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銀髪少女、蹂躙する

誰かはよくわからない白銀の少女に体を乗っ取られたおれは、おれ自身の意識とは全く関係なく、左手の甲についた傷を青白く発光させながら、その場でトーントーンと跳躍していた。


そこに先程のグリズリーが突っ込んできて鼠色の毛皮で覆われたその剛腕をおれに向かって上から振り下ろす。それをさらりと真横に躱すと今度はグリズリーが反対の手を前に突き出し追い討ちをかける。おれの胸元に放たれたその突きを、最初の手と反対側に避けると突きで伸びきった腕を短剣で上から斬りつけた。


ザシュッ


軽い音がして、切り口からはドス黒い血が滲み出るが、致命傷にはこれも程遠く、むしろ逆上させるだけだった。


「グォォォォォォォーッ!」


タリスがやられたときと同じように両手を大きく広げ雄叫びをあげるが、おれはそれにも動じず、雄叫びを無視するかのように正面に踏み込むと今度はすれ違いざまに脇腹を横薙ぎにした。


ブシャッ


今度はそこそこ深く入ったようで、グリズリーは初めて後ろによろめく。しかし振り返りざまにおれに向かって爪を振り下ろされ、おれはバックステップでその一撃を躱すと、最初とは明らかに違う速い動きでそのまま立て続けに攻め立てられ、ふと気がつくと、後ろには大木を背負う形になり、逃げ場がなくなっていた。


そして、逃げ場をなくしたのを理解したかのように、怪我をしていない方の腕から、大きな一撃をグリズリーは繰り出した、次の瞬間


ガキンッ


その爪を目掛けておれは短剣を間髪入れないタイミングで横から爪に向かって攻撃を合わせ、攻撃を弾くと同時に、その爪をへし折っていた。攻撃を流されたグリズリーはそのままバランスを崩し、大きな隙が生まれる。


「これで終わりじゃ!」


そうおれは言ってその脇腹に短剣を突き刺したとき、


パキッ


軽い音を立てて短剣は先程爪を受け流したときについた傷で途中からパッキリ折れてしまっていた。


「なんと。」


これには驚いたようで、おれ自身一瞬戸惑いを見せるが、隙ができたこちらを見てグリズリーはこちらに向かって蹴りを放つ。


おれはそれを剣の残った刀身部分で受けながら、わざと後ろに飛び跳ねて勢いを殺し、その場から少し離れる。


「うん、困ったぞ。どーしたもんじゃ。武器がなければ今のこの体格では話にならん。」


そんなことを呟いているが、グリズリーはそんなこと御構い無しにすぐにこちらを追いかけていた。


先程からのダメージがあるからか、少しずつ動きは鈍くなっていたが、おれの体を使っている以上、疲れのせいでこちらの動きも少しずつ思い通りにはいかないようになっていたようだ。その証拠に、少しずつだがグリズリーの攻撃がおれをかすめ始めている。


「ん、なんじゃこれは?」


おれはグリズリーの猛攻を踊るように躱しながら、ポケットに手を突っ込む。


「なるほど、そうか、その手があったか。これくらいならなんとか出来るだろう。」


そういうと、おれはポケットから手を抜くと同時にあるものを手に握っていた。そう、それはおれが初めてスライムを倒した時に手に入れた魔石だった。


「魔素を感じると思ったらこんなものを大事にポケットにいれておったのか。お主もみみっちいのう。」


そんなことを呟きながら、おれはグリズリーの上段からの振り下ろしを躱すと、その振り下ろされた腕を踏み台にし、奴の頭目掛けて飛びかかる。


グチャッ


おれはやつの目に向かって折れた短剣を突き刺すと、すぐさま引き抜きその場から大きく離れる。


グリズリーは怒りで我を忘れ、両腕をブンブン振り回しながら、おれから随分離れたところで暴れまわっている。どうやら一時的に目が見えていないようだった。


その隙を見て、おれはやつの攻撃が当たらないところ木の裏側に避難すると、チラリとタリスの方をみた。


タリスはまだ起き上がってはいなかったが、なんとか命はあるようで、体がピクリと動いたのが見えた。


それを確認し、ホッと一息をつくと、


「さぁ、フィナーレじゃ。」


と呟くと、左手の傷の光がさらに大きく光りだす。そして、先程取り出した魔石を指先に挟むと、その指先が光り始め、魔石をすり潰していく。


すり潰した魔石の粉を先程折れた短剣の刀身部分に降り注ぐと、折れた刀身の残った部分が淡く紫色に光っていた。


ゆるりと木のそばから離れ、グリズリーに歩み寄る。グリズリーが見えているのは片目だけだろうが、落ち着きを取り戻していた。しかし、その歩みは警戒を強め、完全に獲物を狩る目をしていた。


両者がお互いに走り寄りグリズリーは怪我をしてない腕を、おれは両手で先の折れた短剣を上段から振りかぶる。


グリズリーのリーチが長いため、どう考えてもおれの攻撃は無謀な攻撃だった。しかしお互いが腕を振り下ろそうとした瞬間、


「光よ!」


おれは叫ぶと、短剣の紫色に光っていた部分から黄色い光の刀身が現れ、長剣ほどの長さになった。そして、その光の長剣は、振り下ろされると、まるでバターでも切るかのように、向かってくるグリズリーの腕ごと切り裂き、そのままグリズリーを真っ二つにした。


光の剣が発動したのはほんの一瞬だったが、おれの生命力そのものを吸い取られたかのように、おれはその場にへたり込みたい気分だったが、おれを操ってる銀髪少女はおれの意思とは裏腹に、タリスのところへ駆けつける。


「ここまでこいつを育ててくれたサービスじゃ。」


そういうと、おれは大きく息を吸って、両手を体の横に広げると、ゆっくり吐き出し深呼吸をしはじめた。


すると


ポワーッ


おれの体がうっすらと紫色の光に包まれ、そしておれの中に染み込んでいく。

するとどうだろう、さっきまでおれは立っているのもやっとだったが、今は元気が漲っていた。


そしておれはタリスの方に横に座り込むと、タリスのみぞおちあたりに手を当て、先程と同じように大きく息を吸って、吐き出す。


すると、光の剣を出した時と同じような感覚で、自分の生命力が持ってかれるような感じだったが、タリスのみぞおちに当てたおれの手元が緑色に輝き、そしてタリスを包み込んでいく。


少しずつだが、タリスの顔色に紅が差してくるのがわかる。


「さぁ、そろそろお別れの時間じゃ。今度こそ、最後じゃ。今回の体の動き、魔素の使い方など、よく覚えておくがよい。」


おれはタリスに魔素を送りながら薄れゆく意識の中で銀髪少女の言葉を聞きながら、意識を失っていた。


反則な能力を持つ銀髪少女にはショウの体はご不満だった様子。タリスも復活。これでようやくホッと一息ですね。

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人として大切なことは全て異世界で学んだ!-大切なのはスキルでも境遇でもない、心だ!-

社畜サラリーマンが転成先で超絶魔力量を手に入れたものの、悩み、そして人として成長するお話です。是非お読みいただけると嬉しいです。
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