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伝わる気持ち

白い猫を追いかけるアリス。流石にココは「遅れる!遅れる!」と時計を気にしたり、途中でアリスが穴に落ちたりすることはなかったようだが、せっかく来たドレスは着崩れ、一部は破れてしまっていた。


ココはアリスがついてきたことに満足しながら呟く。


「これでご褒美に魔素をたっぷりもらえるにゃ。にゃはははは。」


もちろん、ココがこんな姑息なことを考えていることはアリスには知る余地もない。ようやくおれの家にたどり着いたアリスとココ。ココはアリスの方を向くと開けろと言わんばかりに、にゃぁ、と鳴いている。


「わかったわ、あけるわよ。」


アリスは声をかけながら中に入ってくるが返事がないことを不審に思う。


「ショウ?いるんでしょ?」


しかし、おれはこのときまだ意識が朦朧としていて返事ができる状況ではなかった。ココはおれの枕元にやってくると、アリスもおれがそこに寝ているのに気がつく。


「ちょっと、ショウ、どうしたの?大丈夫?」


おれはアリスに揺すられ、少しだけ意識が戻りうっすら目を開ける。すると、ぼんやりとアリスの顔が見える。


「あ、アリス、またおれを殺しに来たの?」


「何寝ぼけたこといってんのよ?またってどういうことよ?」


アリスはその後何度かおれに問いかけるが、おれは返事の代わりにうめき声をあげるため、まともではないことがわかる。おれの意識が明確でないことがわかると、聞くのをあきらめ、アリスはおれの額にその手を当てる。


「っ!?ショウ、凄い熱じゃない!それでココはわたしを呼びに来たのね、ゼラスもいないって言ってたし。ちょっと待ってなさいよ。」


アリスはおれの部屋をキョロキョロと見回すと手頃な布を水で濡らし、そしてみずからの氷魔法で出した氷をその布に包む。アリス自身もまさかこんなときに自分の魔法が役に立つとは微塵にも思ってなかっただろう。その簡易的な氷嚢をおれの頭に乗せる。


「とりあえずこれでよし、っと。あとは、何か消化に良いものをっと。」


適当に部屋の中を探してみるがなかなか見つからない。


「もう、しょうがないわね、ちょっと待ってなさいよ!ココ、ちょっと買い出ししてくるからショウの様子見ておいて!」


アリスの言葉をアリスからはわかったのかわからないのか、わからないが、ココはにゃぁ、と返事をする。


ガチャリと扉を開く音がすると、そのまま駆け足でアリスは出ていった。


それからしばらくすると、おれはアリスの氷嚢のおかげか、少しだけ意識が戻る。額に冷たいものを感じ、手を当てると、氷が包まれた布が置いてある。


「あれ?誰かきたのか?」


おれは誰に問うわけでもなく呟くと、隣にいたココが答えてくれる。


「私がアリスを呼んできたにゃ。今はキミのために食べ物を買いに行ったにゃ。」


「そっか、アリスの顔が見えたと思ったら夢じゃなかったか。」


おれは自分の気持ちを知った直後にこんな形であうことになるのは不本意だったが、それでも来てくれたのは嬉しかった。しかし、おれは思い出す。


「あれ、今日アリスってネルソンと会うって言ってなかったっけ?」


「そうにゃ、だけど、キミのことを心配して来てくれたにゃ。」


「そっか。」


おれはココの言葉を聞いて自分のことを優先してくれた嬉しさと、アリス自身の予定を変えてしまった申し訳なさから、なんとも言えない気持ちになる。


そんなことを思っていると再び扉が開き、部屋に入ってくる。そこにはせっかくのドレスが気崩れてしまったアリスがいた。


「あ、アリス、ごめん、ありがと。」


おれはきっとまだ熱で朦朧とした目をしていたのだろう。アリスは買ってきたりんごのような果物を水で洗うと慣れた手付きで皮を剥き、切ってくれる。


「目が覚めたのね。それにしてもあんた、凄い熱じゃない。大丈夫なの?」


「大丈夫かと聞かれるとわからないけど、おかげで、ちょっと楽になったかな?」


アリスは切った果物を更に並べて飲み物と一緒におれの元へ持ってきてくれる。


「ならよかったわ。でも、まだ無理しちゃだめだからね。」


そう言ってアリスはおれの方を見ると思わず目が合う。


「そ、そういえばアリス、今日ネルソンさんとデートって言ってたけど、あれは大丈夫なの?」


おれは聞きたいんだか聞きたくないんだか複雑な心境でアリスに聞くと、アリスは無表情で首を振る。


「あんたのせいで行けなかったわよ。」


その言葉におれは謝るしかない。


「そ、そっか、ごめん。も、もしよければ今からでも戻って言ってきてくれても良いよ?」


しかし、アリスはおれのその言葉を聞いてクスクスと笑い出す。


「あはははは、そんな動揺しなくても良いじゃない!あんたのせいでいけなくなったっていうのは事実だけど、これはこれでよかったかなって思うの。それに、あんたの言う通りだったわ。」


アリスはドレスの裾を広げ、そのボロボロの状態を見せる。


「私にはこう言う服は合わないみたい。きっとネルソンも一緒にいる間にこうなった私を見て幻滅してたと思うわ。」


「そんなことないよ、だってアリスはここまで急いでくれたからそうなっちゃったんでしょ?おれは凄い嬉しかったけどな。」


おれの言葉にアリスは思わず顔を赤らめる。


「何よ急に。お姉ちゃんに振られたからって私をたぶらかそうってわけ?」


おれは自分の言葉を思い出して考えると、たしかにアリスからみたらそう見えても仕方がない。おれは自分の気持ちを素直に話することを決意する。


「アリス、おれ、セシルさんが婚約したって聞いてそこまで落ち込まなかった自分の気持ちを振り返ってみたんだ。それで、セシルさんのことは好きだったけど、その好きは憧れとかに近かったってことに気がしてる。だって、好きな人が他の誰かと幸せになるなんて、普通我慢できないよね。」


アリスは近くの椅子に座りなおし、おれの話に耳を傾ける。


「まぁそうかもしれないわね。それで?」


「それでね、逆に考えたんだ。どっかの誰かさんが最近いろんな人に言い寄られてるのを見たり、誰かとどこかに行くのを聞いてイライラすることが多かったんだけど、それが何故かってね。」


おれはひと呼吸おくと、アリスはおれの言葉の続きを待っていた。


「どうやら、おれが本当に好きだったのはそのどっかの誰かさん、つまり、アリスだったんだよ。」


おれは頭が朦朧とするせいか自分の素直な気持ちが口に出る。しかし、話を聞いていたアリスはそうはいかなかったらしい。


「あ、あんた、いきなり何言ってるのよ!?熱で頭おかしくなっちゃったんじゃない?」


「たしかに頭が朦朧とするけど、おかしくなってないと思うよ。」


おれが普通に返すと、アリスはおれから顔を背ける。


「そ、そうかもしれないけど!でも、いきなりそんなこと言われても、何がなんだか。」


たしかに、つい先日まで自分の姉のことが好きだと思っていた相手から好きなんて言われたら誰だって驚くだろう。アリスは何やら一人でブツブツ言っていると何かを決心したようだ。


「わかったわ、じゃあ、今日の埋め合わせで私とデートしなさい!その時にもう一度ちゃんと話すのよ!」


「わかったよ、喜んでそうさせてもらうよ。」


アリスはおれの即答に驚いていたが、納得したようだ。ただ、アリスから見ておれはやっぱり相当しんどいように見えるらしい。


「んじゃ、細かいことはまた今度決めましょう。今日は私がいてもゆっくりできないだろうし、帰るわね。」


おれはせっかくきたんだし、時間があるならいたらどうかと引き留めようと思ったが、正直いてもアリスは暇なだけだろう。おれ自身もまだ話し相手ができるほど元気ではなく、今も落ちてしまいそうな意識をなんとか保っているといったレベルだった。


「うん、わかった。今日は本当にありがとう、助かったよ。」


おれの言葉にアリスは立ち上がりそのまま帰るのか、と思うと、おれの額に乗った氷嚢をよけ、額にそっと口づけをする。


「早く良くなるおまじない。」


アリスはそのまま顔をあげ、そそくさと出ていってしまった。


「アリスのおまじないは効かないからなぁ。」


おれは選抜試験のときのアキラとの試合前のことを思い出しながら、そのまま眠りに落ちてしまった。


◇◇


その頃、城の自室のセシルは一人で大きなため息を吐いていた。


「あぁあ、完全に貧乏くじをひいちゃったかな。」


自室のソファに腰掛け、その背もたれに体を預けると細いセシルの体はすっぽりとソファに包み込まれる。


実はセシルがアリスに説明した話は実は半分本当だが、半分嘘だった。セシルが初めておれとあったときは、もちろんおれに対して何も思っていなかった。しかし、アリスのためにと思っておれと会っている間に、おれの話し方や話す内容が実際の年齢よりかなり落ち着いていて、年下とは思えない口振りであることから、少しずつおれの見方を変えていて、いつしかおれのことを好きになっていたらしい。もちろん、婚約というのは嘘ではなかったが、それでも好きになった人を諦めなければならないのはセシルの心を痛めていた。


ソファに埋もれるセシルの頬を流れる涙が注ぐ日の光で輝いていた。

2人か初めて出会って約5年、いよいよショウは自分の思いを伝えることができました。もちろん、アリスの気持ちはショウと同じ。ですがやはりいきなりはショウの言葉を素直には受け入れられないようです。


そして、実はショウのことを好きになっていたセシル。長男長女は兄弟のために何かと我慢が多くなるのはある意味宿命なのかもしれませんね。


そして本編とは関係ありませんが。。


更新をこれまでの月水金から月木土に変更させていただきますのでご承知おき頂けると助かります。

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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