プロローグ
「王妃様!!」
「さあ、早く行ってちょうだい!!」
白のローブを羽織った男の叫びに、衰弱状態の王妃はベッドに横たわりながらも、上半身だけをどうにか起こし、生まれたばかりの赤子を抱かせ、男に叫んでいた。
「ですが!」
「ここで、長年受け継がれてきた血を絶やしてはいけないわ!!」
王妃は満足に動けない体を必死に維持しながら、男に行くように真剣な眼差しを向けていた。
「………分かりました」
「ありがとう。どうかその子の事をお願い」
「はい! 我が命に代えましても必ずや、この子の命は守ります!」
「その言葉が聞けただけで安心よ。さあ、早く!」
そして男は少しだけ強く赤子を抱きしめ、走り出す。
男は崩れた壁や壊れた床、燃え広がる火の手から、腕に抱きしめている眠っている赤子が起きない様、慎重に且つ迅速に走っている。
男の目的地は王宮内で、月に最も近く、届くのではないかと言われる程の高さをしている塔。
男は敵に見つからない様に、目的の塔を目指す。
男は敵に見つからずに塔に向かっている間、表情を歪め、涙を流しながら走った。男の視界には数々の兵士達の死体が映り込んでいたから。
そして男は、敵に見つかる事も無く無事に目的の塔の最上階に辿り着く。
「───今宵は数百年に1度、二つの月が重なる朔の日。魔力がコレまでにないほど増大している今なら、あの魔法が使える」
そう言って男は赤子を片腕で抱きしめ、もう片腕を地面にかざしていた。
男を中心に、複雑且つ、最上階全体に幾重にも重ねた魔法陣──複式魔法陣を展開させる。
そして男が展開した魔法陣が完成し、強く眩く輝きだし、
「───この身がどうなろうとも!」
今度は赤子に手を向けて、幾重にも防護魔法をかけ出した。
次に男は片手を上にかざし、強く眩く輝いていた魔法陣はより一層輝きだし、男と赤子をそのまま包み込んでしまった。
そして眩く輝きだしていた魔法陣の光が収まった後には何も、誰も居なかった……………。
※※※
※男と赤子を見送った王妃は──
「これで安心して、あの人の下に行けるわ…………」
赤子を産んで衰弱状態の王妃はベッドに体を預け、崩れ落ち、天井が無くなり星空が見える様になった景色を見ていた。
──彼が結界を張ってくれなかったら、今もこうして生きては居なかった。だけど──
「あら? まだ生きていましたのね」
空を見ていた王妃の視線が、声のする方、壊れてしまった部屋の扉があった方に視線を向けた。
「…………………」
王妃が見た先には、真紅の髪に赤のドレスローブに身を包んだ女性と、漆黒のローブを纏った者が数人。
「無様ですわね、王妃様?」
真紅の髪の女性は不適な笑みを浮かべながら、王妃に近寄る。
「……………いつかはこうなるんじゃ無いかと思っていたわ」
「あらあら。それでしたら私を殺すなりして、こうなることを止めるべきでしたね」
「……………それがあの人の甘さであり、優しさなのよ」
「フフフッ。そうでしたわね」
真紅の髪の女性は笑いながらも、ベッドに横たわったままでいる王妃に手をかざす。
「そしてその所為で貴女も、あの人の後を追う事になるのですけどね」
そして女性がかざした手の平に、赤く燃える火の玉が生み出されていた。
「それではさようなら、王妃様。この世界は私が貰い受けますわ」
女性は笑いながら、手の平に留めていた火の玉を王妃に放ち、王妃は為す術なく火の玉を、生きたまま浴びた。
「(大丈夫…………あの子が生きている限り……………この世界の……………)」
そして王妃は焼け死んだ。
「さあ、これで邪魔者は後1人ですわ!」
王妃が焼け死んだ様を見届けた女性は、一緒に居た漆黒のローブの者達に手を振り払って、捜すように命令を下す。
その直後、辺り一面に眩い光が降り注いだ。
「な、何ですのこの光は!?………………まさか、アイツが!?」
女性はこの光を生み出したモノに心当たりがあったが、あまりの眩しさに為す術もなく、ただ光が収まるのを待っていた。
そして光が収まった。
「クッ! もしや先程の光は!?………………まぁ、良いでしょう。邪魔者が自ら居なくなったのですから、後から邪魔をしてこようが、もう手遅れの段階にまで進めるだけですわ」
女性は笑いながら、その場を後にした。
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