城門での攻防
グレイブの策略によって騎士の半数がいない中、アーガンスはグレイブによって放たれた魔物に取り囲まれていた。そんな中おれたちは城門の外で魔物を待ち構える。
「ステンとゼラスくんは前衛、私とアリスで対空を担当するわ!ショウくんは、対空の援護をしてほしいけど、ステンたちも気にかけてあげて!」
マリの掛け声におれたちは頷くとそれぞれ邪魔にならない程度に陣形を広げた頃に、ちょうど魔物の群れも間もなく城壁に辿り着こうとしていた。
「おれたちが一番乗りみたいだぜ、とりあえず後続がくるまてなんとか凌ぐぞ!」
ステンがゆるりと槍を構えると、いよいよ魔物たちとの戦いの火蓋は切って落とされた。
ステンとゼラスはお互いの間に魔物が入らないよう、適度な距離を保ちながら魔物と衝突する。
「うぉぉぉぉぉー!」
ステンは持ってる槍に風魔法を乗せると、その槍を中心として、小さな竜巻を発生させて魔物の軍団に向かって一直線に突き抜く。すると、数体の魔物を貫通し青白い光の粒となって消えていく。
さらにゼラスは最小限の動きで相手を最高の切れ味を誇る爪で切り裂き、次々と魔物を倒していく。今回の現れた魔物は数こそ多いものの一体一体はおれたちが手こずるほどの相手ではなかった。
空を飛ぶ魔物にはアリスの氷の礫、マリの火の礫が襲い、街への侵入を拒んでいた。かくいうおれも指を咥えて見ていたわけではない。城壁の上にある見張り位置まで移動すると、そこからおれは魔素をためた状態で斬れ味付与を発動すると構えたディーナの剣が赤く光り輝く。おれはその場で目を瞑り、最大限まで集中した状態で上空から迫りくる魔物に向かって横一文字の斬撃を繰り出す。
「はっ!」
掛け声とともにおれの振るった剣から弧を描いた赤い光が飛び出し、次々と魔物を貫通していくと、斬撃が通った場所は完全に魔物がいなくなり少しの間一本道が開ける。
おれは久しぶりの全力の斬撃に爽快感を覚えていた。
「やばいな、これ。めちゃスッキリ。」
その頃、下で応戦していたアリスたちはおれが放った剣戟を見て唖然としていた。
「何なの、あれ。もう一人で勝手にやってくれって感じじゃない。」
「えぇ、私たちがちまちま倒してるのがバカバカしくなりますね。」
ここまでで、多少魔物は減ってきてはいたものの、まだまだ地平線の彼方から押し寄せる魔物の列が続いていた。しかし、ある程度時間が経つとこちら側も街に残っていた騎士が続々と集まってきて、騎士団やギルドのメンバーの有志が集まり、前線をしっかりと守れるようになる。
最前線にいたステンが近くにいたゼラスに声をかける。
「この分ならなんとかなりそうだな!」
「えぇ、最初はどうなることかと思いましたけど。」
2人は少しだけ安堵の表情を見せると、次々に迫りくる魔物を倒していった。
◇◇
その頃、騎士団の詰め所では緊急対策本部が設置され、一部の人間が集まっていた。
「現在の状況は、街の東西南北の門をそれぞれ、残っていた騎士やギルドのメンバーで守っています。対空も、それぞれで対応しており、なんとか街内への侵入は防ぐことができています。しかしながら、発生から時間経過とともに徐々に城門の外へ到着する魔物が増えていきますので、今は何とかなっていますが、今後はなんとも言えません。」
机の上に広げられたアーガンスの地図に向かって額を合わせる。その中心にいるのは、グレイブの代わりに残る騎士の権限を握っていたグレンだった。
「城壁の状態は?」
グレンの問に答える騎士。
「今のところ城壁を破壊して侵入しようとする魔物はいません。」
グレンはこれまでに聞いた状況から指示を出す。
「よし、まずは土魔法を使える騎士には城壁のそとに更に壁を作らせ侵入経路を更に狭め、守りを固めるんだ。さらに、今の城門を守っている騎士の一部を魔物が出現している地点に出向かせ、元を断つ。そうだな、各門から1割を魔物の創出元の森に向かわせるよう指示を。あと、対空の対応ができる騎士は極力そちらに手を回すよう伝えてくれ。」
指示を受けた騎士数人はすぐさま飛散し、城壁の外へと向かう。そして、さらに残った伝令の騎士に耳打ちをする。
「アリスがどこかにいるはずだ、探し出して王の護衛につくよう伝えてくれ。それと、おそらく、アリスはショウと一緒にいるはずだから、あいつもアリスに同行させてやってくれ。できるだけ内密に頼む。」
グレンの言葉に伝令は頷くと、その伝令も2人を探すために詰め所を後にする。
「さて、このタイミングの魔物の異常な襲撃、どう見るべきか。」
グレンは残された詰め所で硬めの椅子に体を預け大きな溜息を吐きだした。
◇◇
騎士団やギルドのメンバーの健闘でなんとか魔物の街中への侵入は防ぐことができていた。しかし、少しずつ疲労の色が見え始め、怪我人が出始めると、いよいよ状況が怪しくなってくる。
その頃ようやく伝令がおれたちを見つけるが、その知らせは現場には受け入れられにくい内容だった。
「今この状況で一部を魔物の発生源の討伐に、なんて冗談きついぜ!」
ステンは近づいてきた蛇の魔物を一突きにしながら息を切らす。
ステンとゼラスたちの功績もあり、魔物との最前線は城壁から少し離れた位置まで押しやることができていた。その距離を活かし、本部からの指示を受けた土魔法を使える騎士が所々に隙間を残して城門を囲うように最前線と城壁の間に大きな土の壁を作り上げる。それと同時に、一部の騎士は森のある南門に向けて移動を始めていた。
「ステンさん、ゼラス、一度引いて戦況を立て直そう!」
後ろで対空迎撃を繰り返していたおれは空から最前線に出向き、2人に声をかけ、一度土の壁の裏側に隠れると、グレンから伝言を受けた伝令から王の護衛の指示を受ける。
「そっか!じゃあ、ショウとアリスとはここで一度お別れだな!」
おれは頷く。
「えぇ、もう少し一緒に戦わせてもらいたかったのですが、ちょっと行ってきます。」
「あぁ、お前と一緒にいると昔のタリスと一緒にいるみたいだからな!また一緒に戦おうぜ!」
おれは突然のステンの言葉に驚くと、マリが含み笑いをしている。
「もしかして、ショウくん私たちが気がついてないと思ってた?あなた、自覚は全然ないかもしれないけど、やっぱりあなたのお父さんにそっくりよ?まぁ良いわ、この話はここがきれいに片付いてからにしましょ。さぁ、アリスと一緒に王を守ってきて。」
おれは知らぬ間に父親に似てきているのだという事実を誇らしく受け止めていた。
「わかりました、続きはこれが終わったら絶対に聞かせてくださいね!それでは、行ってきます!ゼラスも無理するなよ!」
おれの言葉にゼラスは手を上げて答える。
「じゃあ、行くわよ!」
こうして、おれとアリスは前線を離れ王宮へと急いだ。
「さぁて、んじゃ仕事終わりの美味しいエールのために、もう一踏ん張り、行ってみますか!」
残ったステンは、ビュンビュンと音を立て振り回し、ゼラスとともに壁ができて幾分かやりやすくなった前線へ再び戻っていった。
◇◇
おれはアリスと王宮へ急ぐ。いきなりの魔物の出現に浮足立っていて気が付かなかったが、騎士団線の時と同様、王国内が混乱するこのタイミングで王が狙われる可能性があってもおかしくない。伝令に王の護衛を依頼されたアリスも言われて気が付き、自分の父親の命が危ないとわかると、少し焦っているのが、その表情に見て取れる。
「アリス、焦る気持ちもわかるけど、自分を見失わないようにね!」
おれの言葉に走りながら頷くが、やはり不安は拭えないようだった。おれたちは王宮に辿り着くと王と王妃の居室に出向く。
「お父様、お母様!」
アリスがその居室の扉をあけると、王は護衛のための武装をしながら身支度を整えていた。
「よかった。」
アリスがホッと胸を撫で下ろすと、おれは初めて合うアーガンス王と王妃、つまりはアリスの父親と母親に挨拶をする。
「お目にかかれて光栄です。騎士を務めさせていただいておりますショウ=フレデリックと申します。」
アーガンス王はおれを舐め回すように見ると、ふむ、とだけ頷く。なんだかムッとしており、その視線は棘のように痛い。その視線はどこか嫌われている人から向けられる視線と同じような雰囲気だった。
「ちょっと、あなた。せっかく来てくれたんだからそんな顔しないでください。ごめんなさいね、ショウくん。あなたの話はアリスやセシルから時々聞いてるんですよ。だから、あなたにヤキモチを焼いてるの。」
なるほど、そういう事か。初めて娘が彼氏を連れてきて父親と鉢合わせた、そんな感じだろう。おれはどうしようか少し戸惑っていたが、しかし、アリスがそんな気持ちに気がついたようだ。
「お父様、ご存知の通り魔物が攻めてきている中私とショウは2人の護衛をしにきました。その意味がおわかりでしょう?」
娘であるアリスの少々棘のある言い方はアーガンス王の胸にどうやら届いたようだ。
「先程の態度、すまなかった。ここからは王として振る舞おう。わかった。2人には護衛を頼む。」
おれたち4人は部屋の外に出て、隠し通路がある王座の間へ向かう。向かう廊下は、普段の活気は全くなく、不気味なほど静まり返っていた。城をよく理解しているアリスが先頭に立ち、おれは最後尾を守りながらようやく玉座の間の扉の前に辿り着く。そして、その重く大きな扉をあけると、そこには見慣れた人物がいた。
「おう、アリス、ショウ、王を連れてきたか。ここからはおれがお二人を護衛するから外の魔物をなんとかしてきてくれないか?」
そういって玉座の間にいたのはグレンだった。
今回居残った騎士団のトップはショウたちには馴染みのあるグレンのようです。しかし、そのグレンが何故か王の護衛にきていますがこれは一体どういうことでしょうか。
それにしても、こんな形で彼女の父親に会うなんて、ショウもついてないというかなんというか。。