まだ生きてますよ
ちょっと酒臭いヴライさんに付いて行くと、この建物に地下があったようで、下にくだっていた。
くだって少しして、目的の場所に着いたみたいだ。
そこは1階の部分と同じ広さをしていて、ガランとして何もない部屋だった。
「でだ、ユキト………………の前に、えーと」
ヴライさんは、もう1枚の紙を見て何かを確認している。
「ユチィ。ユキトの肩に乗っているのは人形じゃないんだろ?」
どうやらライアンさんの手紙を見ていたみたい。
「ユチィはーユチィなのー!」
「ハハハハッ! 元気の良い妖精じゃないか!」
「そうなのー! ユチィは元気なのー!」
ユチィは肩から下りて、羽をはばたかせ、ボクの廻りを飛び回っていた。
「じゃあユチィ。今からユキトがどれ位の実力があるか、確かめないといけないんだ。危険だから離れてな」
「分かったのー!」
ユチィは、ボクとヴライさんが離れていた中間で浮遊していた。
「それで、ユキト。お前、じいさんの遺言で世界を見て廻るつもりなんだろ?」
「はい、そうですけど………………って、遺言ってなんですか?」
「いや、いい気にするな。でだ。世界を見て回るのは確かに冒険者になれば容易い。だけど、危険も伴う」
「ライアンさんも言っていたのですけど、危険って、一体何があるんです?」
「ん? んー。順を追って説明するぞ。まず、冒険者になりたての時は、薬草採取や荷物運びなど、比較的魔物と遭遇しない仕事をする」
ヴライさんは指を1本たてて説明を仕始めてくれた。そして2本目をたてた。
「次に、ここギルドで薬草採取などの仕事の事をクエストと言う。それを一定期間こなし、ランクアップをさせても良いと、ギルドで決めた基準を超えれば、ランクがあがる」
「ヴライさん、ランクってなんですか?」
「ん? ランクってのは、その冒険者の実力を表すものだ。かなりの実力者程、そのランクに必要な能力を問われる。まぁ、ランクやら細けぇ事は後で、マリーにでも聞きな。ちなみにマリーはさっきの姉ちゃんの名前だ」
「分かりました」
さっきのお姉さん、優しそうだったからな。
と、ヴライさんが3本目をたてていた。
「で、最初の方で言った危険ってのは、それに相応しい実力者には、それ相応に魔物を討伐してもらっているんだ」
「魔物を討伐、ですか?」
「あぁ。アイツらは、かなりのスピードで繁殖するし、そしてエサを求める為に人を襲ったりするんだ。そう言った事があるから、定期的に魔物を討伐しなくちゃならねぇ」
確かに、ヴライさんの言っている事は分かるけど…………。
「で、比較的弱い魔物、スライムとかなら問題なくそこそこの実力者なら討伐出来るんだが、魔物にも色んな種類が居てな、亜種、又は変異種って呼ばれているものもいるんだ」
「亜種……………変異種、ですか?」
初めて聞いたな………。
「あぁ。例えば……………オーク。豚の頭で二足歩行をする魔物が居る。そのオークを2人がかりで倒せるはずが、2人がかりでも3人がかりでも倒せなくなる程の変化を遂げる、オークも居るんだ」
へぇ~。そんなに強い魔物も居るんだ、知らなかった。
「そしてその変化したオークを倒すには、それ相応の実力者に頼むしかねぇんだ。その分、報酬もデカくなる。つまりだ。オレが言いてぇのは」
途端に、ヴライさんが真剣な表情をして、両手を握って拳を作っていた。
「素手で魔物と戦うには、剣などの得物を持つ奴より強くなくちゃ、この世界はちと厳しいぜ!」
と、言い終えた瞬間にヴライさんは地を蹴り、コッチに突っ込んで来て、それをボクは身構えて、攻撃に備えた。
「シャッ!!」
ヴライさんは右拳でパンチをして来たので、ボクは右手でヴライさんの甲に当てて、ヴライさんの攻撃を受け流した。
「甘めぇ!!」
空かさず受け流されたまま、左脚で回し蹴りをして来た。
ボクはヴライさんの回し蹴りを、右腕で受け、止めきれずに、左の方に吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされたボクは、着地して地面をこすりながら止まった。
「やるなユキト。オレの蹴りを受ける瞬間、吹き飛ばされる方向に飛び、ダメージを少なくするとは」
ヴライさんは追従をして来なかった。
「いえいえ。ヴライさんも中々のものですよ。それにこんなにワクワクするのは、じいちゃんと組み手をした時ですね」
「────ククククククッ! ワクワクする、か。てぇした野郎だよ、お前は! おめぇ、魔法も使えんだろ? 遠慮せずに使って良いからな!」
ヴライさんがまたしても突っ込んで来たので、今度はボクの方からも向かって行った。
ボクがパンチを繰り出すと、ヴライさんは躱し、カウンターでパンチを繰り出し、それを避けて、また再度パンチのフェイントを入れてキックをした。
それをヴライさんは軽々と防御していた。
「正直ここまでやるとは思わなかったぜユキト!」
「ヴライさんこそ、容赦ない攻撃ですね!」
「言っただろ。どれ位の実力があるか確かめるって! それにおめぇ、魔法は使わねぇのか?」
「………………使ってますよ」
まぁ、使っているのは逆なんだけど…………
「なるほど。身体強化をして、このオレの攻撃に食らい付いてるって事か!」
と、益々ヴライさんの攻撃が激しくなって来ていた。
だけどボクはそんな攻撃を、躱したり、受け流したり、その隙に攻撃をしたりとした、応酬を繰り広げていた。
※※※
「あの~ヴライさん。これいつまでやるんです?」
「ハァハァ…………ハァハァ…………お、おめぇ………何で…………い、息、きらしてねぇんだ…………ハァハァ…………ハァハァ」
そしてヴライさんとの攻防が終わった。
「ハァハァ…………ハァハァ…………も、もう、お、おめぇの、じ、実力は…………ハァハァ………ハァハァ…………わ、分かった」
ヴライさんは息を切らしたまま、その場に座りこんでしまった。
そしてユチィは大丈夫と判断してか、ボクの肩に座りこんだ。
「お疲れ様なのーユキトー」
「うん。流石に少しだけ疲れたかな」
「それならユチィが、癒すのー!」
ユチィはボクのほっぺに、自分の小さい顔をスリスリとして来たのだ。
「どうなの、ユキトー?」
「ありがとうユチィ」
「どういたしましてなのー!」
と、もう少しユチィはスリスリしてくれた。
ヴライさんは息を整えた様で、手でその場に座るように促してきたので、その場に座った。
「ふぅ~。ユキト、おめぇの体力の底が知りたくなったわ。それにしても、ほぼ全力で攻撃していたのに、まともに受けもせず、ましてや攻撃までしてくるなんて、一体全体どうなっているんだ、ユキトよ」
………………………えっ!? アレで全力だったの!?
「ヴライさん、さっきって、身体強化を使ってたんですか?」
「あぁ、使っていたぜ。つっても、半分程度だけどな。そもそもオレは体術をメインにしてねぇからな。オレのメインは大剣だ」
あっ、そうだったんだ。
「しっかしおめぇ体術は中々のものだな? 得物が使えないから、体術を極めて、身体強化で更にって事か?」
「えっ!? いえ、剣や槍、弓など一通り使えますよ?」
「…………………………するってぇと、もしかして魔法も全属性つかえたり……………?」
「はい、使えますよ」
ヴライさんはなぜか口をポカーンと開き、目は見開いていたのです。なぜ?
そしてユチィはスリスリを終えて、大人しくしていた。
「ヴライさん、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ………………ユキト………………お前は一体何なんだ? なぜ、その歳で、それ程の実力を持っているんだ?」
「じいちゃんに教わったからです」
「そ、そうか。亡きじいさんに教わったからか……………」
んん? なんだかおかしいぞ。
「あのヴライさん。じいちゃんは生きてますよ?」
「ああ? だっておめぇ、ライアンからの手紙に、じいさんは永い眠りについたって、そしたら死んだって事だろ!」
「あっ、いえ。まだ生きてますよ。ただ、呪いの影響で。その呪いを解くのに、眠って解呪するってことです」
「呪い?……………ユキト。お前とじいさんの事、詳しく聞かせな」
そしてボクはヴライさんに、じいちゃんとどうゆう生活をしていたか話し始める。
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