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朦朧とする意識の中で

話の流れからアリスに謝りに行くためにおれはセシルと城下町の花屋にくると、アリスの好きそうな色ということで赤色の花をメインにした簡単な花束を作ってもらい、それを持って再び城に戻る。


「わたくしはここで失礼させて頂きますわ、それでは。」


おれは頷き、セシルを見送る。セシルの後ろ姿が見えなくなったところで我に返り、アリスにこれから何を話すべきか考える。


「とりあえず昨日のことを謝らないといけないのは間違いないんだけども。なんて言って謝ったら良いんだ?」


おれは部屋に向かうまでの間にぶつぶつ独り言を言いながら向かうが、どうも考えが纏まらない。そして、そうこうしてる間にアリスの部屋の前に辿り着いてしまう。


「もう着いちゃったよ。さて、どうしたもんかな。それにしても相変わらずここの部屋に入るのは緊張するよな。」


そんなことを言っていると後ろから声が聞こえる。


「私の部屋の前で何してるのよ?」


突然の呼び声におれは驚かされた猫のように体をビクリとさせて振り返ると、ドレスを着たアリスがそこにいた。


「あ、アリス?」


あまりの驚きのせいで思わず間の抜けた声が出る。見慣れないドレスのせいだろうか?いつもと違った雰囲気に見える。そして、その声色は特に普段とかわりなく、あまり怒っているようには見えない。


「何よ、私の部屋の前なんだもの、私がいたら何かおかしい?」


そりゃごもっとも。ただこちらにも気持ちの準備があると言うのに。でも、こうなったらなんとかするしかない。おれはアリスに準備した花束を差し出す。


「アリス、昨日はごめん。これ、お詫びに。」


アリスは花束を受け取ると嬉しそうに花を見つめる。アリスでもこんな女性らしい表情をするんだな。そう一瞬思ったが、やはりアリスはアリスか。


「あ、ありがと!この花に免じて昨日のことは水に流してあげるわ!」


いつもと変わらない強気な物言いだが、言葉とは裏腹にやはり嬉しそうだった。それに、なんだかんだアリスもお姫様。騎士団がチヤホヤするだけあって容姿も端麗。花を持ち、ドレスをきたアリスにはセシルとはまた違ったハツラツとした華やかさがあった。


「そ、そっか、ならよかった。それじゃあ、行くね。」


おれはアリスに謝ることが出来たせいか、どっと疲れを感じる。きっとここ数日、色んな意味で精神的な振れが大きいせいだろう。


おれはくるりと踵を返し、アリスに背を向けて立ち去ろうとする。


「ショウ!」


アリスの呼び声で再びおれはアリスに振り返るが、アリスは何かを言おうか悩んでいるようで何も口に出さない。


「何?」


おれは一歩アリスに歩み寄るが、アリスは首を振る。


「ごめん、なんでもないわ。」


おれはアリスが何を言おうとしているのか気になるが、本人が言わない以上どうしようもない。


「そっか、んじゃおれ、いくね。また明後日のラキカさんとの修行で。」


おれはその場を後にし、再び城の見回りに戻ることにした。


その後、城の中を見回りするものの、ただ歩いているだけで見回りと言えるかどうか正直微妙なところだった。きっと今誰かに襲撃されたとしてもおれはろくな反応ができなかっただろう。


結局おれはこの日は早めに切り上げて、家に戻り休むことにした。明日はセシルに今日の報告をしなければいけないから、それまでには気持ちの整理をしておきたかった。そしてそのとき、ふとアリスとネルソンが明日遊びに行くと言っていたのを思い出し、おれの胸は何故だがわからないが少し締め付けられた。


おれは相変わらず膝の上にいるココを猫可愛がりしながら大きなため息を吐く。


「なんか色んなことがたくさんあってちょっと疲れちゃったよ。」


それを聞いたココは他人事のように大あくびをして仕方ないといった雰囲気をありありと醸し出しながら言う。


「キミはだいたいなんでも頑張りすぎにゃ。ちょっとは私を見習ってゆっくりしてみたら良いにゃ。」


「そんなこと言われてもさ、なかなかじっとしてられないんだよね。今までもそんなゆっくりする時間なんてなかったしさ。」


「それも全て自分がそうしてるんじゃにゃい。自由な時間を計画するのも自分の選択にゃ。」


まぁたしかにそりゃそうだよな、おれは好きで忙しくしているんだ。しかし、おれはこの日の夜はこんなことを言っていたが次の日の朝、自分の意志とは裏腹にじっとすることになる。


◇◇


おれはふと気がつくとアーガンスの城下町でアリスとセシルが姉妹喧嘩をしている場面に出くわす。


「ちょっと二人とも、やめてください!」


しかし、おれが割って入ることをまるで待ちわびていた様に二人は手に持った剣をおれの前後から突き刺す。


「ぐっ!?」


普段ならなんてことはない攻撃だが、何故か避けることができない。おれは刺されたところを手で抑えながらうずくまっていると、どこからともなく現れたネルソンが火魔法をおれに放つ。


「ぐぅぉぉぉ!」


おれは身を焼く炎に苦しんでいると、アリスの隣にはネルソンが、セシルの隣にはどこかの貴族と思われる男がそれぞれ寄り添いながらおれの方を向いて笑っている。


「何なんだよ、一体!?」


おれは4人に向かって炎に焼かれながら叫ぶ。そう、叫んだつもりだった。しかし、その声でおれは目を覚ます。


「え?あ、夢か。」


その身を起こそうと思っても全身が気怠く、鉛にでもなったかのように重い。更には頭や節々が痛い。そして朦朧とする意識の中、状況を理解する。


「風邪か。」


自分の状態を理解するとおれは再び眠りに落ちた。


◇◇


しばらくしておれは再び目を覚ますと少し前に見た夢を思い出す。


「まるで今の現状を再現してるような夢だったな。」


おれは見た夢の断片的な記憶を思い出しながら体を動かそうとするが風を引いているのは夢ではなかったらしい。


おれは枕元で寝ているココを撫でる。


「ココ、おれ、風邪っぽい。」


こう言うときに話し相手がいるというのは多少気が紛れるからいいなとおもったが、しかしどうやら相手にとってはめんどくさいだけらしい。


「そんなこと知らんにゃ。寝とけば治るにゃ。ちょうどよい休養にゃ。」


まぁたしかにココの言うことも間違いないではない。おれはどうせ体が動かせないんだし、と熱で働かない頭で呆然とここ数日間にあったことを考え始めた。


「アリスと喧嘩、セシルの婚約、アリスとの仲直り。まぁこんなところか。アリスの惚気に対し苛ついて喧嘩になった一方でセシルの婚約は普通に祝える気になった。両方とも幸せの報告という意味で言えば同じなのに、セシルは大丈夫でアリスはだめ、ということだな。」


うーん、考えてみるとおれがアリスの惚気に対して苛立つ理由が自分自身でもよくわからない。ちょっとこっちは置いておくとして、セシルの方を考えよう。普通なら好きな人の婚約と聞いたらもっと落ち込んだり、素直に祝えないだろうに。それにしても、なんだか寒気がするんだが大丈夫だろうか。節々がさらに痛くなってきてる気がするし。


「やっぱりおれはセシルが言うように好きではなかったのかもしれないな。」


たしかに、今思えば一目惚れのようなものだったし、年齢がアリスよりさらに離れているから好きというよりも憧れの感情に近かったのかもしれない。言ってみれば芸能人のファンのようなものだろうか。たしかに、好きな芸能人が結婚したからと言って嫉妬したりはしないだろう。そして、おれは寒気に身を震わせ、朦朧とする意識の中でもう1つの事実に気がつく。


「アリスの幸せの報告に素直に喜べない理由、それは嫉妬、か。そして、嫉妬をする、ということはおれが本当に好きなのは。」


おれは今更気がついたその気持ちの正体にこれまでを振り返ってみる。選抜試験の初めてあったときのこと、2次試験が終わった後にした約束、そしておれが騎士見習いの間につけた稽古や一緒にクエストにまわったことなど、アリスはおれがアーガンスにきてから一緒にいる時間が長い。最初はお子様だと思っていたが、今やスラリと伸びたその手足と、その引き締まった体はセシルのような女性らしさはないがそれでも十分魅力的だった。おれがこっちの環境に慣れて、今の体相応の精神年齢になったというのもあるのかもしれない。


「きっと、おれが本当に好きなのはアリスなのかもしれないな。だからネルソンとうまく行かないのが面白くなかったんだな。」


おれはなんだか今まで溜まっていたモヤモヤが溶けていくとともに、そのまま意識を失ってしまった。

自分を忙しくするのも暇にするのも、だいたいは自分の意思で選択してるんですよね、実は。


一方で今回は自分の意志とは裏腹に暇になってしまったケースでしたが、そこでようやくショウは自分の気持ちに気が付きます。


このショウの思いは、ネルソンと上手く行ってそうなアリスに届くのでしょうか?

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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