黒幕の正体
一時はどうなることかと心配だったおれの体調も、アリスの看病か、おまじないのお蔭で翌日にはすっかり体調を戻していた。それから1日経った日、おれたちはラキカと修行を兼ねた情報交換をしていた。
顔を合わせたときこそ、アリスとは違和感があったが、先日の話をしない雰囲気だったためいつも通りに振る舞っていると、いつの間にか気にならなくなっていた。
そんな中、アーガンスから少し行った森の中でおれたちはラキカに剣術や体術の修行をつけてもらい、今は中休みをとりながらそれぞれが集めた情報を集約している。
「なるほどな、おれがこれまで集めてきていた情報とも整合が取れる。ってことはやっぱり怪しいのは騎士団の中か。特にグレイブ、あいつが全てのことの発端だと考えると辻褄が合う。」
おれたちの話やラキカ自身で集めた情報を元にラキカはそう判断していた。
「グレイブ騎士団長、ぼくがギルドでチンピラに絡まれたときに助けてくれたんですよね。そんな人が魔物だなんてちょっと想像しにくいです。」
ゼラスは頷く。
「たしかに騎士からの信頼も厚いですし、ぼくもグレイブ騎士団長が騎士団長になるときの話を聞いて、この人についていきたいと思いました。」
「たしかに、街中でもグレイブ騎士団長の人気は高いわよね、みんなから好かれてるっていうか。」
おれたちのグレイブ肯定論が続く中、ラキカは顔を険しくする。
「あぁ、その辺りのことはおれも知ってる。だからこそ、万が一グレイブが魔物だった場合はまずいと思ってるんだ。」
たしかに、みんなから信頼されてる人というのは多少の無茶や辻褄が合わないことを言っても「この人が言うならそうなのかな」と思ってしまう。ましてや、おかしいと思っても否定することは相当難しい。そんなことをしてしまったら避難されるのは自分の可能性がでてくるからだ。おれたちはラキカの話で事の重大さに気が付き黙ってしまう。しかし、このままではよくない。話を変えよう。
「そいえば、そもそも、グレイブ騎士団長の戦ってるところってみたことないけど、強いのかな?」
「実はそれなんですが、色々騎士団の中を調べたときにグレイブ騎士団長のことも少しだけ調べてみてます。騎士団長、話によると剣術自体はそれなりにできる、という実力なので、おそらく今のショウくんには剣術だけでは及ばない程度だと思います。。」
おれはゼラスの話に驚く。昔ギルドでグレイブの剣技を見たときは底がしれないと思っていたが、話だけを信じれば、おれよりも遥か上ってことはなはそうだ。そう考えると、おれも成長しているようで素直に嬉しい。それさておき、ではなんでグレイブはあの地位まで登りつめることができたんだ?どうやら同じ疑問をラキカも持ったらしい。
「ってことはグレイブには他の何かがあるってことか。」
ラキカの問にゼラスは頷く。
「その通りです。騎士の中でグレイブ騎士団長を昔から知ってる一部の人しか知らないそうですが、騎士団長の強さはある特殊な剣を使える、というところにあるそうです。」
「それって、おれみたいな?」
「えぇ、おそらくそんなイメージだと思います。ただ、どこまでが本当かわかりませんが、騎士団長の剣は同じ相手と戦えば戦うほど強くなるって噂らしいです。ただ、リスクもあるらしくて、それがあるからあまり使わないんだとか。」
ちょっと待てよ、おれは記憶の中にある同じような話を思い出す。
「それって、キッカが使ってた剣。」
「あぁ、そうかもしれないな。」
おれとラキカの話が見えない2人は顔を見合わせている。
それもそのはず、元騎士団の中でもキッカが使っていた剣のその能力を知っているのは、タリスとラキカしかいない。マーナが完全に魔物となってしまったときに、ラキカとキッカはタリスとマーナに対峙していた。そのときに使っていた剣がまさにゼラスのいっている話とよく似ていて、振れば振るほど剣速があがっていく剣だとタリスから聞いている。
回復の泉で過去の話を2人にはしていたが、ここまで細かい話はしていなかったためラキカはキッカの最後について話をする。
「そ、そんな、まさにグレイブ騎士団長のそのまんまじゃないですか。」
状況を聞いたゼラスは驚いている。
「あぁ、更にたちが悪いことに、キッカの剣術の腕は一般人に毛が生えたレベルだったが、グレイブはかなりの腕前というところだ。そんなやつがその剣を使えばどうなるか、想像に難しくないだろう?実はな、タリスとマーナの話には続きがあって、おれは騎士団の中にいるであろうキッカにその剣を渡した裏切り者を暗殺して、その剣を二度と使えないように叩き割ったんだ。だから、てっきりそんな剣をグレイブが使っているとは思いもしていなかった。」
ラキカは騎士団を離れたあとはできるだけ騎士団から離れるようにしていたため、グレイブについては世渡り上手だというところは聞いていたが細かなことは聞けていなかった。
「まさか騎士団長がそんなことになってるなんて思いもしなかったわ。」
アリスを含めおれたちは驚いていたがこうなった以上なんとか尻尾を掴むしかない。
「それでは、なんとかしてグレイブ騎士団長にその剣を使ってもらって、本性を暴かないといけませんね。」
「あぁ、こうなった以上、お前たちに協力してもらわざるを得ないが、1つだけ忠告させてくれ。グレイブには近づきすぎるなよ。一歩間違うと命を落としかねない。」
おれたちはラキカの言葉に頷き、再び修行に励むのであった。
◇◇
その日はこってりラキカに絞られ、おれたちはクタクタになりながらラキカが帰った後いつもの店で食事をしていた。
「そいえば、昨日マロンさんとはどうだったのよ、ゼラス?」
アリスはいつも通り程よく酔っ払ってきたところで、ゼラスの昨日のデートについて興味津々のようだ。やはり女子はこういった話が大好きなようだ。
「どうって言われても困りますが、まぁ卒なくこなしてきましたよ。」
ゼラスは面倒くさいものでも扱うように答えるがアリスは当然そんな回答で満足するわけがない。
「卒なくって何よ、卒なくって!色々あるでしょ?手をつないだとか、キスをした、とか。そもそもあんたたちは付き合ってるの?」
アリスは自分の状況を理解した上でゼラスに食いついているのだろうか?しかしこうなった以上本人になんとかしてもらうしかない。
「えぇ、まぁその点で言えば付き合うことになりましたし、行くとこまで行きましたよ。」
こ、こいつ、サラリととんでもないこと抜かしやがった。しかしアリスはイマイチ理解ができなかったらしい。
「い、行くとこまで行ったって、どういうことよ!?」
ゼラスがせっかく少しぼかしたのに、それを聞いたらだめでしょうが。ゼラスも同じ思いだったようで、アリスの問にため息を吐く。
「まぁ、簡単に言うと体の関係になったってことですよ。」
アリスはゼラスの言葉を聞いて恥ずかしさと驚きと女性を軽率に扱った怒りとが入り混じり、耳まで真っ赤にして喚き散らす。
「付き合ったその日で!?どうしてそんなことになったのよ!?」
そこはおれも気になるが全てアリスに任せる。
「いやぁ、出かけて帰りに飲みに行ったらあまりにもマロンさんお酒が弱くて、しかも酒乱で。」
なるほど、あのおっとりした話し方で酔っ払ってガンガン攻めてこられたら男としては仮に好きな相手でなくても許してしまうだろう。それに、なんだかんだ律儀なゼラスと口調はおっとり、性格さっぱりなマロンはお似合いかもしれない。おれはこれ以上の炎上を避けるためアリスをなだめに入る。
「まぁお互いが満足してるならよいんじゃないかな?」
「いや、そうゆう問題かしら?」
おれからしたらマロンやゼラスも良い歳だし、転移前ではそんなことはよくある話だったからそこまで違和感がないがアリスにとっては理解し難い話らしい。
「まぁそういうわけなので。」
ゼラスがこの話はこれで終わり、と言わんばかりに話を一区切りすると、キラリとその細めの奥が光った気がする。
「そう言うアリスさんはどうだったんですか?ネルソンさんとのデート。」
ほら来た。だから深堀しない方がよかったのに。そうは言うがもうここまで突っ込んでしまった以上、アリスも答えざるを得ないだろう。ゼラスが珍しくニヤニヤしている。
「じ、実は、そう!ネルソンが急に体調を崩しちゃったらしくて延期になったの。私なんてドレスまできてちゃんとしてたのにすっぽかされちゃって、なんか拍子抜けしちゃった感じだわー!あははははは。」
アリスは笑って誤魔化しながらおれを横目で見る。ようするに話を合わせろってことか。こんなすぐにバレる嘘、やめておけばよいのに。ゼラスもアリスの嘘を見抜いているようで呆れていた。しかし流石ゼラス、空気を読んでサラリと流す。
「まぁそれなら仕方ないですね。また誘ってくれると良いですね。」
アリスはそうねーとか言っているが、結局おれはアリスがいなくなった帰り道で、アリスがおれのために予定をすっぽかしてくれたこと、おれの気持ちなどを伝え、ゼラスは納得しているようだった。
いよいよ黒幕が誰だかショウたちは突き詰めることができたようです。しかしながら人徳のある騎士団長を倒すなんて、傍から見ると完全に悪者ですね。どうやったらショウたちはグレイブの尻尾を掴むことができるのでしょうか?
そして、ゼラスの意外な一面が垣間見えますがこういった経験がないお嬢様のアリスは戸惑うばかりのようです。本編ではゼラスとマロンの関係は書かないつもりですが、この2人のことをいろいろ書いても面白そうだなぁなんて思ってるのでどこかで日の目を浴びるかもしれません。
そして成長編も次で最後です。敵陣営が動き始めます。