当たり前だ。忙しくしても、剣を振るう稽古は続けている。周辺の魔物相手なら町の兵士や冒険者達で対処出来るが、あの山──ルミッシュ山の魔物は別格だからな。まともに対処出来るのは、お前と私、後はほんの数人程度だろう」
「……………ああ、その通りだ」
ヴライは紅茶を啜りながら飲んでいた。
「そして今お前が口にした山───あそこからユキトは来たんだ」
「なにをバカな……………」
そう口にしたゼヴァリであったが、ヴライはニヤけることもせず、ただただ真剣な表情でゼヴァリを見ている。
「……………ホントのことなんだな?」
「ああ。そして確認もしてきた」
「確認? 何のだ?」
「あの山にはユキトの爺さんが眠っている」
ヴライは座りながら執務室の外、ルミッシュ山を見ながら喋り出した。
「眠っている……………つまり、亡くなったのか?」
「いや、違う。言葉通り眠っているんだ。爺さんはまだ生きている」
「……………どう言う事だ?」
「ユキトの話だと、爺さんはどうやら呪いを受けたらしい。その呪いは“永遠の眠り”って名前らしいんだ」
「………“永遠の眠り”………」
そしてヴライは喉を潤す様にまた、紅茶を飲んでいた。
「で、爺さんはその呪いを解呪するために、敢えて呪いに掛かり眠りに付いて、解呪する事を決めて、ユキトにその間、世界を見て廻ってこいって言われたらしいんだ」
「…………ふむ。それまでの間はあの山で生活していたと?」
「ああ、そう言うことだ。正直言って、ユキトは金等級かそれ以上の強さを持っている」
「………………金等級か、それ以上……………………」
ゼヴァリは呟くしか無かった。
「でだ、ゼヴァリ。オレはしばしユキト達に付き添おうかと思っている。それで申し訳ないが──」
「ああ、分かった。ギルドの方は私が見ておこう。そうする必要があるってのは今の話を聞いて、理解したからな」
「すまねぇな、仕事を増やして」
「気にするな。でも、くれぐれもしっかりしてくれよ」
「ああ、分かっているさ」
そしてヴライとゼヴァリはしばし話し合ってから2人して、エステルの部屋に向かった。
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