白虎との激戦
回復の泉を守るように立ちはだかる雷を纏った白虎はその姿は神々しさすら感じられた。
「あいつ、やばそうだな。」
おれは見た目から感じるやばさをヒシヒシと感じていた。こうして相対しているだけで全身の毛穴がヒリヒリするような感覚を受ける。
おれが戦闘開始の狼煙と言わんばかりに斬れ味付与の飛ぶ斬撃をいくつか放つが白虎は避けようともしない。そして、その斬撃が白虎にあたるとヴゥンと鈍い音がして何事もなかったかのようにおれの斬撃はその体をすり抜ける。
その時、既にアリスは呪文の詠唱に入っている。
「氷よ!」
アリスの掛け声とともに白虎とおれたちを結ぶ直線状に白虎を挟むかのような氷の壁が現れる。アリスが胸の前で合わせた手を広げ、そして再度胸の前で手を合わせるとその氷の壁から無数の氷柱が飛び出し、白虎を襲う。しかし、次の瞬間、白虎は全身が震えるような雄叫びをあげるとその周りを青白い雷が包み、氷の壁諸共吹き飛ばす。
「な、なんだあれ!?」
おれが驚いているとラキカは叫ぶ。
「くるぞ!青白く地面が光るところには近づくな!」
それと同時に白虎は空を仰ぎ再び雄叫びをあげる。
「グォォォォォー!」
すると、白虎の周りを囲む青白い光が糸状に分かれ、上空に飛散したかと思うと、おれたちの方を目掛けて飛んでくる。ゼラスはアリスの氷の壁が砕かれたのを確認し、身体強化を発動させ、白虎に向かって走り始める。すると、そのゼラスを追いかけるかのように放たれた雷の半分ほどがゼラスの付近に着弾する。
ゼラスは地面の青白く光るポイント縫うように走ると、ゼラスの走り抜けた真横を次々と雷が着弾する。更に、ゼラスが走り抜けた直後にはゼラスのいたところにも雷が落ちる。
(これ、止まったらアウトなやつだな。)
おれはそう思いながらアリス、ラキカと迫り来る雷を避け続けながら白虎に迫るゼラスの方を見るとようやく白虎に届きそうな位置に付いていた。
ゼラスは既に第二段階の身体強化をかけていていつもよりも青白い光が強く出ている。ゼラスはその長い手足を器用に使い、白虎を攻めるがなかなか当たらない。超至近距離の攻防だが、この距離が得意なのは白虎も同じ。まるで猫と人が戯れるかのようにくるくると場所が変わるがおそらくその様子ですら常人には見えないほど速い攻防が繰り広げられている。おれは追い討ちをかけるべく、身体強化をした状態でゼラスの攻防に加わる。
すると、流石に2対1では部が悪いと悟ったのか、白虎は先程同様、雄叫びとともに雷を身に纏う。しかし、どうやら今度はそのままその雷を纏いながらおれたちに再び向かってくる。そのスピードは先程までの比ではなく、加えてその爪や牙は雷で伸ばされており、リーチそのものが伸びている。ゼラスはこのままではまずいと察知したのか、白虎の初手をなんとか躱すと、さらに身体強化を強める。おれも何度かゼラスがこの状態になるのを見たことがあるが、これまでの青白い光が、純粋な白に近づいていくのだ。
傍観者を決めているラキカと、このスピードでは割って入ることができないアリスは2人の様子を見守っていた。
「あのゼラス、なかなかやるな。」
「武器を使わない攻防なら騎士団の中でゼラスに敵うものはなかなかおりません。あ、ショウはいい勝負をするかもしれませんが。」
アリスがショウをフォローしたのを見て笑う。
「お前たちは本当に良いパーティだな。こんなやつらがまだ新人騎手だと思うと、おれも安心できる。」
それを聞いたアリスは頭を振る。
「私がここまでこれたのはあの2人のおかげです。そして、おそらくゼラスがここまでこれたのはショウのお陰。そう考えると、そのショウをここまで育てたのはラキカ様だから、今の私たちがいるのはラキカ様のお陰ということですね。」
ラキカはもちろん国のためを思ってタリスの子であるショウを育てていたが、まさか本当にそう思ってくれる下の世代がいるとは思いもしなかったから、少し驚き、照れくさくなる。
「まさかそんなことを言われる日が来るとはな。ここまでくればもう思い残すことは何もないな。さぁ、そろそろこいつとの戦いも佳境だぞ。」
そう言われたアリスは2人の攻防を見守るが、明らかにゼラスの様子がおかしかった。白い光を纏ったゼラスがここまで長い間戦うのを見るのを初めてだったが、顔色が徐々に悪くなっていて、動きに精彩さがなくなってきているのがわかる。白虎もどうやらそのことに気がついていたようで、ゼラスを優先的に攻撃しているように見える。
おれも身体強化を使いながら攻撃をしているが攻撃が当たったと思うとヴゥンと音がして剣がすり抜けてしまい攻撃が当たっていなかった。ゼラスはなんとか意識を保ちながらおれを呼びかける。
「すみません、もうこの状態を維持できなくなってきています。」
「うん、無理をしないで!まだなんとかなる手はきっとあるはずだよ!」
しかしゼラスは思いがけないことを言う。
「こいつ、相手を攻撃するときは攻撃を避けることができないと思うんです。だから、ぼくが囮になるからその隙にこいつを、」
言いかけたゼラスをおれは言葉で制す。
「そんなのだめだよ!何か他の手を考え、」
そう言いかけたその間にゼラスは白虎の真正面から最後の力を振り絞って突きを入れようとする。おれはその瞬間悟る。この場でおれがなんとかしなければ、ゼラスはやられてしまう。そう気がついた時におれの中で何かが吹っ切れた。
「うぉぉぉぉぉー!」
おれは身体強化の光を更に強く輝かせると今まで自分が感じたことがない速度で上段から白虎を斬りつける。これまで何度も反復してきたように、おれはディーナの剣を振り始めは軽く、振り降ろし始めたら次第に重くしながら白虎に叩きつける。
何とかゼラスに攻撃が当たる前にやったか?と思うが、ゼラスは突きに使った右腕から血を流しダラリとぶら下げている。
「ゼラス!?」
おれはゼラスの方へ駆け寄ろうとする。しかし、ゼラスはそれを拒む。
「ショウくん、後ろ!」
白虎はおれの攻撃を受けたにも関わらず、よろよろと立ち上がる。おれが斬った切り口はかなり深く斬れており、その傷口からは夥しい量の血が出ているがなんとか立ち上がったようだ。白虎は再び雷を纏い始めるのを見ておれは思わず身構えるが、いつのまにかおれの真横にいたラキカがおれの肩を引き、首を振る。
「お前たちの勝ちだ。」
おれは一瞬状況が理解できなかったが、白虎は纏ったその雷を使って傷口を焼き、止血を始める。
「や、やったか。」
おれは緊張の糸が切れてその場にへたり込んでしまう。ゼラスの元へ駆けつけるアリスはすぐさま傷薬を傷口にかける。すると、見た目の傷口はふさがるが、ゼラスはその腕を下げたまま動かせないでいた。
「ま、まさか、ゼラス!?」
アリスのその様子を見ておれは慌ててゼラスの元へ駆け寄る。
「ゼラス、腕が。」
おれがゼラスの方を向くと、どこか遠い目をして自分の状態を悟ったゼラスが心配させまいと口に笑みを含め頷く。
「えぇ、こっちの腕はダメみたいですね。すみません、ぼくが2人とご一緒できるのはここまでのようです。」
まるで人ごとのようにあっさりと言うが、その瞳からは涙が滲み出していた。しかし、おれは大事なことを思い出す。
「ラキカさん、これ、もしかして?」
ラキカは笑顔で頷く。
「ゼラス、大丈夫だ、治るよ、この傷!さぁ、早くあの泉に行こう!」
おれはゼラスに肩を貸しながら急ぎ山岳を登ろうとすると、そこには先程倒した白虎がこちらをじっと見ていた。
ゼラスの機転もあってなんとか倒すことができましたが、戦った白虎、流石にショウの魔道を回復させる泉を守っているだけあって、相当な実力者でしたね。
アリスはなんだか空気みたいな存在になってしまっていますが相性が悪いだけで、アリスもとっても強くなっているんです。ちゃんと書いてあげられなくてすみません。。