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次元の申し子

ゼラスの腕の犠牲もあってなんとか倒した白虎は起き上がるとこちらを見ている。お、これ、仲間になりたい流れか?と冗談半分に思っていたが冗談を更に通り越したことがおきる。


「ラキカ、なかなか歯ごたえのあるやつらを連れてきたのう。」


しゃ、喋った!?おれたちはあまりの突然のことにあんぐり口を開けていると名前を呼ばれたラキカはまるで古い先輩に再会したかのように振る舞う。


「リヒトさん、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。ちょっと今日はお願いがあってきました。」


リヒトと呼ばれた白虎はラキカの言葉に頷きながらおれたちに近づいてくると、ゼラスの足元にまるで猫のように擦り寄り見上げる。


「先程はすまんかったな。お前たちの実力を見てたらつい本気になってしまったわい。さぁ、さっきの詫びじゃ、この背中に乗れい。」


リヒトはゼラスに向かってそう言うとゼラスの腰に体を寄せる。ゼラスは一瞬何が何だかわからない様子で目を白黒させている。その様子を見たラキカはゼラスの肩を叩く。


「お、ゼラス、よかったな。折角だから乗せてもらえ。リヒトさんの背中に乗せてもらったことがある人間なんてなかなかいないぞ。」


ゼラスは状況がよく理解できていないが、ラキカの言うがまま、白虎に跨がると、そのまま白虎はゼラスを乗せて山岳を驚くべきスピードで駆け上がっていく。


「さぁ、おれたちも行くぞ。」


唖然としながら颯爽と走り行く白虎とゼラスを眺めるおれたちにラキカは声をかけて何事もないかのように歩き出す。


「流石あんたの師匠だわね。いろんな意味でぶっ飛んでるわ。」


アリスがポツリと呟くのを聞いておれもすぐに後を追った。喋る白虎の弟子って、どんな位置付けなんだよ、と言う文句はおれの心の中にそっとしまっておこう。


こうしておれたちは、いよいよ目的の泉にたどり着く。ちょうど登ってきた山岳地帯と反対側には海が広がっており、山頂に湧き出た泉からは湯気が立ち込め、その湯気はそのままこの山岳にかかる雲となっていた。

登り始めてほぼ丸一日、時刻は夕刻で、ちょうど海には陽が沈み始めていた。


「うわぁ、すごいな、これは。」


「うん、とても綺麗ね。こんな風景、なかなか見れないわ。」


おれとアリスは夕陽の光が海面に反射し長く線を引くこの風景に思わず息を飲むが、ゼラスはそうはいかなかったらしい。リヒトに急かされながらゼラスは上半身の服を脱いでいた。アリスは海に落ちる夕陽から目線を泉に戻し、ゼラスの様子を見て不思議そうな顔をする。


「そう言えば、あんたもさっき言ってたけど、あの泉ってもしかして傷の回復効果があるわけ?」


「うん、これまでの色んな疲れを取るついでにラキカさんに成長を見てもらうって言う、正に一石二鳥の計画でしょ?」


おれは本当に魔道が治るかわからなかったから魔道の回復のことはとりあえず伏せておく。


「こんな遠いところまで疲れを取りに来るって、むしろ普通の人には疲れを溜めにくるようなもの、と言うよりここまで辿り着けないと思うわよ?」


アリスの言うことは至極ごもっとも。なんと言っても最後にあのリヒトを倒さなければいけないんだから生半可な心意気ではこれない。だが、おれはここは笑ってごまかすしかない。


「まぁ、なんでもラキカさん曰くここの泉のお湯は本当にすごいらしくてさ、あはは!」


笑ってごまかすおれをアリスはジト目でみているが気にしてはいけない。おれたちはゼラスのいる泉の傍に着くと、いよいよゼラスがその泉に腕を漬けるところだった。おれとアリスはゼラスがそのエメラルドグリーンの泉に腕を着けるのを固唾を呑んで見守る。ゆっくりとゼラスが腕を泉に浸けると、一瞬ゼラスの顔が歪む。あれ、大丈夫か?とおれが心配になったがどうやらいらない心配だったようだ。ゼラスは腕を引き上げると、声を上げる。


「お、おぉ!凄いです!」


水面から腕を引き上げた腕をマジマジと見ながら少しの間動かなかった右手を開いたり閉じたりしている。おれたちはゼラスの元に駆け寄ると肩を叩き喜ぶ。


「ゼラス、治ってよかったけど、本当にごめん!」


ゼラスは首を振る。


「まぁちょっとびっくりしましたが、治ってよかったです。本当は咄嗟に手を引こうと思ったんですが、がぶりとやられました。」


それを聞いていたリヒトは笑いながら答える。


「あぁ、すまんかったな。お主たちの話は聞いていたから、ただやられるだけっていうのも釈然としんのぉ、と思わずやってしまったわい。」


それを聞いていたラキカは頷く。


「まぁ若い者にはいい薬になったでしょう。それでリヒトさん、本題なんですが。」


ラキカは言いかけるとリヒトは頷く。


「そこのそいつじゃろ?あぁ、入っていけ。ついでに、そっちの嬢ちゃんもどうだい?」


リヒトはおれとアリスを見ながら言う。おれの目には、この白虎、鼻の下が伸びたただのエロ親父にしか見えない。

リヒトの言葉に目をパチクリさせてるアリスだが、ラキカは説明する。


「ショウから聞いてるかもしれないが、ここの泉は回復効果があるんだ。それもさっき見てもらった通りその効果は半端じゃない。だから、よかったら一緒に入るかってリヒトさんが言ってるんだが。」


元騎士団長のラキカと、そして何やらすごそうな喋る白虎に入浴を勧められ、戸惑うアリス。アリスはなんだかんだ17歳、人前で裸になるなんて悩んで当然。しかし、アリスは何かを決心したようだ。


「どうせこのエロショウには裸見られてるんだから、この際見られてどうかなるものでもないわ!えぇ!喜んで入らせて頂くわ!ちゃんとタオルも持ってるんだから!」


アリスの裸を見たと言ってもあれは事故だしかなり昔の話だ。それなのにまだ覚えているとは相当あの件はアリスの中で根に持たれているようだ。それはそうと、なぜか強気なアリスにリヒトは大満足だったようだ。


「もうこうなったら出血大サービスじゃ。みんな入ると良いじゃろう。」


こうして、結局おれたち一同全員でこの泉に浸かることになった。


◇◇


岩場の窪地に溜まるエメラルドグリーンの泉からはモウモウと湯気が立ち込めていた。おれは、いよいよ魔法が使えるようになるかもしれないと思うと、興奮しないではいられなかった。


おれたちはみんな着ているものを脱ぐとその泉にそろりと足を入れる。アリスは宣言通りタオルを体に巻いているが、やはり引き締まっていながら女性的な曲線美は当時よりずっと成長している。危うく目を奪われそうになるがおれは必死に目の前の泉に意識を集中する。


そしておれは泉に足をつけると、足を水面につけた瞬間、つけた部分の奥側がジンワリと熱くなっていくのがわかる。足から順に膝、腰、胸と徐々に体全身を泉につけていくと、全身の内側が熱くなっていく。


「凄いだろう?」


ラキカはおれが何かを感じているのが分かったのだろう。おれの方を向くと問いかける。


「はい、これは、凄いですね。本当に。」


おれはこの感覚をなんと表現したら良いのかわからなかった。今までは気がつかなかった、これまで身体中に詰まっていた何かが溶けてなくなる感じ。そして、それを機にこれまで流れなかったところに新しい何かが流れ込んでいく感じ。そして、今まで出来なかったことができるようになった予感に自然と瞳には歓喜の涙が溢れる。


おれの返事を聞いたラキカは、出会ったばかりの頃におれにしたのと同じように、おれの頭に手を乗せ、ラキカの魔素をおれの全身に流す。


「うん、完璧だ。これでもうおれもお前には敵わなくなったな。」


その話を聞いていたゼラスとアリスはよく意味がわからないでいた。それを説明するかのようにリヒトがラキカに尋ねる。


「その子、次元の申し子じゃの?」


ラキカはコクリと頷く。しかし、おれたち3人は完全に蚊帳の外だ。


「ちょっとショウ、次元の申し子って何よ?そもそも、ラキカ様が勝てないって、どういうこと!?」


興奮気味にその場を立ち上がるアリス。いやいや、タオルを巻いているとは言え色々危ないぞ、アリス。そして大凡予想はついているものの、残念ながらおれが聞きたい。


「おれにもよくわからないよ!ラキカさん、次元の申し子ってもしかして、ディーナの?」


「あぁ、そうだ。おれも話にしか聞いたことはなかったが、ディーナはたまに自分の力を貸した人間をこの世界に送り込んでくるらしい。」


やっぱりそういうことか、と納得しているとゼラスもアリスもディーナの名前は知らない様だ。


「ディーナって誰ですか?」


ゼラスがおれとラキカの顔を覗きこむ。


「あぁ、そうだったな。ディーナといってもピンとこないかもしれないが次元神といったらわかるか?ほら、よく小さい頃昔話を聞かされなかったか?ディーナとティナの大ゲンカって。」


「え!?まさか、あのディーナ!?」


2人はよくその昔話を聞かされていたらしい。おれは本を読んでもらう前に自分で読み始めてしまったからそういった類の話は聞かせてもらえなかったのかもしれない。


2人にその内容を聞いてみると、昔姉妹でディーナとティナという次元の神様と時空の神様がいたそうで、2人はとても仲が良かったが、いつしか大人になった2人は神として世界の在り方を話した時に姉妹喧嘩に発展し、最終的にはディーナが閉じ込められてしまう、というなんともシュールな話だった。


「つまり、あの昔話は本当で、どこかに閉じ込められたディーナが、救い出してもらうために定期的に誰かをこの世界に読んでる、ということですか?」


おれはアリスの言葉を聞いて、グリズリーに殺されそうになったとき、初めてディーナにあったときのことを思い出す。


「たしかに、初めてディーナにあったとき、おれに死なれては困る、とか、与えた力を上手く使え、とか言われた気がする。」


おれが意識の中だがディーナと会ったことがあることを聞いて、ゼラスとアリスは唖然としている。そこにラキカが駄目押しの一言を放つ。


「アリス、ゼラス、2人とももう気がついているかもしれないがショウは転移者だ。だからと言って、何か使命がある訳ではないだろうし、普通の人間ではないが、人間であることには間違いない。だから、これからもこいつのことをこれまでも変わらずよろしく頼む。」


アリスとゼラスはお互い顔を見合わせているがアリスはその口を開く。


「そんな改まった言い方されると、変に意識しちゃうじゃないですか、ラキカ様。次元の申し子だかなんだかよくわかりませんが、ショウはショウだと思ってますよ。」


ゼラスもアリスの言葉を聞いて頷く。


「えぇ、ちょっと不思議な力を持ってて、なんだか妙に大人っぽくて、変ですが、ショウくんはショウくんです。」


おれは2人の顔を見つめると、ホッと一安心する。この2人にはずっと自分の素性を隠したままでいたため、どこか後ろめたい気持ちがあったが、これでようやく自分の全てをさらけ出せた気がする。


「今まで隠しててごめん、でも、ありがとう、2人とも。」


こうして、ゼラスとアリスはおれの素性を知ることになったが、リヒトとラキカの昔話はいつまでも続くのであった。

いよいよ、ショウがラキカも敵わないと認めるほどの強さとなったようです。これまでも、なかなか反則的な強さでしたが、果たしてどこまでショウは強くなっていくのでしょうか?そして、その強さはどれくらいのものなのでしょう?


それと、新たに出てきた次元の申し子。ショウは最初の頃はチートなしだと思っていましたが、実は十分なチート持ちだったってことですね。ショウは次元の申し子としての使命を無事果たすことができるのでしょうか?この部分の話はもう少し後になりますのでもうしばらくお待ちください。

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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