2人だけで済む話なんですか?
後日には、銀等級の証として、首からぶら下げられる銀色のタグと、冒険者としての身分証のギルドカードを渡されました。
そして季節は夏真っ盛りで、早いものでボクが冒険者になってひと月が経ちました。
こんな暑い季節でも殆どの家には、氷の魔石を利用しての冷却効果で快適な生活をおくれているのです。
ボクはヴライさんから、冒険者の仕事を1から教わっていたのですが、その内容はじいちゃんと暮らしていた時にやっていた事だらけで、大体の事は出来てしまってヴライさんは呆れていました。
マリーさんの家に居候していたのですが、流石に申し訳なく思い、料理を振る舞ってあげたらとても感激されて『ユキト君、私の所にお婿に来て!!』と言われる位、感謝されました。もちろん、断りましたけど。
この世界のお金は、共通で硬貨になっているのです。
魔物を退治したら、その魔物の毛皮や牙などの素材を、ギルド又は商人の人達に売れば、硬貨をもらえるのです。
その中で魔物を退治した、魔物の心臓には魔石が生成されているから、その魔石が大小さまざまな大きさによるけど、結構高く売れるのです。小さいモノでも銀貨一枚かららしいです。
※※※
鉄貨=1枚=味無し握りこぶし大の丸パン1個分
銅貨=1枚=鉄貨10枚=酒類一杯分
銀貨=1枚=銅貨10枚
金貨=1枚=銀貨100枚
大金貨=1枚=金貨1000枚
白金貨=1枚=大金貨10000枚
帝国では平民は1年間、平均金貨20枚で生活出来ている。
※※※
「ユキト、今日はお前に教える最後の内容は───護衛だ」
朝早く、ギルドマスター執務室に通された直後、ヴライさんがそんな事を言ってきました。ユチィは出されたお菓子をテーブルに座って食べてます。
「護衛ですか?」
「ああ、そうだ。冒険者にとって護衛の仕事は、一気に信頼、信用を無くすと言われるほど、大変な仕事だ。なんてったってその後の仕事に関わるからな」
「はぁ………?」
うーん? そう言われてもピンとこないけど?
「一体何を護衛するんです?」
成り立ての頃、一通り説明は受けていました。護衛には2種類あるって。
ひとつが商人と荷物の護衛。
もうひとつは要人の護衛と。もちろん町の人も遠出をするときに、護衛を頼む事もあるって言ってました。
「この街の領主の娘だ」
「え~っと、つまり男爵様の娘さんの護衛をする事が、ヴライさんの最後の教えなんですか?」
「そう言うことだ」
この街クラリネスは、パライソ男爵様が治めている、帝国領土の辺境の街。
辺り一帯も男爵様が治めているのだが、村しかなく、町と言ったらこの街クラリネスしかないのだそうだ。
「でもボク、人の護衛なんてしたこと無いですよ?」
「心配するな。ちゃんとオレも着いていくから。と、言うより、元々オレと数人の奴らでやる予定ではいたんだ」
「そしたら、ボクもその1人って事ですか?」
ヴライさんはいきなり、ニカッとした笑みを浮かべてきて、
「オレとお前だけだ」
そう言ってヴライさんは、ボクの腕を引っ張りながら強引に連れて行くのです。
ユチィは口いっぱいにお菓子を頬張り、頬を膨らませてボクの肩に座りました。
それにしても、2人だけで済む話なんですか?
※※※
ボク達が着いた目の前には、普通の家の2棟分の大きさの屋敷が建っていました。
「ここが領主の屋敷だ」
「はぁ…………?」
屋敷の前には門があり、その傍らに町の門番をしていたライアンさんとはまた違う、鎧を着た兵士が2人立っています。
「おう、お疲れさん」
「あっ、ヴライさん、お疲れ様です。今回もよろしくお願いします」
「おう。そんじゃ、お邪魔するぜ」
「はい、どうぞ」
兵士の人が片方の門を開けて、入れるようになり、ヴライさんがまたしても、ボクの腕を引っ張りながら中に入ったのです。
屋敷の前まで着いたボク達は、
「邪魔するぜ」
と、言って、ヴライさんは我が物顔で扉を開けて中に入ったのです。ボクは流石に引っ張られることは無くなったけど。
「お待ちしておりました、ヴライ様」
で、中に入って直ぐに、姿勢がよく着ている服装もビシッと決まっている白髪の老人の男性が居ました。
「だから、様は付けないでいいっていつも言っているだろ、ラウス爺」
「ほっほっほっ。そういうわけにはいきませんのでご了承下さいませ。それでヴライ様、其方の方達は?」
「あぁ。今回オレと護衛をするユキトとユチィだ。よろしくお願いするぜ」
「はい、畏まりました。それではご挨拶を。私、パライソ男爵家の執事長をしております、ラウスともうします。以後お見知りおき下さいませ、ユキト様、ユチィ様」
ラウスさんは最後に、優雅なお辞儀をしてきました。
「ボ、ボクはユキトと言います。よろしくお願いします。ラウス様」
「ユチィはユチィなのー! よろしくなのー!」
「ほっほっほっ、元気の良い妖精ですね。それとユキト様、私の事は、様は結構で御座いますよ。呼んで頂けるならヴライ様みたく、ラウス爺とでもお呼び頂けるとうれしいですな」
ラウスさんもとい、ラウス爺は握手を求めてきたので応え、ユチィには人差し指を向けて、ユチィは小さな両手でにぎにぎしてあげて、応えていた。
「それでは皆様、旦那様の下にご案内します」
そしてラウス爺は先頭を歩き、ボク達はその後を着いていきました。
しばらく歩いたら、ラウス爺がとある部屋の前で止まり、扉をノック仕始めて、中から男の人の声が聞こえ、中に入るよう言われてラウス爺から部屋の中に入って行きました。
「旦那様、ヴライ様達をお連れしました」
「あぁ、ありがとう」
中に入って、一礼したラウス爺の先には、ライトグリーンの髪に整った髭を生やし、壮年の男性がイスに座りながら、机に向かって、仕事をしていました。どうやら案内されたのは執務室のようでした。
そしてラウス爺はそのまま部屋を出ていきました。
ヴライさんは軽く手をあげて、テーブルとソファーがあるところのソファーにドカッと座りました。
「ヴライは相変わらずだな」
「ゼヴァリは仕事のし過ぎで、老け始まったんじゃ無いか?」
「はははっ、否定は出来んな。でだ、ヴライ。その子は?」
「オレと一緒に護衛をするユキトとユチィだ」
ゼヴァリ様は仕事をしていた手を休め、ボクの方に視線を向けてきました。
「は、初めまして。ボクはユキトと申します」
「ユチィはユチィなのー!」
「ははは。そんなに硬くならなくてもいいよ、ユキト君、ユチィ君。私も挨拶をしないとな」
そう言ってゼヴァリ様は椅子から立ち上がり、仕事をしていた机の前に移動してきました。
「初めまして。私はゼヴァリ・パライソ。男爵の爵位を授かり、この街クラリネスと周辺地域を治めている。以後お見知りおきを、ユキト君、ユチィ君」
「は、はい、よろしくお願いします」
「よろしくなのー!」
「それでは、腰掛けたまえ」
ゼヴァリ様は手で座るように促してきて、ボクはヴライさんの隣に座った。
「して、ヴライ。説明をしてくれ」
ゼヴァリ様も一人掛けのソファーに座り、スゴく寛いでいるヴライさんを見てました。
「ん、ああ。今回の護衛はコイツと2人でやる。実力は申し分ねぇ。むしろ、コイツ1人でも済むって位の実力者だ」
「お前がそこまで言うからには問題無いのだろう。だが、まだ若い様だが? エステルと同じか下くらいか?」
「お嬢と同い年だよ」
と、扉をノックする人がいて、ゼヴァリ様が入室を許可すると入ってきたのは、銀のカートを押して来たラウス爺でした。どうやら飲み物を持ってきた様子。ついでにお菓子も。
ラウス爺は手際良くお茶の準備をして、ボク達に配り、ユチィには、ミルクを用意してくれて、ラウス爺は退出して行った。
で、ユチィは引き続きお菓子をもりもり食べ始めて、頬がパンパンになるくらい頬張っていました。それにしてもユチィ、美味しいからってちょっと食べ過ぎだよ?
「あの~ひとつ確認したい事が」
「何かねユキト君?」
「ゼヴァリ様とヴライさんって、どういった関係なのです? かなり、親しいようですけど?」
「ああ。ヴライとは冒険者仲間だったんだよ。私も昔は冒険者をしていてね、その時ヴライと出会い、様々な事をしたよ」
「そしてコイツ、家督を継がないといけないって言って、冒険者を引退したんだ。貴族って事黙っていて、冒険者になった変わり者だったんだよ」
「ははは、若気の至りってヤツだよ。貴族って言っても、男爵は平民に近い感じの爵位だからね。だから、上の爵位の方たちからすれば、下の者が何をしようが気にしないからね」
だから、冒険者になったのか。そしてヴライさんと……………なんかそういうの良いな。
「で、コイツの頼みでこの町でギルドを造り、オレがギルドマスターに就く羽目になったって事よ」
「ははは、良いじゃないか。どうせ、自堕落な生活を送るよりはやりがいのある仕事で。ユキト君、コイツは口も態度も悪いが面倒見が良いんだよ。その割に、説明をろくにしないのが玉にきずだがね」
ヴライさんはお手上げの仕草をして苦笑いをしてました。確かにゼヴァリ様の言った通り、ヴライさんは面倒見が良い。
と、またしても、誰かが扉をノックして、ゼヴァリ様が入室を許可して、中に入って来たのは、若い女性でした。
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