はじめて
ボクは初めて山を下りた。15年生まれ育った山を。
じいちゃんが眠りにつく前に、この世界の事を教えてくれていたけど、山を出たことは1度も無かった。
食糧は山で充分賄えていたし、遊び相手も居たから。
そして遊び相手の中で友達も出来たから。
「ねえ、ユキトー。山を下りて何処に行くのー?」
「街に行こうと思うんだ」
「街にー?」
「うん」
「街に行って、何するのー?」
「ん。んー?」
ボクの友達、雪の結晶から生まれた、手のひらサイズでやや白くも見える半透明の羽の生えた小人───妖精のユチィに言われて初めて思った。何をしようか?
「行ってから考えるよ」
「そうなのー?」
そう言ってボクは肩にユチィを乗せて、空を飛んだ。
※※※
空を飛ぶこと30分程、ボクは街が見えたその手前の森に着地した。
「どうしたのーユキトー?」
「ここからは歩いて行こうかと」
「どうしてー?」
「じいちゃんが言っていただろ? 魔法を使える人でも普通は飛べないって」
「えー。でも一部の人は使えるって言ってなかったー?」
「うん。だけど、出来るならあまりそうゆうことは、見せない方が良いとも言ってただろ?」
「うん。言ってたー!」
そこからは森の中を少し歩き、森から出て街に向かった。
ボクの肩に乗っているユチィは、鼻歌交じりで足をパタパタさせて楽しそうにしていた。
そんなユチィの鼻歌を聞きながら歩いて行くと、とても高い塀が見えた。
その塀は中が分からない程の高さをしていた。
その塀には、中に入る事の出来る入口が設けられて、その傍に小さな小屋があり、壮年の様な顔立ちをした男性が鎧を着て、その小屋の前に立っていた。
「こんにちは」
「こんにちは。どうしたんだ、少年?」
そんな鎧を着た人に話かけた。
「実は聞きたい事がありまして」
「私で分かることなら応えよう。それにしても、その肩に乗っているのは妖精かい? 珍しいな」
「ユチィなのー! よろしくなのー!」
「ははは、元気の良い妖精だな。よろしくユチィ」
「よろしくなのー!」
ユチィの可愛らしさに、鎧を着た人は微笑んでくれた。
「ボクの名前はユキトと言います」
「ご丁寧どうも。私はライアンだ。見ての通り、この街の門兵をしている」
「門兵ですか?」
「ん? ユキトは門兵を知らないか?」
あー。じいちゃんが言ってたな。確か、鎧を着た人が居て、その人は兵士って言うんだって。そしてその兵士の人は街の治安を守ったりするって。
「すみません、知っています。実際にそういう人に会うのは初めてなもので」
「初めて?…………ユキトは今まで何処で暮らしていたんだ?」
「山です」
「山………?」
ライアンさんが分かるように、ボクが暮らしていた山を指差した。
「あそこです」
「……………あそこって…………………ユキト、あそこの山はな、凶暴な魔物が住んでいると言われているんだよ。とてもじゃないが人が暮らせる筈が無いんだ」
「…………………えっ!?」
……………もしかして…………。
「ホントなのにねー、ユキトー」
「……………ふむ。ユキトもユチィも嘘を付いている訳でも無さそうだが…………?」
「っと、ごめんなさい、ライアンさん。あそこの山の近くで暮らしていたんです!」
「んん? まぁ、確かにあそこの山の近く───と言っても結構離れた場所には、集落があったはずだな。でもどうして最初にそう言わなかったんだ?」
知らなかったんです。とは言えないです。そんな山だって事は……………。
じいちゃんが、ボクが小さい時いつだか言っていたっけ。『この山はちと特殊でな、まぁ、私と一緒に暮らしている内は大丈夫だ』って。
じいちゃんが言っていた特殊ってそう言う事だったのか……………。
「ご、ごめんなさい。その暮らしていた所から出たのは初めてだったので、色々と世間の事を知らなくて」
「ふむ。そう言う事なら仕方ないか。それでユキトは何を聞きたいのだ?」
ユチィは聡い子だから、何故ボクが嘘を付いたのか、この場で聞き返す様な事はしてこなかった。
「はい。何か世界を見て廻れる仕事って無いですか?」
「世界を見て廻れる仕事?………………………どうしてそんな仕事をしたいのだ?」
「実はじいちゃんと暮らして居たのですけど、じいちゃんが永い眠りに付いてしまったのです。 で、その永い眠りにつく前にじいちゃんが、折角だからこの世界を見て廻って来いって言っていたんです。だからそれで」
「……………………………そうか……………………グスッ」
ライアンさんは何故か手で、目元を隠してしまっていた。なんで?
「す、すまないな。それで確認何だが、ユキト、お前歳はいくつだ?」
「15です」
「ユチィは5歳なのー!」
ライアンさんは微笑んでくれた。
「それなら、冒険者になってみたらどうだ?」
「冒険者ですか?」
「あぁ。私も兵士になる前は冒険者をしていたんだ」
「それならどうして冒険者を辞めて、兵士になったんです?」
「冒険者は収入が不安定で危険と隣り合わせであるし、家庭を持つと安定した収入で家族を養う必要があるから、私は兵士になったんだ」
「そうだったんですか」
でも、危険と隣り合わせって何があるのかな?
「で、冒険者はひとつの街に留まる必要も無いから、世界を見て廻れる仕事って訳だ」
「そういう事ですか。ありがとう御座います、ライアンさん。詳しく教えてくれて」
「なに、気にするな。っと、冒険者になるんならちょっと待ってな」
突然ライアンさんは小屋の方に走っていったのです。
そして少ししてから、ライアンさんは戻って来ました。
「冒険者になるんなら、この手紙を持っていけ」
ライアンさんが差し出したのは、白い封筒でした。
「これは?」
「この手紙を私の兄、ヴライに渡しな。まだ冒険者を辞めた、死んだの話を聞かないから、ユキトの力になってくれるはずだ」
そういう事なら、有り難く手紙を貰おうかな。そして手紙を貰った。
「ありがとう御座います」
「ここで挨拶を交わした縁だ、気にするな」
その後、ライアンさんから冒険者になる為の建物の外観や道順を教えてもらい街に入った。
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