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王国、襲撃

おれがアリスとデートをした数日後、遂に戦争に向けた大移動が始まる。早馬で先に開戦日時を連絡していたアーガンス軍は国境付近へと兵を集めていた。


結局、今回の戦争ではおれたち3人は徴兵されず、その代わりに、この期間は基本的には城の警備を優先するようにとグレイブから残った騎士全体に指示がでていた。


事前にラキカに今回の戦争のことを話したところ、おれたちと同じ缶替えで、今回の戦争は明らかに怪しいというのがラキカの見解だった。


ただ、いくら状況が怪しいといっても城から出るわけにはいかないし、現状どうすることもできないため、おれたちはいつもと同じように城の警備をし、それが終われば晩御飯をとると言う、普段と変わらない日常を結局は過ごしていた。なんなら、街から出られないためいつもと比べると暇を持て余しているくらいである。


そんな生活を数日送っていたある日の夜、この日もおれたちは3人で食事をとっていた。


「平和だねぇ。」


おれの独り言はまるで何かが起きてほしいような言い分に聞こえたらしい。


「何も起きないならそれはそれで良いじゃない。あんたって本当に落ち着きがないわよね、じっとしてられないっていうかさ。」


「まぁそりゃそうなんだけどさ、こうも体を動かさないと体が鈍っちゃうよ。」


おれは肩をグルグル回し、首を回すとあちこちが凝り固まってる気がする。


「まぁ確かに体は鈍りそうですが、あと1月くらいは我慢するしかないですね。せっかくだから2人でゆっくりしたらよいじゃないですか。ほら、2人でできる運動、あるじゃないですか、特にお酒飲んだあとなんて、したいですよねぇショウくん。」


なぜおれにここで話をふるんだ、ゼラスよ。まぁそりゃ飲んだあとはムラムラしたりするが、流石に付き合い始めて数日なのに、いきなりはちょっと気が引ける、と思っていたがアリスはどうやらなんのことかわからないようだ。


「え?どういうこと?」


ゼラスの言ってる意味がわからないアリスはゼラスに聞くが、何やら楽しそうに珍しくニヤニヤしている。


「え?聞きたいですか?」


こいつ、もしかしてエロ大王だな。そいえば、こないだマロンもゼラスとはその日にやったって言ってたからな。淡白そうに見えて実はそういったことが大好きなのかもしれない。


「えぇっとな、アリス、そう、飲んだ後は酔った勢いにまかせて剣を振りたくなるってことだよな、ゼラス!」


おれは無理矢理ゼラスに自分の意見を押し通すように、呼びかける言葉にぐっと力を込める。ゼラスはおれの言葉の強さにつまらなそうにしながら、そうですね、とだけ答えることにしたようだ。


ただ、おれの中にも当然ゼラスの言うような気持ちがないわけではないので、どこまで我慢できるのかは時間の問題ではあるのだが。と、そんなことを考えていると、急に体が重く、息苦しくなる。


「ぐっ。。」


おれの突然の異常にアリスとゼラスは最初は冗談かと思っていたがそのままおれがうずくまっていると演技ではないことを理解してくれたようだ。


「ショウくん、大丈夫ですか?」


「ちょ、ちょっと、急にどうしちゃったのよ?」


おれはなんとかその場で体を起こすと呟く。この感覚は魔素が高いところに来た時の感覚が急に襲ってきたような感じだった。おれは、状況を直感的に理解する。


「来るぞ。」


おれはすぐ近くに立てかけていた剣を取り、店の外に出るとおびただしい数の魔物が遠方の空を埋め尽くしていた。


「な、なによ、あれ?」


アリスとゼラスは突然の出来事に唖然としているが、すぐさま冷静さを取り戻すとゼラスは常備している信号弾を空に向けて放つ。


一瞬ではあるが、信号弾が放つ真昼のような光に目が眩む。それと同じ頃、どうやら、他の騎士のメンバーも何人かが魔物に気がついたようで、同じような信号弾が街中でいくつか放たれていた。


「よし、こっちにいこう!」


おれたちは信号弾が上がっていない城門に向かって走り出すと、同じように何人かがおれたちの前を走っていた。


おれたちの足音に気がつくと前を走る剣士と魔術師風の2人は立ち止まり、こちらを振り返る。


「おう、ゼラスたちじゃねぇか!ちょうどいい、一緒に行こうぜ!」


「アリスも!今晩は長丁場になりそうね、夜ふかしは美容の敵なのに。」


ひょろりと手足の長さが特徴の槍使いステンと青髪ボブのアヒル口魔術師マリだった。この2人、タリスの話を聞く限り、おそらくタリスが昔良くつるんでたメンバーの2人だと思うが、タリスがどこまで話をしているかわからなかったため、おれはとりあえずただの先輩騎士として2人とは接していた。


「ステンさん、マリさんも!」


おれたちは2人に追いつくと、そのまま2人もおれたちにあわせて走り始める。そう、事態が一刻を争うことをこの場の全員が理解していた。


「ちょっと先に言っててください!」


おれはそう言うと風魔法を使ってその場で浮かび上がり、そのまま城壁の外が見える高さまで高度を上げる。おれがこんな魔法を使えることを知らなかったステンとマリは走りながら驚いている。


「おいおい、あいつ、剣だけじゃなくてあんな魔法まで使えるのかよ?」


「ふふ、まるでどっかの誰かさんみたいね。」


ゼラスとアリスも、おれが魔法を使えるようになったことは言っていたが、実際使ってるのを見せるのは初めてだった。


「もうショウくんは人間の域を超えてる気がしますね。」


「えぇ、何なの、あいつ?ありえないわ。」


アリスも普段あまり使わないが風魔法を使える。だからこそ、この風魔法で空を飛ぶことの難しさを理解しているのだ。


「私は地面から離れるのにほぼ1年かかったのに。」


しかし、当時のアリスと今のおれには大きな違いが2つあるから仕方がない。1つは魔素の放出量、もう1つは全体魔素量だ。風魔法を使って空を飛ぼうとし始めた当時のアリスはまだ魔法を使い始めて間もない頃。それに比べておれはかなりの年月魔法を使ってきたので今のおれと当時のアリスを比べると習得の早さが違うのはある意味仕方がない。


おれは上空から街の外の様子を伺うと、それは悲惨な状態だった。おれたちが確認できていた上空の魔物だけでも厄介なのに、城壁の外にはそこにもまた、かなりの数の魔物がこの城に押し寄せていた。突然魔物が湧いてでてくることも異常だが、それ以上にこの城を目指している、ということも更におかしい。そして、その魔物の発生はアーガンスの街から少し離れた森から放射状にこの城を取り囲むように広がっていた。


「あそこが元凶か。」


おれは街中の様子を確認すると、同じように何人かが空を飛び、状況の把握に努めていた。おそらく、残された騎士団のメンバーで隊の編成が行われ、役割分担がされるだろう、それまでの一時、まずは敵の絶対数の減少に務めることにしよう。


おれは空を降下しながら、先を行く4人に合流し、事態を説明するとまずはこの5人で陣形を組んでまずは城壁の外を守ることにした。


◇◇


時間は魔物の襲撃がある少し前に遡る。


グレイブは戦争を宣言し、城を出る少し前、いつもの森に来ていた。


「それでは、そろそろ仕掛けますね。」


グレイブがそう話す相手はいつもの影の中の声の主、ボグイッド。


「あぁ、抜かりなくな。」


グレイブはその返事を聞くと、以前ボグイッドから受け取った紫色に光る水晶玉をどこからともなく取り出し、自分の魔力を込める。するとその光は水晶玉に吸い込まれていき、全く光を放たなくなった。


「これでよしっと。では、この辺りに埋めておきますので、万が一誰かが掘り出すようなことがあれば教えてください。」


「うむ、よかろう。」


グレイブは影に向かって礼をし、その場を立ち去ると、ほどなくしてその影も、まさに影も形もなくなった。


先程グレイブが埋めた水晶玉は実は魔物を産み出すための魔道具のようなものだった。込める魔力の大きさで、発生する魔物の数や強さが増減する。さらに、周囲の魔力も吸収することができて、魔力を込めた人間が決めた魔力の量を超えた時点でこの水晶が壊れ、魔物が現れる、といった仕組みになっていた。もちろん、グレイブがいるその場で魔力を込めて魔物を発生させることはできたが、今回はアリバイ工作のため周囲の自然に発生する魔力の量でその時が来るのを調整していたのだ。


こうして、アーガンスはオスタと戦争をする傍ら、おれたちアーガンスと魔物の群生との衝突が始まっていった。

遂に始まった魔物によるアーガンスへの襲撃。残り少ない騎士でこの国を守り切ることができるのでしょうか?

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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