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魔法解禁

おれたちはラキカとアーガンスに戻ると、アリスとゼラスに断り先に帰ってもらう。いよいよ使えるようになった魔法を試したかったのだ。


城から少し離れた森の中の人目につかないところでおれは1人魔素を体のあちこちに流してみる。


「こ、これは。」


これまでと同じように魔素を移動させるが、その移動の仕方がこれまでとは比べ物にならないくらいスムーズにできる。


もちろん、これまでも繰り返しの反復練習によって思った通りに魔素をコントロールできていたが、滑らかさが違う。イメージは、ザラザラのついた水道管と真っ平らな水道管それぞれに水を流したときの違いのような感じだ。


魔素の流れ方だけでこれだけ変わるのだ。ちょっと魔法を使うのが怖い。


「まぁ、いつものいってみるか。」


おれは一番はじめに覚えた斬れ味付与を剣にかける。


「ここまでは特に変わらないよな。」


おれはその付与の範囲を伸ばしてみる。これまでは自分の身長の二倍ほどが伸ばせる限度だったが、果たして、どこまで伸ばせるようになったのか。そう思いどんどん伸ばしてみる。そう、どんどんどんどん。


「あれ、どこまでいっても伸び続けるぞ。」


おれは近くの木の高さを優に超える長さまで伸びた付与を見て、そこで付与をやめ元に戻す。気を取り直して、身体能力強化をかける。


これも、これまでとは変わらない。そこに、魔素を更に高めて強化の効果をどんどん強くする。ゼラスのように青白い強化の光は大きくなるとそこからは色が白くなり、そしてそこから更に魔素を付与をすると金色に輝く。


おれはその手に持った剣で、特に剣の重量は操作しない状態でその剣を振るう。


すると、轟音を立てながら剣を振った先の木々が剣から生まれた真空波だけで切り倒される。


おれは自分が手にした力に思わずゾッとすると同時に、強化を解くと、腕に激痛が走る。


「なるほどね、おれの体がこの強化についていかないわけね。」


おれは冷静に現状を分析する。まぁそりゃそうだよな。身体強化といっても、筋反応を高めてるだけで、筋力が上がってるわけではないからな。おれはこれまで使えた魔法の現状確認をすると、いよいよ本題に入る。


「さぁ、どうなることやら。」


まずはおれは一番問題がなさそうな水魔法から使ってみる。


「ほっ!」


掛け声と同時におれは右手に溜めた魔素から水を出す。イメージは空気中の水分を集めるイメージ。するとそこには、イメージした通りの水鉄砲から打ち出されたような水流が現れる。さらにその水流を細く、水圧を高めるイメージを持つと、そのイメージに合わせて水流はどんどん細くなり、その飛距離は伸びる。そのまま、極限まで細くした水流を繰り出した右手を、すぐ横の木に向かって振り降ろすと、その水流で木が切り倒される。

「うん、イメージ通り!」

こうしておれは順々に様々な魔法を繰り出すが、その全ての魔法がおれのイメージ通りに繰り出され、その再現の高さにおれは驚きを通り越して呆れてしまう。ただ、これだけ色んな魔法を使うと流石に魔素の消費が半端ないようで、おれにとっては魔素の制限だけが魔法の制約条件となうだ。


「それにしてもディーナ、お前はおれを神か何かにするつもりなのか?」


思わずそう呟くおれは、散々魔法を使い果たして荒れ果てた森を後にした。


◇◇


翌朝、おれは久しぶりに城に戻り、たまには城の見回りを、と思うと、アリスがキャッキャと楽しそうに騎士の1人と話をしている。


「あ、アリス。昨日はお疲れ様。」


おれは自分自身がどれだけ魔法を使えるようになったのか、誰かに話をしたくて仕方がなかったが、この話は素性を知ってる人以外にはしない方が良いと考えていたため、アリスにこのタイミングで会えたのは好都合だった。


おれの声に気がついたアリスはこちらを向く。


「あら、お疲れ様。」


しかし、それだけ言うと再びその騎士と再び話を続ける。おれはせっかく話ができると思ったのに出鼻をくじかれたような感じがしてちょっとモヤモヤしたものが気持ちの片隅に残るが、まぁ先客がいるんだし仕方がないか、と割り切ってその場を立ち去ることにした。ただ、普段見せないような笑顔で楽しそうに話をするアリスの顔が、おれにはとても不愉快に感じてしまった。


おれは1人で城をウロウロしていると、どうやらゼラスも今日は体を休めるつもりだったらしい。体を休めるのに見回りをすると言うのはいささかおかしな気もするが2人とも真面目なのだろう。彼も同じように城の見回りをしていた。


「おぉ、ゼラス!」


ようやく見つけたおれの素性を知る話し相手。ゼラスもこちらに気がつき手をあげる。


「昨日はお疲れ様でした。用事があると言っていたから今日は来ないのかと思ってました。」


「あぁ、実は昨日の夜は使えるようになった魔法を色々試したくてね。」


おれはそう言い始めると昨日の成果を掻い摘んで説明する。


「それ、とんでもないですね。いよいよなんでもありです。」


「おれもそう思う。ただ、魔素の量に制限もあるからやっぱり剣で戦うのがメインになると思うけどね。」


そう、昨日の夜自分ができることを確認した後に今後の戦い方をイメージしてみたが、やっぱり剣がなんだかんだ殺傷能力に対するコストは割りがいい。魔法は対多の場合は手数の多さが使用する魔法によって選べるし範囲も自由度があるから重宝するが、対個人に対しては、おれの場合は魔法はおそらく補助的な要素になると思う。殺傷能力のある魔法攻撃をピンポイントで使う、という使い方もあるが、これも相手の攻め手を制限する程度なのかな、と思っている。おれが剣術で倒せない相手が、そんな簡単な魔法で倒せるはずがない、という考えである。


「なるほど、そう言うものなんですね。まぁでもまだ使えるようになったばっかりですし、しばらくは色々試してみないとですね!」


ゼラスと見回りで城を回りながらそんな話をしていると、再びさっきの騎士とアリスが話をしているところに出くわす。アリス、まだあそこであいつと話してんのか。


「あ、アリスさん、昨日はお疲れ様でした。」


「お疲れ様。」


ゼラスは特に足を止める気もないみたいで、そのまま2人の横を通り過ぎていく。2人との距離がだいぶ離れたところでおれは口を開く。


「あの2人、おれがゼラスと会う前からああやってずっと話してるんだよ。仲が良いことで。」


おれが皮肉をこめていったその言葉に、ゼラスは少し驚いた顔をする。


「あれ?ショウくん知らないですか?あの一緒にいたネルソンさん、アリスさんにぞっこんだって言う話。」


「え?」


おれはそんな話を全く聞いたことがなかったから正に寝耳に水だった。


「ぼくらはずっと一緒にいるからあまり気がつかないかもしれませんが、アリスさん、騎士団の中でもかなり人気があって隠れファンクラブがあるくらいなんですよ?たしかにアリスさん綺麗ですものね。」


おれはアリスを思い浮かべるが怒ってる顔しかイメージができない。でも、それを言うのは野暮である。とりあえず話の流れに合わせる。


「んー、そうかな。まぁ、確かにそうかも?」


あの強気で手のかかるアリスのことを良いと思ってる人がいるなんてちょっと意外だが、まぁそんなものなのかな、とおれは考えないようにした。


そんな様子を見て、実はそのときゼラスがほくそ笑んでいるのをおれは全く気がついていなかった。


◇◇


数日後、おれはセシルと定期的に行っている城外散策に出かけに来ていた。冷たい風が頬を撫でる中、所々で綻び始める花がアーガンスに春の訪れを告げていた。


「せっかくの春だと言うのに、戦争と言うだけで気分か晴れませんわね。」


セシルはその金色の髪を風でなびかせながら、遠くを見て呟く。


「そうですね、この時期にあるお祝いやお祭りも、どうしても戦時中だと慎まないといけませんからね。」


おれの言葉にセシルは頷く。


「わたくし、よく思いますの。元々王を暗殺されたことをきっかけにこの戦争は始まりましたが、亡き王は本当にこの戦争を望んでいるのかと。」


この戦争は、国のトップを殺されて国の威信にかけて黙ってはいられない、というのが大義名分である。でも、そんな大義名分は国民にとってはどうでも良い話で、それよりも、徴兵に農夫が駆り出されて農作物が作れなくなったり、その戦争で帰らぬ人になったり、オスタから取り寄せていた海の幸や他国の文化の断絶したり、そっちの方がよっぽど重要な問題である。少なくとも国民は戦争なんて臨んでいないだろう。国のことを思う王であれば、この戦争に疑問を持つのもわかる。だが、今の王族は戦争する意思があって続けているのではないのか?


「亡き王のご遺志を継いで、王族は戦争をしているわけではないのですか?」


おれの問いにセシルは首を振る。


「少なくとも、私の父である現アーガンス王は戦争の中止を望んでいますわ。ただ、宣戦布告時の戦争でルイ元騎士団長を殺されてるため、騎士団の反発がそれを許しませんの。」

現アーガンス王は結局第一王女を除いた王位継承権順に回ってきて、当時第四王子だったセシル、アリスの父親が王となった。このような有事の際に王になりたいと自分から言うのはよっぽどの物好きか自意識過剰な人間だろう。


「なるほど、ではこの戦争をしているのは実質的には騎士団と言うことですね。」


「えぇ、わたくしはそう思っていますわ。ただ、騎士団のお陰でこの国は守られている、という意識もあるので、ことを荒だてたくない、というのが今の王宮内の権力者の内情でしょう。今の状態で、国民は疲弊していますが王宮内の権力者には直接関係のない話ですもの。」


この国の中のある権力者が魔物だったら、というラキカの言葉を思い出す。今の話から考えると、王宮内よりも騎士団の中を疑った方が良さそうだ。そして、最も最初に思い浮かぶのが最高権力者のグレイブ副団長。ギルドで初めてあった時は何も感じなかったし、全くそんな風には見えないが当然バレないようにするのは当たり前だろう。


おれが難しい顔をして考えていたのだろう。セシルはその様子に気がつきおれのおでこを人差し指でツンと突く。


「ショウくんはそんな難しい顔をしないでください。さぁ、この話はこれで終わりですわ。そいえば、アリスとは最近どうですの?」


おれは突然の話の変化についていけず思わずどもってしまう。


「え、えーと、アリスさんとはこないだも一緒でしたし、仲良くさせてもらってますよ?あ、でもなんか騎士の中でアリスさんは大人気みたいですから、ぼくみたいなのと一緒に色んなところいってもらってるのは申し訳ないかなって気もしてます。」


おれは思ってもないことを口に出す。そもそも、何故そんな話をしたんだろうか。セシルはおれのその様子を見て、その白く細い指を顎にあて、微笑みながらふぅーん、とか言っている。


「そうね、アリスも良い歳だから、そろそろ浮いた話があってもおかしくないわね。姉みたいにならないで欲しいわ。」


おれはセシルのこの言葉になんて返すのが正解なんだろうか。何を言っても逆効果な気がするのはおれだけだろうか?だが、このまま黙ったままというわけにもいかず、おれはなんとか何の答えにもなってない言葉を捻り出す。


「まぁ色々ありますよね、きっと。」


しかし、おれの頭の中では、アリスがさっきのネルソンと2人で仲睦まじく歩いてる姿が思い浮かび、なせだかおれの心の奥底がきゅぅとしまるような気がしたのに、このときのおれは気がついていなかった。

遂に魔法が使えるようになったと思ったらなんと全属性使えてしまう結果だようです。ここからは、この魔法をどうやって使っていくか、ですね。


そして、アリスに突如近寄るネルソン。ショウは自分自身の気持ちに気がついていないようですがこれから先この関係はどうなっていくのでしょうか。

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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