仕方ないなぁ
「ねぇーユキトー」
しばらく歩いていると、ユチィが話掛けてきた。
「なに、ユチィ?」
「どうしてさっきは嘘をついたのー?」
「山で暮らしていたって話かい?」
「うんー!」
やっぱりユチィは、聡い子だな。
「多分だけど、さっきの兵士さんが言っていたのは、ホントの事だと思うんだ」
「ホントの事ー?」
「うん。ボクが小さい頃じいちゃんが言っていたけど、ボク達が暮らしていた山は特殊な所なんだって」
「とくしゅー? なにそれー?」
ボクがユチィと出会った頃にはそんな事、気にもしなくなったから、忘れていたけど。
「ほら、あの兵士さんも言っていただろ。 凶暴な魔物が棲んでいるって」
「んー? 凶暴なの居たー?」
まぁ、みんな最初は凶暴だったけど、ユチィが来た頃から、ボクの良い遊び相手になっていたからね。
「今じゃ居ないけど、きっとボク達がそれ程気にもしなくなったからだと思うよ」
「そうなのー?」
「だからユチィ。出来れば、ボク達があの山で暮らしていたって事は、内緒にしよう」
「分かったのー! 内緒なのー!」
そう言ってユチィはまた、鼻歌をして楽しそうにしていた。
「おい、小僧!」
突然、野太い声を掛けられた。
その声がした後ろの方を向くとそこには、長身で、髪がないツルッとした頭に、厳つい顔立ち、スゴくムキムキの筋肉の背格好をして、服が張り裂けそうになっている、見分けの付かない同じ格好をした人が、3人居ました。
「小僧! 随分珍しいモノを連れているじゃ無いか!」
と、辺りを見渡すと、それらしいモノは見当たらないのですけど?
「オジサンは、何を言っているんです?」
「オメェの肩に乗っているモノだよ!」
どうやらユチィの事を言っている事だった。しかもこの人、ユチィをモノ扱いしてきている。
ユチィは気にすること無く、鼻歌を続けているけど…………
「この子が何か?」
「ちょっとオレ達に貸してくれねぇか!」
「…………オジサンは、何を言っているんですか? 見ず知らずの人に、ボクの大切な友達を渡す分けないでしょ」
「そう言わずに貸してくれねぇか! 珍しいモノだから、じっくり見てみたいんだよ!」
この人達、声は微妙に違うだけで言っている事は一緒。
しかも、ニタニタとした笑みを浮かべているし。
「お断りします!」
「ちっ! ガキが! 大人しくソレを渡せば痛いめを見ずに済んだものを!」
「やっちまおうぜ!」
「妖精なんて珍しいからな、高く売れるぜ! しかもメスだからな、余計に高く売れるんじゃないか!」
それが目的だった様だ、この人達は。しかも、臨戦態勢になっている。
「やれ!」
「「おう!!」」
仕方ないなぁ。
「ユチィ、この手紙を持って離れていて」
「わかったのー!」
手紙を受け取ったユチィは、羽根をはばたかせ、ボクの後ろで浮遊してくれた。
その間に、間合いを詰めてきた2人が、ボクを取り押さえる様な感じでいた。
ボクはその場から、2人の片方に向かって、距離を詰め、
「っ!?」
ボクが近寄ったのが意外というように、驚いている表情をしている隙に、お腹目掛けて、右肘鉄を喰らわした。
「ゴホッ!」
ボクは離れ、肘鉄を喰らわした男は、苦しんでその場にうずくまってしまった。
「この、クソガキィ!!」
もう1人が右手を握って拳を作り、ボクに殴りかかって来ていた。
その男のパンチを左手で受け、そのままその男の力を利用し、男の足を払い込み、転ばせた。
「ガハッ!!」
そしてボクは、手の平の汚れを落とす様に、両手をパンパンとした。
「それでオジサン。まだやるの?」
最後の1人は身動きもせずに、ずっと見ていたから。
「や、やらねぇよ! す、すまん! オ、オレ達が悪かった! み、見逃してはくれねぇか!」
「まぁ、ボク達に関わらないならいいよ?」
「あ、あぁ、もう、お前達に関わらねぇ! 約束するよ!」
「そう言う事なら、さっさと連れ帰って。一応、急所は外したけど、手当てはした方がいいよ」
「わ、分かった!」
そう言って、転ばせた男を叩き起こし、2人して肘鉄を喰らわした男を両脇から支えながら、ボク達がこれから進む方向の反対側に歩いていった。
「ふぅ~」
「お疲れ様なのーユキトー」
ユチィは労ってくれながら、ユチィの指定席、ボクの肩に座りこんで、手紙を受け取った。
「何ともないよね?」
「大丈夫なのー、ユキトがしっかり守ってくれるのー」
「はは、ならよかったよ」
ふと、周囲を見ると、それなり通行人達がポカーンと口を開けて、こちらを見ていたのです。
「────す、すげぇ! 兄ちゃん、すげぇな!」
「格好良かったわよ!」
「大人しそうな顔をして大したもんだ!」
などなど、いきなり声を掛けられてしまった。
ボクは苦笑いをしつつ、恥ずかしさのあまりその場から走り出した。
※※※
しばらく走っていると、ライアンさんが言っていた通りの建物を発見した。
レンガ造りの二階建て、そしてその建物の脇には木造平屋の建物がくっついている造り。
「ユキトー、ここー?」
「そうみたい」
そして扉を開けて中に入った。
中に入れると、結構広い造りになっていた。と、言うより、木造平屋の方と繋がっているから、そういう造りをしているのだと分かった。
そして木造の方には、イスやテーブルが何台かあり、そこで食事をしていたり、コップを片手に話し合いをしていたりする人達が居て、入ってきたボク達の方を見ては、直ぐに視線を戻していた。
ボクの正面には、何人かの列が出来ていたから、ボクもそこに並んだ。
そしてボクの順番になると、カウンターを挟んだ向かい側に、青と白を基調とした服装の女性が座って居たのです。
「ようこそ。あら、見ない顔ね。本日はどう言った御用でしょうか?」
女性は言い慣れた感じでした。
「あの、冒険者になりたいのですけど…………」
「冒険者ですね。ちなみに歳はいくつですか?」
「15です」
「15歳…………それなら大丈夫ね」
大丈夫? 冒険者になるには歳が関係しているの? それにしても、ユチィは建物に入った時から、鼻歌も辞めて大人しくしてくれている。
「そしたら、書き物があるのだけど、キミは文字は書けるかな?」
「はい、大丈夫です」
「それなら、この書類に必要な事を書いて欲しいの。って、お昼時だから、ここで書いちゃっていいから」
どうやら、ボクの後ろに誰も居ないのを確認したみたい。
で、女性の人から渡された紙に目を通した。
「あっ!そうだ。お姉さん、ここにヴライさんって人居ますか? 居たらこの手紙を渡して欲しいのですけど……………」
そう言った途端、お姉さんは視線を食事などをしていた方に向けて、
「……………居るには居るけど…………」
どうやらあの中に、ヴライさんが居るみたい。
「その手紙は?」
「この街の門番をしているライアンさんが、ヴライさん宛にって」
「…………分かったわ。それじゃあその手紙を渡してくるから、キミはその書類を書いちゃって」
「はい」
お姉さんは手紙を受け取って、その場から去って行った。
そしてボクは、そこに書かれていた事を、その台の傍らにあった羽ペンで書いていった。
※※※
「───お待たせ。どう書けた?」
少ししてからお姉さんが戻って来て、またイスに座ってました。
「─────はい、今書き終わりました」
「それじゃあ、確認するからね」
お姉さんは手を差し出して紙を受け取り、ボクが書いていた紙を見ていた。
「名前は…………ユキト君ね。 年齢は15歳───」「この坊主か?」
と、いきなりボクの脇から、お姉さんが持っていた紙を取り上げる人物がいた。
「ちょっとヴライさん! 今、私が確認しているのですけど!」
「細けぇ事は気にすんなよ。せっかくの美人が台無しだぞ」
「そう思っているなら、ちゃんと仕事をして下さいよ!」
「へいへい。そしたら、ちゃんと仕事をしますかね」
そう言ってその人は、お姉さんから取り上げた紙に目を向けていた。
お姉さんとやり取りしていたその人は、ボクより背が高く、体格も引き締まっていて、髪は残念ながらなくツルッとして、顔は厳つく整った髭を生やした、壮年の男性だった。
「───ユキト、オレに付いてこい」
どうやら紙に書かれていたのを確認し終えたみたい。
「えっと、貴方は?」
「あぁ? お前が捜していたヴライだよ。分かったんなら、オレが直々に試験をしてやるから、付いてきな」
「は、はい」
どうやら、本人に会えた様だ。
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